梅雨明けを待つ玄界灘の島影に、塩を含んだ湯が湧く。長崎県の壱岐と対馬は、九州本土とも大陸とも違う海の道を歩んできた国境の島である。湯ノ本温泉の赤い塩湯と、対馬の入り江に湧く真珠の湯。湯舟を海へ向けた客室露天の宿を、源泉の濃さと島の食卓とともに五軒選んだ。盛夏の凪いだ海と、子宝の伝説を抱く古湯を、夫婦旅・友人連れで静かに迎える宿である。
| # | 宿 | エリア | Score | 客室 | 目安価格 | 1行特徴 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 1 | 壱岐リトリート 海里村上 by 温故知新 | 壱岐・湯ノ本 | 95 | 15 | ¥155–¥203k | 全室海望オーシャンビュー、69℃源泉かけ流し露天 |
| 2 | 奥壱岐の千年湯 平山旅館 | 壱岐・湯ノ本 | 95 | 8 | ¥66–¥101k | 日本秘湯を守る会、神功皇后伝説の子宝の湯 |
| 3 | 潮湯の宿 海老館 | 壱岐・湯ノ本 | 92 | 7 | ¥18–¥35k | 大正三年創業、2020年全室露天付に改装 |
| 4 | 壱岐ステラコート太安閣 | 壱岐・湯ノ本近郊 | 93 | 49 | ¥32–¥55k | 島最大級、鬼の岩屋を映した洞窟風呂 |
| 5 | 対馬グランドホテル | 対馬・大船越 | 90 | 23 | ¥30–¥43k | 真珠の湯・海望の湯、全室海向き |
※ 目安価格は公開販売価格の集計に基づく参考値で、実際の予約料金とは異なります。1泊2名利用時の1室あたり料金(税込)。
1. 壱岐リトリート 海里村上 by 温故知新 — 壱岐・湯ノ本
湯本湾の夕日と69℃の高濃度温泉を、全室客室露天で迎える離島の上質宿。
Media Picks Score: 95 / 100 15室、客室露天付プレミアム旅館。
目安価格 ¥155,000–¥203,000 / 泊 (2名1室・通常期)

なぜ選ばれるか
「ミシュランガイド福岡・佐賀・長崎2019特別版」で5パビリオン(最高ランク)に選ばれた壱岐の代表宿である。全12〜15室すべてが湯本湾を望むオーシャンビューで、客室露天には69℃の自家源泉が温度調整なしで引き込まれる。湯ノ本温泉の含鉄塩化物泉は鉄分で赤茶に染まり、療養規定値の約15倍という高濃度の塩湯である。湯と海と建物が、過剰な意匠を加えずに語りかける宿だ。
集約レビューの傾向
公開レビューデータを集計したところ、客室露天の湯温調整の自由度と、夕日の差し込む湯舟の景観への評価が高い。料理は壱岐の海産と壱岐牛を中心とした構成で、素材の濃度を生かした皿への支持が見られる。一方でアクセスの遠さ・料金水準は明確な記念日宿としての価格帯であり、日常的な温泉旅行には別の選択肢が向くという声も伺える。
向く人 / 向かない人
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向く:
結婚記念日・銀婚式・古希祝いなどの節目、湯と海の景観を主目的とする静かな旅、ジェットフォイルでの島渡りに時間を割ける旅程 -
向かない:
短い滞在で複数の観光地を回りたい旅程、価格を抑えた温泉旅、小さな子どもを連れた家族旅行
具体情報
- 所在地: 長崎県壱岐市勝本町立石西触
- アクセス: 博多港からジェットフォイル約1時間+郷ノ浦港から車約25分
- 客室タイプ: コーナールーム / プレミアム畳 / プレミアム / ジュニアスイート / スイート(全室海望・露天付)
- 源泉: 湯ノ本温泉(含鉄塩化物泉)、69℃・客室露天はかけ流し
- 食事: 壱岐産食材中心、夕食・朝食付プラン
- 創業 / リブランド: 1995年創業、温故知新グループによる再生
2. 奥壱岐の千年湯 平山旅館 — 壱岐・湯ノ本
