南伊豆と西伊豆松崎で、海を望む客室露天の宿を求めるなら、編集部が選んだ五軒がその答えになる。皐月末の南伊豆は、弓ヶ浜の浜木綿が花の支度をはじめ、松崎のなまこ壁の路地には芒種の風が流れる季節。半島の先端まで来てようやく開ける凪いだ海と、岩肌に沿って残されてきた客室露天を、湯量・源泉・露天の向きとともに記録する。梅雨入り前の、海がもっとも静かな時期に向く一覧である。

# 宿 湯処 Score 客室 目安価格 一行で
1 壺中の天 宿○文 弓ヶ浜 93 30 ¥44–62k 全室がオーシャンビュー露天付。波打ち際の弓ヶ浜を独り占めする宿。
2 季一遊 弓ヶ浜 92 41 ¥46–76k 離れの客室露天と、三つの露天・無料貸切露天をもつ弓ヶ浜の宿。
3 御宿しんしま 松崎 90 13 ¥37–44k 1881年創業、入江長八の漆喰鏝絵を伝える松崎の名旅館。
4 石花海別邸 かぎや 下賀茂 89 20 ¥50–79k 露天付客室と、四百年の歴史をもつ下賀茂の塩泉を備えた味覚の宿。
5 花のおもてなし 南楽 下賀茂 89 39 ¥70–136k 源泉かけ流し二十二湯の湯めぐりと、露天付の全室特別室仕様。
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※ 目安価格は公開販売価格の集計に基づく参考値で、実際の予約料金とは異なります。1泊2名利用時の1室あたり料金(税込)です。

1. 壺中の天 宿○文 — 南伊豆町・弓ヶ浜温泉

渚百選の弓ヶ浜を、全室の露天風呂から見渡す一軒。波音とともに湯に浸かる夜が、ここにある。

Media Picks Score: 93 / 100  30室、2006年。

目安価格 ¥44,000–¥62,000 / 泊 (2名1室・通常期)


壺中の天 宿○文 — 南伊豆・弓ヶ浜 · 渚百選の浜を望む全室海一望の露天風呂付旅館
PHOTO: 壺中の天 宿○文 — 公式サイトを見る →

湯と宿が語ること

弓ヶ浜の渚は「日本の渚百選」に選ばれてきた弓なりの白砂で、その浜際に立つこの宿は、全室を海に向けて開く。湯は弓ヶ浜温泉、客室の露天はいずれも水平線を正面に据える。波打ち際にしつらえた露天が、満ち引きの音まで連れてくるのがこの一軒の核である。三十室という規模に対し、海への視界が一様に保たれている点が、編集部の評価を押し上げた。

集約レビューの傾向

公開レビューデータを集計すると、海の眺めと客室露天への評価が突出して高く、静けさを求める夫婦旅・友人連れからの支持が厚い。食事は地魚と伊勢海老を中心に評価が安定する一方、繁忙期の混みには声が分かれる傾向が読み取れる。総じて、立地と湯の体験で選ばれている宿だと言える。

向く人 / 向かない人

  • 向く:
    記念日のカップル旅、波音と海を主目的にする滞在、全室から海を望みたい人
  • 向かない:
    大規模リゾートの賑わいを望む旅、繁忙期に静けさだけを求める人(夏は海水浴客が増える)

具体情報

  • 最寄り・アクセス: 伊豆急下田駅からバス約25分、弓ヶ浜下車徒歩2分
  • 客室: 40〜70㎡前後(和洋タイプ)
  • チェックイン: 15:00〜 / アウト 〜10:00
  • 食事: 地魚と伊勢海老を主とした夕食、朝食は和食膳
  • 創業: 2006年(弓ヶ浜温泉として湯を引く)


2. 季一遊 — 南伊豆町・弓ヶ浜温泉

松林を背に弓ヶ浜の渚へ。離れの客室露天と無料の貸切露天が、湯浴みの時間を静かに区切る。

Media Picks Score: 92 / 100  41室、1998年。

目安価格 ¥46,000–¥76,000 / 泊 (2名1室・通常期)


季一遊 — 南伊豆・弓ヶ浜 · 緑の庭を望むラウンジと客室露天をもつ温泉宿
PHOTO: 季一遊 — 公式サイトを見る →

湯と宿が語ること

松林を背に弓ヶ浜の渚へ続くこの宿は、大浴場と三つの露天、そして無料で使える貸切露天を備える。離れ館の客室露天は、デッキに据えた湯船から緑と海をのぞむ造りで、湯浴みの時間を一日のなかに静かに区切ってくれる。四十一室と規模はあるが、館内が湯の動線で整えられており、湯巡りの宿としての完成度が高い。

集約レビューの傾向

集約された宿泊者の評価では、貸切露天の使い勝手と弓ヶ浜への近さが繰り返し支持されている。家族連れ・三世代旅からの評価も安定し、湯の種類の多さを利点として挙げる声が目立つ。一方で、繁忙期の食事会場の混みには感想が分かれる。湯と立地を主目的にするなら、満足度の読みやすい一軒である。

