梅雨明けの相模灘は、初島の漁火が夜の海に瞬き、岬から伊豆山へと続く海岸線を南の風が渡っていく。熱海の海を望む客室露天の宿として、Yadolist 編集部が選んだ五軒を、地図とともに紹介する。走り湯を引く伊豆山の高台から、多賀の波打ち際まで——湯量と泉質、そして海への向きを手がかりに、年配の夫婦旅にも無理のない、海辺の露天の宿を集めた。文月の旅程を組む一助になれば幸いである。
| # | 宿 | エリア | Score | 客室 | 目安価格 | 一行特徴 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 1 | ラビスタ伊豆山 | 熱海・伊豆山 | 93 | 45 | — | 走り湯を引く高台、海と湯の眺望 |
| 2 | ATAMIせかいえ | 熱海・伊豆山 | 92 | 25 | ¥125–¥194k | 全室相模灘向き、二棟の食事処 |
| 3 | 熱海・伊豆山 佳ら久 | 熱海・伊豆山 | 92 | 57 | ¥117–¥161k | 2023年開業、全室バルコニー露天 |
| 4 | 潮騒の宿 ふじま | 南熱海・多賀 | 89 | 5 | ¥51–¥67k | 五室の小宿、三つの貸切露天と地魚 |
| 5 | 時間を旅する宿 海のはな | 南熱海・多賀 | 88 | 7 | ¥72–¥102k | 全室露天+部屋食、初島の漁火を望む |
※ 目安価格は公開販売価格の集計に基づく参考値で、実際の予約料金とは異なります。一泊二名利用時の一室あたり料金(税込)です。湯量・泉質・客室の坪数は各宿の公表値に基づきます。
1. ラビスタ伊豆山 — 熱海・伊豆山
相模灘を見下ろす高台に、走り湯を引く湯と眺望の宿。Yadolist 編集部が相模灘の湯として選んだ一軒。
Media Picks Score: 93 / 100 45室、温泉旅館。
目安価格は公開販売価格の集計が十分に揃わないため、本稿では割愛する。料金は公式サイトを参照されたい。

なぜ選ばれるか
走り湯は、日本三大古泉のひとつに数えられる古い湯である。ラビスタ伊豆山は、その湯を高台の客室と浴場に引き、相模灘を正面に据えた。四十五室はいずれもリビングを備えた広間取りで、海へ向かう窓辺に湯が満ちる。貸切の露天からは、晴れた日に初島の影が浮かぶ。湯と眺望、そのふたつを過不足なく束ねた構えが、長く支持されてきた理由といえる。
集約レビューの傾向
公開レビューデータを集計すると、湯の良さと客室からの眺望に評価が集まり、リビングを備えた間取りの広さへの言及も多い。大規模なリゾート型ゆえに、繁忙期の浴場や食事処の混み合いを指摘する声は見られるが、全体としては湯・眺め・広さの三点で安定した支持を得ている宿だといえる。
向く人 / 向かない人
- 向く: 湯と眺望の両立を求める夫婦旅、リビング付きの広い客室でくつろぎたい滞在、走り湯の歴史に関心のある旅
- 向かない: 館内の静けさを最優先したい人(規模が大きく繁忙期は混み合う)、こぢんまりした小宿の趣を望む旅
具体情報
- 最寄り駅: JR熱海駅からタクシー約7分(送迎あり)
- 客室: 全45室、リビング付きの広間取り(相模灘向き)
- 湯: 日本三大古泉「走り湯」由来の塩化物泉。貸切露天・大浴場・客室浴室
- チェックイン: 15:00〜 / アウト 〜11:00
- 食事: 夕朝食ともに館内(ビュッフェ・会席)
2. ATAMIせかいえ — 熱海・伊豆山
全室が海を向き、客室の露天から相模灘の水平線がひと続きになる。Yadolist 編集部が相模灘の湯として選んだ一軒。
Media Picks Score: 92 / 100 25室、温泉旅館。
目安価格 ¥125,000–¥194,000 / 泊(二名一室・通常期)

