盛夏の蝦夷、山あいの湯が本領を発揮する季節がある。本州の梅雨明けと歩調を合わせるように、北海道の湯治場は静かな一年の高みを迎える。カルルスと二股、そして十勝の秘湯。明治期の開拓とともに拓かれた湯場が、内地とは異なる風土のなかでどのように薬湯を守ってきたか。編集部が選んだ五軒を、湯量と源泉の数、そして受け継がれてきた作法とともに読み解いていく。

# 宿 エリア Score 客室 目安価格 一行特徴
1 湯元オロフレ荘 登別・カルルス 93 12 ¥33–¥39k カルルス温泉の総湯元、自家源泉100%の九つの湯船
2 鈴木旅館 登別・カルルス 91 29 ¥20–¥25k 明治32年開業、湯治場の風情を今に伝える一軒
3 芽登温泉ホテル 十勝・足寄町 91 10 ¥47–¥67k 明治34年開湯、日本秘湯を守る会加盟の原生林の湯
4 二股らぢうむ温泉旅館 渡島・長万部 88 53 (要問合せ) 天然記念物の石灰華ドームを望む世界的に希少な湯
5 森の湯 山静館 登別・カルルス 86 18 ¥38–¥52k 支笏洞爺国立公園の森に抱かれた源泉かけ流しの宿

※ 目安価格は公開販売価格の集計に基づく参考値で、実際の予約料金とは異なります。一泊二名利用時の一室あたり料金(税込)です。二股らぢうむ温泉旅館は公開販売価格の集計データが十分に確保できないため、価格の掲載を控えています。

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1. 湯元オロフレ荘 — 登別・カルルス温泉

カルルス温泉の総湯元、九つの湯船で源泉かけ流しを楽しむ十二室の一軒。

Media Picks Score: 93 / 100  全12室、山あいの温泉旅館。

目安価格 ¥33,000–¥39,000 / 泊 (2名1室・通常期)


湯元オロフレ荘 — 登別カルルス温泉 · カルルス温泉の総湯元、明治34年開業の木造湯宿
PHOTO: 湯元オロフレ荘 — 公式サイトを見る →

なぜ選ばれるか

カルルス温泉の総湯元として、自家源泉を潤沢に注ぐ湯量が最大の魅力である。大浴場には湯温の異なる九つの湯船が並び、寝湯、露天、微温湯、高温湯と、体調と気分に合わせて浴槽を渡り歩ける。単純温泉ながらチェコのカルロヴィ・ヴァリと同質とされる柔らかな肌当たりが、湯治宿としての存在感を今に伝える。全十二室という小ぢんまりとした規模と、2007年の全館改修が調和した静けさも、湯場を目的に長逗留する旅人に支持される所以と言える。

集約レビューの傾向

公開レビューデータを集計したところ、湯量と源泉かけ流しへの評価が突出して高く、九つの湯船を渡り歩く体験を挙げる声が多い。露天風呂から望む森の景観と、シャワーまで源泉100%という徹底ぶりという徹底ぶりが、湯を目的にする旅人の期待を高い水準で満たしていることが読み取れる。食事は北海道の山の幸を中心とした膳が中心で、派手さより手堅さで評価される傾向が見られる。館の規模と立地から静けさへの言及も多く、湯治宿の風情を求める層に安定的に支持されている。

向く人 / 向かない人

  • 向く:
    源泉かけ流しを目的にした温泉旅、湯治風に連泊で身を休めたい旅人、静けさを優先する夫婦旅
  • 向かない:
    派手なアミューズメントや大浴場のバラエティを求める団体旅(規模が小さく設備も抑制的)、コンビニや飲食店の徒歩圏を求める旅程

具体情報

  • 所在地: 北海道登別市カルルス町
  • 最寄り駅: JR登別駅からタクシー約25分
  • 客室: 全12室(和室、2007年全館改修)
  • 泉質: 単純温泉(カルルス温泉の総湯元)
  • 浴槽: 大浴場に湯温の異なる9つの湯船、露天風呂、寝湯
  • 開業: 明治34年(1901年)


2. 鈴木旅館 — 登別・カルルス温泉

明治32年、カルルス温泉の開業と同じ年に開いた宿。湯治場の風情を今に残す一軒。

Media Picks Score: 91 / 100  全29室、湯治場の風情を残す旅館。

目安価格 ¥20,000–¥25,000 / 泊 (2名1室・通常期)