向く人 / 向かない人

  • 向く:
    貸切露天を巡りたい湯好き、家族・三世代旅、弓ヶ浜の渚を歩きたい人
  • 向かない:
    小ぢんまりした静けさを最優先する人、食事会場の混雑を避けたい繁忙期の旅

具体情報

  • 最寄り・アクセス: 伊豆急下田駅からバス約25分、休暇村下車すぐ
  • 客室: 32〜80㎡(離れスイート含む)
  • チェックイン: 15:00〜 / アウト 〜11:00
  • 食事: 伊豆の地魚・金目鯛を軸とした会席、朝食は和定食
  • 創業: 1998年


3. 御宿しんしま — 松崎町・松崎温泉

明治十四年創業。なまこ壁の路地の奥に、入江長八の鏝絵と、源泉かけ流しの貸切露天が息づく。

Media Picks Score: 90 / 100  13室、1881年。

目安価格 ¥37,000–¥44,000 / 泊 (2名1室・通常期)


御宿しんしま — 西伊豆・松崎 · 入江長八の漆喰鏝絵が残る明治創業の温泉宿の貸切露天
PHOTO: 御宿しんしま — 公式サイトを見る →

湯と宿が語ること

松崎は、漆喰鏝絵の名手・入江長八を生んだ町である。明治十四年に創業したこの宿は、蔵を玄関に取り込み、長八ゆかりの鏝絵を宿泊者だけに見せて伝えてきた。十三室と小規模だが、源泉かけ流しの貸切露天と露天付客室を備え、なまこ壁の路地の奥で、土地の記憶ごと湯に浸かれる。歴史の継承という点で、名旅館の名にふさわしい。

集約レビューの傾向

公開レビューデータを集計すると、建物と鏝絵の趣、そして主人の応対への評価が際立つ。湯は源泉かけ流しの貸切露天が好まれ、静かな滞在を求める年配の旅人からの支持が厚い。規模が小さいぶん、賑やかさを求める向きには物足りなさも読み取れるが、土地の文化を味わう宿としての評価は揺るがない。

向く人 / 向かない人

  • 向く:
    土地の歴史と建物を味わいたい年配の旅、源泉かけ流しを重んじる人、静かな夫婦旅
  • 向かない:
    賑やかさや多彩な館内施設を望む旅、幼児連れで広い客室を要する旅程

具体情報

  • 最寄り・アクセス: 伊豆急下田駅からバス約50分、松崎下車徒歩約7分
  • 客室: 10〜25畳の和室(露天付客室あり)
  • チェックイン: 15:00〜 / アウト 〜10:00
  • 食事: 伊勢海老・金目鯛など松崎の地魚を用いた会席
  • 創業: 1881年(明治14年)


4. 石花海別邸 かぎや — 南伊豆町・下賀茂温泉

下賀茂の塩の湯を、露天風呂付の客室で。創業から数えて九十余年、味覚をもてなす大人の宿。

Media Picks Score: 89 / 100  20室、1930年。

目安価格 ¥50,000–¥79,000 / 泊 (2名1室・通常期)


石花海別邸 かぎや — 南伊豆・下賀茂温泉 · 行灯に照らされた数寄の宿の外観と露天付客室
PHOTO: 石花海別邸 かぎや — 公式サイトを見る →

湯と宿が語ること

下賀茂温泉は、四百年の歴史をもつといわれる塩の湯で知られる。昭和の初めに創業したかぎやは、その塩泉を露天風呂付の客室に引き、味覚をもてなす大人の宿として歩んできた。伊勢海老や金目鯛、南伊豆の地野菜を組む創作の会席が滞在の主役で、露天付客室は十タイプを数える。湯と食の両輪で選ばれる一軒である。

集約レビューの傾向

集約された評価では、料理の構成と盛りつけ、そして客室露天での寛ぎが高く支持されている。静かに過ごせる点を利点に挙げる声が多く、記念日の滞在に選ぶ旅人が目立つ。海そのものの眺めより、湯と食、設えの完成度で評価されている宿だと読み取れる。落ち着いた時間を主目的にするなら、外れの少ない選択になる。

向く人 / 向かない人

  • 向く:
    料理を主目的にする大人の旅、露天付客室で静かに過ごす記念日、湯と食の両立を望む人
  • 向かない:
    海そのものの眺望を最優先する人(下賀茂は川沿いの湯処)、大人数のグループ旅

具体情報

  • 最寄り・アクセス: 伊豆急下田駅から送迎・バス約30分、下賀茂温泉
  • 客室: 露天風呂付客室を含む全10タイプ
  • チェックイン: 15:00〜 / アウト 〜11:00
  • 食事: 伊勢海老・金目鯛・南伊豆の地野菜を組む創作会席
  • 創業: 1930年(昭和初期)


