梅雨の合間、鶴仙渓に新緑が深まり、山代の総湯では朝湯客の下駄が小気味よく鳴る。加賀温泉郷で棟ごとに庭を持つ離れ、あるいはそれに連なる独立性の高い客室を備えた宿を、編集部が六軒選んだ。加賀温泉郷は山中・山代・粟津・片山津の四湯から成り、いずれも開湯千三百年級の古湯である。本稿は離れの作法に絞り、専用の露天と中庭、湯量や創業の年代を併せて記す。夫婦の静かな一夜、あるいは気の置けない友人との湯巡りに、輪郭の確かな六軒である。

# 旅館 Score 客室 目安価格 一行特徴
1 みやこわすれの宿 こおろぎ楼 山中温泉 95 7 ¥125–¥176k 鶴仙渓の袂に佇む全七室の渓谷宿
2 あらや滔々庵 山代温泉 94 18 ¥102–¥189k 寛永創業、湯の曲輪を守る名旅館
3 べにや無何有 山代温泉 93 16 ¥145–¥220k 全室に山庭露天を備えた別荘形式
4 山中温泉 胡蝶 山中温泉 92 10 ¥108–¥157k 書院造特別室を一棟貸切できる宿
5 風味吟撰の宿 厨八十八 山中温泉 92 24 竹林借景と田んぼテラスの食通宿
6 旅亭懐石 のとや 粟津温泉 89 50 ¥53–¥77k 七百年続く粟津の懐石、離れの貸切湯
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※ 目安価格は公開販売価格の集計に基づく参考値で、実際の予約料金とは異なります。1泊2名利用時の1室あたり料金(税込)です。価格を示していない宿は、公開販売価格の標本が十分に得られなかったものです。

1. みやこわすれの宿 こおろぎ楼 — 山中温泉

鶴仙渓の渓谷美にこおろぎ橋が架かる袂、わずか七室の宿。川音だけが時を刻む、山中の隠れ宿である。

Media Picks Score: 95 / 100  7室、加賀温泉郷・山中温泉の離れ/独立棟。

目安価格 ¥125,000–¥176,000 / 泊 (2名1室・通常期)

みやこわすれの宿 こおろぎ楼 — 加賀・山中温泉 こおろぎ橋袂 · 鶴仙渓に臨む全七室の離れ形式旅館
PHOTO: みやこわすれの宿 こおろぎ楼 — 公式サイトを見る →

なぜ選ばれるか

こおろぎ橋の袂、渓に張り出すように建つ七室だけの宿である。客室はいずれも鶴仙渓を正面に望み、露天風呂付きの特別室では漆塗りの浴槽に源泉が掛け流される。喧騒から離れて静かに過ごす――「みやこわすれ」の宿名が、滞在の作法をそのまま言い表している。

集約レビューの傾向

公開レビューデータを集計したところ、川音と新緑への没入感、主人が橋立港のセリに通って仕入れる地物の料理に高い評価が確認された。一方で全七室ゆえ繁忙期の確保は難しく、静けさを最優先する旅程に向く宿として支持が集まっている。

向く人 / 向かない人

  • 向く: 夫婦・友人二人の静かな滞在、渓谷の自然に浸りたい旅、地物の魚介を主目的にする旅程
  • 向かない: 大人数の宴席を望む集まり、館内に賑わいを求める旅、宿に戻る時間が短い周遊型の旅程

具体情報

  • 最寄り: JR加賀温泉駅から車で約20分
  • 客室数: 全7室(露天付き特別室あり)
  • 湯: 山中温泉・源泉掛け流し
  • 食事: 橋立港の地物を用いた会席
  • 立地: こおろぎ橋・鶴仙渓に隣接

2. あらや滔々庵 — 山代温泉

山代の湯の曲輪に源泉を抱き、寛永十六年から十八代。北大路魯山人も逗留した、加賀屈指の名旅館である。

Media Picks Score: 94 / 100  18室、加賀温泉郷・山代温泉の離れ/独立棟。

目安価格 ¥102,000–¥189,000 / 泊 (2名1室・通常期)

あらや滔々庵 — 加賀・山代温泉 湯の曲輪 · 寛永十六年創業、十八代続く前田家ゆかりの名旅館
PHOTO: あらや滔々庵 — 公式サイトを見る →

なぜ選ばれるか

山代温泉の中心、総湯を囲む「湯の曲輪」に源泉を抱く老舗である。寛永十六年の創業以来十八代、前田家の湯を守る役を担ってきた。露天風呂付きの客室は山庭に面した純和風の設えで、自家源泉の豊かな湯量がそのまま注がれる。大正期には北大路魯山人が逗留し、その書や器がいまも館内に息づく。

