盛夏、相模灘から立ちのぼる海霧が朝の松林を白く包み、大室山の裾野には蝉の声が満ちる。伊豆高原と城ヶ崎、この東岸の高原クラスタには、母屋を持たず棟を離して建てる「離れ形式」の宿が点在する。ヨットの帆のように独立棟の間に空隙を挟み、隣室の気配を絶ち、湯の音だけを届ける造りである。稲取や修善寺、南伊豆の湯宿とは別の系譜に立つ、五軒を地図の上でたどる。

# 宿 エリア Score 棟数 目安価格 1行特徴
1 源泉と離れのお宿 月 富戸 95 9 ¥78–¥109k 自家源泉、九棟すべてに露天と専用テラスを配する。
2 離れ御宿 夢のや 富戸 93 6 ¥71–¥90k 棟の間に杜を挟み、六棟の完全独立を貫く。
3 オーベルジュ ル・タン 一碧湖畔 92 8 ¥44–¥57k 一碧湖を望む洋館オーベルジュ、料理を主軸に据える。
4 花吹雪 伊豆高原 城ヶ崎温泉 八幡野 92 17 ¥71–¥87k 五千坪の森に五棟を分散、貸切風呂七つを擁す最大構え。
5 We Home Villa~城ケ崎温泉~ 八幡野 90 8 ¥80–¥161k 相模灘と伊豆諸島を望む貸切別荘、日出風呂を備える。
↕︎ 地図右下の角をドラッグすると高さを調整できます

※ 目安価格は公開販売価格の集計に基づく参考値で、実際の予約料金とは異なります。1泊2名利用時の1室あたり料金(税込)です。

1. 源泉と離れのお宿 月 — 伊東・富戸

富戸の松林に、九棟だけの離れが立つ。全棟に自家源泉の露天風呂を備え、夫婦の静けさを置くための一夜が用意されている。

Media Picks Score: 95 / 100  9棟、離れ形式の温泉旅館。

目安価格 ¥78,000–¥109,000 / 泊 (2名1室・通常期)


源泉と離れのお宿 月 — 伊東市富戸 · 九棟すべてに自家源泉の露天を配した独立棟旅館
PHOTO: 源泉と離れのお宿 月 — 公式サイトを見る →

なぜ選ばれるか

富戸の松林を抜けたところに、九棟だけの離れがある。母屋と食事棟を挟んで各棟の視線が交わらぬよう棟の向きが揃えられ、専用テラスの先には桧の露天が据わる。湯は自家源泉、加水・循環をせず、単純温泉ながら肌に穏やかな湯質と言える。夕食は「別注」の名で並ぶ相模灘の伊勢海老・鮑・金目、朝は露天の脇に膳が届く「別邸」の作法である。

集約レビューの傾向

公開レビューデータを集計したところ、湯の泉質と静けさへの評価が抜きんでている。棟同士の距離を確保した造りと、専用テラスの海側配置が「離れらしさ」を成立させている点への言及が多い。相模灘の海霧が朝の松林をくぐる場面、月夜に湯を張る場面といった時候の描写を含む感想が多く、記念日の再訪率も安定している。

向く人 / 向かない人

  • 向く:
    記念日の夫婦、湯の音だけを聴きたい大人二人、相模灘の海の幸を主目的にする旅
  • 向かない:
    幼児連れの家族(棟のプライバシー構造上、乳幼児の同伴に制約あり)、館内食事を軽く済ませ観光地巡り主体の旅程

具体情報

  • 最寄り駅: 伊豆急行線 富戸駅より車 5 分(15:00〜17:30 送迎あり)
  • 客室数: 全 9 棟(すべて離れ、専用露天風呂・テラス付)
  • チェックイン: 15:00〜 / アウト 〜11:00
  • 食事: 個室食事処での懐石、朝食も個室
  • 湯: 自家源泉、単純温泉、放流式


2. 離れ御宿 夢のや — 伊東・富戸

わずか六棟。棟の間に杜を挟むことで、隣室という概念そのものを消してみせる離れの宿。

Media Picks Score: 93 / 100  6棟、全室半露天付の離れ形式。

目安価格 ¥71,000–¥90,000 / 泊 (2名1室・通常期)