5. 花のおもてなし 南楽 — 南伊豆町・下賀茂温泉

下賀茂の源泉を、二十二の湯船で巡る。数寄屋の間と壺の露天付客室が、湯めぐりの宿の核をなす。

Media Picks Score: 89 / 100  39室、1991年。

目安価格 ¥70,000–¥136,000 / 泊 (2名1室・通常期)


花のおもてなし 南楽 — 南伊豆・下賀茂温泉 · 数寄屋造りの客室と庭を望む静かな間
PHOTO: 花のおもてなし 南楽 — 公式サイトを見る →

湯と宿が語ること

下賀茂の源泉を、二十二の湯船で巡れるのがこの宿の身上である。貸切風呂と大浴場を合わせた湯めぐりはすべて源泉かけ流しで、湯の温度や趣を変えながら一夜を過ごせる。数寄屋造りの間と、囲炉裏と壺の露天を備えた特別室仕様の客室が並び、湯と建物の両方で土地の趣を伝える。湯量に恵まれた下賀茂ならではの一軒と言える。

集約レビューの傾向

公開レビューデータを集計すると、湯めぐりの豊かさと客室の広さへの評価が高い。料理長自ら市場で仕入れる地産地消の会席にも支持が集まる。湯の数を滞在の主目的にする旅人に向き、静かな環境を望む声とも合致する。海の眺望よりも、源泉と設えの充実で選ばれている宿だと読み取れる。

向く人 / 向かない人

  • 向く:
    湯めぐりを滞在の主役にしたい人、広い特別室で寛ぎたい夫婦旅、源泉の数を重んじる湯好き
  • 向かない:
    海の眺望を第一に求める旅、最小限の湯で静かに籠りたい一人旅

具体情報

  • 最寄り・アクセス: 伊豆急下田駅からバス約30分、下賀茂温泉
  • 客室: 50㎡以上の特別室仕様(露天付客室あり)
  • チェックイン: 15:00〜 / アウト 〜11:00
  • 食事: 料理長が地元市場で仕入れる地産地消の特選会席
  • 創業: 1991年(2026年に源泉一途 南伊豆へ改称)


よくある質問

Q. 訪ねるなら、どの季節がよいですか?

A. 海がもっとも凪ぐのは梅雨入り前の五月末から六月初め、そして秋の長雨が明けた頃である。初夏は伊勢海老の禁漁明けと金目鯛の脂がのる時季が重なり、客室露天から見る朝凪も澄む。海水浴の賑わいを避けるなら、編集部はこの梅雨前の凪の時期を推したい。

Q. 予約はどのくらい前に取るべきですか?

A. いずれも小規模から中規模の湯宿で、露天付客室は数が限られる。土曜・連休と、伊勢海老や金目鯛を掲げる時季の週末は早くに埋まる。露天付客室を指定するなら、二、三か月前を目安にしたい。平日は直前でも取りやすい傾向がある。

Q. 子ども連れでも泊まれますか?

A. 弓ヶ浜の季一遊は貸切露天があり、家族連れや三世代旅でも湯を使いやすい。一方、御宿しんしまのように小規模で静けさを重んじる宿は、落ち着いた滞在に向く。乳幼児連れの可否や貸切時間は宿により異なるため、客室露天付プランの条件を予約時に確かめるとよい。

Q. 客室露天の湯は源泉かけ流しですか?

A. 松崎の御宿しんしまと下賀茂の南楽は源泉かけ流しの湯を掲げ、下賀茂の塩泉は四百年の歴史をもつといわれる。弓ヶ浜の宿は海際の温泉で、露天は水平線を望む向きに据えられる。湯量や源泉数、加水・加温の有無は各公式サイトに記載があるため、湯質を重んじるなら事前の確認を勧めたい。

Q. 車がなくても行けますか?

A. 起点は伊豆急下田駅で、弓ヶ浜・下賀茂へはバスで二十五〜三十分、松崎へは五十分ほどである。本数は多くないため、宿の送迎の有無を確かめると移動が楽になる。岩地・雲見まで足を延ばすなら、車のほうが海岸線を自在に巡れる。

本記事の参考情報

南伊豆町観光協会 — 弓ヶ浜・下賀茂温泉の観光情報
松崎町観光協会 — 松崎・岩地・雲見の観光情報
Wikipedia: 弓ヶ浜(静岡県) — 地理・歴史の背景
Wikipedia: 下賀茂温泉 — 湯質・歴史の背景

編集部から

南伊豆と西伊豆松崎は、東伊豆や熱海に比べれば湯宿の数こそ多くない。だが、半島の先端でようやく開ける凪いだ海と、岩肌に沿って残された客室露天には、賑わいから離れた湯宿だけがもつ静けさがある。五軒はいずれも、海か源泉か、あるいは土地の歴史か——湯を「宿らしく」味わう軸を一つずつ備えていた。梅雨入り前の凪の朝、客室露天から見る伊豆の海は、足を延ばす理由として十分に美しい。さて、あなたなら、弓ヶ浜の波音と、松崎のなまこ壁の路地、どちらの湯から訪ねるだろうか。

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