梅雨明けの仙石原は、すすき野の緑が深く、夜の風は思いがけぬほど涼やか。離れの宿を二夜つなげば、湯と静寂だけで構成された旅程ができる。本稿は二泊三日、一夜目を仙石原の離れに、二夜目を強羅の離れに置き、移動の合間に箱根美術館・彫刻の森・宮ノ下の坂を歩く。各棟の専有坪数、専用湯の源泉、棟と棟の距離を数値で記し、静けさの輪郭を編集部の言葉でなぞる。
| 日 | 宿 | エリア | Score | 客室 | 目安価格 | 湯の輪郭 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| Day 1 | 金乃竹 仙石原 | 仙石原 | 91 | 11 | ¥145–¥194k | 大涌谷源泉の白濁湯、客室露天 5 タイプ |
| Day 2 | 強羅花扇 円かの杜 | 強羅 | 92 | 20 | ¥117–¥152k | 敷地内に源泉 2 本、客室露天と大浴場で湯が異なる |
※ 目安価格は公開販売価格の集計に基づく参考値で、実際の予約料金とは異なります。1泊2名利用時の1室あたり料金(税込)です。
Day 1. 金乃竹 仙石原 — 仙石原
竹取物語を意匠の柱に据えた、全 11 室の離れ。すすきの野に独立棟が連なり、棟間は植栽と通路で隔てられている。
Media Picks Score: 91 / 100 11 室、全室露天風呂付き離れ。

なぜこの宿を一夜目に置くか
仙石原は、箱根の中でも最も静けさが空気として残る集落である。標高は約 700 メートル。すすき野は秋に銀色へ変じるが、梅雨明けの頃は柔らかい緑のうねりとなり、夜には一段下がった気温が体に染みる。金乃竹は、その地形に沿って棟を散らした全 11 室の離れであり、館内で他客と顔を合わせない動線が運営の核に据えられている。チェックインからアウトまで、自棟と食事処、湯のあいだだけを行き来する設計。二泊三日の出発点として、まず一日かけて旅人の輪郭をほぐすに足る構成である。
湯の輪郭
引湯は大涌谷の白濁源泉、酸性硫黄塩泉。客室露天は 5 タイプに分かれ、檜・石・信楽の組み合わせが棟ごとに異なる。源泉掛け流しで、湯量は客室の浴槽を満たして余りある。酸性の湯は角質をほどき、肌の表面を柔らかくする働きが知られる。仙石原の標高と相まって、湯から上がった直後の体温の落ち方が速く、夏の夜でも湯あたりを感じにくい。湯の温度は棟ごとに微差があり、初日に長湯すると、二夜目の強羅の湯との対比がより鮮明になる。
向く人 / 向かない人
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向く:
夫婦・気の置けない友人二人、結婚記念日や還暦の節目、館内で他客と顔を合わせたくない旅、湯と部屋の往復だけで二日を埋めたい旅 -
向かない:
幼児連れ(落ち着いた運営思想に合いにくい)、団体での宴会、夕食を簡単に済ませたい人(コースは長丁場)
具体情報
- 客室数: 全 11 室(全室露天風呂付き、5 タイプ)
- 湯: 大涌谷引湯、酸性硫黄塩泉、源泉掛け流し
- 最寄り: 箱根登山バス「仙石高原」徒歩 3 分、強羅駅からバス約 25 分
- 食事: 個室会席(夕・朝とも)
- 運営思想: 館内で他客と動線が交わらないアテンド
- 姉妹宿: 強羅・湯本などに同系列の宿あり(金乃竹リゾート)
中継ぎ — 仙石原から強羅へ
二日目の朝、金乃竹を出たら、車で南東へ約 15 分。標高を 700 メートルから 550 メートルへゆるやかに下げると、強羅の街が現れる。途中、箱根ガラスの森美術館やポーラ美術館の脇を抜けるが、ここは雨の日なら立ち寄り、晴れていれば素通りでも惜しくない。強羅に入る前、宮ノ下の坂を歩くのが編集部の薦めだ。富士屋ホテル本館の前から下り、奈良屋方面の路地を回ると、明治末から昭和初期の温泉地の輪郭が短い時間で掴める。昼は強羅駅前の蕎麦か、強羅花壇近くの軽い和食で済ませ、午後早めに二夜目の宿へ入る。湯の地が変わるという感覚を、午後の長い時間に浸ってもらうためである。
Day 2. 強羅花扇 円かの杜 — 強羅
敷地内に源泉 2 本を持ち、客室露天と大浴場で湯質が異なる、全 20 室の離れ宿。京懐石を出す料理屋の側面も併せ持つ。
Media Picks Score: 92 / 100 20 室、全室源泉露天風呂付き離れ。

なぜこの宿を二夜目に置くか
強羅という土地は、箱根登山鉄道の終点であり、彫刻の森・箱根美術館・公園など、文化的な点が密に並ぶ。円かの杜は、その強羅の高台側に位置し、敷地に源泉 2 本を抱える点で他の強羅旅館と一線を画す。離れ形式の全 20 室、京懐石の料理屋という出自、そして大浴場と客室露天で湯の質が違うという構造。仙石原の白濁湯から、強羅の透明な湯へ。地が変わると湯も変わるという旅の感覚を、二夜目に置くことで読者に味わってもらいたい。チェックインからアウトまでに時間が短くなる二夜目こそ、湯の質の差を体に刻む配置である。
