盛夏の狩野川は、富士の伏流をあつめて駿河湾へ下る頃、葛城山と城山の緑を水面に映して流れる。伊豆長岡から大仁、韮山にかけての里には、客室そのものに露天を備えた宿が点在し、源頼朝ゆかりの古湯を引き継いできた。この稿では、湯量と源泉のたしかさを見定めつつ、葛城山を借景に朝湯を静かに楽しめる五軒を、夫婦の旅に向けて選んだ。中伊豆の渓谷とはまた異なる、平野部の里湯の作法をたどってゆきたい。
| # | 宿 | 里 | Score | 客室 | 目安価格 | 一行の特徴 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 1 | 石のや 伊豆長岡 | 古奈 | 92 | 22 | ¥59–¥83k | 六千余坪の石庭に全室離れ、客室露天から望む緑 |
| 2 | 頼朝の湯 本陣 | 古奈 | 90 | 15 | ¥33–¥47k | 源頼朝ゆかり八百五十年、洞窟風呂と檜風呂の古湯 |
| 3 | 三養荘 | ままの上 | 90 | 29 | ¥121–¥177k | 四万二千坪の庭、数寄屋の離れに全室源泉付き |
| 4 | 富嶽はなぶさ | 古奈 | 89 | 24 | ¥59–¥81k | 源泉二本の豊かな湯、客室露天から富士と狩野川 |
| 5 | かめや恵庵 | 長岡 | 88 | 22 | ¥38–¥50k | 別邸恵庵は源泉百パーセント掛け流しの専用露天 |
※ 目安価格は公開販売価格の集計に基づく参考値で、実際の予約料金とは異なります。一泊二名利用時の一室あたり料金(税込)です。
1. 石のや 伊豆長岡 — 伊豆の国市古奈
六千余坪の石庭に全室離れが点在し、客室露天から葛城山方面の緑を望む。古奈で朝湯を静かに過ごす夫婦に、真っ先に推したい一軒。
Media Picks Score: 92 / 100 22室、全室離れの温泉旅館。
目安価格 ¥59,000–¥83,000 / 泊(二名一室・通常期)

なぜ選ばれるか
湯が、まず静かである。六千六百平米を超える石庭に二十二の客室が離れとして散り、棟と棟は数寄屋造りの作法で隔てられている。一階の客室には岩または檜の露天が据えられ、湯に身を沈めると葛城山方面の緑と、伊豆三古湯のひとつ古奈の湯がいちどに迫る。隣室の気配が届かぬ造りゆえ、夫婦の朝湯がそのまま二人だけの時間になる。蔵書を備えたブックカフェ、季の地の食材を組んだ会席と、滞在の輪郭がよく整っている。
集約レビューの傾向
公開レビューデータを集計したところ、離れの独立性と客室露天の眺めへの評価が一貫して高い。庭の手入れと静けさを挙げる声が目立ち、夫婦・記念日の旅程で選ばれてきた宿であることがうかがえる。一方で、棟が点在する敷地ゆえ、移動に石段や勾配を伴う点を心に留める向きもある。総じて、価格帯に見合った設えと運営の丁寧さが、満足の核を成していると読み取れる。
向く人 / 向かない人
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向く:
記念日や節目の夫婦旅、客室露天で朝湯を静かに過ごしたい人、数寄屋の設えと庭を愛でたい和の宿好き -
向かない:
幼児連れで段差を避けたい家族、観光地巡りで宿に戻る時間が短い旅程、にぎやかな大浴場の活気を求める人
具体情報
- 最寄り駅: 伊豆箱根鉄道 伊豆長岡駅からタクシー約7分
- 客室: 全22室、すべて離れ(一階は露天、上階は内湯付き)
- 湯: 古奈の湯(伊豆三古湯のひとつ)を引く客室風呂
- 食事: 季の地の食材を組んだ会席
- 庭: 約6,600平米の石庭
2. 頼朝の湯 本陣 — 伊豆の国市古奈
源頼朝ゆかり八百五十年の伝承を、洞窟風呂と檜風呂に受け継ぐ古湯の宿。古奈の隠れ宿として静かに佇む一軒。
