梅雨が明けるころの横湯川は、瀬音をひときわ高くする。信州・山ノ内の渋温泉に九つの外湯が湯口を開けるこの季節、宿に泊まった客にだけ外湯の鍵が手渡される——その古い作法を軸に、渋と湯田中の湯宿五軒を、地図とともに編んだ。江戸期の湯番付に名を連ねた湯場の歴史、源泉の数と湯量、外湯から宿までの石畳の距離。数値と継承の話で、志賀高原山麓の里を歩く一夜を描く。
| # | 宿 | 湯場 | Score | 客室 | 目安価格 | 一行の輪郭 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 1 | 春蘭の宿 さかえや | 渋温泉 | 93 | 25 | ¥64–¥100k | 石畳に面し、九湯めぐりの起点となる創作信州会席の宿 |
| 2 | 湯田中温泉 よろづや | 湯田中温泉 | 93 | 38 | ¥60–¥79k | 登録有形文化財の桃山風呂を擁する、湯田中の老舗 |
| 3 | 和風の宿 ますや | 湯田中温泉 | 92 | 20 | ¥40–¥62k | 四源泉を引く純天然のかけ流し、岩造りの露天が静か |
| 4 | 渋ホテル | 渋温泉 | 91 | 20 | ¥57–¥69k | 渋の谷を望む高みに建ち、玄関の檜彫りが迎える |
| 5 | 歴史の宿 金具屋 | 渋温泉 | 89 | 29 | ¥48–¥59k | 木造四階「斉月楼」は国登録有形文化財、渋温泉の象徴 |
※ 目安価格は公開販売価格の集計に基づく参考値で、実際の予約料金とは異なります。一泊二名利用時の一室あたり料金(税込)です。
1. 春蘭の宿 さかえや — 渋温泉
渋温泉の石畳に面し、九つの外湯めぐりの起点となる一軒。創作信州会席と源泉かけ流しが、湯場の客を長く呼び戻す。
Media Picks Score: 93 / 100 25室、温泉旅館。
目安価格 ¥64,000–¥100,000 / 泊(二名一室・通常期)

なぜ選ばれるか
湯が、まず迎える。渋温泉の中心、石畳の通りに面して建つこの宿は、浴衣と下駄でそのまま九湯めぐりに出られる立地が身上である。創業は昭和二年(一九二七年)、代を重ねるなかで磨かれた創作信州会席は、地の山菜と信州牛を主役に据え、湯治の宿の枠を越えた評価を得てきた。二〇二一年には貸切の露天とサウナを新たに設え、湯と食の両輪で里の夜を支えている。
集約レビューの傾向
公開レビューデータを集計したところ、料理への支持が群を抜いて高く、季節ごとに献立を組み替える姿勢が繰り返し評価されている。源泉かけ流しの湯質と、若い働き手の応対の温かさを挙げる声も多い。一方で、石畳沿いという立地ゆえ、車での到着時に荷の運び入れにひと手間かかる点を気にかける向きもある。湯場の賑わいと静けさの境を、宿側が丁寧に整えている印象が残る。
向く人 / 向かない人
-
向く:
外湯めぐりを旅の主軸に据える人、夕食の地物会席を楽しみにする夫婦旅、浴衣と下駄で湯の街を歩きたい人 -
向かない:
宿の前まで車を横づけしたい旅程(石畳のため徒歩運搬あり)、夕食を簡素に済ませたい滞在
具体情報
- 最寄り駅: 長野電鉄・湯田中駅から車で約7分(送迎あり)
- 外湯まで: 渋温泉九湯の各湯まで徒歩1〜5分、宿で外湯の鍵を受け取る
- チェックイン: 15:00〜 / アウト 〜10:00
- 食事: 夕食は創作信州会席、信州牛と地の山菜が中心
- 創業: 1927年(昭和2年)
- 湯: 源泉かけ流し、2021年に貸切露天・サウナを新設
2. 湯田中温泉 よろづや — 湯田中温泉
登録有形文化財の桃山風呂を擁する、湯田中の老舗。木造の湯殿が、明治からの湯文化をそのまま今に伝える。
Media Picks Score: 93 / 100 38室、温泉旅館。
目安価格 ¥60,000–¥79,000 / 泊(二名一室・通常期)

