盛夏の高原に朝霧が下りるころ、中国山地の稜線下でぬる湯を継いできた宿を訪ねたい。岡山と鳥取の県境を刻む蒜山三座の南麓から、旭川をさかのぼった湯原の湯里、そして出雲街道の新庄宿へ。標高五百から千二百メートルの里に、ラジウム泉と源泉かけ流しの名湯が点在する。ジャージー牛の牧と蒜山おこわの土地に建つ五軒を、湯質と標高、伯耆・出雲の街道との関わりで整理した。夫婦や気の置けない友と、静かな湯に浸かる夏の一泊に向く宿である。

# 宿 湯里 Score 客室 目安価格 一行の輪郭
1 元禄旅籠 油屋 湯原温泉 91 8 ¥48–¥62k 元禄創業、全室に温泉風呂を備える湯原随一の鮮度の宿
2 湯原温泉 八景 湯原温泉 90 32 ¥64–¥103k 砂湯の真向かい、旭川の瀬音と星空を望む料理旅館
3 湯の蔵 つるや 湯原温泉 89 24 ¥48–¥66k 大正の造り酒屋を継いだ、源泉かけ流しの湯蔵
4 津黒高原荘 蒜山・津黒高原 87 29 ¥20–¥22k 津黒山のラジウム泉を薪で沸かす、高原の里山湯
5 新庄宿 須貝邸 新庄村 82 2 出雲街道の宿場、築百年の家を継ぐ一日二組の宿
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※ 目安価格は公開販売価格の集計に基づく参考値で、実際の予約料金とは異なります。一泊二名利用時の一室あたり料金(税込)です。新庄宿 須貝邸は公開販売価格の集計対象に乏しく、価格の目安表示を控えた。

1. 元禄旅籠 油屋 — 岡山県真庭市・湯原温泉

元禄元年、旅人に灯りの油を供した宿が、いまも湯原随一の鮮度の湯を継いでいる。

Media Picks Score: 91 / 100  8室、温泉旅館。

目安価格 ¥48,000–¥62,000 / 泊(二名一室・通常期)


元禄旅籠 油屋 — 岡山県真庭市湯原温泉 · 巨石を組んだ内湯、地下から湧く源泉を引く岩風呂
PHOTO: 元禄旅籠 油屋 — 公式サイトを見る

なぜ選ばれるか

湯が、この宿の背骨である。宿泊棟「夢酔庵」の地下から湧く自家源泉を、加水も長い引き回しもせずに湯船へ落とす。湯原温泉のなかでも鮮度の高い湯として知られる所以だ。理由は三つに整理できる。第一に元禄元年(一六八八年)創業という長い歴史、第二に全室に温泉風呂を備える設え、第三に食事処と入浴を担う「食湯館」を分ける、宿泊と日帰りを混ぜない静けさ。夏の高原の夜、貸切に近い湯にひとり沈む時間が、この宿の値打ちを語る。

集約レビューの傾向

公開レビューデータを集計すると、湯の鮮度と温度への評価が繰り返し確認できる宿である。全室温泉風呂という設えが、内湯を気兼ねなく使える点として好意的に受け止められている。一方で客室数が八室と少なく、繁忙期の予約は早くに埋まる傾向が読み取れる。館内の段差や古い意匠を、風情と受け取るか不便と感じるかで評価が分かれる面もある。総じて、湯そのものを目的に据える旅程で満足度が高い。

向く人 / 向かない人

  • 向く: 湯の鮮度を第一に選ぶ夫婦・二人旅、客室で温泉に浸かりたい人、静かな湯里の夜を求める人
  • 向かない: 大浴場の広さや館内施設の多さを重んじる人、幼児連れで段差を避けたい家族、大人数での賑やかな滞在

具体情報

  • 立地: 湯原温泉の温泉街、旭川沿い(湯原温泉バス停から徒歩圏)
  • 客室: 全8室、全室に温泉風呂を備える
  • 湯: 自家源泉(夢酔庵地下より湧出)、宿泊棟「夢酔庵」と食事・入浴棟「食湯館」の二館構成
  • 食事: 「食湯館」にて地の食材を用いた会席
  • 創業: 元禄元年(1688年)


