水無月初頭、越後平野の田にはまだ早苗が透き、弥彦山の輪郭が霞む夕暮れが続きます。弥彦と岩室は新潟県西蒲区に並ぶ里湯で、北越の塩化物泉と単純泉を客室に引いてきた小宿が静かに代を継いできた地。本稿では、客室露天を備える五軒を、源泉名・湯量・建築の意匠を軸に紹介します。田植えを終えた青田が暮れる頃、湯気を上げる客室の檜が、宿それぞれの時間を映します。
| # | 旅館 | エリア | Score | 客室 | 目安価格 | 1行特徴 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 1 | 著莪の里ゆめや | 岩室温泉 | 95 | 11 | ¥99–¥134k | 自家源泉、数寄屋造り十一室、富士屋姉妹館の小宿 |
| 2 | 割烹の宿 櫻家 | 弥彦温泉 | 94 | 15 | ¥41–¥60k | 1914年創業、料理長の会席、弥彦駅徒歩一分 |
| 3 | 高志の宿 高島屋 | 岩室温泉 | 93 | 20 | ¥67–¥97k | 本館は宝暦五年、国登録有形文化財の泊まれる料亭 |
| 4 | 岩室温泉 富士屋 | 岩室温泉 | 89 | 64 | ¥56–¥80k | 1868年創業、岩室唯一の自家源泉、檜の露天付き客室 |
| 5 | 穂々-hoho- | 岩室温泉 | 86 | 52 | ¥20–¥40k | 千坪の和庭園と弥彦連山一望、サウナを備える眺望宿 |
※ 目安価格は公開販売価格の集計に基づく参考値で、実際の予約料金とは異なります。1泊2名利用時の1室あたり料金(税込)です。
1. 著莪の里 ゆめや — 岩室温泉
岩室の谷あいに十一室。富士屋の姉妹館として昭和六十三年に生まれた自家源泉の小宿、客室露天で迎える越後の朝です。
Media Picks Score: 95 / 100 11室、料理旅館。
目安価格 ¥99,000–¥134,000 / 泊 (2名1室・通常期)

なぜ選ばれるか
岩室温泉の地に自家源泉を持つ宿は限られ、ゆめやはその一軒。客室はすべて数寄屋造りで構成され、十室と離れ舎一棟の小規模を守ります。源泉から客室の露天浴槽まで距離が短く、配湯の温度低下が抑えられる構造です。料理は新潟県内の海と山の素材を季節ごとに編み、夕食は個室で供されます。富士屋本館と異なり、ゆめやは「静かな滞在」を主目的にした設計が一貫しています。
集約レビューの傾向
公開レビューデータを集計したところ、湯と料理、接客の三点で揃って高い評価が確認されました。特に、自家源泉の湯量と新鮮さに対する言及が多く、客室浴槽の使い勝手と源泉かけ流しの実感が支持の中心を形成しています。離れの独立性、調度品の品格、夜の静けさへの評価も高い傾向です。一方で、館内に大浴場を構えない点と、入浴後の動線が客室内に閉じる構造は、滞在の好みを選びます。
向く人 / 向かない人
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向く:
自家源泉と数寄屋造りを目的に選ぶ夫婦旅、記念日の静養、和の作法を体験したい滞在 -
向かない:
大浴場を回遊して湯巡りを楽しみたい人、低価格帯を重視する旅程、家族五名以上の合宿型滞在
具体情報
- 最寄り駅: JR越後線岩室駅からタクシー約10分
- 客室構成: 数寄屋造り和室10室+離れ舎1棟、全室源泉露天付き
- 食事: 夕食・朝食ともに個室、新潟県産の素材を中心とした会席
- 開業: 1988年(昭和63年)5月6日、岩室温泉富士屋の姉妹館
- 源泉: 自家源泉、塩化物・硫酸塩系
2. 割烹の宿 櫻家 — 弥彦温泉
弥彦駅前に十五室。大正三年から続く割烹の宿が、料理長の手で会席を編み続けてきた一軒です。
Media Picks Score: 94 / 100 15室、料理旅館。
