梅雨が明け、文月の朝に高原の霧が立つ頃、くじゅう連山の麓で母屋から棟を分けて建つ離れ五軒を選んだ。標高千メートルの草原と硫黄谷の蒸気のあいだに、独立した湯舟と縁側を備える宿が点在する。本稿では、棟分けの最小条件、棟数、湯、坪、夕餉と朝餉の供し方を一軒ずつ辿りながら、独立棟の朝が始まる作法を記す。九重飯田高原から小田、串野、長者原へ。湯が、山が、それぞれの棟で語りかける宿である。
| # | 宿 | エリア | Score | 棟・室 | 目安価格 | 一行の輪郭 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 1 | 山あいの宿 喜安屋 | 九重・筋湯温泉 | 93 | 10室 | ¥43–53k | 標高千メートル、土壁の離れに塩化物泉が湧く |
| 2 | 旅籠 彩くら | 九重・串野温泉 | 92 | 10棟 | ¥45–90k | 三千坪の川沿いに全棟完全戸建ての離れ |
| 3 | 山荘 やまの彩 | 九重・筋湯温泉 | 91 | 8室 | ¥38–50k | 渡り廊下で棟を分けた小宿、貸切湯三つ |
| 4 | 渓谷の宿 二匹の鬼 | 九重・九酔渓 | 90 | 離れ13棟 | ¥28–60k | 九酔渓を見おろす露天付きの離れ群 |
| 5 | 大分九重 久織亭 | 九重・長者原温泉 | 89 | 9室 | ¥40–90k | くじゅうの裾野に建つ一棟離れと和モダンフレンチ |
※ 目安価格は公開販売価格の集計に基づく参考値で、実際の予約料金とは異なります。1泊2名利用時の1室あたり料金(税込)です。
1. 山あいの宿 喜安屋 — 九重・筋湯温泉
標高千メートルの筋湯に、土壁と黒板塀の離れが十。湯が、暖房までも担う高原の一軒。
Media Picks Score: 93 / 100 10室、離れ形式の旅館。
目安価格 ¥43,000–¥53,000 / 泊 (2名1室・通常期)

なぜ選ばれるか
筋湯の高みに、古い農家を思わせる土壁と黒板塀をまとった離れが点在する。母屋から独立した十の客室それぞれに露天が備わり、棟を分けることで隣の気配が届かない。湯は無色透明の塩化物泉。肌をなめらかに包む湯量は、浴槽を満たすにとどまらず客室の暖房にも回されるほどで、火山の裾野に抱かれた宿の体温そのものが、湯に支えられている。標高千メートルという立地は、夏の朝に涼やかな霧を呼ぶ。
集約レビューの傾向
公開レビューデータを集計したところ、当該エリアで離れの静けさと湯の質への高い評価が確認された宿である。湯舟を独り占めできる構えと、夕餉に供される岩魚や豊後牛、阿蘇・九重の山菜への満足が傾向として読み取れる。一方、山あいの細い道を上る立地ゆえ、到着までの運転に身構える声もうかがえる。総じて、静謐を求める夫婦旅・友人連れの支持が厚い一軒と言える。
向く人 / 向かない人
- 向く: 湯を独り占めしたい夫婦旅、高原の涼を求める夏の滞在、静けさを最優先する温泉好き
- 向かない: 公共交通のみで巡りたい旅程(山道の車移動が前提)、賑わいや繁華を望む人、観光地巡りで宿に戻る時間が短い旅
具体情報
- 所在: 大分県玖珠郡九重町・筋湯温泉(標高約1,000m)
- 客室: 露天風呂付き離れ 10室+貸切風呂2
- 湯: ナトリウム-塩化物泉(無色透明・なめらか)
- 食事: 岩魚・豊後牛・山菜を主とした季節の会席
- アクセス: 大分自動車道 九重ICから車
2. 旅籠 彩くら — 九重・串野温泉
涌蓋山の麓、三千坪の川沿いに全棟が完全戸建て。蛍とかじかの棲む谷の離れである。
Media Picks Score: 92 / 100 10棟、全室戸建て離れの旅館。
目安価格 ¥45,000–¥90,000 / 泊 (2名1室・通常期)

