茶臼岳の東麓、湯川に沿って湯本の集落が拓かれてからおよそ一三〇〇年。共同浴場・鹿の湯を源流とする白濁の硫黄泉と、大丸系・北温泉系という別系統の湯を、宿という器で継いできた湯宿がある。本稿では、盛夏の高原に涼を求める旅の宿として、湯を継ぐ側の作法に絞って五軒を選んだ。引湯距離、湯口の温度、共同浴場との距離感——湯守の姿勢がそのまま宿の輪郭になる、そうした宿である。
| # | 湯宿 | エリア | Score | 客室 | 目安価格 | 湯の系統・特徴 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 1 | 大丸温泉旅館 | 奥那須 | 93 | 26 | ¥47–¥67k | 大丸系源泉、湯川そのものを浴槽に見立てた川の湯 |
| 2 | 北温泉旅館 | 北温泉 | 92 | 44 | ¥14–¥18k | 北温泉系、江戸期からの湯滝と長屋造り |
| 3 | 旅館 山快 | 那須湯本 | 91 | 10 | ¥35–¥41k | 鹿の湯系源泉引湯、にごり湯の会加盟の小宿 |
| 4 | 旅館 清水屋 | 那須湯本 | 89 | 12 | ¥40–¥48k | 鹿の湯源泉かけ流し、湯本の路地に佇む |
| 5 | 那須温泉 山楽 | 那須湯本 | 88 | 39 | ¥76–¥110k | 自家源泉毎分八〇〇リットル、大正創業の高原旅館 |
※ 目安価格は公開販売価格の集計に基づく参考値で、実際の予約料金とは異なります。一泊二名利用時の一室あたり料金(税込)です。
1. 大丸温泉旅館 — 栃木県那須町・奥那須
湯川そのものが浴槽になる、奥那須の川風呂。湯を継ぐ側の原点として、編集部が真っ先に推したい一軒。
Media Picks Score: 93 / 100 26室、中規模旅館。
目安価格 ¥47,000–¥67,000 / 泊 (二名一室・通常期)

なぜ選ばれるか
湯川の上流、大丸源泉の湧出地そのものを堰き止めて浴槽にした「川の湯」がこの宿の中心にある。引湯という概念を持たず、湯口までの距離がほぼゼロ——湯を継ぐ、というより湯そのものに宿を寄せて建てた造りである。日本秘湯を守る会の加盟宿でもあり、宿の運営姿勢に湯守の思想が濃く残る。標高一三〇〇メートル、那須連峰の主峰・茶臼岳の懐に抱かれた立地は、盛夏でも夜には肌寒さを感じるほど涼しい。
集約レビューの傾向
公開レビューの集約傾向を読むと、川風呂そのものへの言及が圧倒的に多く、湯温・湯量・野趣の三点で高い評価が続いている。館内も広めの造りで、内風呂も複数あるため、雨天や湯疲れの際の逃げ場が確保されているという声が目立つ。食事は山の宿らしい会席が中心で、派手さよりも土地の素材を丁寧に扱う姿勢が好まれている。一方、道が細く運転に慣れが要ることは前提として押さえておきたい。
向く人 / 向かない人
-
向く:
湯そのものを目的にする湯治型の旅、山の宿の静けさを望む夫婦、日本秘湯を守る会の巡り歩きをする愛好家 -
向かない:
幼児連れで動線に気を遣いたい家族、都市型ホテルの利便性を望む旅、乗換の少ない交通を優先する高齢者
具体情報
- 最寄り駅: JR那須塩原駅から車で約六〇分
- 標高: 一三〇〇メートル(茶臼岳東麓)
- チェックイン: 15:00〜 / アウト 〜10:00
- 食事: 会席(栃木・奥那須の山の素材中心)
- 湯の系統: 大丸系源泉(含硫黄泉)、川の湯・内風呂
- 加盟: 日本秘湯を守る会
2. 北温泉旅館 — 栃木県那須町・北温泉
江戸期の湯滝と長屋造りが残る、北温泉系の湯治宿。湯治の作法を現代に留める希少な一軒。
Media Picks Score: 92 / 100 江戸・明治・昭和三棟からなる湯治宿型の中規模旅館。
目安価格 ¥14,000–¥18,000 / 泊 (二名一室・通常期)