目安価格 ¥41,000–¥60,000 / 泊 (2名1室・通常期)

なぜ選ばれるか
櫻家の屋号は、弥彦神社の門前で大正三年(1914年)に始まり、以来一世紀以上を料理に重きを置いて続いてきました。弥彦湯神社温泉のアルカリ性単純温泉を引く客室露天と、料理長が季節ごとに組み立てる会席が、宿の二本柱です。JR弥彦駅から徒歩一分の立地ながら、館内は素足で歩ける造作で、玄関を一歩入ると駅前の喧騒は遠のきます。広い貸切風呂を備え、家族連れの利用にも向きます。
集約レビューの傾向
公開レビューデータを集計したところ、料理の独自性と量、丁寧な接客に対する評価が突出して高く確認されました。特に、夕食の品数と素材の質に関する満足度が高く、朝食の郷土料理への支持も同様です。客室の広さと風呂の使い勝手については、規模からくる制約と評する声と、コンパクトな構成が落ち着くと評する声に分かれます。料理を主目的とする滞在に向く宿として、安定した評価層を持つ傾向が見えます。
向く人 / 向かない人
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向く:
料理を主目的にする食通の夫婦旅、駅近の機動力を生かして弥彦神社を歩く滞在、家族での貸切利用 -
向かない:
建物自体の格式や大規模な数寄屋を求める滞在、静かな郊外の山里を望む旅、湯巡りを中心に据えた旅程
具体情報
- 最寄り駅: JR弥彦線弥彦駅から徒歩約1分
- 客室数: 15室、客室露天付き客室と貸切風呂を併設
- チェックイン: 15:00〜 / アウト 〜10:00
- 食事: 料理長の会席、夕食・朝食ともに食事処
- 創業: 1914年(大正3年)
- 源泉: 弥彦湯神社温泉、アルカリ性単純温泉
3. 高志の宿 高島屋 — 岩室温泉
本館は宝暦五年。良寛も明治帝も滞在した「泊まれる料亭」、国登録有形文化財の二十室です。
Media Picks Score: 93 / 100 20室、料亭旅館。
目安価格 ¥67,000–¥97,000 / 泊 (2名1室・通常期)

なぜ選ばれるか
高島屋の本館は宝暦五年(1755年)に建てられ、現在は国登録有形文化財。良寛が逗留し、明治十一年には明治天皇の北陸巡幸の際に宿泊された記録が残ります。「泊まれる料亭」を標榜し、客室露天付きの和室と、京会席の流れを汲む料理を一体で提供します。二〇二五年には「温泉宿大賞・おもてなし部門」で全国三位に選出。岩室の中心で、街道に面する玄関構えからは想像できないほどの奥行きと、館内に組み込まれた庭が、歴史的建築の体験を支えています。
集約レビューの傾向
公開レビューデータを集計したところ、建築の歴史性と接客の丁寧さに対する評価が際立って高い傾向が確認されました。特に、文化財建築の維持管理と、それを生かした和室の室礼に関する満足度が突出。料理は、京会席を基礎としつつ越後の食材を編む構成が一貫しており、夕食の構成力への支持が厚い傾向です。一方で、本館の歴史的建造物特有の段差や動線の制約は、評価を分ける要素として現れます。
向く人 / 向かない人
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向く:
文化財建築での滞在を目的とする夫婦旅、京会席系の料理を望む食通、歴史と文学を辿る旅程 -
向かない:
段差を避けたい高齢の同行者、現代的なバリアフリー設備を必須とする滞在、洋食中心の旅程
具体情報
- 最寄り駅: JR越後線岩室駅からタクシー約10分
- 客室数: 20室、客室露天付きと内風呂付き、本館と新館の構成
- 食事: 京会席系を基礎とした夕食、朝食は和食
- 創業: 本館は宝暦5年(1755年)築、2004年に国登録有形文化財
- 受賞歴: 2025年「温泉宿大賞・おもてなし部門」全国第3位