なぜ選ばれるか
数寄屋造りの湯殿が、この宿の語り手である。湯田中温泉の中心に建つよろづやは、昭和初期に普請された「桃山風呂」が国の登録有形文化財に指定され、唐破風の屋根と総檜の湯船が当時の意匠をそのまま伝える。創業は古く、湯田中の宿場を支えてきた一軒として、源泉かけ流しの湯と、信州の食材を組み上げた会席で旅人を迎える。離れの松籟荘には露天付きの客室も備える。
集約レビューの傾向
公開レビューデータを集計すると、桃山風呂の建築美と湯の質を称える声が際立つ。文化財の湯殿に身を沈める体験は、この宿でしか得られないものとして繰り返し言及される。料理の品数と地物の使い方への満足も高い。一方、館が大きく棟が分かれるため、湯殿までの動線をやや長く感じる向きもある。歴史を重んじる宿らしく、設えの古格と手入れの行き届きが両立している印象が残る。
向く人 / 向かない人
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向く:
温泉建築に関心のある人、文化財の湯殿で湯を浴びたい人、湯田中駅から徒歩圏の便を重んじる旅 -
向かない:
小ぢんまりとした宿の親密さを求める人、館内の移動を最小限にしたい滞在
具体情報
- 最寄り駅: 長野電鉄・湯田中駅から徒歩約8分(送迎あり)
- 湯殿: 登録有形文化財「桃山風呂」、唐破風屋根の木造大浴場
- チェックイン: 15:00〜 / アウト 〜10:00
- 食事: 信州の旬を組んだ会席、夕食・朝食とも館内
- 客室: 38室、離れ「松籟荘」に露天付き客室あり
- 湯: 天然温泉かけ流し
3. 和風の宿 ますや — 湯田中温泉
四つの源泉を引く純天然のかけ流しが身上。岩造りの露天が、湯田中の静かな一夜を約束する。
Media Picks Score: 92 / 100 20室、温泉旅館。
目安価格 ¥40,000–¥62,000 / 泊(二名一室・通常期)

なぜ選ばれるか
湯が、四つの源から注ぐ。およそ一四〇年前に湯田中で開業したますやは、地獄谷温泉を含む四ケ所の源泉から湯を引く純天然のかけ流しを掲げる。岩を組んだ露天は葦簀に囲われ、湯場の喧噪から離れた静けさを保つ。料理は「プロが選ぶ日本のホテル・旅館百選」に名を連ねた評価を持ち、旬の地の食材を料理長が組み上げる。源泉かけ流しの露天を備えた客室も四室用意される。
集約レビューの傾向
公開レビューデータを集計したところ、湯の鮮度と量への評価が際立って高い。四源泉を引くという湯使いの贅は、温泉に通じた客ほど強く支持する傾向が見て取れる。料理の品数と質、応対の細やかさを挙げる声も多い。一方で、客室の設えは華美を避けた落ち着いた和の意匠で、新しさを求める向きには地味に映ることもある。湯と食を旅の核に据える人に、静かに長く愛される一軒という印象が残る。
向く人 / 向かない人
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向く:
湯の鮮度と量を重んじる温泉通、岩造りの露天で静かに過ごしたい夫婦旅、地物会席を目当てにする滞在 -
向かない:
洋風の新しい設えを好む人、館内に多彩な娯楽設備を求める旅程
具体情報
- 最寄り駅: 長野電鉄・湯田中駅から車で約3分(送迎あり)
- 源泉: 地獄谷温泉ほか四ケ所の源泉を引く純天然かけ流し
- チェックイン: 15:00〜 / アウト 〜10:00
- 食事: 「プロが選ぶ日本のホテル・旅館百選」入選の会席
- 客室: 20室、源泉かけ流し露天付き客室4室
- 創業: 約140年前(明治期)
4. 渋ホテル — 渋温泉
渋の谷を望む高みに建ち、檜彫りの玄関が迎える一軒。源泉四種を湛えた湯と地の会席が、湯場の夜を整える。
Media Picks Score: 91 / 100 20室、温泉旅館。
目安価格 ¥57,000–¥69,000 / 泊(二名一室・通常期)

なぜ選ばれるか
玄関の檜彫りが、まず旅人を迎える。渋温泉の谷を見下ろす高みに建つ渋ホテルは、昭和十一年(一九三六年)の創業以来、湯場の宿として代を重ねてきた。館内には源泉を異にする内湯と露天、貸切の家族風呂が設えられ、いずれも天然温泉のかけ流しである。夕餉は信州の地物を主役にした会席で、谷の眺めと湯と食を一夜のうちに味わえる構えが、長く支持を集めてきた。
集約レビューの傾向
公開レビューデータを集計すると、湯の種類の豊かさと、谷を望む眺めへの満足が目立つ。貸切風呂を備える点が、家族連れや夫婦旅に重宝されている。応対の親身さを挙げる声も多い。一方、谷の高みに建つ構造上、館内に段差や階段があり、移動にやや足を使う場面があると気にかける向きもある。湯と眺めの両方を一夜で得たい人に、静かに応える宿という印象が残る。
向く人 / 向かない人
-
向く:
貸切風呂を使いたい家族・夫婦旅、谷の眺めを湯から楽しみたい人、外湯めぐりと館内湯の両方を欲する滞在 -
向かない:
館内の段差・階段が負担になる人、平坦な動線を最優先する旅程
具体情報
- 最寄り駅: 長野電鉄・湯田中駅から車で約6分(送迎あり)
- 外湯まで: 渋温泉九湯まで徒歩圏、宿で外湯の鍵を受け取る
- チェックイン: 15:00〜 / アウト 〜10:00
- 食事: 信州の地物を組んだ会席
- 湯: 内湯・露天・貸切風呂、いずれも天然温泉かけ流し
- 創業: 1936年(昭和11年)
5. 歴史の宿 金具屋 — 渋温泉
木造四階の「斉月楼」は国の登録有形文化財。渋温泉の象徴として、昭和初期の普請を今も湯とともに守る。
Media Picks Score: 89 / 100 29室、温泉旅館。
目安価格 ¥48,000–¥59,000 / 泊(二名一室・通常期)