鈴木旅館 — 登別カルルス温泉 · 明治32年開業、湯治場の風情を今に伝える老舗湯宿
PHOTO: 鈴木旅館 — 公式サイトを見る →

なぜ選ばれるか

カルルス温泉開業と同じ明治32年に前身の「寿館」として開き、明治43年に鈴木旅館へ改称した、カルルス最古の一軒である。大浴場「有生」は湯温の異なる三種類の湯船と滝湯を備え、木枕を使う天然サウナ気分の休みが用意される。派手な意匠を持たず、湯場としての機能に徹する構えが、湯治宿の風情を今に伝える。館の規模は全二十九室と、湯治場としては十分な広さを持ちつつ、館内は静けさが保たれる。

集約レビューの傾向

公開レビューデータを集計したところ、湯温の違う三種の湯船と滝湯の使い分けに触れる声が多く、湯を渡り歩く体験そのものが宿の主軸として受け止められていることが読み取れる。歴史ある木造の館内、湯上がりの休憩スペース、素朴で丁寧な接客への言及が安定して見られる。食事は北海道の山の幸を用いた膳が中心で、量よりも質と季節感で評価される傾向にある。長逗留や連泊で真価が伝わる宿という位置づけが、集約されたレビューから浮かび上がる。

向く人 / 向かない人

  • 向く:
    湯治場の作法を体験したい旅人、老舗の湯宿を好む夫婦旅、明治期の温泉文化に関心のある人
  • 向かない:
    最新設備の露天付き客室を求める旅、洋室や大人数の家族連れ(和室中心の構成)、都市アクセスを重視する旅程

具体情報

  • 所在地: 北海道登別市カルルス町12番地
  • 最寄り駅: JR登別駅からタクシー約25分
  • 客室: 全29室
  • 浴場: 大浴場「有生」湯温別3種の湯船と滝湯、源泉かけ流し
  • チェックイン: 14:00〜 / アウト 〜10:00
  • 創業: 明治32年(1899年)「寿館」開業、明治43年に「鈴木旅館」改称


3. 芽登温泉ホテル — 十勝・足寄町

大雪山系の原生林の奥、ヌカナン川の畔に湧く毎分120リットルの単純硫黄泉。

Media Picks Score: 91 / 100  全10室、日本秘湯を守る会加盟の山峡の湯宿。

目安価格 ¥47,000–¥67,000 / 泊 (2名1室・通常期)


芽登温泉ホテル — 足寄町 · 明治34年開湯、原生林に囲まれた自家源泉100%かけ流しの秘湯
PHOTO: 芽登温泉ホテル — 公式サイトを見る →

なぜ選ばれるか

大雪山系の原生林に抱かれ、ヌカナン川の畔に湧く自然湧出の湯。毎分120リットル、源泉温度62℃という圧倒的な湯量を、加温も加水もせず、そのまま湯船に落とす。単純硫黄泉ながら、いわゆる硫黄臭を強く感じさせない澄んだ湯質で、湯治宿として明治34年から続く。日本秘湯を守る会加盟の宿として、湯場そのものを目的にする旅人に選ばれ続けてきた。全十室という小規模が、湯を独占するに近い静けさを担保している。

集約レビューの傾向

公開レビューデータを集計したところ、湯量の多さと源泉かけ流しへの評価が突出しており、川辺の露天風呂「巨岩の湯」を挙げる声が非常に多い。到達に相応の距離を要する山中の立地が、宿の静けさと非日常感を担保していることが読み取れる。夕食に供される北海道の山の幸、特に山菜と川魚への言及が多く、湯と食が地の力で組み立てられている印象を残す。館の規模と設備は簡素だが、湯を目的とする旅人の満足度は高い水準で安定している。

向く人 / 向かない人

  • 向く:
    秘湯めぐりを目的とする旅、原生林の露天で湯治に近い時間を持ちたい人、車での移動を厭わない大人の旅
  • 向かない:
    公共交通中心の旅(駅からのアクセスが遠い)、洋室や豪華な料飲設備を求める旅、幼児連れの家族旅

具体情報

  • 所在地: 北海道足寄郡足寄町芽登2979番地
  • 客室: 全10室
  • 泉質: 単純硫黄温泉、自然湧出、自家源泉100%かけ流し
  • 湯量: 毎分120ℓ、源泉温度62℃
  • 浴場: ヌカナン川を望む「巨岩の湯」露天風呂、内湯
  • 開湯: 明治34年(1901年)
  • 加盟: 日本秘湯を守る会