Media Picks Score: 90 / 100 15室、源頼朝ゆかりの温泉旅館。
目安価格 ¥33,000–¥47,000 / 泊(二名一室・通常期)

なぜ選ばれるか
この宿は、源頼朝の伝承を伝える古奈の地に、八百五十年ともいわれる時を重ねてきた。源頼朝の肘掛石が残るという伝えは、伊豆を流謫の地としたこの武将と、古奈の湯との縁を今に伝える。十五室の小さな構えに、岩風呂、洞窟を思わせる風呂、檜の風呂が据えられ、美肌で知られる古奈の湯を、いくつもの趣で味わえる。価格帯は本稿の五軒のうち最も穏やかで、由緒の濃さと湯のたしかさを、肩肘張らずに楽しめる点が支持されている。
集約レビューの傾向
公開レビューデータを集計したところ、湯の柔らかさと、洞窟風呂をはじめとする風呂の趣への評価が安定して高い。歴史を感じさせる設えと、規模を抑えた静かな運営を評する声が目立つ。料理については季の地の素材を組んだ会席が中心で、量より質を求める夫婦の旅程によく合う。建物に時代を経た部分があることを承知のうえで、その風情ごと愛でる滞在が、満足の核を成していると読み取れる。
向く人 / 向かない人
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向く:
歴史や伝承を旅の主軸に置く夫婦、洞窟風呂など趣の異なる湯をめぐりたい人、価格を抑えて古湯に泊まりたい人 -
向かない:
新築同様の設備を望む人、客室の広さを最優先する旅程、大型館のにぎわいや充実したアメニティを求める人
具体情報
- 最寄り駅: 伊豆箱根鉄道 伊豆長岡駅からタクシー約7分
- 客室: 全15室の小規模旅館
- 湯: 古奈の湯。岩風呂・洞窟風呂・檜風呂を備える
- 由緒: 源頼朝ゆかり、八百五十年とされる古湯の宿
- 食事: 季の地の素材を組んだ会席
3. 三養荘 — 伊豆の国市ままの上
四万二千坪の庭に数寄屋の離れが連なり、全室に源泉を引く名旅館。里湯の格式を今に伝える一軒。
Media Picks Score: 90 / 100 29室、数寄屋造りの離れを擁する温泉旅館。
目安価格 ¥121,000–¥177,000 / 泊(二名一室・通常期)

なぜ選ばれるか
数寄屋造りの大広間が、まず来客を迎える。四万二千坪に及ぶ敷地に三千坪の日本庭園を抱き、客室は離れ風に配されている。全室に源泉を引き、pH九前後の高アルカリ泉が、肌をなめらかに包む。本館の離れには内湯を備えた九十七平米超の客室があり、本間と次の間が日本庭園に面して開ける。西武系の運営による名旅館として知られ、設えの品格と庭の手入れが、価格帯にふさわしい滞在を支えている。本稿の五軒のうち、もっとも格式を前に出した一軒である。
集約レビューの傾向
公開レビューデータを集計したところ、庭園の壮麗さと建築の品格を挙げる声が際立つ。離れの静けさと、高アルカリ泉の肌ざわりへの評価も安定して高い。接遇の落ち着きと、広間や廊下に至るまで行き届いた手入れを評する向きが多く、特別な節目の旅に選ばれてきた宿であることがうかがえる。価格は本稿の中で最も高いが、それに見合う設えと時間が用意されている、という受け止めが核を成していると読み取れる。
向く人 / 向かない人
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向く:
格式ある名旅館で節目を祝いたい夫婦、広大な日本庭園と数寄屋建築を堪能したい人、高アルカリ泉を好む人 -
向かない:
価格を抑えたい旅程、気取らない素朴な湯宿を求める人、短時間の滞在で湯だけを目当てにする旅
具体情報
- 最寄り駅: 伊豆箱根鉄道 伊豆長岡駅からタクシー約8分
- 客室: 29室、数寄屋造りの離れ。全室に源泉を引く
- 湯: pH九前後の高アルカリ泉
