盛夏の箱根は、麓の蝉時雨を離れて早雲山を渡る冷気の中に身を置く宿でこそ、その本領を見せる。仙石原の芒原と強羅の斜面、明星ヶ岳の大文字を望む山あいに、客室それぞれの露天で大涌谷から引いた白濁の硫黄泉と源泉掛け流しの湯を楽しめる五軒を、地図とともに紹介する。明治の避暑地として開けた箱根の山の湯の系譜と、軒先の静けさのなかに編集部が選んだ夏の宿である。
| # | 宿 | エリア | Score | 客室 | 目安価格 | 1行特徴 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 1 | 強羅花扇 | 強羅 | 95 | 20 | ¥100k–¥131k | 飛騨高山系運営、全室源泉掛け流しの客室露天と飛騨牛の夕食 |
| 2 | THE HIRAMATSU 仙石原 | 仙石原 | 94 | 20 | ¥128k–¥200k | 仙石原のすすき原を望む新湯本温泉掛け流し、平松グループ食彩 |
| 3 | 強羅花扇 円かの杜 | 強羅 | 93 | 20 | ¥119k–¥156k | 強羅斜面の森の中、20室すべて森向き露天と掛け流し |
| 4 | 金乃竹 仙石原 | 仙石原 | 91 | 11 | ¥142k–¥194k | 竹取物語の宿、全11室露天、夜は籠提灯で迎えられる |
| 5 | 箱根料理宿 弓庵 | 強羅 | 89 | 10 | ¥88k–¥114k | 10室小宿、料理を主目的に、全室半露天の掛け流し |
※ 目安価格は公開販売価格の集計に基づく参考値で、実際の予約料金とは異なります。1泊2名利用時の1室あたり料金(税込)です。
1. 強羅花扇 — 強羅
強羅の斜面に二十室。飛騨高山系の運営が育てた、客室露天の系譜を編集部が静かに推す一軒。
Media Picks Score: 95 / 100 20室、客室露天付き旅館。
目安価格 ¥100,000–¥131,000 / 泊 (2名1室・通常期)

なぜ選ばれるか
飛騨高山で温泉旅館を営む同名のグループが、平成21年に強羅斜面の中腹に開いたのが本館・強羅花扇である。全二十室すべてに源泉掛け流しの露天を備え、湯は強羅温泉の自家源泉を引く。建物は数寄屋造りを基調に、廊下の幅と段差を抑えた高齢の客への配慮も静かに行き届く。夕食は飛騨牛と地のもので構成された会席が個室で供される運用で、年配の夫婦旅・記念日旅に厚い支持がある。
集約レビューの傾向
公開レビューデータを集計すると、湯量と湯温の安定、接客の静かさ、料理長の采配への評価が突出する一方、館内の段差や坂道のアクセスについては事前案内の通りの起伏がある旨を承知のうえで利用する層が中心であることがうかがえる。仙石原方面の喧噪を離れた静謐を求める層に支持が集まる傾向にある。
向く人 / 向かない人
-
向く:
記念日・夫婦旅、客室露天で過ごす時間を主目的にする旅、飛騨牛と会席料理を期待する食通 -
向かない:
乳幼児連れの家族(小規模・静寂運営)、観光地巡り中心で宿に戻る時間が短い旅程、洋食中心の食を望む人
具体情報
- 最寄り駅: 箱根登山鉄道 強羅駅から徒歩 約12分(送迎あり・要予約)
- 客室サイズ: 50〜70 ㎡ 級(全室露天風呂付き)
- チェックイン: 15:00〜18:00 / アウト 〜11:00
- 食事: 夕食・朝食ともに個室会席(飛騨牛中心)
- 開業: 2009年(飛騨高山系運営)
- 泉質: 強羅温泉 自家源泉、源泉掛け流し
2. THE HIRAMATSU HOTELS & RESORTS 仙石原 — 仙石原
仙石原のすすき原の縁に二十室。フランス料理の系譜を持つ平松グループの、和洋の境にある一軒。
Media Picks Score: 94 / 100 20室、客室露天付きホテル。
目安価格 ¥128,000–¥200,000 / 泊 (2名1室・通常期)