2. 湯原温泉 八景 — 岡山県真庭市・湯原温泉

砂湯の真向かい、旭川の瀬音と高原の星を湯船から仰ぐ料理旅館である。

Media Picks Score: 90 / 100  32室、料理旅館。

目安価格 ¥64,000–¥103,000 / 泊(二名一室・通常期)


湯原温泉 八景 — 岡山県真庭市湯原温泉 · 旭川の湯かけ橋を望む夕暮れの外観、川面に映る灯り
PHOTO: 湯原温泉 八景 — 公式サイトを見る

なぜ選ばれるか

宿が、湯原の象徴「砂湯」の真向かいに構える。旭川の川床から湧く砂湯は、全国露天風呂番付で西の横綱に選ばれた露天で、その眺めを日常のように享受できる立地が、まずこの宿の強みである。館の湯は二様に用意される。瀬音を間近に聴く「川の湯」と、山と空に近い「空の湯」。星の多い盛夏の夜に、空の湯から仰ぐ天は格別だ。加えて、料理旅館を名乗るだけの膳が供される。湯・眺め・食の三点が一軒で揃うことが、選ばれる理由である。

集約レビューの傾向

公開レビューデータを集計すると、砂湯を望む立地と、川風の通る眺めへの評価が安定して高い宿である。料理旅館としての膳、とりわけ季節の地魚や地の食材を用いた品への言及が目立つ。露天の開放感を評価する声も多い。一方で温泉街の中心に位置するため、静寂を最優先する旅には賑わいがやや気になる場合がある。価格帯は湯原のなかでは上に位置し、食と眺めに対価を払う滞在で満足度が高い傾向にある。

向く人 / 向かない人

  • 向く: 砂湯の見物と宿を一体で楽しみたい人、料理を主目的にする夫婦旅、星空を望む露天を求める人
  • 向かない: 温泉街の賑わいを避け山懐の静けさを望む人、価格を抑えたい旅程、素泊まり中心の滞在

具体情報

  • 立地: 湯原温泉「砂湯」の真向かい、旭川沿い
  • 客室: 全32室
  • 湯: 瀬音を聴く「川の湯」、星を仰ぐ「空の湯」の二つの湯
  • 食事: 料理旅館の会席(季節の地魚・地の食材)
  • 眺め: 全国露天風呂番付「西の横綱」砂湯を望む


3. 湯の蔵 つるや — 岡山県真庭市・湯原温泉

大正の造り酒屋を継いだ湯蔵で、源泉かけ流しの湯に身を沈める。

Media Picks Score: 89 / 100  24室、温泉旅館。

目安価格 ¥48,000–¥66,000 / 泊(二名一室・通常期)


湯の蔵 つるや — 岡山県真庭市湯原温泉 · 造り酒屋を改装した館の内湯、源泉かけ流しの湯船
PHOTO: 湯の蔵 つるや — 公式サイトを見る

なぜ選ばれるか

建物が、酒を醸した蔵の記憶を継いでいる。大正四年に創業し、昭和三十六年まで営まれた造り酒屋を改装した宿で、太い梁と黒く艶を帯びた柱に、酒蔵だった時分の骨格が残る。湯は源泉かけ流しで、湯原の豊かな湯量を素直に落とす。選ばれる理由は、この「継承された建物」と「素直な湯」の重なりにある。加えて、湯原の温泉街に位置しながら、蔵の厚い壁が音を吸い、内側に静けさを保つ。歴史を宿した空間で湯を使う時間が、この宿の持ち味である。

集約レビューの傾向

公開レビューデータを集計すると、造り酒屋を改装した館の趣と、源泉かけ流しの湯への評価が繰り返し確認できる宿である。梁や柱の意匠を風情として受け止める声が多い。湯の柔らかさ、肌当たりへの言及も目立つ。一方、古い建物ゆえの動線や設備の年季を、味わいと取るか不便と取るかで印象が分かれる面がある。総じて、建物の来歴に関心を持ち、湯そのものを静かに楽しむ旅で満足度が高い傾向にある。

向く人 / 向かない人

  • 向く: 古建築の趣を好む人、源泉かけ流しを重んじる湯好き、静かに湯を使う夫婦・友人連れ
  • 向かない: 新しく均質な設備を望む人、大浴場のスケール感を求める旅、段差や動線に不安のある滞在