なぜ選ばれるか
涌蓋山の裾、串野温泉の谷あいに、三千坪の敷地を川が流れる。その水辺に沿って、露天風呂付きの完全戸建て離れが十棟、距離を置いて点在する。棟を分けるのではなく、はじめから一棟ずつが独立した家として建てられているため、隣の存在を意識せずに済む。串野は生き物百選に選ばれた三種の蛍とかじかが棲む静かな湯場で、夏の宵には水辺に光が舞う。源泉掛け流しの湯と、せせらぎだけが満ちる夜が、この宿の核にある。
集約レビューの傾向
公開レビューデータを集計したところ、当該エリアで一棟ごとの独立性と源泉掛け流しへの高い評価が確認された宿である。プライバシーの確かさ、川音に包まれる静けさ、ペットと泊まれる棟を備える点への支持が読み取れる。広い敷地ゆえ棟間の移動を伴うが、それも散策として受け止める声が多い。家族や愛犬を伴う静かな滞在を望む層に、長く選ばれてきた一軒と言える。
向く人 / 向かない人
- 向く: 完全な一棟貸しを望む夫婦・家族、愛犬を伴う旅、川辺の静けさと蛍の季を楽しみたい人
- 向かない: 棟間の移動を避けたい人、大浴場での湯めぐりを主目的とする人、標高千メートル級の高地を期待する旅程(串野は谷あいの湯場)
具体情報
- 所在: 大分県玖珠郡九重町・串野温泉(涌蓋山麓)
- 客室: 露天風呂付き完全戸建て離れ 全10棟(ペット同伴棟あり)+共同露天岩風呂
- 敷地: 三千坪の川沿い
- 湯: 源泉掛け流し
- 環境: 三種の蛍・かじかが棲む渓(生き物100選)
3. 山荘 やまの彩 — 九重・筋湯温泉
屋根付きの渡り廊下で棟を分けた八室の小宿。貸切の湯が三つ、筋湯の高みに灯る。
Media Picks Score: 91 / 100 8室、長屋風に棟を分けた山荘。
目安価格 ¥38,000–¥50,000 / 泊 (2名1室・通常期)

なぜ選ばれるか
筋湯の高みに、わずか八室の小さな山荘が建つ。建物は長屋風に棟を分け、それぞれを屋根付きの渡り廊下がつなぐ。露天付きが五室、半露天付きが二室。客室の湯だけでなく、貸切の浴室が三つ——やまそわの湯、さえずりの湯、ほぐれ湯——用意され、塩化物泉を貸切で味わえる。規模を抑えた分、目の届く運営に徹し、棟を分ける静けさと、小宿らしい行き届きが同居する。標高千メートルの筋湯にあって、夏は涼やかな朝を迎える一軒である。
集約レビューの傾向
公開レビューデータを集計したところ、当該エリアで小規模ゆえの行き届いた運営と貸切湯の充実への高い評価が確認された宿である。八室という規模感、渡り廊下でつながる棟分けの構え、塩化物泉を貸切で楽しめる点への満足が傾向として読み取れる。客室は華美を求めず、湯と静けさに価値を置く層に向く。湯めぐりを宿の中で完結させたい夫婦旅・友人連れに、堅実に支持される一軒と言える。
向く人 / 向かない人
- 向く: 貸切湯を心ゆくまで楽しみたい夫婦・友人連れ、小宿の落ち着きを好む人、湯を宿内で完結させたい旅
- 向かない: 大規模宿の館内施設を望む人、完全独立棟(戸建て)の距離感を求める人、洋風の客室設えを好む旅
具体情報
- 所在: 大分県玖珠郡九重町・筋湯温泉(標高約1,000m)
- 客室: 全8室(露天付5・半露天付2・一般1)、長屋風に棟分け・屋根付き渡り廊下
- 貸切湯: 3室(やまそわの湯・さえずりの湯・ほぐれ湯)
- 湯: 塩化物泉(神経痛・筋肉痛・疲労回復ほか)
- チェックイン: 15:00〜 / アウト 〜10:00
4. 渓谷の宿 二匹の鬼 — 九重・九酔渓
九酔渓の深い谷を見おろし、露天付きの離れが点々と。渓に張り出す独立棟の宿である。
Media Picks Score: 90 / 100 露天風呂付き離れ13棟の渓谷の宿。
目安価格 ¥28,000–¥60,000 / 泊 (2名1室・通常期)

なぜ選ばれるか
くじゅうの北、九酔渓と呼ばれる深い谷に臨んで、露天風呂付きの離れが十三棟、斜面に点在する。母屋から棟を分け、谷側へ張り出すように建てられた客室からは、源泉掛け流しの湯に浸かりながら渓谷の景色がひらける。「桂の秀」「花別荘」「夢静香」「さえずり」と名づけられた棟は、それぞれに趣を違える。個室で渓を眺める湯と、地の食材を活かした夕餉。九重の渓谷美を、独立棟の縁先から独り占めにできる宿である。
集約レビューの傾向
公開レビューデータを集計したところ、当該エリアで渓谷を望む露天と離れの開放感への高い評価が確認された宿である。湯に浸かりながら谷を見おろす眺め、棟ごとに異なる設えへの満足が傾向として読み取れる。斜面に棟が散るため、移動に上り下りを伴う点は留意したい。紅葉期の九酔渓は特に名高く、季節を選んで訪れる価値のある一軒として、長く支持を集めている。
向く人 / 向かない人
- 向く: 湯に浸かりながら渓谷を眺めたい人、棟ごとの個性を楽しむ夫婦旅、紅葉や新緑の季を狙う滞在
- 向かない: 段差や上り下りを避けたい人、平坦な敷地の宿を望む旅、標高千メートル級の高原を主目的とする旅程(九酔渓は谷の景観が主役)
具体情報
- 所在: 大分県玖珠郡九重町田野・九酔渓
- 客室: 露天風呂付き離れ 13棟(桂の秀・花別荘・夢静香・さえずり)
- 湯: 源泉掛け流し(客室露天で渓谷を一望)
- 眺望: 九酔渓(紅葉の名所)
- 食事: 地の食材を用いた季節の料理
5. 大分九重 久織亭 — 九重・長者原温泉
くじゅうの裾野・長者原に一棟離れ。和モダンフレンチを供する、食を主役にした宿である。
Media Picks Score: 89 / 100 9室、一棟離れの温泉旅館。
目安価格 ¥40,000–¥90,000 / 泊 (2名1室・通常期)