なぜ選ばれるか
フランス料理「ひらまつ」を出自に持つグループが、平成28年末に仙石原のすすき原の縁に開いた全二十室の宿である。各客室にはテラスと、新湯本系の源泉から引いた掛け流しの露天が備わる。料理は宿泊棟内のレストランでフレンチコースとして提供され、和の宿に多い個室会席とは対照的に、洋の宴席が中心の構成となる。テラスからは盛夏のすすきが青く揺れる原と、湯坂山の稜線が借景となる。
集約レビューの傾向
公開レビューデータを集計すると、料理(フレンチコース)と景観への高評価が中心を占め、和の旅館で当たり前に用意される夕食の個室会席を期待した層との温度差が一定数見られる。和洋いずれの食を期待するか、滞在前の確認が滞在満足度を左右する旨が読み取れる。
向く人 / 向かない人
-
向く:
フレンチコースで夕食を取りたい記念日旅、すすき原を望むテラスでの時間を主目的とする旅、ワインを楽しみたい層 -
向かない:
会席料理を期待する和旅館志向の客、子連れの家族(静寂運営)、和の建築意匠を主目的とする旅
具体情報
- 最寄り駅・送迎: 小田原駅からタクシーで約40分(送迎要予約)
- 客室サイズ: 60〜90 ㎡(テラス・露天風呂付き)
- チェックイン: 15:00〜 / アウト 〜12:00
- 食事: 夕食フレンチコース・朝食洋食または和定食
- 開業: 2016年12月
- 泉質: 新湯本系の温泉、源泉掛け流し
3. 強羅花扇 円かの杜 — 強羅
本館のさらに上、強羅の森に二十室。客室露天が森を見下ろす、姉妹館としての強い独立性。
Media Picks Score: 93 / 100 20室、客室露天付き旅館。
目安価格 ¥119,000–¥156,000 / 泊 (2名1室・通常期)

なぜ選ばれるか
平成26年末、本館の上方斜面に開かれた姉妹館である。設計のテーマは「森を見下ろす客室露天」であり、二十室すべてが森側に開かれ、檜の浴槽が広めに設えられている。湯は本館同様、強羅の自家源泉から引く掛け流しで、湯量と湯温の安定がここでも保たれている。本館より客層が若い夫婦・記念日旅にやや傾く運用で、夕食は半個室の会席となる。
集約レビューの傾向
公開レビューデータを集計すると、森の借景と露天の広さ、湯の質への評価が高く、本館と比較した際の独立性(姉妹館だが運営思想が異なる)が明確に伝わっている旨がうかがえる。施設の新しさへの評価も継続的に高い水準にある。
向く人 / 向かない人
-
向く:
30〜50代の夫婦旅、新しさのある設備を望む層、檜の客室露天で森を望む時間を主目的とする旅 -
向かない:
古い旅館の侘びを主目的とする旅、子連れの家族、アクセスに利便性を求める旅程
具体情報
- 最寄り駅・送迎: 箱根登山鉄道 強羅駅から送迎で約5分(要予約)
- 客室サイズ: 60〜80 ㎡(檜の客室露天付き)
- チェックイン: 15:00〜 / アウト 〜11:00
- 食事: 夕食・朝食ともに会席(半個室)
- 開業: 2014年12月
- 泉質: 強羅温泉 自家源泉、源泉掛け流し
4. 金乃竹 仙石原 — 仙石原
竹取物語をテーマに編まれた仙石原の小宿。全11室の客室露天、籠提灯と竹林の意匠を編集部が選ぶ。
Media Picks Score: 91 / 100 11室、客室露天付き旅館。
目安価格 ¥142,000–¥194,000 / 泊 (2名1室・通常期)

なぜ選ばれるか
平成17年、仙石原の高台に開かれた「竹取物語」をテーマにした全十一室の小宿である。客室はそれぞれ「翁」「媼」「かぐや」など物語の人物にちなんだ名を冠し、すべてに源泉掛け流しの露天が備わる。夜のチェックインは暗めの照明で構成され、敷地内の竹林・苔庭・回廊の意匠は一貫して暗めの照明で構成されている。仙石原の喧噪を離れた斜面に位置し、湯坂山の稜線が借景となる。
集約レビューの傾向
公開レビューデータを集計すると、館の世界観の作り込み、夜の演出、客室露天の広さへの評価が中心を占める。一方、コンセプトが強い宿の常として、宿の世界観に馴染む滞在姿勢を求める運用となるため、ビジネスライクな宿泊を期待する層との温度差は一定数見られる。
向く人 / 向かない人
-
向く:
コンセプチュアルな宿の作り込みを楽しむ旅、夫婦・カップルの記念日旅、夜の暗めの照明を好む層 -
向かない:
子連れの家族、簡素・明るい宿を望む層、外出して観光地巡りを主目的とする旅程
具体情報
- 最寄り駅・送迎: 強羅駅から送迎(要予約)、東京から車で約2時間
- 客室サイズ: 60〜100 ㎡(全室露天風呂付き)
- チェックイン: 15:00〜 / アウト 〜11:00
- 食事: 夕食・朝食ともに会席(個室)
- 開業: 2005年
- 泉質: 大涌谷造成泉(白濁の硫黄泉)を引く客室あり
5. 箱根料理宿 弓庵 — 強羅
強羅の谷に十室。料理を主目的にした小宿、全客室の半露天が掛け流しの湯を待つ。
Media Picks Score: 89 / 100 10室、客室半露天付き料理宿。
目安価格 ¥88,000–¥114,000 / 泊 (2名1室・通常期)