具体情報

  • 立地: 湯原温泉の温泉街
  • 客室: 全24室
  • 湯: 源泉かけ流し
  • 建物: 元造り酒屋を改装(昭和36年まで酒造を営む)
  • 創業: 大正4年(1915年)


4. 蒜山なごみの温泉 津黒高原荘 — 岡山県真庭市・蒜山(津黒高原)

津黒山から湧くラジウム泉を薪で沸かす、蒜山高原の里山の湯宿。

Media Picks Score: 87 / 100  29室、高原の宿。

目安価格 ¥20,000–¥22,000 / 泊(二名一室・通常期)


蒜山なごみの温泉 津黒高原荘 — 岡山県真庭市蒜山下和 · 深い森に囲まれた津黒高原の里山の宿を俯瞰
PHOTO: 蒜山なごみの温泉 津黒高原荘 — 公式サイトを見る

なぜ選ばれるか

湯が、薪の香りをまとって届く。津黒山から湧くラジウム泉「蒜山なごみの温泉」を、薪ボイラーで加温して湯船へ落とす。里山の宿ならではの、火と湯の素朴な結びつきが、この宿の芯である。理由は三つ。第一に真庭市北端、標高の高い津黒高原という高原らしい立地、第二にラジウム泉という湯質、第三に展望風呂・家族風呂・サウナと湯の選択肢が公共の宿らしく整うこと。目安価格も抑えられ、蒜山の高原歩きと組み合わせやすい。夏の朝、霧の晴れる森を眺めて湯に入る時間が値打ちである。

集約レビューの傾向

公開レビューデータを集計すると、ラジウム泉の湯質と、里山に囲まれた静かな環境への評価が確認できる宿である。薪で沸かす湯の柔らかさ、価格に対する満足度への言及が目立つ。家族風呂や展望風呂といった湯の選択肢を評価する声もある。一方で公共の宿としての設えは簡素で、上質な調度や凝った演出を求める旅には物足りなさが残る場合がある。総じて、湯と自然を素朴に楽しむ滞在で満足度が高い傾向にある。

向く人 / 向かない人

  • 向く: 蒜山高原の自然歩きと湯を組み合わせたい人、ラジウム泉を試したい湯好き、費用を抑えたい旅程
  • 向かない: 上質な調度や凝った献立を望む人、温泉街の賑わいや外湯めぐりを求める旅、細やかな接遇を最優先する滞在

具体情報

  • 所在: 岡山県真庭市蒜山下和1080-1(津黒高原)
  • 客室: 全29室(定員90名)
  • 湯: 津黒山から湧くラジウム泉、薪ボイラーで加温。展望風呂・家族風呂・サウナを備える
  • 食事: 山の旬の味覚を用いた食事
  • 周辺: キャンプ場・温泉プールを併設、蒜山高原の高原散策に近い


5. 新庄宿 須貝邸 — 岡山県真庭郡新庄村

出雲街道の宿場に残る築百年の家を継ぐ、一日二組だけの里山の宿。

Media Picks Score: 82 / 100  2室(一日二組限定)、古民家の宿。


新庄宿 須貝邸 — 岡山県新庄村 · 築百年の古民家を改装した館内、格子窓と麻のれん、木の椅子が並ぶ静かな一室
PHOTO: 新庄宿 須貝邸 — 公式サイトを見る

なぜ選ばれるか

家が、宿場の記憶を今に継いでいる。出雲街道の宿場・新庄宿に残る築百年の二階建てを全面改装した宿で、一日二組だけを迎える。二階に客室二室、一階に多目的の間を置く簡素な構成が、街道の家の骨格を素直に残す。選ばれる理由は、この稀少な「宿場の宿」という体験そのものにある。加えて、新庄村生まれの料理人が里山の食材を組んだコース料理を供する。日本で最も美しい村に数えられる小さな村で、桜並木「がいせん桜」の通りに面して過ごす夜が、他にない値打ちである。

集約レビューの傾向

一日二組限定という規模ゆえに、公開されている評価はまだ多くない。そのうえで確認できる傾向として、築百年の古民家を丁寧に改装した空間と、里山食材を用いたコース料理への好意的な受け止めが挙げられる。街道の宿場に泊まるという体験の稀少さを評価する声もある。一方、温泉を主目的とする旅には湯の設えが控えめで、宿そのものと村の時間を味わう滞在に向く。静けさを求める夫婦・二人旅との相性が良い宿である。