湯と料理の輪郭
敷地内の源泉は、ナトリウム塩化物泉系のひとつと別系統の二本。客室露天はそれぞれの源泉を引き、大浴場は客室とは別の湯を満たす。同じ宿の中で湯巡りができるという構造は、強羅の旅館でも珍しい。岩盤浴も付帯し、湯の温度差を体に通したい人には合う。料理は京懐石の流儀を箱根の素材へ寄せた構成で、椀物・八寸・焚き合わせの一品ずつに料理屋としての矜持が見える。素材は飛騨牛・京野菜・相模湾の魚介から、季節で組み替える。料理目的で訪れる読者にも、湯を主軸に訪れる読者にも、二つの軸が並んでいる。
向く人 / 向かない人
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向く:
京懐石を箱根で受けたい人、湯巡りを宿内で完結させたい人、強羅駅周辺の文化点(彫刻の森・美術館)を歩いて回りたい旅 -
向かない:
乳幼児連れ(落ち着いた静寂を保つ造り)、料理にこだわらず素泊まりを希望する人、湯本・芦ノ湖側へ動きたい旅程
具体情報
- 客室数: 全 20 室(全室源泉露天風呂付き離れ)
- 湯: 敷地内源泉 2 本、客室露天と大浴場で湯が異なる、岩盤浴あり
- 料理: 京懐石、季節で組み替え(飛騨牛・京野菜・相模湾魚介)
- 最寄り: 箱根登山鉄道「強羅駅」より送迎または徒歩圏内(高台側)
- 姉妹宿: 強羅花扇(本館)が同系列
Day 3 — 強羅から下る
朝風呂のあと、円かの杜を出たら、強羅駅から箱根登山鉄道で下る。途中、彫刻の森駅で降りて屋外彫刻の点在する敷地を二時間ほど。再び鉄道で宮ノ下駅まで進み、富士屋ホテルのラウンジで遅い茶を取る選択肢もある。湯本まで下りれば、土産物の通りで箱根寄木細工を一つ手に取り、ロマンスカーで都心へ戻る。二泊三日の終わり方として、強羅から段階的に標高を下げる動線は体に優しい。湯あたりや温度差の疲れを感じやすい人ほど、最終日は急がず、駅と駅のあいだを長く取るのがよい。
よくある質問
Q. 二泊とも同じ宿に泊まる選択と、本稿のように一泊ずつ移る選択、どちらが向きますか?
A. 湯と地の対比を味わいたい旅人には、本稿の二泊二宿が向く。仙石原と強羅は標高差約 150 メートル、湯の組成も白濁系と透明系で大きく異なる。一方、移動の負荷を避け、料理や湯の細部を二夜かけて深く味わいたい場合は、同じ離れに二泊する選択も理に適う。荷物の移し替え、二回のチェックイン・アウト、これらが許容できるかが判断軸となる。
Q. 梅雨明けから盛夏は混雑しますか?
A. 箱根の繁忙期は秋の紅葉期と年末年始であり、梅雨明け直後から盛夏は、避暑目的の固定客層を除けば比較的予約が取りやすい時期に入る。標高 700 メートル前後の仙石原は夜間 20℃ を下回ることがあり、東京の蒸し暑さとは別世界。料金面でも秋の紅葉期に比べて緩むため、本稿の二泊行程は 7〜8 月が最も組み立てやすい。
Q. 子連れでも泊まれますか?
A. 両宿とも、運営の核に「静寂と棟の独立」を据えているため、乳幼児連れには合いにくい。小学校高学年以上であれば、客室露天と離れ形式の食事スタイルを楽しむことはできる。家族連れで箱根の離れに泊まる旅程を組むなら、別途、家族向けの全室露天宿を選ぶ方が、両者にとって心地よい。
Q. アクセスは?
A. 新宿から小田急ロマンスカーで箱根湯本まで約 85 分。湯本から箱根登山鉄道で強羅駅まで約 40 分。仙石原は強羅駅からバスで約 25 分(仙石高原下車)。車の場合、東名高速・御殿場 IC から仙石原まで約 30 分、強羅はその先 15 分ほど。二泊三日の場合、初日に仙石原まで一気に上がり、二日目に強羅へ下る流れが体に優しい。
Q. 雨の日はどう過ごせますか?
A. 強羅・仙石原のあいだには、ポーラ美術館・箱根ガラスの森美術館・箱根美術館・彫刻の森美術館が密集している。雨の日は美術館を中継ぎに据え、移動は車かタクシーを軸にすれば、屋内動線で組める。両宿とも客室露天と岩盤浴・大浴場の組み合わせで、雨でも宿内で湯を巡る時間を十分に取れる。
本記事の参考情報
・箱根町観光協会 — 箱根の温泉郷・美術館・登山鉄道の公式情報
・Wikipedia: 仙石原 — 仙石原の地理・標高・すすき野の背景
・Wikipedia: 強羅 — 強羅温泉の地理・登山鉄道との関係
編集部から
箱根は、湯本・宮ノ下・強羅・小涌谷・仙石原・芦ノ湖・湯坂と、地の単位で性格が異なる温泉地が並ぶ稀な集合である。本稿はそのなかで離れの宿が成立しているふたつの地、仙石原と強羅をつないだ。湯と建物に主役を譲り、移動の合間は美術館と坂歩きで埋める。一泊で完結させない旅程は、湯の対比を体に通す装置として働く。次は強羅から芦ノ湖へ抜けて二泊する行程、あるいは湯本の老舗を起点に塔之沢・宮ノ下を回る行程を書きたい。箱根は何度書いても新しい題が出る土地である。