梅雨の入り、久慈の谷あいは霧に沈み、太平洋の沖合いには海霧が低く垂れる。茨城県北、袋田と五浦には明治から昭和の代を継いだ木造の宿が静かに残り、関東圏ながら未踏感のある湯場として、年配の旅人にこそ届く一帯である。本稿は、創業年と現当主の世代を手がかりに、袋田の渓と平潟・五浦の海岸線から四軒を選び、青葉の季節の今をたどる。
| # | 旅館 | エリア | Score | 客室 | 目安価格 | 1行の輪郭 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 1 | 袋田温泉 思い出浪漫館 | 大子町袋田 | 92 | 89 | ¥32–¥48k | 袋田の滝のすぐ近く、昭和十一年創業の老舗大型旅館 |
| 2 | 悠久の宿 滝美館 | 大子町袋田 | 90 | 12 | ¥17–¥31k | 滝まで徒歩三分、樹齢千年の檜風呂を持つ料理旅館 |
| 3 | あんこうの宿 まるみつ旅館 | 北茨城市平潟町 | 95 | 14 | ¥18–¥34k | あんこうに特化した港町の宿、創業昭和四十三年 |
| 4 | 五浦観光ホテル 別館 大観荘 | 北茨城市大津町五浦 | 89 | 100 | ¥28–¥73k | 岡倉天心が愛した五浦海岸の岬に建つ温泉ホテル |
※ 目安価格は公開販売価格の集計に基づく参考値で、実際の予約料金とは異なります。1泊2名利用時の1室あたり料金(税込)です。Media Picks Score は公開レビューデータを集計し、立地・規模・運営年数等の編集判断を加えて算出しています。
1. 袋田温泉 思い出浪漫館 — 大子町袋田
袋田の滝の谷口に立つ昭和十一年創業の老舗。八十九室の規模を保ちながら、湯と渓流の景色を中心に据えてきた一軒。
Media Picks Score: 92 / 100 89室、袋田温泉。
目安価格 ¥32,000–¥48,000 / 泊 (2名1室・通常期)

なぜ選ばれるか
湯が、まず引力である。pH 8.9のアルカリ性単純泉は美人の湯として古くから知られ、谷あいに沸く源泉が館の中心にある。袋田の滝まで歩いて十分弱の立地は当地の名旅館のなかでも特に近く、四季を通じて滝音に近い湯あみが叶う。創業から数えて昭和・平成・令和の三代を継ぎ、客室は渓流側の露天風呂付きから純和室まで幅広く整えられ、家族・夫婦・友人連れのいずれにも応じる。
集約レビューの傾向
公開レビューデータを集計した傾向では、湯と食事への評価が中心に位置している。源泉のなめらかさ、夕食の山里の膳、スタッフの応対の落ち着きが高い得点を集める一方、規模ゆえに繁忙期は館内の動線が混みやすいとの記述も見られる。総じて、関東近郊の老舗温泉旅館に求める要素を過不足なく満たす、安定した一軒という像が浮かぶ。
向く人 / 向かない人
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向く:
袋田の滝を主目的にする旅、夫婦・友人連れ、温泉の湯質を重んじる人、関東圏で一泊二日の温泉滞在 -
向かない:
小規模旅館の静けさを求める人、滞在中に他客と顔を合わせたくない人、車を持たない若年層の短期旅
具体情報
- 最寄り駅: JR水郡線 袋田駅から車で約5分(送迎あり)
- 客室数: 89室(渓流側露天風呂付き含む)
- 泉質: アルカリ性単純温泉、pH 8.9(美人の湯)
- 創業: 1936年(昭和十一年)
- 食事: 朝夕とも会場食または会席(プランによる)
- 袋田の滝まで: 車で約5分
2. 悠久の宿 滝美館 — 大子町袋田
袋田の滝まで徒歩三分。樹齢千年を超える檜と温泉母岩を組み合わせた湯殿を、十二室の小ぶりな館で持つ料理旅館。
Media Picks Score: 90 / 100 12室、袋田温泉。
目安価格 ¥17,000–¥31,000 / 泊 (2名1室・通常期)

なぜ選ばれるか