なぜ選ばれるか
那須湯本から北へ、林道を下った沢底にある湯治宿。江戸・明治・昭和の三時代の建物が湯滝を挟んで長屋のように連なる、他に類を見ない構成である。源泉は北温泉系の独自源泉で、鹿の湯系とは別系統。有名な「天狗の湯」の壁に掛かる大きな天狗面や、湯滝の下に立つ打たせ湯は、宿というより山中の湯治場の風景そのままで、代を継ぐたびに手を加えつつも大きく変えていない造りに湯守の哲学が読み取れる。
集約レビューの傾向
公開レビューを集約すると、湯そのものへの評価と、建物の古さを含んだ湯治的な設えを是とするか否かで反応が二分される傾向がある。湯滝・天狗の湯・打たせ湯など浴槽の多彩さと湯量については一貫して高い評価が集まり、湯本の宿とは別の系統として通う常連の声も目立つ。一方、建物の年季を「古い」と受け取る層には合わない。食事は素朴な湯治宿型で、宿泊費の水準と釣り合っている。
向く人 / 向かない人
-
向く:
湯治宿の空気を残す宿を選び歩く旅、複数の浴槽を巡ることを目的とする一人旅、江戸期からの湯場の歴史に関心を寄せる旅 -
向かない:
新しい設備や快適さを優先する旅、幼児連れで段差や湯温の管理に神経を使いたくない家族、洋室での就寝を望む人
具体情報
- 最寄り駅: JR那須塩原駅から車で約五〇分、林道の徒歩終盤あり
- チェックイン: 14:00〜 / アウト 〜10:00
- 食事: 湯治宿型(会席・自炊プランの両方あり)
- 湯の系統: 北温泉系独自源泉(含硫黄泉)、天狗の湯・湯滝・打たせ湯
- 建物: 江戸・明治・昭和の三期の棟が現存
3. 旅館 山快 — 栃木県那須町・那須湯本
鹿の湯源泉を引く、にごり湯の会に名を連ねる小宿。白濁の湯を家庭的な距離感で継ぐ一軒。
Media Picks Score: 91 / 100 10室、小規模旅館。
目安価格 ¥35,000–¥41,000 / 泊 (二名一室・通常期)

なぜ選ばれるか
那須湯本の集落、共同浴場・鹿の湯からほど近い位置にある小宿で、白濁の硫黄泉を継ぐ「にごり湯の会」の一員として知られる。客室数は十室と控えめで、湯口の温度管理や湯船の掃除に手が届く規模感が保たれている。家庭的な運営で、女将と料理人の距離が近いために、盛り込みや素材の説明が丁寧に届く。標高七〇〇メートル台の湯本集落は、盛夏でも朝夕に高原らしい涼が入る立地である。
集約レビューの傾向
公開レビューの集約傾向を見ると、湯本の共同浴場と自宿の湯を両方浴びる湯めぐり型の滞在で選ばれるケースが多い。湯質については、鹿の湯系の白濁がきちんと出ていることと、湯量に対する客室数のバランスへの評価が続く。食事は栃木の素材を軸にした会席で、量より質に寄せた構成が支持されている。一方、規模の小ささゆえに繁忙期は満室になりやすく、予約の早さが要る。
向く人 / 向かない人
-
向く:
鹿の湯を目的地とする湯めぐり型の一泊、小さな旅館の距離感を望む夫婦、白濁の硫黄泉に触れたい湯宿愛好家 -
向かない:
大浴場でゆったり時間を取りたい層、宴会型の大人数の旅、直前の予約で日程を柔軟にしたい旅
具体情報
- 最寄り駅: JR那須塩原駅から車で約四〇分
- チェックイン: 15:00〜 / アウト 〜10:00
- 食事: 会席(栃木の旬素材、量より質の構成)
- 湯の系統: 鹿の湯系源泉引湯(含硫黄・酸性泉)、白濁湯
- 加盟: にごり湯の会
4. 旅館 清水屋 — 栃木県那須町・那須湯本
湯本の路地に佇む鹿の湯源泉かけ流しの小旅館。湯を継ぐ手仕事の細やかさが伝わる一軒。
Media Picks Score: 89 / 100 12室、小規模旅館。
目安価格 ¥40,000–¥48,000 / 泊 (二名一室・通常期)

なぜ選ばれるか
那須湯本の共同浴場・鹿の湯へ徒歩数分の位置にあり、鹿の湯源泉をかけ流しで宿の内風呂と露天に引く小旅館である。江戸期からの湯本集落の路地に建物が身をひそめており、外観こそ地味だが、湯口の温度管理と浴槽の掃除に手が届く運営が続いている。宿の物語として「湯を絶やさぬために代を継いだ」姿勢が公式サイトからも伝わり、湯宿の原型を保つ一軒として挙げるべき宿である。
集約レビューの傾向
公開レビューの集約傾向としては、湯質そのものへの評価が圧倒的で、白濁の程度・湯口の温度・匂いの残り方といった湯守の仕事に踏み込んだ言及が多い。共同浴場との使い分けを楽しむ湯めぐり型の宿泊が中心で、夕食は素朴ながら丁寧な会席という声が続く。館内は昭和期のままの部分が残るため、新しさを求める層には合わないが、湯を目的とする旅では強く支持されている。
向く人 / 向かない人
-
向く:
湯本の路地の空気を含めて楽しむ大人の旅、鹿の湯とセットの湯めぐり滞在、静かな二名旅 -
向かない:
設備の新しさを重視する旅、大人数の宴会型滞在、幼児連れで館内の段差を避けたい家族
具体情報
- 最寄り駅: JR那須塩原駅から車で約四〇分(湯本停留所徒歩圏)
- 共同浴場: 鹿の湯まで徒歩数分
- チェックイン: 15:00〜 / アウト 〜10:00
- 食事: 会席(栃木の旬素材、量より質の構成)
- 湯の系統: 鹿の湯源泉かけ流し(含硫黄・酸性泉)、内風呂・露天
5. 那須温泉 山楽 — 栃木県那須町・那須湯本
大正十二年創業、湯本の高台に自家源泉を守り継ぐ旅館。規模を持ちつつ湯を継ぐ立ち位置の一軒。
Media Picks Score: 88 / 100 39室、中規模旅館。
目安価格 ¥76,000–¥110,000 / 泊 (二名一室・通常期)

