処暑の候、久住の裾を流れる芹川の瀬音が朝夕に涼を運ぶ頃、豊後・長湯で炭酸泉の湯治を継ぐ一軒を挙げるなら、芹川のほとりに立つ大丸旅館である。大正6年(1917年)の創業以来、この宿は世界でも屈指といわれる高濃度の炭酸泉を汲み、湯温を低く保って長く浸かる「長湯」の作法を今に伝えてきた。別府・由布院を数多く扱いながら、当メディアが直入・長湯の泡の湯を一軒の主題として据えるのは、これがはじめてになる。湯と建物を主語に、泡を静かに継ぐ宿の来歴を辿りたい。

※ 目安価格は公開販売価格の集計に基づく参考値で、実際の予約料金とは異なります。1泊2名利用時の1室あたり料金(税込)です。Media Picks Score は公開レビューデータを集計した集約スコアで、個別の評価点は表示していません。
芹川のほとり、大正六年からの木造
宿は、芹川の流れに背を寄せるように立っている。大正6年(1917年)の創業。久住連山の伏流が集まる直入の谷で、大丸旅館は一世紀を超えて湯を守り、代を継いできた。建物は木造で、川面へと下る斜面に大浴場と客室が段をなして連なる。夕刻、障子に灯がともると、瀬音のうえに温かな光が並び、湯宿の輪郭が水に映る。全15室という小体な構えは、客をさばく規模ではなく、湯と静けさに向き合わせるための寸法だといえる。別館「藤花楼」を擁し、川に近い棟では、窓を開ければ芹川の音がそのまま部屋に入ってくる。
泡を纏う湯と、低温長湯の作法
長湯の湯は、湯面に細かな泡を纏う。ナトリウム・炭酸水素塩を含み、二酸化炭素を高濃度に溶かした炭酸泉で、世界でも屈指の濃さといわれてきた。大丸旅館の内湯「テイの湯」は、鉄分とミネラルを含んだにごり湯(pHは6.4前後)。源泉はおよそ50度と高いが、長湯ではこれを敢えて低く整え、ぬるめの湯に長く浸かる。地名の「長湯」がそのまま作法を指すように、熱さで身を追い立てず、泡と体温を馴染ませて長く留まるのがこの土地の湯治である。飲泉もまた長湯に根づいた文化で、湯を体の内から取り込む習わしが残る。宿泊すれば、外湯「ラムネ温泉館」に入館できる。建築家・藤森照信の設計で2005年に開いたこの湯屋は、露天のぬる湯が32度、内湯のにごり湯が42度。銀色の細かな気泡が肌を包む感覚は、写真では伝わりにくい、長湯ならではの体感である。
滞在と、土地の膳
朝の膳には、源泉で炊いた「源泉粥」が並ぶ。湯を飲み、湯で炊いた粥を食すという、飲泉の里らしい一椀である。夕餉には、久住高原に育つ豊後牛や、清流の魚エノハ(ヤマメ)といった土地の素材が据えられる。客室は本館のほか、別館「藤花楼」や「竹田」の間があり、川に面した部屋では瀬音を聞きながら夜を過ごすことができる。15室という数は、湯めぐりと膳、そして眠りのあいだに余白を残す。処暑を過ぎ、高原の朝夕が涼を含みはじめる頃、ぬる湯に長く浸かってから源泉粥で一日を開ける——長湯の湯治は、そうした緩やかな時間の設計そのものである。
集約レビューが映すこの宿の姿
公開レビューデータを集計すると、この宿への評価は湯そのものに集まっている。泡の質感と低温長湯の心地よさ、飲泉を含む湯治の作法、そして外湯ラムネ温泉館へ足を運べる点が、繰り返し支持の核をなす。源泉粥をはじめとする朝の膳も、土地の湯を味わう体験として印象に残るという傾向が読み取れる。一方で、木造ゆえの段差や、川沿いの立地に伴う階段の上り下りは人を選ぶ側面がある。湯を主目的に、静かに長く浸かる旅を望む層に、評価が厚く寄る一軒だと言える。
立地と周辺
長湯温泉は、久住連山の東麓、竹田市直入町の芹川沿いに開けた湯の里である。川床に湧く露天「ガニ湯」をはじめ、飲泉場や外湯が谷に点在し、集落そのものが湯治場の風情を残す。大丸旅館はその中心近くに位置し、湯めぐりの拠点になる。アクセスは、JR豊肥本線・豊後竹田駅から車でおよそ20〜30分。大分市方面からは車で1時間ほどで、久住高原のドライブと合わせて訪れる旅程に合う。処暑から秋へ、高原が色を移す季節は、涼と湯を同時に味わえる時季である。