向く人 / 向かない人

  • 向く: 街道の宿場や古民家に泊まる体験を求める人、里山の食を主目的にする夫婦旅、静けさと村の時間を重んじる人
  • 向かない: 大浴場や露天など温泉設備を第一に求める人、賑やかな温泉街を望む旅、大人数での滞在

具体情報

  • 所在: 岡山県真庭郡新庄村、出雲街道「がいせん桜」通り沿い
  • 客室: 2室(一日二組限定)、築100年の二階建てを全面改装
  • 食事: 新庄村の料理人による里山食材のコース料理(一泊二食)
  • 周辺: 出雲街道 新庄宿の宿場町、脇本陣木代邸、がいせん桜並木
  • 村: 「日本で最も美しい村」連合に加盟する新庄村


よくある質問

Q. 訪れるのに向く季節はいつですか。

A. 高原の夏、七月下旬から八月が一つの好季である。蒜山高原は朝霧と澄んだ星空に恵まれ、湯原の谷は旭川の川風が涼を運ぶ。紅葉の秋、雪見の湯の冬もそれぞれに味わい深いが、盛夏は高原歩きと湯を一日のなかで結びやすい。編集部が推す季節を一つ挙げるなら、朝霧の下りる盛夏の高原である。

Q. ぬる湯やラジウム泉は、どのような湯ですか。

A. 湯原温泉は湯量が豊かで、湯口に近い鮮度を保ちやすく、体に負担の少ない湯として湯治の客に親しまれてきた。砂湯は全国露天風呂番付で西の横綱に選ばれた露天である。蒜山の津黒高原荘はラジウム(ラドン)泉で、肌当たりのやわらかい湯として知られる。いずれも長湯に向く、穏やかな湯である。

Q. 子連れでも泊まれますか。

A. 津黒高原荘は家族風呂やキャンプ場を併設し、家族連れの利用に幅がある。湯原の各宿も家族での宿泊は可能だが、油屋やつるやは客室数が少なく、古い意匠の館ゆえ段差もある。新庄宿 須貝邸は一日二組限定でコース料理が主となるため、乳幼児連れは事前の相談が要る。目的に応じて宿を選び分けたい。

Q. アクセスはどうなりますか。

A. 湯原温泉・蒜山ともに、中国自動車道の落合ICや米子自動車道の湯原IC・蒜山ICが起点となる。公共交通ではJR中国勝山駅などからバスの便がある。新庄村は蒜山の西、出雲街道沿いに位置し、車での移動が便利である。高原と湯里、宿場を巡るなら、一帯を車で結ぶ旅程が組みやすい。

Q. 一泊で数軒を湯めぐりできますか。

A. 湯原温泉の三軒(油屋・八景・つるや)は温泉街に近接し、砂湯の外湯を含めた湯めぐりがしやすい。蒜山の津黒高原荘は湯原から車で二十分ほど、新庄宿 須貝邸はさらに西へ足を延ばす位置にある。宿泊は一軒に定め、周辺の外湯や日帰り湯を組み合わせるのが、この一帯の楽しみ方である。

本記事の参考情報

真庭観光WEB — 蒜山・湯原の温泉と宿の観光情報
新庄村公式観光サイト — 出雲街道 新庄宿・がいせん桜の案内
Wikipedia: 湯原温泉 — 砂湯・湯里の歴史と地理の背景

編集部から

五軒を貫くのは、湯を土地の呼吸のなかで味わうという姿勢である。湯原の谷は湯量の豊かさが鮮度を生み、蒜山の高原はラジウム泉と森の静けさを、新庄の宿場は街道の記憶を、それぞれ湯と暮らしのかたちで残してきた。盛夏なら朝霧と星空、秋は紅葉、冬は雪見と、季節ごとに湯里の表情は移ろう。一帯を車で結び、宿は一軒に定めて、外湯や高原歩きを重ねる——そんな旅程がこの土地には似合う。あなたなら、稜線下のどの湯里に、夏の一夜を預けるだろうか。

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