4. 二股らぢうむ温泉旅館 — 渡島・長万部町

世界的に希少な石灰華ドームを持ち、天然記念物に指定された湯床に湧く一軒宿。

Media Picks Score: 88 / 100  全53室、湯治向きの長期滞在に対応する一軒宿。

目安価格 公開販売価格の集計データが十分でないため掲載を控えています。詳細は公式サイトを参照。


二股らぢうむ温泉旅館 — 長万部町 · 天然記念物指定の石灰華ドームを臨むラジウム含有の湯
PHOTO: 二股らぢうむ温泉旅館 — 公式サイトを見る →

なぜ選ばれるか

湯そのものが天然記念物に隣接する、世界的に希少な湯場である。旅館の脇に迫る北海道天然記念物指定の石灰華ドームは、湯の成分が長い年月をかけて堆積した段丘で、館の湯もこの湯床から引かれる。泉質はラジウムを含み、炭酸カルシウム、マグネシウム、鉄分、チタンなど何十種もの成分を持つ複合泉。硫黄は含まないため肌当たりは柔らかく、飲用も行われる。湯治専門の宿として長期滞在を受け入れる構えは、明治期の湯治文化の型を現代にほぼそのまま残している稀有な一軒と言える。

集約レビューの傾向

公開レビューデータを集計したところ、湯そのものの独自性と、湯治宿としての作法を今に残す点への言及が集中している。館の設備は年季が入っているが、湯場そのものを目的にする湯治客からは高い評価が持続的に寄せられる。数日単位の長逗留、湯の飲用、体調に応じた入浴回数の調整といった、いわゆる観光宿とは異なる利用法が支持の中心をなしている。ラジウム含有泉の効能を目当てに全国から通う常連客の存在も、集約されたレビューから読み取れる特徴と言える。

向く人 / 向かない人

  • 向く:
    本格的な湯治を望む旅人、数日単位の長期滞在で身を整えたい人、天然記念物指定の湯床という希少性に惹かれる旅
  • 向かない:
    観光と食事目的の一泊二日、洗練された料飲・館設備を求める旅、公共交通のみで訪ねる旅程

具体情報

  • 所在地: 北海道山越郡長万部町字大峯32番地
  • 最寄り駅: JR長万部駅から車で約30分
  • 客室: 全53室
  • 泉質: ラジウム含有、炭酸カルシウム・マグネシウム・鉄分・チタン等の複合成分、硫黄なし
  • 浴場: かけ流し、石灰華ドームを臨む湯船、飲用可
  • 特色: 隣接する石灰華ドームは北海道天然記念物指定


5. 森の湯 山静館 — 登別・カルルス温泉

支笏洞爺国立公園の山あいに、屋根のない露天と飲泉所を備える源泉かけ流しの一軒。

Media Picks Score: 86 / 100  全18室、山峡の温泉旅館。

目安価格 ¥38,000–¥52,000 / 泊 (2名1室・通常期)


森の湯 山静館 — 登別カルルス温泉 · 支笏洞爺国立公園内、屋根のない露天から満天の星を望む湯宿
PHOTO: 森の湯 山静館 — 公式サイトを見る →

なぜ選ばれるか

支笏洞爺国立公園のただ中に位置する、全十八室の源泉かけ流しの湯宿。屋根を持たない露天風呂「森の湯」は、晴れた夜に満天の星が広がる設計になっている。カルルス温泉圏では唯一の飲泉所を館内に持ち、湯の内と外からの活用が可能な構造。北海道弁の「あずましい」を旨とする居心地の設計と、地下水で炊いた道産米を用いる食事は、湯場そのものよりも滞在の呼吸を大切にしたい旅人に向く。全館バリアフリー対応も、高齢の湯治客への配慮が行き届いている。

集約レビューの傾向

公開レビューデータを集計したところ、屋根のない露天風呂と森に囲まれた静けさへの言及が中心を占め、湯そのものよりも「森の中に浸かる」体験として評価される傾向が見て取れる。創業当時から続くという「地鶏のたたき鍋」を挙げる声も多く、湯と食の両輪で滞在を組み立てる旅人からの支持が厚い。館の規模の小ささと、コンビニも飲食店も光回線もない山あいの環境が、逆に静けさの担保として好意的に受け止められている。