檜の湯殿が、まず印象に残る。樹齢千年を超える古代檜を用いた風呂と、温泉母岩を据えた「イオンの湯」を二本柱に据え、湯場を館の核に置く構成である。袋田の滝までの距離は徒歩三分と、四軒のなかで最も滝に近い。客室は十二室の小ぶりな構えで、規模を抑えるかわりに、料理と湯への手数を増やす方向に運営の重心が置かれている。料理は奥久慈の山菜・川魚・しゃも・常陸牛など、土地のものを軸に据えた会席で組まれる。
集約レビューの傾向
集約された宿泊者の感想では、湯量豊かな源泉の柔らかさと、料理の品数・素材感に高い評価が集まる傾向がうかがえる。建物は新しくはないとの記述が散見されるが、それを補って余りある湯と食、また袋田の滝への近さが核として支持を集めている。小規模旅館を選ぶ動機を、湯と食の質に寄せる読者には腑に落ちる一軒である。
向く人 / 向かない人
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向く:
湯と食を主目的にする旅、十二室の規模感を好む人、奥久慈しゃもや常陸牛など土地の食材を味わいたい人 -
向かない:
新築・大規模ホテルの設備を望む人、客室露天風呂を最優先する旅程、土産物店併設の利便を求める人
具体情報
- 最寄り駅: JR水郡線 袋田駅から車で約8分(送迎あり)
- 袋田の滝まで: 徒歩約3分
- 客室数: 12室
- 湯殿: 古代檜風呂・イオンの湯(温泉母岩使用)
- 食事: 奥久慈の山里食材を軸にした会席
3. あんこうの宿 まるみつ旅館 — 北茨城市平潟町
平潟港のすぐ脇、昭和四十三年創業のあんこう料理に振り切った十四室の宿。料理を主目的に通う読者に長く支持されてきた一軒。
Media Picks Score: 95 / 100 14室、平潟港温泉。
目安価格 ¥18,000–¥34,000 / 泊 (2名1室・通常期)

なぜ選ばれるか
あんこうが、すべての中心にある。平潟港は東日本最大級のあんこう水揚げ港のひとつで、まるみつ旅館はその港から徒歩圏に位置し、創業以来あんこう料理に特化してきた。看板料理は「あんこうづくし」「あんこう鍋」と、二代目板長が完成させた濃厚な「どぶ汁」で、冬期だけでなく通年であんこうを供える数少ない宿として知られる。客室は十四室の小ぶりな構成で、料理に運営の重心を寄せる構造は、創業時から一貫している。
集約レビューの傾向
集約された宿泊者の感想は、料理の評価が突出して高く、特にどぶ汁・あんこう鍋の濃度と素材感への記述が繰り返される。客室は華美ではないが手入れの行き届きが感じられるとの記述が多く、料理を主目的にすれば過不足なしという像で安定している。あんこうを目当てに通う常連客の存在も、サイトに掲載されている顔写真や応対の様子から読み取れる。
向く人 / 向かない人
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向く:
あんこう料理を主目的にする旅、夫婦・友人連れの少人数滞在、料理特化の小旅館を好む人、冬の鍋を味わいたい旅程 -
向かない:
湯量豊富な大浴場を期待する人、洋食中心の食事を望む人、新築リゾートの設備感を求める旅
具体情報
- 最寄り駅: JR常磐線 大津港駅からタクシーで約5分
- 常磐自動車道: 北茨城ICから車で約10分
- 客室数: 14室(和室中心、12.5坪・16坪のツインタイプあり)
- 看板料理: あんこうづくし、あんこう鍋、どぶ汁
- 湯殿: 6種の風呂(最深湯・コラーゲン湯・畳風呂など)
- 創業: 1968年(昭和四十三年)
4. 五浦観光ホテル 別館 大観荘 — 北茨城市大津町五浦
岡倉天心が拓いた五浦海岸の岬に建つ温泉宿。横山大観の別荘を移築した特別室を持ち、源泉七十一度のかけ流しを太平洋に面して湛える。
Media Picks Score: 89 / 100 100室、五浦温泉。
目安価格 ¥28,000–¥73,000 / 泊 (2名1室・通常期)

なぜ選ばれるか
五浦海岸が、まずある。明治後期に岡倉天心が日本美術院を移し、横山大観・菱田春草・下村観山らがここに集った海岸線で、六角堂を挟んで本館と別館大観荘が並ぶ構図はこの一軒だけのものである。露天風呂「大観の湯」は源泉七十一度のかけ流しで、湯けむりの先に太平洋が広がる。横山大観の別荘を移築した特別室を持ち、二〇二六年は創業九十周年にあたる。代を継ぎながら、近代日本美術の発祥地という土地の文脈を、宿の側で守り続けてきた点が他に代えがたい。
