土用前の備讃瀬戸を旅するなら、料理を主目的に宿を選ぶ四軒を、編集部はまずこの順に挙げたい。豊島の段々畑に夕陽が落ち、直島の港に渡船の汽笛が渡るころ、内海の島々は讃岐の天然穴子と瀬戸内の車海老が最も良い季節を迎える。香川と岡山に挟まれた島影に、料理長の手仕事を旅の軸に据えた宿を、直島から豊島、庵治の海辺へと編んだ。フェリーの時刻と島内の動線、そして厨房に立つ者の系譜を併せて記す。
| # | 宿 | 島・エリア | Score | 客室 | 目安価格 | 一行の輪郭 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 1 | 直島旅館 ろ霞 | 直島・本村 | 93 | 11 | ¥131–¥153k | 全室露天風呂付スイートに、京で修めた寿司会席 |
| 2 | オーベルジュ ドゥ オオイシ | 高松・庵治半島 | 91 | 5 | ¥67–¥87k | 志度湾を望む全五室、瀬戸内の素材で組むフランス料理 |
| 3 | 古宿 たかまつ屋 | 豊島・家浦 | 88 | 7 | — | 昭和二年の建物を継ぎ、島の海と山の四季を皿に |
| 4 | ウミトタ | 豊島・唐櫃 | 86 | 1棟 | — | 棚田と内海のあいだ、海のレストランへ歩く一棟の宿 |
※ 目安価格は公開販売価格の集計に基づく参考値で、実際の予約料金とは異なります。1泊2名利用時の1室あたり料金(税込)です。価格欄の「—」は集計に足る販売実績がないため省いています。
1. 直島旅館 ろ霞 — 直島・本村
本村の路地裏に十一室。島で初めての本格旅館として、料理を旅の軸に据えたい一軒。
Media Picks Score: 93 / 100 11室、全室露天風呂付スイートの料理旅館。
目安価格 ¥131,000–¥153,000 / 泊 (2名1室・通常期)

なぜ選ばれるか
板場が、旅の中心にある宿である。アートの島として知られる直島に、宿らしい宿が長く欠けていた——その間隙を、本村港から徒歩五分の路地に据えられたのが、ろ霞だった。理由は三つに絞られる。第一に、全十一室がすべて露天風呂付のスイートで構成されること。第二に、京の料亭で研鑽を積んだ板前が握る寿司会席を、夕餉の主役に据えていること。第三に、料理の核に「五味一風」——甘・塩・酸・苦・うま味の五つの基礎を、瀬戸内の素材一つで束ねるという思想を置いていることである。
集約レビューの傾向
公開レビューデータを集計したところ、料理と接遇に対する評価が抜きん出て高い宿として確認された。とりわけ、瀬戸内の魚を主役にした献立の構成力と、握りの一貫ごとに温度を見る仕事への言及が目立つ。建物の静けさと、海を借景にした湯への満足も厚い。一方で、価格帯は島の宿としては高い部類に入り、滞在の目的が料理と静養に定まっている旅程と相性が良い、という傾向が読み取れる。
向く人 / 向かない人
-
向く:
料理を旅の主目的にする夫婦旅、記念日に静けさを求める二人、寿司会席と露天を一室で味わいたい旅程 -
向かない:
宿泊費を抑えたい旅、幼い子を連れた長逗留、アート巡りで宿に戻る時間が短い慌ただしい行程
具体情報
- 立地: 直島・本村中心まで徒歩5分(宮浦港からは送迎車)
- 客室: 全11室、すべて露天風呂付スイート
- チェックイン: 15:00〜18:00 / アウト 8:00〜11:00
- 食事: 夕食は寿司会席(一日限定の握り)と会席コース、朝は和洋から選べる
- 開業: 2022年
2. オーベルジュ ドゥ オオイシ — 高松・庵治半島
庵治半島の高みに全五室。志度湾を望む丘で、瀬戸内の素材だけでフランス料理を組む宿。
Media Picks Score: 91 / 100 5室、瀬戸内フレンチのオーベルジュ。
目安価格 ¥67,000–¥87,000 / 泊 (2名1室・通常期)

なぜ選ばれるか