なぜ選ばれるか
くじゅう連山の裾野、長者原温泉に建つ久織亭は、一棟離れの構えに露天風呂付客室を備える。湯と棟分けの静けさを土台にしながら、この宿の主役はむしろ食にある。和の設えにフレンチの技を重ねた料理が供され、豊後牛の藁焼きやトリュフを軸にした献立が並ぶ。二〇二六年四月には大浴場が刷新された。山の懐に抱かれた独立棟で、湯と美食を静かに味わう——食通の旅人に応える、九重の一軒である。
集約レビューの傾向
公開レビューデータを集計したところ、当該エリアで料理の完成度と一棟離れの落ち着きへの高い評価が確認された宿である。和モダンフレンチの仕立て、食材へのこだわり、露天付き客室のくつろぎへの満足が傾向として読み取れる。料理が主目的となるため、品数や味付けの好みは人を選ぶ面もある。湯だけでなく食卓に旅の重心を置きたい層に、強く支持される一軒と言える。
向く人 / 向かない人
- 向く: 食を旅の主役に据えたい人、和とフレンチの融合を楽しむ夫婦旅、長者原の自然と美食を併せて味わいたい滞在
- 向かない: 純和食の会席を望む人、湯治本位で食に重きを置かない旅、品数の多い献立を負担に感じる人
具体情報
- 所在: 大分県玖珠郡九重町大字田野255-30・長者原温泉
- 客室: 一棟離れ/露天風呂付客室(全9室)
- 湯: 温泉大浴場(2026年4月リニューアル)+客室露天
- 食事: 和モダン+フレンチ(豊後牛の藁焼き・トリュフ等)
- アクセス: 大分自動車道 九重ICから車
よくある質問
Q. 訪れるのに良い季節はいつですか?
A. 編集部が推すのは、梅雨が明ける文月から盛夏にかけて。標高千メートル前後の飯田高原・筋湯では、夏の朝に高原の霧が立ち、平地より涼やかな滞在ができます。新緑の頃や、九酔渓の紅葉が色づく晩秋も見応えがあります。冬は雪見と湯が楽しめますが、山道の凍結に備えた装備が要ります。
Q. 予約のタイミングは?
A. いずれも棟数・室数の限られた小さな宿のため、週末や連休、夏休み・紅葉期は早くから埋まります。とりわけ全棟戸建ての宿や離れの人気棟は、二〜三か月前から予約が動く傾向があります。平日であれば比較的取りやすく、静けさも増します。
Q. 子連れでも泊まれますか?
A. 棟を分ける離れは隣室への気兼ねが少なく、家族の滞在に向く一方、客室露天や段差のある造りもあります。乳幼児連れの場合は、棟の構造や対応を事前に各宿へ確認するのが確実です。串野温泉の旅籠 彩くらはペット同伴棟も備え、家族の単位ごと迎える構えがあります。
Q. アクセスは?
A. いずれも大分自動車道 九重IC(または玖珠IC)から車で向かうのが基本です。山あいの細い道を上る区間もあり、レンタカーでの移動が現実的です。福岡・大分・熊本のいずれからもおおむね車で二時間前後を見ておくとよいでしょう。
Q. 棟を分ける「離れ」とは具体的にどういう形式ですか?
A. 母屋から客室を独立させ、棟ごとに区切る形式の総称です。本稿では、渡り廊下でつなぐ長屋風(やまの彩)から、はじめから一棟ずつ独立した完全戸建て(彩くら)、斜面に点在する離れ(二匹の鬼・久織亭)まで、独立性の度合いが異なる五軒を選びました。共通するのは、隣の気配から離れて湯と時間を持てることです。
本記事の参考情報
・九重・飯田高原観光協会 — 飯田高原・くじゅう連山の観光情報
・Wikipedia: 筋湯温泉 — 筋湯温泉の歴史・地理の背景
・Wikipedia: 九重連山 — くじゅう連山の地勢
編集部から
五軒に通底するのは、母屋から棟を切り離し、湯と縁側を独立させるという一点である。標高千メートルの筋湯に湯の恵みを暖房へ転じる喜安屋、三千坪に全棟を戸建てにした彩くら、渡り廊下で結ぶ小宿のやまの彩、渓に張り出す二匹の鬼、食を主役に据えた久織亭——独立性の表し方は宿ごとに違えど、いずれも高原の朝霧の中で、静かな一夜を約束する。梅雨明けの文月、九重の谷に霧が立つ頃、どの棟の障子をまず開けてみたいと思われるだろうか。