集約レビューの傾向
集約された宿泊者の感想は、湯と海の景観、料理の海の幸への評価が中心を占める。あんこう鍋、鮑、地魚を組み合わせた会席への記述が多く、客室は本館と別館で趣が大きく異なるため、評価のばらつきもそれぞれの建物事情を反映する形で残る。総じて、五浦という土地の重みに納得した滞在者の感想が、館の規模に対する記述よりも前に立つ傾向がある。
向く人 / 向かない人
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向く:
近代日本美術や岡倉天心に関心のある旅、海の湯と海の幸を求める人、夫婦旅・記念日、関東圏で土地の文脈ごと味わいたい人 -
向かない:
小規模旅館の静けさを最優先する人、車を使わず鉄道のみで動く短期旅、新築リゾートの均質な設備感を望む旅
具体情報
- 最寄り駅: JR常磐線 大津港駅からタクシーで約5分(磯原・勿来駅から約15分)
- 客室数: 本館・別館 大観荘 合計約100室
- 温泉: 源泉71度かけ流し、露天風呂「大観の湯」
- 創業: 1967年(昭和四十二年)/2026年で九十周年に届く老舗
- 歴史的背景: 隣接の六角堂は岡倉天心の旧居跡(再建)
- 食事: あんこう鍋・鮑・五浦の地魚を主軸とした会席
よくある質問
Q. 梅雨入り前後に訪れる利点は何ですか。
A. 袋田は谷の青葉が最も濃くなり、滝の水量も同時に増す季節で、観光の混雑が一巡した六月初旬から半ばが狙い目である。五浦の海岸線は低い海霧が岬に流れる独特の景色になり、湯場から眺める時間が一年で最も長くなる。梅雨末期の豪雨期を避け、梅雨入り直後に二泊取る旅程が、編集部の推す時期である。
Q. 公共交通だけで四軒を巡れますか。
A. 袋田の二軒はJR水郡線袋田駅から各旅館の送迎または車で5〜10分。五浦・平潟の二軒はJR常磐線大津港駅からタクシーで5分前後。袋田から五浦は鉄道接続が悪く、上野経由で4時間程度を要するため、車での移動が現実的である。鉄道のみで巡る場合は、袋田に一泊、いったん水戸または上野に戻り、翌日大津港に向かう二泊三日の構成が標準となる。
Q. あんこうは冬の魚ですが、夏に訪れて意味がありますか。
A. 平潟港のまるみつ旅館は通年であんこうを供える稀少な体制を保ち、冷凍ではなく旬以外も供える独自の仕入れを行う。夏は港の鮮魚を組み合わせた会席が出るため、あんこう料理に絞らず土地の食を味わいたい旅程にも合う。五浦観光ホテルも夏期は鮑や地魚を主軸とした会席が中心に置かれる。
Q. 子連れでも泊まれますか。
A. 思い出浪漫館と五浦観光ホテル別館大観荘の二軒は規模が大きく、子連れ対応の客室や食事プランが整う。滝美館とまるみつ旅館は十二〜十四室の小規模旅館で料理に振り切る運営のため、未就学児を伴う場合は事前に各館へ確認するのが安全である。袋田の滝の遊歩道は階段が多く、未就学児には抱っこ紐があると動きやすい。
Q. 露天風呂付き客室はありますか。
A. 思い出浪漫館に渓流側の露天風呂付き客室が複数室あり、五浦観光ホテル別館大観荘にも特別室の一部に露天が組まれる。滝美館とまるみつ旅館は客室露天を主とせず、共用の湯場で湯量と泉質を確保する設計である。客室露天を最優先するなら浪漫館または大観荘が当地での選択肢になる。
本記事の参考情報
・大子町観光協会 — 袋田の滝、奥久慈の観光情報
・観光いばらき公式ホームページ — 茨城県観光物産協会の公式情報
・Wikipedia: 五浦 — 岡倉天心と日本美術院の五浦移転の歴史
編集部から
袋田の渓と五浦の海岸を、ひとつの旅で結ぶ動機は、関東近郊にありながら、それぞれの土地が持つ文脈の濃さにある。袋田は江戸期から続く観瀑の文化、五浦は明治の近代日本美術の発祥という、層の異なる歴史を背に置く宿が、いずれも昭和の代を継いで今に至る。梅雨入りの今、青葉と海霧を季語にして、四軒のどこから一晩を取るか。次に読むなら、奥久慈の食通宿、または同じ常磐線沿いの平潟・小名浜の港町宿を巡る一篇を編集部は構想している。