なぜ選ばれるか
平成20年、強羅の谷あいに開かれた全十室の小宿である。「料理宿」を屋号に掲げる通り、夕食の会席を滞在の中心に据える運用で、本館六室・離れ三室と客室規模はあえて拡げず、料理長の目の届く範囲を保っている。全客室に箱根の山を望む半露天が備わり、湯は掛け流し。価格帯はこのクラスの客室露天宿のなかではやや抑えられている部類に入り、料理と湯のバランスを取りたい層に支持がある。
集約レビューの傾向
公開レビューデータを集計すると、夕食会席の構成と素材、量と質のバランスへの評価が中心を占め、客室露天宿としては設備の華やかさよりも料理に主軸を置く宿である旨が広く理解されていることがうかがえる。リピーターの比率も他の宿に比べて高めに出る。
向く人 / 向かない人
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向く:
会席料理を主目的とする食通、価格を抑えつつ全室露天の宿を求める層、リピート滞在を考える人 -
向かない:
豪奢な内装・派手な設備を期待する層、温泉大浴場での入浴を主目的とする旅、子連れの家族
具体情報
- 最寄り駅・送迎: 箱根登山鉄道 彫刻の森駅から送迎で約10分
- 客室サイズ: 40〜60 ㎡(全室半露天付き)
- チェックイン: 15:00〜18:00 / アウト 〜11:00
- 食事: 夕食・朝食ともに会席
- 開業: 2008年
- 泉質: 強羅温泉、掛け流し
よくある質問
Q. ベストシーズンはいつですか?
A. 編集部が推す時期は、芒の青が揺れる7〜8月の盛夏と、すすき原が金色に染まる9月下旬〜10月の二期である。盛夏は早雲山の標高が冷気をもたらし、平地より3〜5℃低い気温で湯浴みが楽しめる。冬は雪見の露天が期待できるが、客室の露天は外気温の影響を受けるため、湯温の高い大涌谷造成泉を引く宿を選ぶことになる。
Q. 大涌谷の硫黄泉と新湯本系の透明な湯、どちらを選ぶべきですか?
A. 大涌谷造成泉(白濁の硫黄泉)は強羅・小涌谷の宿で引く泉で、湯の色と香りを楽しめる。一方、新湯本・宮ノ下系の湯は無色透明でやわらかく、長湯に向く。本記事の5軒では、強羅花扇・円かの杜・弓庵が強羅自家源泉(無色透明系)、金乃竹 仙石原に造成泉客室、THE HIRAMATSU 仙石原が新湯本系である。湯の効能や色を主目的にするなら泉質の確認が滞在前に必要となる。
Q. 子連れでも泊まれますか?
A. 本記事の5軒はいずれも10〜20室の小規模・静寂運営を基本とし、夕食の会席を個室で長時間かけて楽しむ運用が中心であるため、乳幼児・未就学児の同伴を制限・推奨しない宿が多い。年齢制限の有無は宿により異なるため、宿の公式案内で確認することになる。子連れの夏旅であれば、別カテゴリの宿を選ぶ方向が現実的である。
Q. 予約のタイミングは?
A. 盛夏(7月中旬〜8月)と紅葉期(11月)は早期に埋まる傾向にあり、3〜4ヶ月前の予約が安全とされる。平日と週末で目安価格は¥10,000〜¥30,000前後の差が出る宿が多く、宿の公式予約による直予約は最低価格保証の運用がなされる宿もある。キャンセル料は宿により7日前〜30日前から発生する。
Q. アクセスは?
A. 東京駅から箱根湯本まで小田急ロマンスカーで約1時間25分、そこから箱根登山鉄道で強羅まで約40分。仙石原方面へは強羅駅または小田原駅からのバス・タクシーが中心で、各宿に送迎(要予約)を備える宿が多い。自家用車であれば東名高速「御殿場IC」または「箱根口IC」が近い。
本記事の参考情報
・箱根町観光協会 公式サイト — 大涌谷・仙石原・強羅エリアの観光情報
・Wikipedia: 強羅温泉 — 強羅温泉の歴史と泉質
・Wikipedia: 仙石原 — 仙石原のすすき原と地理
編集部から
強羅と仙石原は、箱根の温泉郷のなかでも標高と地形の異なる二つの避暑地である。前者は早雲山中腹の斜面に住宅と宿が雛壇状に並び、後者はカルデラ底の平原に宿が散在する。盛夏に客室露天で湯浴みするとき、両者の風の質と気温の差が、宿選びの隠れた軸となる。本記事の五軒はいずれも、その軸を踏まえて湯と建物が組まれた宿である。次は秋のすすき原を中心に、芒見の宿を編集部で改めて編んでみたい。