日本秘湯を守る会、神功皇后伝説の子宝湯を露天付の8室で迎える。
Media Picks Score: 95 / 100 8室、客室露天付小規模旅館。
目安価格 ¥66,000–¥101,000 / 泊 (2名1室・通常期)

なぜ選ばれるか
日本秘湯を守る会の会員宿で、湯ノ本温泉発祥の地に位置する。鉄分を含んだ赤い塩湯は源泉かけ流しで、5世紀の神功皇后伝説—三韓征伐の折に発見し応神天皇の産湯に用いたという—を担う「子宝の湯」と呼ばれる。8室と小規模ながら、客室露天付の部屋を備え、貸切露天と足湯も用意される。完全無農薬の自家野菜と壱岐近海の魚介を組む食卓は、島の循環を体現する。
集約レビューの傾向
公開レビューデータを集計したところ、湯の塩気と温まり方への評価が突出している。鉄分のため赤茶に染まる「赤い塩湯」は他で得難く、湯治宿としての印象を残す滞在者が多い。食事は素材の鮮度と量への支持が見られる一方、建物の経年と全体のしつらえは秘湯然とした素朴さに振れている。設えに均整を求める向きは事前の理解が要る。
向く人 / 向かない人
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向く:
湯質を最重視する温泉旅、秘湯を守る会の系譜に関心のある旅人、子宝祈願の節目の旅、夫婦・友人連れ -
向かない:
新装の意匠やラグジュアリー客室を求める旅、機能的なリゾート的滞在を望む人、観光中心の慌ただしい旅程
具体情報
- 所在地: 長崎県壱岐市勝本町立石西触
- アクセス: 博多港からジェットフォイル約1時間+郷ノ浦港から車約25分
- 客室数: 8室(露天風呂付客室・貸切露天・足湯あり)
- 源泉: 湯ノ本温泉(含鉄塩化物泉)、源泉かけ流し
- 食事: 完全無農薬自家野菜+壱岐近海の魚介、夕食・朝食付
- 会員: 日本秘湯を守る会
3. 潮湯の宿 海老館 — 壱岐・湯ノ本
大正三年創業、2020年リブランドで全室源泉かけ流し露天付に改装された。
Media Picks Score: 92 / 100 7室、客室露天付の老舗小旅館。
目安価格 ¥18,000–¥35,000 / 泊 (2名1室・通常期)

なぜ選ばれるか
大正三年(1914年)創業の老舗で、2020年6月にリブランドオープン。全7室がすべて源泉かけ流し露天風呂付の客室に改装され、規模を絞ったまま湯と眺望の質を一気に引き上げた。湯はろ過していない湯ノ本温泉の塩湯で、「日本の夕日百選」に選ばれた湯本湾の夕景を露天から望む。価格帯は同等級の客室露天宿に比べ抑制的で、塩湯と夕日を主目的とする旅人に向く構成である。
集約レビューの傾向
公開レビューデータを集計したところ、湯のろ過なしによる濃度感と、改装後の客室の清潔感への評価が高い。価格と全室客室露天という条件のバランスは、湯ノ本温泉の中でも特異な位置にある。料理は天然アワビ・ウニ・剣先烏賊といった壱岐の海産が主軸で、量よりも素材の鮮度に重心が置かれていることが伺える。
向く人 / 向かない人
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向く:
初めての壱岐渡島で湯ノ本温泉を試す旅、価格と客室露天の両立を望む夫婦旅、湯と夕日を主目的とする滞在 -
向かない:
大きな大浴場や多彩な館内施設を求める旅、ハイシーズンに直前予約を想定する旅程(全7室)、洋食中心の食を望む人
具体情報
- 所在地: 長崎県壱岐市勝本町立石西触
- アクセス: 博多港からジェットフォイル約1時間+郷ノ浦港から車約25分
- 客室数: 7室(2020年改装で全室源泉かけ流し露天付)
- 源泉: 湯ノ本温泉、ろ過なし掛け流し
- 食事: 天然アワビ・ウニ・剣先烏賊・壱岐牛など壱岐産食材
- 創業: 1914年(大正三年)、2020年6月リブランド