料理が、宿の存在理由そのものである。オーベルジュとは、宿を伴う料理店の謂い——ここでは庵治半島の丘に客室棟が点在し、その中心に厨房が据えられている。選ぶ理由は明快である。第一に、客室を全五室に抑え、料理と滞在の密度を保っていること。第二に、地物のあいなめ、志度湾産の牡蠣、香川県産のはちみつといった瀬戸内・讃岐の素材を、フランス料理の技法で組み上げること。第三に、自家製のパンやジャムまで含め、皿の一枚一枚に厨房の手が通っていることである。直島・豊島の島旅と組み合わせ、海辺の一泊を料理で締める旅程に向く。
集約レビューの傾向
公開レビューデータを集計したところ、コース料理の完成度と、瀬戸内の食材を生かす構成への評価が際立つ宿として確認された。シェフおまかせのコースで供される季節の一皿に対する満足が厚く、テラスや客室で迎える朝食への言及も多い。小規模ゆえの静けさと、丘から望む内海の眺めも支持されている。フランス料理が中心となるため、和食の会席を望む旅程とは目的がやや異なる、という傾向が読み取れる。
向く人 / 向かない人
-
向く:
フランス料理を旅の主目的にする夫婦旅、島巡りの前後に海辺で一泊したい旅程、静かな丘での記念日 -
向かない:
和食の会席を望む旅、大人数での賑やかな滞在、公共交通だけで巡りたい移動(半島の立地で車が便利)
具体情報
- 立地: 香川県高松市庵治町、志度湾を望む庵治半島の丘
- 客室: 全5室(ジュニアスイート1室・スイート4室)
- チェックイン: 15:00 / アウト 11:00
- 食事: 夕食はシェフおまかせのフランス料理コース(18:00〜・L.O.19:30)、朝食はテラスまたは客室で8:00から
- 素材: 地物あいなめ・志度湾産牡蠣・香川県産はちみつなど瀬戸内と讃岐の食材
3. 古宿 たかまつ屋 — 豊島・家浦
家浦の集落に昭和二年の旅館建築。島の海と山の四季を、七室の古宿で味わう。
Media Picks Score: 88 / 100 7室、古民家を継いだ島の宿。

なぜ選ばれるか
建物が、島の時間を抱えている。昭和二年に旅館として建てられた木造の家屋を、改修のうえ宿屋として継いだのが、家浦港にほど近いたかまつ屋である。選ぶ理由は三つにまとめられる。第一に、人口八百ほどの豊島で、島の暮らしに最も近い距離で迎えてくれること。第二に、島の海と山——新鮮な海の幸、オリーブやみかん、レモンといった豊島の四季の恵みを、皿の上で味わわせること。第三に、芸術祭の作品が点在する島内を歩く拠点として、過不足のない位置にあることである。豪奢を競う宿ではなく、島そのものを味わう旅程に向く。
集約レビューの傾向
公開レビューデータを集計したところ、もてなしの温かさと、古い旅館建築が醸す落ち着きへの評価が高い宿として確認された。島でとれた食材を用いた素朴な食事と、家庭的な接遇への満足が目立つ。豊島の集落に身を置く感覚、観光地化しすぎない静けさを良しとする声が多い。設えは現代の高級旅館とは趣を異にするため、整然とした館内や最新の設備を第一に求める旅程とは方向が異なる、という傾向が読み取れる。
向く人 / 向かない人
-
向く:
島の暮らしに近い滞在を好む旅、芸術祭めぐりの拠点を探す旅程、古い旅館建築を味わいたい夫婦・友人連れ -
向かない:
最新設備や均質な快適さを第一に求める旅、露天風呂付の客室を望む旅程、豪華な会席を目的にする滞在
具体情報
- 立地: 豊島・家浦地区(家浦港から徒歩圏)
- 客室: 全7室
- 建物: 昭和2年(1927年)の旅館建築を改修し、2012年に宿屋として再開
- 食事: 島の海と山の四季食材を用いた料理(朝食のみの利用も可)
- 島の恵み: 瀬戸内の海の幸に加え、オリーブ・みかん・レモンなど豊島の産物
4. ウミトタ — 豊島・唐櫃
棚田と内海のあいだに一棟。夕餉は歩いてすぐの「海のレストラン」で、その日の旬を待つ。
Media Picks Score: 86 / 100 一棟貸し、料理を伴う豊島の宿。

なぜ選ばれるか
宿が、料理と一体に設計されている。豊島の棚田と内海を結ぶ斜面に、一棟貸しの民家を据え、夕餉はすぐ近くの「海のレストラン」へ歩いて向かう——その動線そのものが、この宿の体験である。選ぶ理由は三つ。第一に、デザイナー皆川明のディレクションのもと、「暮らすように泊まる」一棟として設えられていること。第二に、夕食が瀬戸内の魚介と自家菜園の野菜を、イタリア料理の技法で組む旬のコースであること。第三に、海を望む浴室や小さな書架まで、滞在の時間を島の自然に同調させる仕掛けが施されていることである。家族や少人数で、島に身を沈めるような滞在に向く。