集約レビューの傾向

公開レビューデータを集計したところ、湯量の豊かさと加賀の食材を尽くした会席、魯山人ゆかりの設えへの満足が確認された。歴史ある建物ゆえ最新設備を求める向きには合わない面もあるが、土地の文化を宿ごと味わいたい旅に深く支持されている。

向く人 / 向かない人

  • 向く: 温泉文化や器・書画に造詣のある旅、加賀の食を尽くしたい旅程、歴史ある名旅館に泊まる体験を求める人
  • 向かない: 全室最新設備を最優先する旅、賑やかな大型施設を好む集まり、湯質より価格を重んじる旅程

具体情報

  • 最寄り: JR加賀温泉駅から車で約10分
  • 客室数: 全18室(露天付き客室あり)
  • 湯: 山代温泉・自家源泉、湯の曲輪源泉
  • 食事: 加賀の食材による会席
  • 創業: 寛永十六年(1639年)

3. べにや無何有 — 山代温泉

山庭を囲んで建つ十六室、その全てに山庭を望む露天が付く。「無何有」、からっぽのなかの豊かさを名に冠した一軒。

Media Picks Score: 93 / 100  16室、加賀温泉郷・山代温泉の離れ/独立棟。

目安価格 ¥145,000–¥220,000 / 泊 (2名1室・通常期)

べにや無何有 — 加賀・山代温泉 · 山庭を囲む全十六室、各室に山庭を望む温泉露天を備えた数寄屋の宿
PHOTO: べにや無何有 — 公式サイトを見る →

なぜ選ばれるか

山あいの敷地に、別荘のように点在する十六室。その全てに山庭を望む温泉露天が付くという、加賀でも稀な構えである。「無何有(むかゆう)」――何もないことの豊かさを名に冠し、余白そのものを贅とする。館内には源泉の異なる二つの湯と、温泉と薬草を用いる施術院を備える。

集約レビューの傾向

公開レビューデータを集計したところ、山庭を独り占めにする露天の開放感、簡素を極めた数寄屋の意匠、滞在を急がせない静謐な運営に高い評価が確認された。価格帯はこの郷の中で上位に位置するが、静寂と余白に価値を置く旅に深く支持されている。

向く人 / 向かない人

  • 向く: 記念日や節目の夫婦旅、簡素な美と静寂を求める滞在、湯と施術で身体を整えたい旅程
  • 向かない: にぎわいや館内施設の多さを求める旅、子連れで動き回る家族旅、価格を最優先する旅程

具体情報

  • 最寄り: JR加賀温泉駅から車で約10分
  • 客室数: 全16室(全室に山庭露天)
  • 湯: 二源泉「玄青」「薄香」、各室露天
  • 食事: 加賀の旬を生かした会席
  • 設備: スパ「円庭施術院」併設

4. 山中温泉 胡蝶 — 山中温泉

昭和十五年の書院造を一棟丸ごと使う特別室「聚楽第」。専用の庭に岩風呂の露天を備えた、書院の美に遊ぶ宿である。

Media Picks Score: 92 / 100  10室、加賀温泉郷・山中温泉の離れ/独立棟。

目安価格 ¥108,000–¥157,000 / 泊 (2名1室・通常期)

山中温泉 胡蝶 — 加賀・山中温泉 河鹿町 · 書院造の特別室「聚楽第」を擁する全十室の加賀懐石の宿
PHOTO: 山中温泉 胡蝶 — 公式サイトを見る →

なぜ選ばれるか

全十室、加賀懐石と書院造の美を主題に据えた宿である。なかでも特別室「聚楽第」は昭和十五年に建てられた二階建ての書院造を一棟丸ごと使う構えで、一階には専用の内湯と岩組みの露天、二階は完全な私室となる。専用の庭に囲まれた露天は、開放感を二人だけのものにする。

集約レビューの傾向

公開レビューデータを集計したところ、書院造の意匠の確かさ、一棟貸切の特別室がもたらす独立性、加賀懐石の品数と仕立てへの満足が確認された。建物の造作ゆえ階段や段差のある客室もあり、設えの好みは分かれるが、和の様式美を求める旅に厚く支持されている。

向く人 / 向かない人

  • 向く: 書院造や和の意匠を体験したい旅、一棟貸切の独立性を求める夫婦旅、加賀懐石を堪能したい旅程
  • 向かない: 段差のないバリアフリーを要する滞在、洋風の設備を望む旅、簡素なモダン旅館を好む人

具体情報

  • 最寄り: JR加賀温泉駅から車で約20分
  • 客室数: 全10室(露天付き和室・特別室あり)
  • 湯: 山中温泉・源泉、特別室は専用露天
  • 食事: 本格加賀懐石
  • 特別室: 書院造「聚楽第」一棟貸切(1日1組)