具体情報
- 所在地: 大分県竹田市直入町長湯7992-1(長湯温泉)
- 最寄り駅: JR豊肥本線・豊後竹田駅から車でおよそ20〜30分
- 客室数: 全15室(本館・別館「藤花楼」ほか)
- 湯: 炭酸水素塩泉(含二酸化炭素・にごり湯、pH6.4前後/源泉約50度)、内湯「テイの湯」
- 外湯: ラムネ温泉館(藤森照信設計・2005年開館/露天32度・内湯42度、宿泊者入館可)
- 食事: 朝は源泉で炊く「源泉粥」、夕は豊後牛・エノハなど土地の膳
- 創業: 大正6年(1917年)
- 目安価格: 1泊2名 ¥42,000〜¥56,000(通常期・税込)
向く人 / 向かない人
-
向く:
ぬる湯に長く浸かる湯治を望む夫婦旅、炭酸泉や飲泉の文化に関心のある温泉通、久住高原の静けさを求める40〜70代の旅 -
向かない:
段差や階段の少ない造りを要する旅(木造・川沿いの地形ゆえ上り下りがある)、熱い湯に短時間で入りたい人、公共交通のみで小刻みに移動したい旅程
Media Picks Score
93 / 100 全15室、大正6年創業の炭酸泉宿。評価の輪郭は、湯質(高濃度炭酸泉・低温長湯)/歴史と建物(芹川沿いの木造・一世紀超の継承)/体験(飲泉・源泉粥・外湯ラムネ温泉館)/土地の膳(豊後牛・エノハ)/編集適合度(長湯を一軒として据える主題性)から成る。数値は公開レビューデータを集計した集約スコアで、個別の評価点は含まない。
目安価格 ¥42,000〜¥56,000 / 泊 (2名1室・通常期)
よくある質問
Q. 炭酸泉とは、どのような湯ですか?
A. 二酸化炭素を高濃度に溶かした温泉で、湯面や肌に細かな泡を纏うのが特徴です。長湯温泉は世界でも屈指の濃さといわれ、ぬるめの湯に長く浸かることで泡が肌を包みます。大丸旅館の内湯はにごり湯(pH6.4前後)で、鉄分やミネラルを含みます。
Q. なぜ「長湯」は湯温を低くして入るのですか?
A. 炭酸泉は熱くしすぎると気泡が抜けやすく、ぬるめのほうが泡と体温が馴染みやすいためです。地名の「長湯」が示すとおり、熱さで身を追い立てず、低い湯温に長く留まるのが土地の作法とされます。外湯ラムネ温泉館の露天は32度前後に保たれています。
Q. 飲泉や源泉粥とは何ですか?
A. 飲泉は温泉水を体の内から取り込む長湯古来の習わしで、大丸旅館では朝食に源泉で炊いた「源泉粥」が供されます。湯に浸かるだけでなく、湯を味わうという湯治の一面を体験できます。
Q. 宿泊者は外湯のラムネ温泉館に入れますか?
A. 入館できます。ラムネ温泉館は大丸旅館の外湯にあたり、建築家・藤森照信の設計で2005年に開きました。露天のぬる湯とにごり湯の内湯があり、宿の内湯とあわせて長湯の炭酸泉を味わえます。
Q. アクセスはどうなっていますか?
A. JR豊肥本線・豊後竹田駅から車でおよそ20〜30分、大分市方面からは車で1時間ほどです。久住高原のドライブと組み合わせる旅程に合います。処暑から秋にかけては高原の朝夕が涼を含み、湯治に落ち着く季節です。
本記事の参考情報
・大分県観光情報公式サイト(ラムネ温泉館) — 長湯温泉・炭酸泉の観光情報
・Wikipedia: 長湯温泉 — 炭酸泉・飲泉・地理の背景
・たけ旅(竹田市観光ポータル) — 竹田市・直入エリアの案内
編集部から
湯を熱で味わうのではなく、ぬるい泡に身を預けて時間を味わう——長湯の湯治は、速さとは逆の作法である。大丸旅館は、大正六年からその作法を建物ごと守り、芹川の音と源泉粥の朝で一日を静かに開いてきた。処暑を越え、久住高原が涼を含みはじめる季節は、炭酸泉と向き合うのにふさわしい。別府・由布院の華やかさとはまた違う、直入の谷に泡を継ぐ一軒を、湯治志向の旅の候補に加えてほしい。次はどの湯里の、どんな作法を辿ろうか。
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