なぜ選ばれるか
せかいえの客室は、二十五室すべてが相模灘を向く。湯は客室の露天に掛け流され、湯面と海の水平線が、視線のなかでひと続きになる。食事処は和の「せかいえ」と肉の「月の道」の二棟に分かれ、滞在の夜に表情を変える。設計は海への一点に絞られ、余分な飾りを置かない。海を独り占めにする時間を求める夫婦旅に、まず勧めたい一軒である。
集約レビューの傾向
公開レビューデータの集計では、全室オーシャンビューの設計と客室露天の開放感に評価が偏る。二棟に分かれた食事処の趣向も好まれている。価格帯は熱海のなかでも上位にあたり、その水準を意識した感想も見られるが、海への眺めと静けさが価格に見合うと受け止める声が多数を占める。
向く人 / 向かない人
- 向く: 海を独占する静かな二人旅、客室露天から水平線を眺めたい滞在、和と肉で食事の趣向を変えたい旅
- 向かない: 予算を抑えたい旅程(熱海でも上位の価格帯)、大浴場めぐりを主目的にする人
具体情報
- 最寄り駅: JR熱海駅から車約4分(送迎あり)
- 客室: 全25室、全室オーシャンビュー・温泉露天付
- 湯: 客室露天に温泉を掛け流し
- チェックイン: 15:00〜 / アウト 〜11:00
- 食事: 和「せかいえ」/肉「月の道」の二棟
- 開業: 2017年
3. 熱海・伊豆山 佳ら久 — 熱海・伊豆山
2023年暮れに開いた、全室のバルコニーに温泉露天を据えた一軒。Yadolist 編集部が相模灘の湯として選んだ一軒。
Media Picks Score: 92 / 100 57室、温泉旅館。
目安価格 ¥117,000–¥161,000 / 泊(二名一室・通常期)

なぜ選ばれるか
佳ら久は、二〇二三年師走に伊豆山へ開いた。五十七室すべてのバルコニーに温泉の露天を据え、相模灘へ大きく開く。客室は和と洋のデラックス、佳ら久ルーム、スイートと階層を持ち、二人旅から記念の滞在までを受ける。新しい宿でありながら、湯は温泉を惜しみなく流す構えで、設備の整いと運営の細やかさが、開業まもなくして高い評価を集めている。
集約レビューの傾向
公開レビューデータを集計すると、開業の新しさに由来する設備の清潔感と、全室露天からの海の眺めに評価が集中している。運営の対応の丁寧さを挙げる声も多い。規模のある宿でありながら、滞在の静けさが保たれている点が、新参の一軒としては印象に残る評価傾向である。
向く人 / 向かない人
- 向く: 新しく整った設備を好む旅、全室露天で海を望みたい滞在、記念日の二人旅
- 向かない: 長い歴史や老舗の風情を求める人、低価格帯を望む旅程
具体情報
- 最寄り駅: JR熱海駅から車約7分
- 客室: 全57室、全室バルコニーに温泉露天付(和・洋デラックス/スイート 他)
- 湯: 客室露天に温泉。相模灘を一望
- チェックイン: 15:00〜 / アウト 〜11:00
- 食事: 館内レストラン(夕朝食)
- 開業: 2023年12月
4. 潮騒の宿 ふじま — 南熱海・多賀
長浜海岸の波音のなか、三つの貸切露天と網代の地魚を商う五室の小宿。Yadolist 編集部が相模灘の湯として選んだ一軒。
Media Picks Score: 89 / 100 5室、温泉旅館。
目安価格 ¥51,000–¥67,000 / 泊(二名一室・通常期)

なぜ選ばれるか
ふじまは、南熱海・長浜海岸に面した五室だけの小宿である。網代の港から届く熱海温泉を、趣の異なる三つの貸切露天に湛え、波音のなかで湯に浸る。客室露天を全室に備える宿とは構えが異なるが、海を一望する湯を時間で独占できる点で、この一覧に並べた。金目鯛をはじめ網代水揚げの地魚が食卓を担い、家族で営む宿らしい目配りが滞在を支える。
集約レビューの傾向
公開レビューデータの集計では、三つの貸切露天を時間で独占できる点と、網代の地魚を主とした食事への評価が際立つ。五室という小ささゆえの、家族経営らしい目配りを評価する声も多い。湯は客室付きではなく貸切の形であり、その点を踏まえた上で、海辺の静かな湯浴みを求める旅に支持されている。
向く人 / 向かない人
- 向く: 貸切露天を時間で独占したい二人旅、網代の地魚を目当てにした食の旅、価格を抑えた海辺の湯浴み
- 向かない: 客室に露天を備えた部屋を必須とする人、規模のある宿の設備を望む旅、大人数の家族旅
具体情報
- 最寄り駅: JR伊東線・伊豆多賀駅から徒歩約10分
- 客室: 全5室(長浜海岸・相模灘向き)
- 湯: 網代地区の熱海温泉。趣の異なる三つの貸切露天
- チェックイン: 15:00〜 / アウト 〜10:00
- 食事: 金目鯛・網代の地魚を主とした会席
- 改装: 2016年に貸切風呂を改修
5. 時間を旅する宿 海のはな — 南熱海・多賀
全室露天風呂付、客間から初島の漁火を数えながら部屋食の懐石を待つ。Yadolist 編集部が相模灘の湯として選んだ一軒。
Media Picks Score: 88 / 100 7室、温泉旅館。
目安価格 ¥72,000–¥102,000 / 泊(二名一室・通常期)