なぜ選ばれるか
大正十二年(一九二三年)創業、湯本集落の高台に建つ中規模旅館である。系統としては鹿の湯系の引湯ではなく、自家源泉を毎分数百リットル規模で持ち、加温・循環・ろ過を行わないかけ流しを続けている。那須御用邸に近い立地から歴史的な来賓の記録も残る宿で、集落の湯宿群とは別の脈で湯本の湯を継いできた。規模と静けさが両立する数少ない例で、盛夏の避暑滞在にも合う。
集約レビューの傾向
公開レビューの集約を見ると、湯量の豊富さと大浴場のゆとり、そして食事の完成度への評価が並び立っている。中規模ながら静けさが保たれており、団体客中心の宿とは印象が異なる。一方、価格帯は湯本の他の湯宿より一段上に位置し、湯めぐり型ではなく宿にじっくり留まる旅に向く。館内の廊下や庭園の手入れの丁寧さを挙げる声も多い。
向く人 / 向かない人
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向く:
宿にじっくり留まる二泊三日の避暑、記念日を含む夫婦旅、規模を持った旅館の落ち着きを望む旅 -
向かない:
湯本の共同浴場との湯めぐりを主目的にする旅(自家源泉系のため系統が異なる)、価格帯を抑えたい旅
具体情報
- 最寄り駅: JR那須塩原駅から車で約四〇分
- 創業: 大正十二年(一九二三年)
- チェックイン: 15:00〜 / アウト 〜11:00
- 食事: 会席(栃木の食材、料理長監修)
- 湯の系統: 自家源泉、加温・循環・ろ過なしのかけ流し、露天・大浴場
よくある質問
Q. 盛夏の那須湯本はどれくらい涼しいですか?
A. 湯本の集落は標高七〇〇メートル前後、大丸温泉・北温泉あたりで標高一〇〇〇メートル超に達する。盛夏の日中でも最高気温は平地より五度から八度低く、日没後は上着が要る日も少なくない。八月中旬までの避暑滞在としても機能する高原気候である。
Q. 鹿の湯系の白濁湯は皮膚に刺激が強いと聞きますが、どう向き合えばよいですか?
A. 鹿の湯系は含硫黄・酸性泉で、湯口の温度も四十度台後半から五十度に達する浴槽がある。連続で長時間浸かるより、短時間を数回に分ける入り方が湯治の作法として伝えられてきた。アトピー等の肌の弱さがある場合は、事前に湯宿に確認しておくのが安全である。
Q. 湯めぐりをする場合、宿の湯と共同浴場・鹿の湯の使い分けはどうすべきですか?
A. 湯本集落に泊まる場合、宿の湯は白濁度がやや控えめに調整されていることがあり、共同浴場・鹿の湯は湯口温度が高く白濁が濃い傾向にある。夕食前に共同浴場、就寝前に宿の湯、朝湯は宿という順に組むと、湯質の対比を体感できる。
Q. 子連れでも泊まれますか?
A. 大丸温泉旅館・北温泉旅館は湯の性格上、幼児連れには段差や湯温の管理という点で難度が上がる。宿への事前確認が前提となる。那須温泉 山楽は中規模で導線が整っており、子連れの受け入れ実績も一定ある。旅館 山快・清水屋は小規模のため、事前相談が必須である。
Q. 交通の便は?
A. 東京方面からは東北新幹線でJR那須塩原駅まで約七〇分、那須塩原駅から湯本集落まで路線バスで約六〇分、車で約四〇分。奥那須の大丸温泉・北温泉方面はさらに山道を進むため、車での移動が現実的である。
本記事の参考情報
・那須町観光協会 那須の温泉 — 那須温泉郷の源泉系統と歴史
・那須温泉 鹿の湯 — 共同浴場・鹿の湯の公式情報
・那須温泉旅館協同組合 — 湯本集落の湯宿の登録情報
編集部から
五軒はいずれも那須温泉郷という一つの湯場のうえに立ちながら、系統も規模も価格も等しく違う。大丸系・北温泉系・鹿の湯系という源泉の別と、湯守の姿勢の別が、宿の輪郭をここまではっきり形にしていることに、湯を継ぐという営みの奥行きが見える。次に紹介したいのは、白濁湯を持たない別の名湯、たとえば会津の東山や、栃木のもう一つの秘湯・板室あたりである。あなたの湯宿の記憶に、どの一軒が加わっただろうか。