離れ御宿 夢のや — 伊東市富戸 · 六棟のみの完全独立離れ、全室半露天付
PHOTO: 離れ御宿 夢のや — 公式サイトを見る →

なぜ選ばれるか

棟数は六。それ以上は増やさぬ、という選択が「夢のや」の骨格である。各棟は独立した平屋で、専用のテラスと天然温泉の半露天を備える。棟の間には既存の杜を残し、玄関の位置を敢えて揃えぬことで隣室の気配を絶っている。夕食は個室食事処、月替わりの懐石で、伊豆の地魚と近郊の野菜を軸にする。客室は和・ツイン・ダブルの三種で、身体に合う設えを選べる。

集約レビューの傾向

公開レビューデータを集計したところ、棟の独立性への評価と、六棟という「増やさない」姿勢への支持が目立つ。半露天風呂の温度管理、専用テラスの緑量、静けさの徹底ぶりに触れる感想が多い一方、館内の共用施設は最小限であるため、館内で長く過ごす旅程よりも客室に籠るタイプの滞在に向く、という傾向も見て取れる。夫婦・友人二人・記念日の再訪の比率が高い。

向く人 / 向かない人

  • 向く:
    夫婦・友人二人、部屋で過ごす時間を最大化したい旅、記念日
  • 向かない:
    館内のライブラリーやスパを重視する旅、大人数の会食を目的にする滞在

具体情報

  • 最寄り駅: 伊豆急行線 伊豆高原駅・城ヶ崎海岸駅からタクシー数分
  • 客室数: 全 6 棟(和室・ツイン・ダブル、全室半露天付)
  • チェックイン: 15:00〜 / アウト 〜11:00
  • 食事: 個室食事処、月替わり懐石
  • 所在: 静岡県伊東市富戸 927-9


3. オーベルジュ ル・タン — 伊東・一碧湖畔

一碧湖を望む丘の上、1989年開業の洋館オーベルジュ。棟分けの離れ構えに、料理を主軸に据える。

Media Picks Score: 92 / 100  8室、フレンチのオーベルジュ。

目安価格 ¥44,000–¥57,000 / 泊 (2名1室・通常期)


オーベルジュ ル・タン — 伊東市 一碧湖畔 · 1989年開業、丘の上に建つ洋館フレンチオーベルジュ
PHOTO: オーベルジュ ル・タン — 公式サイトを見る →

なぜ選ばれるか

一碧湖を見下ろす丘の上に、1989年に開業したフレンチのオーベルジュである。八棟の客室は洋館本館と離れの構成で、料理長の朝の畑仕事から始まる自家農園の野菜と、相模灘の魚介、伊豆の猪や鹿を軸にしたコースが夕餉の中心にある。旅館の湯宿とは別の系譜——「食事のために泊まる」西洋の宿の思想を、伊豆高原の地形に置き換えた例と言える。

集約レビューの傾向

公開レビューデータを集計したところ、料理への評価が突出している。シェフのコース構成と皿の温度、パンのアタック、ソースの一貫性についての言及が多い。宿泊主目的というより「夕食のために予約し、翌朝の余韻を楽しむために泊まる」タイプの利用が多く、伊豆の湯を主眼に置くと物足りなさを感じる旅程もある。逆に、フレンチのオーベルジュ体験を伊豆で成立させたい場合、このスコア帯は他にほぼない。

向く人 / 向かない人

  • 向く:
    食事を旅の主目的にする夫婦、フレンチとワインを軸に組む一泊二日、記念日のディナー
  • 向かない:
    温泉を主眼にする旅、館内でくつろぐ時間を長く取りたい滞在、複数の湯めぐりを想定する旅程

具体情報

  • 最寄り駅: JR伊東線 伊東駅よりタクシー約 20 分
  • 客室数: 全 8 室(本館・離れ構成)
  • チェックイン: 15:00〜 / アウト 〜11:00
  • 食事: フレンチのフルコース(自家農園野菜と伊豆食材)
  • 開業: 1989年(伊豆高原のフレンチブーム期)