- 歴史滞在客: 良寛、明治天皇(1878年北陸巡幸時)
4. 岩室温泉 富士屋 — 岩室温泉
明治元年創業、岩室で唯一の自家源泉を持つ六十四室。檜風呂付き客室から見るのは越後の和庭です。
Media Picks Score: 89 / 100 64室、料理旅館。
目安価格 ¥56,000–¥80,000 / 泊 (2名1室・通常期)

なぜ選ばれるか
富士屋は明治元年(1868年)の創業。岩室温泉郷の中で唯一、敷地内に自家源泉を持ち、館内すべての湯を一本の源泉から供給する体制を続けてきました。最上級の客室露天付き和室には檜の浴槽が据えられ、日本庭園に面する配置で組まれます。料理は、越後の山と海の素材を中心に、地野菜を多く用いた献立を季節ごとに編成します。六十四室の中規模ながら、館内動線は静謐に保たれ、姉妹館「ゆめや」と並べて選ばれることが多い宿です。
集約レビューの傾向
公開レビューデータを集計したところ、自家源泉の湯量と泉質、料理の構成力、館内の清潔感への評価が安定して高く確認されました。特に、檜の客室露天と、その湯口から立つ湯気の質感に関する言及が目立ちます。料理は、新潟の地野菜と日本海の魚介を組む構成が好評で、夕食・朝食ともに満足度が高い傾向。一方で、六十四室という規模からくる館内動線の長さや、繁忙期の食事処の運営テンポは、滞在の好みを選ぶ要素として現れます。
向く人 / 向かない人
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向く:
自家源泉の湯量を目的とする滞在、檜の客室露天を望む夫婦旅、姉妹館ゆめやと比較検討する旅程 -
向かない:
十数室以下の極小規模宿を望む滞在、館内の喧騒を最小化したい記念日旅、価格を最優先する旅程
具体情報
- 最寄り駅: JR越後線岩室駅からタクシー約10分
- 客室数: 64室、最上級は檜の客室露天付き和室、日本庭園面
- 食事: 越後の山海素材を中心とした会席
- 創業: 1868年(明治元年)
- 源泉: 自家源泉、岩室温泉郷で唯一
- 姉妹館: 著莪の里 ゆめや(1988年開業)
5. 越後平野と弥彦連山一望の宿 穂々 ‐hoho‐ — 岩室温泉
千坪の和庭園と弥彦連山の眺望、サウナ「嵐ノ湯」を備える五十二室。眺めを主役にする岩室の宿です。
Media Picks Score: 86 / 100 52室、温泉旅館。
目安価格 ¥20,000–¥40,000 / 泊 (2名1室・通常期)

なぜ選ばれるか
穂々は岩室温泉の高台に位置し、客室と大浴場から、千坪の和庭園と弥彦連山、越後平野の田を一望に収めます。本館「大橋屋」をリブランドした宿で、岩室の硫黄塩化物泉を引いた客室露天と、薬石を温めた鉱物蒸気サウナ「嵐ノ湯」を併設。新潟県内でも有数のサウナ宿として、眺望と発汗を組み合わせた滞在を提案しています。五十二室の規模ながら、田植え後・稲穂期・収穫後と季節で表情を変える越後平野の俯瞰が、宿の体験の中心を担います。
集約レビューの傾向
公開レビューデータを集計したところ、眺望とサウナへの評価が際立って高く確認されました。特に、客室と大浴場の窓から見える越後平野の田と弥彦山の暮色に関する言及が多数。サウナ「嵐ノ湯」については、薬石の蒸気と鉱物の体感を独自性として評価する声が多い傾向です。一方で、館内動線の長さや、五十二室規模の繁忙期運営のテンポについては、評価を分ける要素として現れます。料理は、地元素材を中心とした構成で、安定した満足度を保ちます。
向く人 / 向かない人
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向く:
眺望を主目的とする滞在、サウナを旅程に組み込みたい人、価格と体験のバランスを重視する旅程 -
向かない:
十室前後の極小規模宿を望む静養、文化財建築での滞在を目的とする旅、館内動線の短さを優先する人
具体情報
- 最寄り駅: JR越後線岩室駅からタクシー約10分
- 客室数: 52室、客室露天付き客室と一般客室の混成
- 食事: 新潟県産素材を中心とした和食会席
- 大浴場: 千坪の和庭園を望む大浴場、鉱物蒸気サウナ「嵐ノ湯」併設
- 泉質: 硫黄塩化物泉
- 立地: 岩室温泉の高台、越後平野と弥彦連山の俯瞰
よくある質問
Q. 弥彦・岩室を訪れるのに編集部が推す季節はいつですか?
A. 水無月(六月)初頭から文月(七月)にかけての、田植え後の青田が稲穂期に移る時期が編集部の推す季節です。越後平野の田に水が張られ、夕方に弥彦山が田の水鏡に映る光景は、この時期に限られます。また、長月(九月)後半の稲刈り前、稲穂が傾く時期も、平野の俯瞰を主軸にした宿で印象的な滞在となります。冬の積雪期は、雪国の宿としての別の表情があります。
Q. 客室露天と大浴場の客室露天は、どう違いますか?
A. 本稿で扱う「客室露天」は、客室内に専用の露天浴槽が組み込まれた形式を指します。大浴場とは独立し、入浴のたびに館内を移動する必要がありません。源泉から客室浴槽までの距離が短い宿ほど、湯の鮮度を保ちやすい構造です。本稿の五軒のうち、ゆめや・櫻家・高島屋・富士屋は自家源泉または近接源泉から客室への直接配湯を持ち、源泉かけ流しに近い体験が得られます。
Q. 子連れでの宿泊は可能ですか?
A. 各館の運営方針により異なります。著莪の里ゆめやは小規模・静養を主目的とした構成のため、未就学児の受け入れには制約があります。割烹の宿 櫻家は貸切風呂を備え、家族連れの実績が比較的多い宿です。岩室温泉 富士屋・穂々は中規模ホテルとして家族連れの受け入れがあり、客室タイプも多様です。詳細は各館の公式サイトで確認するのが確実です。
Q. 弥彦神社からのアクセスは?
A. JR弥彦線弥彦駅からの徒歩圏内に位置するのは、割烹の宿 櫻家(徒歩約1分)です。岩室温泉の四軒は、岩室駅からタクシーで約10分、または弥彦駅からも車で15分前後の距離。弥彦神社参拝と岩室温泉の宿を組み合わせる場合、車またはタクシーでの移動を旅程に組み込むのが現実的です。
Q. 自家源泉と一般源泉では、何が違いますか?
A. 自家源泉とは、その宿が独自に保有する源泉から直接湯を引く方式です。岩室温泉の場合、本稿の富士屋とゆめやが自家源泉を持ちます。集中配湯と異なり、源泉から客室浴槽までの距離が短く、湯の温度・成分の鮮度が高く保たれる利点があります。また、湯量の安定性も自家源泉宿の特徴で、季節や天候による配湯量の変動が小さい傾向です。
本記事の参考情報
・新潟県観光協会 — 弥彦・岩室の観光情報
・弥彦観光協会「やひ恋」 — 弥彦神社・弥彦温泉の情報
・新潟市西蒲区観光情報「にしかん」 — 岩室温泉エリアの情報
編集部から
弥彦と岩室は、新潟駅から車で四十分ほどの距離にありながら、越後平野の静けさをそのまま閉じ込めた湯場です。本稿の五軒は、自家源泉、文化財建築、料亭の系譜、眺望宿、姉妹館の二系統と、それぞれ異なる軸で代を継いできました。水無月の田植えを終えた青田が、夕暮れに弥彦山を映す数週間。客室の窓辺で過ごすこの時期の静けさは、一年のうちの限られた時間です。次にどのテーマを編むか、編集部はもう考え始めています。