4. 壱岐ステラコート太安閣 — 壱岐・湯ノ本近郊
島最大級49室、鬼の岩屋を映した洞窟風呂と露天付客室を備える壱岐の中核宿。
Media Picks Score: 93 / 100 49室、露天付客室・大浴場・洞窟風呂を備える中規模旅館。
目安価格 ¥32,000–¥55,000 / 泊 (2名1室・通常期)

なぜ選ばれるか
壱岐最大級49室のリゾート旅館で、自家源泉を持つ。露天風呂付客室を含む複数のタイプに加え、壱岐の古墳「鬼の岩屋」を映した洞窟岩盤風呂が館の象徴である。料理は壱岐料理自慢の宿を掲げ、壱岐牛・剣先烏賊・天然アワビを使った会席が組まれる。規模が大きい分、グループ旅・家族旅・夫婦旅と幅広い旅程を吸収できる。
集約レビューの傾向
公開レビューデータを集計したところ、料理の品数と素材の取り合わせへの評価が突出している。「壱岐料理自慢の宿」を掲げる通り、夕食の構成は手数と地場食材の濃度で語られることが多い。洞窟風呂は意匠性と湯量で印象に残り、露天付客室と組み合わせると湯場の選択肢が広がる。一方で客室の世代差はあり、改装区画と既存区画の差は事前に確認が要る。
向く人 / 向かない人
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向く:
食を主目的とする旅、複数世代の家族旅、湯ノ本以外の壱岐観光と組み合わせる旅程、団体・グループ -
向かない:
静寂と少人数性を最優先する旅、リトリート的滞在を望む人、湯ノ本温泉そのものに目的を絞る旅
具体情報
- 所在地: 長崎県壱岐市芦辺町芦辺浦
- アクセス: 博多港からジェットフォイル約1時間+芦辺港から徒歩圏
- 客室数: 49室(露天付客室・スーペリアツイン等)
- 大浴場: 洞窟岩盤風呂(底部ジェットマッサージ)+露天風呂
- 食事: 「壱岐料理自慢の宿」、壱岐牛・剣先烏賊・天然アワビの会席
- 創業: 1985年
5. 対馬グランドホテル — 対馬・大船越
真珠の湯と海望の湯、対馬海峡を望む全室海向きの湯宿。
Media Picks Score: 90 / 100 23室、露天付客室・温泉大浴場を備える湯宿。
目安価格 ¥30,000–¥43,000 / 泊 (2名1室・通常期)

なぜ選ばれるか
対馬で100年以上続く真珠養殖にちなみ「真珠の湯」と名付けられた自家源泉と、もうひとつの「海望の湯」を持つ。対馬海峡を臨む全室海向きの客室から、夜は木立越しの漁火を眺めることができる。アルカリ性単純温泉でさらりとした浴感の湯で、湯ノ本温泉の濃厚な塩湯とは性格が対照的である。露天風呂付客室も用意され、対馬の海産—穴子・鮑・対馬地鶏—を組む夕食と合わせて滞在する。
集約レビューの傾向
公開レビューデータを集計したところ、海向き客室と漁火の夜景・湯ざわりの軟らかさへの評価が見られる。対馬という地理上、アクセスの利便性で壱岐と差はあるが、それゆえに残る静けさが訪問動機となる滞在者が多い。料理は地物の海産を中心とした構成で、対馬独自の食文化(穴子・対馬地鶏)に触れる場として位置づけられている。
向く人 / 向かない人
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向く:
対馬の自然と国境の歴史を辿る旅、漁火と海望を主景とする湯宿滞在、九州本土から離れた静けさを望む夫婦旅 -
向かない:
鉄分の濃い赤い塩湯を求める旅(湯ノ本系が向く)、短時間で観光地を回りたい旅程、壱岐との比較で価格優先の選択
具体情報
- 所在地: 長崎県対馬市美津島町(対馬中部・大船越)
- アクセス: 対馬空港(やまねこ空港)から車約20分
- 客室数: 23室(全室海向き、露天風呂付客室を含む)
- 源泉: 真珠の湯・海望の湯(アルカリ性単純温泉)