- 敷地: 約42,000坪、うち日本庭園約3,000坪
- 本館離れ: 内湯付き、本間と次の間で97平米超の客室も
4. 富嶽はなぶさ — 伊豆の国市古奈
源泉を二本持つ豊かな湯量と、客室露天から望む富士と狩野川。眺めと湯の双方を求める夫婦に向く一軒。
Media Picks Score: 89 / 100 24室、客室露天を備える温泉旅館。
目安価格 ¥59,000–¥81,000 / 泊(二名一室・通常期)

なぜ選ばれるか
湯が、惜しみなく注がれる。「はなぶさ」は豊かな湯量を確保しているため、客室や大浴場の湯口から、常にたっぷりと源泉が落ちてゆく。客室露天を備えた部屋からは、富士と狩野川を望み、テラスに身を置けば里の緑が一望に開ける。陶芸の宿として親しまれてきた歴史を受け継ぎつつ、富士を冠した名のとおり、眺望を身上とする宿へと整えられている。湯量と眺めの双方を求める夫婦の旅に、過不足なく応える一軒である。
集約レビューの傾向
公開レビューデータを集計したところ、源泉の豊かさと、客室露天から望む富士・狩野川の眺めへの評価が高い。湯口から絶えず注がれる源泉の心地よさを挙げる声が目立つ。料理については、鮑をはじめ地の海の幸を組んだ会席が支持を集めている。客室にいくつかの趣の違いがあり、露天付きの部屋は数を限るため、眺めを重んじるなら部屋の指定を心に留めたい、という受け止めが読み取れる。
向く人 / 向かない人
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向く:
客室露天から富士と狩野川を眺めたい夫婦、源泉の湯量を重んじる人、海の幸の会席を楽しみたい旅程 -
向かない:
露天付き以外の客室で眺めを期待する人、徹底した静寂のみを求める旅、最高格の建築を望む旅程
具体情報
- 最寄り駅: 伊豆箱根鉄道 伊豆長岡駅からタクシー約6分
- 客室: 全24室。露天風呂付き客室と、富士・狩野川を望む客室を備える
- 湯: 源泉二本を持ち、豊かな湯量を確保
- 食事: 鮑など地の海の幸を組んだ会席
- 沿革: 陶芸の宿として親しまれた歴史を受け継ぐ
5. かめや恵庵 — 伊豆の国市長岡
別邸恵庵は源泉百パーセント掛け流しの専用露天を備え、富士を望む。掛け流しの湯にこだわる夫婦に向く一軒。
Media Picks Score: 88 / 100 22室、別邸に客室露天を備える温泉旅館。
目安価格 ¥38,000–¥50,000 / 泊(二名一室・通常期)

なぜ選ばれるか
湯にこだわる夫婦には、別邸恵庵がよく応える。この別邸の客室は、源泉百パーセント掛け流しの専用露天を備え、湯に浸かりながら富士の絶景を望む。貸切露天「富士見の湯」は六メートルに二・五メートルの広さを取り、富士を正面に据える。本館とは趣を分けた別邸の造りが、夫婦の静かな時間を支える。価格帯は穏やかで、掛け流しの湯と眺望を、肩肘張らずに味わえる点が選ばれる理由である。古奈・長岡の里湯を、過不足なく楽しめる一軒といえる。
集約レビューの傾向
公開レビューデータを集計したところ、別邸恵庵の専用露天と、源泉掛け流しの湯への評価が高い。富士を望む貸切露天の眺めを挙げる声も目立つ。料理については、鮑の踊り焼きや牛肉の石焼きを中心とした会席が支持を集めており、地の味覚を求める旅程に合う。本館と別邸で趣が分かれるため、客室露天を望むなら別邸を選びたい、という受け止めが読み取れる。価格に対する満足度の高さが、繰り返し挙げられている。
向く人 / 向かない人
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向く:
源泉掛け流しの専用露天を重んじる夫婦、富士の眺めを楽しみたい人、価格を抑えて客室露天に泊まりたい旅程 -
向かない:
本館の客室で客室露天を期待する人、最上級の格式を求める旅、徹底した離れの独立性を望む夫婦
具体情報
- 最寄り駅: 伊豆箱根鉄道 伊豆長岡駅からタクシー約7分
- 所在地: 静岡県伊豆の国市長岡1308
- 別邸恵庵: 源泉百パーセント掛け流しの専用露天付き客室
- 貸切露天: 「富士見の湯」六メートル×二・五メートル、富士を望む
- 食事: 鮑の踊り焼き・牛肉の石焼きを中心とした会席
よくある質問
Q. 客室露天で朝湯を楽しむのに、盛夏のいつ頃が静かですか?
A. 編集部が推すのは、朝の冷気がまだ庭や山あいに残る六時から八時頃です。日中の暑さが立つ前のこの時間帯は、湯気がもっとも美しく立ちのぼり、里も静まり返っています。盛夏は日中の客室露天が高温になりやすいため、早朝と日没後の二度に分けて湯あみを楽しむ流れが、夏の伊豆の里湯にはよく合います。
Q. 葛城山の眺めは、どの宿からも楽しめますか?
A. 葛城山と城山は伊豆長岡の里を見下ろす位置にあり、古奈・長岡の高台側に立つ宿ほど稜線を望みやすくなります。富士の眺めを掲げる宿も多く、客室や貸切露天の向きによって望める山が変わります。山の眺めを旅の主目的とするなら、予約時に客室の向きを確かめておくと間違いがありません。
Q. 子ども連れでも泊まれますか?
A. いずれも温泉旅館として子ども連れの宿泊は可能ですが、本稿は夫婦の静かな朝湯を主題に選んでいるため、離れや小規模の宿が中心です。石のやや三養荘のように棟が点在し石段を伴う宿は、幼児連れには段差が気にかかる場合があります。家族での湯あみを主目的とするなら、客室露天の使い方や添い寝の可否を、各宿の公式情報で確かめておくとよいでしょう。
Q. アクセスはどうなっていますか?
A. 五軒はいずれも伊豆箱根鉄道駿豆線の伊豆長岡駅を起点とし、駅からタクシーでおよそ六分から八分の範囲に収まります。東京方面からは東海道新幹線で三島駅へ、そこから駿豆線に乗り換えて伊豆長岡駅へ至るのが一般的です。里のなかは宿どうしが近く、湯めぐりや散策で歩いてまわれる距離にあります。
Q. 中伊豆の渓谷の宿とは、どう違いますか?
A. 中伊豆の渓谷の宿が「渓に臨む湯」を身上とするのに対し、伊豆長岡・大仁・韮山の里湯は、庭や里の眺めとともに湯あみを楽しむ「平野部の里湯」です。狩野川と葛城山が織りなすゆるやかな景観のなかで、源頼朝ゆかりの古湯を客室露天に引く宿が点在する点に、この里ならではの作法があります。
本記事の参考情報
・伊豆の国市観光協会 — 伊豆長岡・大仁・韮山の観光情報
・Wikipedia: 伊豆長岡温泉 — 古奈の湯・長岡温泉の歴史と地理
編集部から
狩野川の里に湧く五軒は、いずれも客室露天を備えながら、その性格は一様ではない。庭に沈むように静まる石のや、源頼朝の物語を湯に宿す本陣、格式を前に出した三養荘、源泉の湯量と富士を誇るはなぶさ、掛け流しと眺めを穏やかに楽しめるかめや恵庵。共通するのは、葛城山と城山を借景にし、平野部の里湯ならではのゆるやかな時間を流すことである。盛夏なら、朝の冷気に湯気の立つ時刻を狙い、夕には地の海の幸を組んだ会席を。二泊で里をめぐり、それぞれの湯のちがいを確かめる旅程もまた、この季ならではの楽しみだろう。あなたなら、まずどの湯から朝を始めたいだろうか。