なぜ選ばれるか
海のはなは、多賀の海べりに七室を構える。全室に露天風呂を備え、客間からは相模灘と、夜には初島の漁火が望める。食事は旬の素材を用いた創作懐石で、朝夕とも部屋食で供される。人を多く入れぬ造りゆえに、館内は終始静かで、湯と食と眺めを部屋の内で完結できる。海の時間をひと部屋のなかに閉じ込めたような、籠もる旅に向く宿である。
集約レビューの傾向
公開レビューデータを集計すると、全室露天と部屋食で完結する静けさ、そして相模灘・初島の眺めに評価が集まる。創作懐石への言及も多い。客室数を絞った造りのため、館内で人と交わる場面が少なく、二人だけの時間を重んじる滞在に向くという傾向が、集約された感想から読み取れる。
向く人 / 向かない人
- 向く: 部屋から一歩も出ずに湯と食を完結したい籠もる旅、初島の漁火を眺める静かな滞在、二人だけの時間を重んじる旅
- 向かない: 館内施設や大浴場めぐりを楽しみたい人、賑やかな滞在を望む旅、大人数のグループ
具体情報
- 最寄り駅: JR伊東線・網代駅から送迎車約5分
- 客室: 全室露天風呂付、本館・離れ(相模灘・初島向き)
- 湯: 客室露天に温泉
- チェックイン: 15:00〜 / アウト 〜11:00
- 食事: 朝夕とも部屋食の創作懐石
よくある質問
Q. ベストシーズンはいつですか?
A. 梅雨が明ける文月(七月)から夏にかけては海が澄み、夜は初島の漁火が灯る。海開きの前後は混み合うため、静けさを求めるなら平日や時季を少しずらすのが無難である。冬は空気が澄んで水平線まで見通せ、相模灘の眺望そのものを目当てにするなら、編集部はむしろ晩秋から冬の晴天日を推す。
Q. 予約のタイミングは?
A. 客室数を絞った小宿(ふじま・海のはな)は週末と連休が早く埋まり、二か月前には希望日が取りにくくなる。せかいえ・佳ら久・ラビスタ伊豆山も夏の週末は人気が高い。記念日や連休を狙うなら、一〜二か月前を目安に手配しておくと選択肢が広い。
Q. 子連れでも泊まれますか?
A. 全室露天や貸切露天を備える宿は、湯と段差の安全面から年齢の下限を設けている場合がある。落ち着いた二人旅を主眼に置く宿が多く、乳幼児連れは事前確認が要る。家族での湯浴みを重んじるなら、貸切露天を時間で使えるふじまのような構えが合わせやすい。
Q. アクセスは?
A. 伊豆山の三軒(ラビスタ伊豆山・せかいえ・佳ら久)はJR熱海駅から車で四〜七分、送迎を備える宿もある。多賀の二軒(ふじま・海のはな)はJR伊東線の伊豆多賀駅・網代駅が最寄りで、徒歩または送迎で着く。東京方面からは新幹線で熱海駅まで出て、そこから海岸線を南下する流れが組みやすい。
Q. 塩化物泉とはどんな湯ですか?
A. 塩化物泉は、湯に溶けた塩分が肌に薄い膜をつくり、湯上がりの保温に働くとされる。湯ざめしにくく、海風に当たる岬の宿に似合う湯質である。伊豆山の走り湯はこの系統の古泉で、熱海一帯の海辺の宿の多くが、同様に身体を芯から温める湯を引いている。
本記事の参考情報
・熱海市観光協会 — 熱海・伊豆山・多賀の観光情報
・Wikipedia: 熱海温泉 — 温泉地の歴史と泉質の背景
・Wikipedia: 初島 — 相模灘に浮かぶ島の地理
・Wikipedia: 相模湾 — 海域と海岸線の概要
編集部から
五軒に通底するのは、海への一点に滞在を絞る構えである。走り湯を引く伊豆山の高台から、波打ち際の多賀の小宿まで、湯の出自も宿の規模も異なるが、いずれも相模灘という同じ海を、それぞれの間取りで切り取っている。梅雨が明け、海が藍を深める文月、客室の露天に身を沈めて初島の漁火を数える——そんな夜のために、この五軒を選んだ。次は、同じ伊豆の海でも、半島を西へ回った西伊豆の夕陽の宿を辿ってみたい。あなたの旅は、どの岬から始めるだろうか。