向く人 / 向かない人

  • 向く:
    森の静けさと星空を目当てにする旅、飲泉を含めて温泉を「体験」したい人、バリアフリー設計を必要とする夫婦旅
  • 向かない:
    徒歩圏に商業施設を求める旅程、光回線を利用した仕事滞在、大浴場のバラエティを重視する旅

具体情報

  • 所在地: 北海道登別市カルルス町16
  • 最寄り駅: JR登別駅から車で約20分
  • 客室: 全18室
  • 泉質: カルルス温泉(単純温泉)、源泉かけ流し
  • 浴場: 屋根のない露天風呂「森の湯」、大浴場、館内に飲泉所(カルルス唯一)
  • 食事: 創業当時から続く名物「地鶏のたたき鍋」、地下水で炊いた道産米
  • 特色: 全館バリアフリー対応、支笏洞爺国立公園内


よくある質問

Q. カルルス温泉と登別温泉本体はどう違いますか?

A. 同じ登別市内にありながら、湯質が大きく異なります。登別温泉本体は硫黄泉・食塩泉など複数の泉質を持つ観光温泉地であるのに対し、カルルス温泉は硫黄を含まない単純温泉で、チェコのカルロヴィ・ヴァリに湯質が似ているという明治期の指摘から命名されました。柔らかな肌当たりで長湯に向き、明治期から湯治宿として機能してきた点が最大の違いです。

Q. 二股らぢうむ温泉旅館の石灰華ドームとは何ですか?

A. 湯に溶けた炭酸カルシウムが長年にわたって析出し、段丘状に堆積した湯床のことです。北海道の天然記念物に指定されており、世界的にも類を見ない湯の造形とされます。館の脇にせり出す白く波打つ湯床を眺めながらの入浴が可能で、湯そのものと湯場の景観の両方に希少性がある稀有な一軒宿です。

Q. 訪ねるベストシーズンはいつですか?

A. 編集部が推すのは、本州の梅雨明けと重なる7月下旬から8月にかけての盛夏です。北海道の湿度の低い涼しさが、山あいの湯場で本領を発揮します。冬の雪見湯を望むなら12月下旬から2月、紅葉と湯浴みを重ねたい場合は10月上旬から中旬が適します。二股と芽登はアクセスに雪の影響が出るため、初めての訪問は雪解け以降が無難と言えます。

Q. 湯治のような連泊は可能ですか?

A. 全五軒とも連泊に対応します。特に二股らぢうむ温泉旅館と芽登温泉ホテルは、湯治的な長期滞在を受け入れる構えを保っています。カルルスの鈴木旅館、湯元オロフレ荘も、明治期の湯治宿の型を今に残す一軒として、数日単位の逗留に静かな時間を提供します。詳細な湯治プランの有無は各館の公式サイトで確認するのが確実です。

Q. 車を持たない旅でもアクセスできますか?

A. カルルス温泉の三軒(湯元オロフレ荘・鈴木旅館・森の湯 山静館)はJR登別駅からタクシーで20〜25分の距離にあり、公共交通での到達が可能です。芽登温泉ホテルと二股らぢうむ温泉旅館は山あいの立地でバス便が限られるため、レンタカーもしくは長万部・池田方面からのタクシーでの往復が現実的です。長期滞在では、旅程を宿と相談のうえで組み立てるのが現実的です。

本記事の参考情報

登別国際観光コンベンション協会 — 登別・カルルス温泉の観光情報
長万部観光協会 — 二股ラジウム温泉の解説
日本秘湯を守る会 — 芽登温泉ほか加盟宿の情報

編集部から

五軒に通底するのは、明治期の開拓とともに拓かれた蝦夷の湯場という共通の背景である。硫黄を含まぬカルルスの柔らかな単純温泉、ラジウムを含む二股の複合泉、原生林の奥に湧く芽登の単純硫黄泉。いずれも湯質は異なるが、湯を主とし食事や意匠を従とする湯治宿の構えは共通する。盛夏の北海道は本州の湿った暑さを離れて過ごせる貴重な季節で、山あいの湯宿には連泊で味わうべき時間が流れる。次は、道東の川湯・屈斜路や、道南の濁川といった、湯治文化を残す湯場を辿る特集を編みたい。

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