- 食事: 対馬海峡の海産+対馬地鶏など地物中心
- 創業: 1998年
よくある質問
Q. 壱岐・対馬へのアクセスは?
A. 壱岐は博多港(福岡)からジェットフォイルで約1時間、フェリーで約2時間20分。長崎空港からも約30分の航路がある。対馬は対馬空港(やまねこ空港)へ福岡空港から約30分、博多港から厳原港までジェットフォイル約2時間15分。盛夏は便数が増えるが、台風期に重なる週は早めの確認が要る。
Q. 湯ノ本温泉の湯はどのような泉質か?
A. 湯ノ本温泉は含鉄塩化物泉で、療養規定値の約15倍という高濃度の塩湯である。鉄分のため空気に触れると赤茶色に染まり、「赤い塩湯」「子宝の湯」と呼ばれる。塩気の強さから体に巻きついて温まり、湯冷めしにくい性質を持つ。一方、対馬グランドホテルの真珠の湯はアルカリ性単純温泉で性格が異なり、湯質の違いを比較する島旅も組める。
Q. 盛夏の食卓はどのようなものか?
A. 壱岐は剣先烏賊が6月から盛期に入り、透き通った身の活造りが宿の食卓に並ぶ。天然アワビ・ウニ・壱岐牛も主役級で、海里村上や太安閣の会席で出会える。対馬は穴子(夏)・鮑・対馬地鶏が看板で、対馬グランドホテルの夕食はこれらが軸となる。離島ゆえ仕入れ事情で内容が変動するため、特定の食材を目的にする旅は宿への事前確認が確実である。
Q. 夫婦・友人連れの旅にどの宿が向くか?
A. 記念日の節目で湯と料理の最高位を求めるなら海里村上(価格は高い)、湯質と秘湯感を求めるなら平山旅館、価格と全室客室露天の両立なら海老館。複数世代の家族や食を中心に組むなら太安閣の49室規模が柔軟である。対馬を本旅程に組み込むなら対馬グランドホテルで、壱岐とは異質な湯と海峡景観を体験できる。
Q. 子連れでも泊まれるか?
A. 太安閣は規模・食事構成ともに家族連れを想定している。海里村上は基本的に大人の上質宿で、未就学児の受け入れは個別の確認が要る。平山旅館は秘湯系の小規模旅館、海老館は7室と限られた構成で、いずれも乳幼児を含む滞在は宿の方針に従う必要がある。対馬グランドホテルは家族客の受け入れ実績がある。
本記事の参考情報
・壱岐観光ナビ(壱岐市観光連盟公式) — 島内の観光・温泉情報
・対馬観光物産協会 — 対馬の宿泊・観光情報
・日本温泉協会 湯ノ本温泉 — 泉質と歴史
編集部から
壱岐と対馬は同じ長崎県でありながら、湯と海と歴史の系譜が大きく異なる。湯ノ本温泉の赤い塩湯は神功皇后伝説と共に1700年余の時間を蓄え、対馬の真珠の湯はアルカリ性のさらりとした浴感で異質な湯場を提供する。本稿で取り上げた五軒は、いずれも客室露天という枠組みでその湯の濃度と眺望を最も近くで受けるための宿である。盛夏の凪いだ玄界灘を眺めながら剣先烏賊の刺身と塩湯を組む滞在は、年に一度の節目に値する。次は、九州本土の塩湯—雲仙・嬉野・武雄を、宿主の代替わりの視点から訪ねてみたい。