なぜ選ばれるか
木造四階の楼が、渋温泉の空を区切る。宝暦年間(一七五八年)に湯宿として開かれた金具屋は、昭和十一年に普請された数寄屋造りの「斉月楼」と「大広間」が、平成十五年に国の登録有形文化財へ加えられた。館内には岩窟、鎌倉、ローマなど泉質と趣を異にする八つの湯が点在し、源泉かけ流しの湯で当時の温泉文化を今に伝える。建物そのものが、渋温泉の歴史を語る一巻の書物のような宿である。
集約レビューの傾向
公開レビューデータを集計すると、斉月楼の建築美に対する驚嘆が最も多く語られる。木組みの廊下と吊り行灯の連なりは、ほかでは得がたい情景として繰り返し言及される。八つの湯を館内で巡る楽しさも支持が厚い。一方、文化財建築ゆえに客室の設えや段差は現代の宿とは異なり、快適さより趣を採る点を理解して訪ねたい、という声も見られる。歴史を味わう宿として、その立ち位置は明快である。
向く人 / 向かない人
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向く:
温泉建築と文化財に強い関心のある人、館内八湯を巡りたい湯好き、昭和初期の意匠を味わいたい旅 -
向かない:
現代的な快適さ・バリアフリーを最優先する人、客室の新しさを重んじる滞在
具体情報
- 最寄り駅: 長野電鉄・湯田中駅から車で約7分(送迎あり)
- 文化財: 木造四階「斉月楼」「大広間」が国の登録有形文化財(2003年)
- 湯: 岩窟・鎌倉・ローマ風呂など館内八湯、源泉かけ流し
- チェックイン: 15:00〜 / アウト 〜10:00
- 外湯まで: 渋温泉九湯まで徒歩1〜3分、宿で外湯の鍵を受け取る
- 創業: 1758年(宝暦年間)
よくある質問
Q. 外湯めぐりはどう楽しめますか?
A. 渋温泉には初湯から大湯まで九つの外湯があり、宿に泊まった客には外湯の鍵が手渡されます。浴衣と下駄のまま石畳を歩き、源泉と効能の異なる湯を順に巡るのが古くからの作法です。九湯を巡って厄を祓うという信仰も伝わります。湯田中側の宿からも徒歩で渋の外湯へ向かえます。
Q. 湯の効能や泉質はどのようなものですか?
A. 渋・湯田中の湯は単純温泉から硫黄を含む湯まで源泉ごとに性状が異なり、神経痛や冷え、疲労回復に適すとされてきました。ますやは四源泉を引く純天然かけ流し、金具屋は館内八湯と、宿ごとに湯使いが分かれます。湯あたりを避けるため、外湯めぐりは間に休みを挟むのが穏当です。
Q. 食事はどのような内容ですか?
A. 各宿とも信州の地物を主役にした会席が核で、信州牛や旬の山菜、川の幸が膳に並びます。さかえやは創作信州会席、ますやは「プロが選ぶ日本のホテル・旅館百選」入選の料理で知られます。夕食・朝食とも館内で供される宿がほとんどです。
Q. アクセスは?
A. 長野電鉄・湯田中駅が玄関口で、長野駅から特急で約45分、湯田中駅から各宿へは徒歩または車で5〜10分です。多くの宿が駅からの送迎を備えています。車の場合は上信越自動車道・信州中野ICから約15分です。
Q. 梅雨明け・盛夏前に訪ねる利点はありますか?
A. 横湯川の水量が増し、瀬音が外湯めぐりの道に心地よく響くのがこの時季です。志賀高原山麓は標高が高く、里の夏は比較的しのぎやすいため、湯あがりの夜歩きが快適です。編集部が一年のうちで歩きやすさを推す時季のひとつです。
本記事の参考情報
・山ノ内町(公式) — 渋温泉・湯田中温泉の地域情報
・Wikipedia: 渋温泉 — 外湯文化と歴史の背景
・Wikipedia: 湯田中温泉 — 湯田中渋温泉郷の地理
編集部から
横湯川を挟んで隣り合う渋と湯田中は、ひとつの湯郷として歴史を編んできた。今回選んだ五軒に通底するのは、外湯という共同の財を地域で守り、宿がその鍵を旅人に手渡すという継承の作法である。文化財の湯殿に泊まる宿もあれば、四源泉のかけ流しを誇る宿もある。湯と食、建物と街——どこに重心を置くかで選ぶ一軒は変わる。梅雨が明け、瀬音の高くなる夜に、あなたはどの湯から巡り始めるだろうか。