集約レビューの傾向
公開レビューデータを集計したところ、空間の設計思想と、海のレストランで供される料理への評価が高い宿として確認された。棚田と内海に挟まれた立地、季節と天候に合わせて居場所を選べる住まいのような造りへの満足が目立つ。その日の旬で組まれるコースと、朝に届けられる洋食への言及も多い。一棟を一組で使う形式ゆえ、館内の手厚いサービスや大浴場を求める旅程とは性格が異なる、という傾向が読み取れる。
向く人 / 向かない人
-
向く:
島に静かに身を置きたい夫婦・家族、一棟を貸し切りたい少人数の旅、海のレストランの旬コースを目的にする旅程 -
向かない:
旅館らしい手厚い接遇や大浴場を望む旅、館内で完結する滞在を求める旅程、慌ただしい日帰り的な島巡り
具体情報
- 立地: 豊島・唐櫃地区、家浦港から徒歩約15分
- 客室: 一棟貸し(1〜6名)
- チェックイン: 15:00〜18:00 / アウト 11:00
- 食事: 夕食は「海のレストラン」で瀬戸内の魚介と自家菜園野菜の旬コース、朝は洋食を宿へ届ける
- 設計: ディレクションを皆川明、設計を緒方慎一郎が手がける
よくある質問
Q. 食通宿として訪ねるなら、どの季節が良いですか?
A. 土用前から夏祭り前夜にかけての盛夏は、讃岐の天然穴子や瀬戸内の車海老が旬を迎える季節で、編集部が推す時期のひとつです。瀬戸内は四季それぞれに魚が替わり、春は鰆、冬は寒鰤や牡蠣が献立を彩ります。料理を主目的にするなら、訪ねる魚を一つ決めて季節を選ぶのも、島旅の楽しみ方です。
Q. 直島・豊島・庵治を一度の旅でまわれますか?
A. まわれます。高松港や宇野港から直島・豊島へはフェリーと高速船が結び、両島のあいだも航路でつながっています。庵治半島は高松市街から陸路で東へ向かいます。島内は便数が限られるため、フェリーの時刻を先に確かめ、宿の送迎や港からの徒歩動線を踏まえて行程を組むと無理がありません。
Q. 子ども連れでも泊まれますか?
A. 宿により対応が分かれます。一棟貸しのウミトタは少人数の家族滞在に向き、古宿 たかまつ屋は島の暮らしに近い素朴な滞在ができます。一方、全室露天風呂付スイートのろ霞や、料理を主役にする少室のオーベルジュ ドゥ オオイシは、静養と食を軸にした大人の旅程に向きます。幼いお子様連れの場合は、事前に各宿へ受け入れ可否を確かめると安心です。
Q. 料理の内容は事前に選べますか?
A. 宿によって異なります。ろ霞は寿司会席と会席コースを、オオイシはシェフおまかせのフランス料理を軸にしています。ウミトタの夕食はその日の旬で組まれ、たかまつ屋は島の四季食材を用います。アレルギーや苦手な食材がある場合は、予約時に伝えておくと、可能な範囲で調整に応じてもらえることが多いです。
Q. 車がなくても巡れますか?
A. 島内はフェリーと、レンタサイクルや路線バスで巡れます。ただし庵治半島のオオイシは陸路の立地で、車があると動きやすくなります。島の宿は港からの徒歩や送迎で対応できる場合が多いので、行程の中で本土側をどう組み込むかを先に決めておくと、移動の見通しが立ちます。
本記事の参考情報
・うどん県旅ネット(香川県観光協会) — 直島・豊島・庵治を含む香川の観光情報
・Wikipedia: 豊島(香川県) — 島の地理と歴史の背景
・Wikipedia: 直島 — 直島の歩みと現代美術の関わり
編集部から
四軒に通底するのは、料理を旅の主目的に据えるという一点である。直島のろ霞は寿司会席で、庵治のオオイシはフランス料理で、豊島のたかまつ屋は島の四季食材で、ウミトタは海のレストランの旬コースで——それぞれの流儀で、備讃瀬戸の海と山を皿に映す。土用前の盛夏、穴子と車海老が最も良い時季を選んで島へ渡れば、フェリーの汽笛も、段々畑の夕陽も、夕餉の一皿の前奏になる。次は、瀬戸内のどの魚を訪ねて、どの島の厨房を選びますか。
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