4. 花吹雪 伊豆高原 城ヶ崎温泉 — 伊東・八幡野

五千坪の森に五棟を分ける最大構え。貸切風呂が七つ、料理茶屋が三つ。分散型の離れ集落と言うほうが近い。

Media Picks Score: 92 / 100  17室、離れ棟分散型の温泉旅館。

目安価格 ¥71,000–¥87,000 / 泊 (2名1室・通常期)


花吹雪 伊豆高原 城ヶ崎温泉 — 伊東市八幡野 · 五千坪の森に五棟を分散、貸切風呂七つ
PHOTO: 花吹雪 伊豆高原 城ヶ崎温泉 — 公式サイトを見る →

なぜ選ばれるか

八幡野の五千坪の森に、白鴎・日本の色・風雅・森のうさぎ・万葉の棟——五棟を分散配置した宿である。棟ごとに趣を変え、料理茶屋も三つ(緑陰亭・花座敷・雲上亭)に分かれ、宿全体が「離れの集落」に近い構えを取る。貸切風呂は七つ、それぞれ檜・鉄平石・織部と趣を変え、宿泊者は空き時間を確保して湯を巡る。単なる離れ以上の、宿全体を分散化する思想の体現である。

集約レビューの傾向

公開レビューデータを集計したところ、森の中を歩いて棟や湯や料理茶屋を巡る動線への高い評価が目立つ。「宿の中を散歩する」という感覚に触れる感想が多く、天候によっては雨具や傘が必要になる点も含めて、これを「離れの集落を歩く体験」として受け入れる声が中心である。夕食のオリジナル会席、地魚と伊豆の山の幸を組み合わせた献立への評価も安定している。

向く人 / 向かない人

  • 向く:
    宿の敷地を歩いて巡る滞在が好きな夫婦・友人連れ、複数の貸切風呂を試したい湯好き
  • 向かない:
    移動距離を短く済ませたい高齢の同伴者がいる旅、雨天時に館内移動を避けたい旅程

具体情報

  • 最寄り駅: 伊豆急行線 伊豆高原駅・城ヶ崎海岸駅より車で 5〜7 分
  • 敷地: 約 5,000 坪、宿泊棟 5 棟・料理茶屋 3 軒
  • 客室数: 17 室
  • 貸切風呂: 7 か所(檜・鉄平石・織部など趣が異なる)
  • 所在: 静岡県伊東市八幡野 1041


5. We Home Villa~城ケ崎温泉~ — 伊東・八幡野

相模灘と伊豆諸島を見晴らす貸切別荘。日出風呂と夜空風呂、二つの源泉掛け流し露天を独占する構え。

Media Picks Score: 90 / 100  8棟、貸切ヴィラ形式の一棟貸し宿。

目安価格 ¥80,000–¥161,000 / 泊 (2名1室・通常期・棟による幅)


We Home Villa 城ケ崎温泉 — 伊東市八幡野 · 相模灘と伊豆諸島を望む一棟貸し貸切ヴィラ
PHOTO: We Home Villa~城ケ崎温泉~ — 公式サイトを見る →

なぜ選ばれるか

城ヶ崎海岸駅から徒歩約13分、相模灘と伊豆諸島を借景に据えた一棟貸しの貸切別荘である。天然温泉の掛け流し露天が二つ——朝の海を眺める「日出風呂」(湯温41〜43℃)と、夜空を仰ぐ露天——を宿泊者が独占する構造で、旅館の湯宿とは異なる「別荘を借りる」感覚の滞在を成立させる。BBQ設備を備え、家族単位・友人二組の貸切利用が中心である。

集約レビューの傾向

公開レビューデータを集計したところ、他の客と一切顔を合わせない一棟貸しの構造への評価が中心にある。海を見る二つの露天、島影がくっきり見える夕暮れの景色、夜空風呂の星の描写が多く、記念日や誕生日での貸切利用の感想が多い。館内サービスは旅館型と比べて簡素で、食事も自炊・BBQ・持ち込み中心のため、フルコース会席を求める旅程には合わない。

向く人 / 向かない人

  • 向く:
    完全なプライバシーを望む夫婦・家族、BBQを主軸に組む滞在、島影と海を見て過ごしたい旅
  • 向かない:
    宿の会席料理を主目的にする旅、館内接客を重視する滞在、車を使わない旅程

具体情報

  • 最寄り駅: 伊豆急行線 城ヶ崎海岸駅より徒歩圏
  • 客室数: 8 棟(一棟貸しの貸切別荘形式)
  • チェックイン: 15:00〜 / アウト 〜11:00
  • 湯: 天然温泉の掛け流し、日出風呂(41〜43℃)と夜空風呂の二つ
  • 所在: 静岡県伊東市八幡野 1086-66


よくある質問

Q. 盛夏の海霧はいつ見られますか?

A. 相模灘の海霧が伊豆高原の松林を包む場面は、七月下旬から八月中旬の朝、および秋雨前の九月上旬に最も現れやすい。朝の五時から七時のあいだ、東向きのテラスや露天から松の梢が霞む景色を眺めることができる。露天の湯温と海霧の温度差が景色を作るため、夜半に一度湯を止め、明け方に湯を張り直す宿では特に印象的に見える。

Q. 離れ形式の宿は子連れでも泊まれますか?

A. 宿による。「月」「夢のや」は棟のプライバシー構造上、乳幼児連れの受け入れに制約を設けている場合があり、事前確認が必要である。「花吹雪」は敷地内を歩く動線が長く、幼児連れは往来に注意を要する。一棟貸しの「We Home Villa」は家族単位での貸切利用に向くが、露天の湯温が高い時間帯があるため、幼児の入浴は保護者付き添いが前提となる。

Q. 予約のタイミングは?

A. 盛夏の三連休・お盆・年末年始・GWは棟数が少ないため、3〜4ヶ月前には主力棟から埋まる。平日と週末で価格差が大きく、目安価格の上端は週末・繁忙期に寄る。連泊は棟の空き状況次第だが、一棟貸しの「We Home Villa」は連泊の方が予約が通りやすい傾向にある。

Q. アクセスは?

A. 東京駅からは東海道新幹線こだま・伊東線経由で伊豆高原駅または城ヶ崎海岸駅まで約2時間30分。多くの宿が伊豆高原駅から車で5〜15分の位置にある。「月」「夢のや」は駅からの送迎あり、「花吹雪」「ル・タン」は送迎の設定を事前確認するのが望ましい。車利用の場合は小田原厚木道路・西湘バイパス・国道135号線経由が一般的である。

Q. 湯の泉質は?

A. エリアの主要泉質は単純温泉から弱塩化物泉。「月」「花吹雪」「We Home Villa」は源泉掛け流し、「夢のや」は天然温泉の半露天。加水・循環の有無は宿ごとに異なるため、湯質を旅の主眼に据える場合は各宿の湯の記載を確認してから選ぶとよい。

本記事の参考情報

伊東観光協会 伊豆・伊東観光ガイド — 城ヶ崎海岸・伊豆高原のエリア情報
Wikipedia: 城ヶ崎海岸 — 大室山の溶岩流が作った海食崖の地形背景
Wikipedia: 大室山 — 単成火山、山焼き、周囲の別荘地の成り立ち

編集部から

五軒は、いずれも「棟を分ける」という一点で系譜を同じくする。伊豆高原と城ヶ崎、この東岸の高原クラスタは、大室山の溶岩流が作った地形と別荘地の成り立ちが重なり、母屋を持たず離れを配することが自然に受け入れられてきた。稲取や修善寺、南伊豆の湯宿群とは別の系譜にある五軒である。次に稿を改めるとすれば、同じ伊豆東岸の網代・宇佐美の小宿、あるいは南伊豆の弓ヶ浜・下田の海辺の離れが候補になるだろう。海霧の朝、松林の奥に湯を張る一夜が、旅の骨格を静かに変える。

次に読むなら