5. 風味吟撰の宿 厨八十八 — 山中温泉

ロビー前に稲を育てる田んぼテラス、竹林を借景にした露天付きの客室。料理を旅の主題に据えた、山中の食通宿である。

Media Picks Score: 92 / 100  24室、加賀温泉郷・山中温泉の離れ/独立棟。

風味吟撰の宿 厨八十八 — 加賀・山中温泉 菅谷町 · 竹林を望む露天付き客室と田んぼテラスを擁する料理自慢の宿
PHOTO: 風味吟撰の宿 厨八十八 — 公式サイトを見る →

なぜ選ばれるか

宿名の「厨」が示すとおり、料理を旅の中心に据えた一軒である。中央にカウンターを構えるオープン厨房で、出来たての一品を個室の料亭街に運ぶ。露天風呂付きの客室は竹林を借景にとり、堀炬燵の和室から鶴仙渓のせせらぎが届く。ロビー前には稲を育てる田んぼテラスを設え、土地と食の距離の近さを目で語る。

集約レビューの傾向

公開レビューデータを集計したところ、できたてを供する料理の仕立て、竹林を望む露天の静けさ、土地への愛着がにじむ設えに高い評価が確認された。全室が露天付きではない点は留意が要るが、料理を主目的にする旅に厚く支持されている。

向く人 / 向かない人

  • 向く: 料理を旅の主題にしたい旅程、竹林の静けさを好む夫婦旅、できたての一品を重んじる食通
  • 向かない: 全室一律の露天付きを求める旅、宴会や大人数の集まり、料理より価格を重んじる旅程

具体情報

  • 最寄り: JR加賀温泉駅から車で約20分
  • 客室数: 全24室(露天付き客室は1日2組限定)
  • 湯: 山中温泉・源泉
  • 食事: オープン厨房から供する個室料亭の会席
  • 設え: ロビー前に田んぼテラス、竹林借景の客室

6. 旅亭懐石 のとや — 粟津温泉

開湯千三百年の粟津に七百年続く懐石の宿。自家掘り源泉を引く露天付きの客室と、離れの貸切湯を構える一軒である。

Media Picks Score: 89 / 100  50室、加賀温泉郷・粟津温泉の離れ/独立棟。

目安価格 ¥53,000–¥77,000 / 泊 (2名1室・通常期)

旅亭懐石 のとや — 加賀・粟津温泉 · 自家掘り源泉を引く露天付き客室と離れの貸切露天を備えた懐石の宿
PHOTO: 旅亭懐石 のとや — 公式サイトを見る →

なぜ選ばれるか

粟津は加賀温泉郷のなかでも開湯千三百年を伝える古湯で、のとやはこの地に七百年続く懐石の宿である。モダンに整えた露天付きの客室はいずれも自家掘りの源泉を引き、離れに構える貸切露天は二十人が一度に入れるという広さを誇る。湯量に恵まれた土地ならではの、贅沢な湯浴みである。

集約レビューの傾向

公開レビューデータを集計したところ、自家源泉の豊かな湯量、懐石を看板に掲げる料理、離れの貸切露天の開放感に満足が確認された。客室数があるため静寂を最優先する向きには山中の小宿が合うが、湯量と料理を重んじる旅に幅広く支持されている。

向く人 / 向かない人

  • 向く: 自家源泉の湯量を楽しみたい旅、懐石料理を主目的にする旅程、家族や友人で貸切湯を囲みたい集まり
  • 向かない: 全七室級の小宿の静けさを求める旅、館内の賑わいを避けたい滞在、最小規模の離れだけを望む人

具体情報

  • 最寄り: JR粟津駅から車で約8分
  • 客室数: 全50室(露天付き客室あり)
  • 湯: 粟津温泉・自家掘り源泉100%
  • 食事: 旅亭懐石(自家厨房の会席)
  • 離れ: 貸切露天(最大20名規模)

よくある質問

Q. 加賀温泉郷の離れに泊まるなら、どの季節が見頃ですか?

A. 梅雨明けから夏は鶴仙渓の新緑が深く、川音とともに過ごす露天が心地よい時季である。秋は渓谷の紅葉、冬は雪見の湯と、四季それぞれに趣がある。山中の小宿は客室数が少なく、紅葉期と年末年始は特に確保が難しい。編集部が静けさの面で推すのは、人出の落ち着く梅雨どきと晩秋である。

Q. 離れや露天付き客室は、いつ頃までに予約すべきですか?

A. 全七〜十室規模の小宿は、週末や連休、紅葉期は二〜三か月前に埋まることが珍しくない。特別室や一棟貸切は組数が限られるため、日程が決まった段階で早めに当たるのが確実である。平日であれば直前でも空きが出やすいが、人気の渓谷向き客室は指名予約が前提と考えたい。

Q. 湯の効能や泉質に違いはありますか?

A. 山中・山代・粟津はいずれも開湯千三百年級の古湯だが、泉質はそれぞれ趣を異にする。山代は湯の曲輪を中心に湯量が豊かで、粟津は自家掘り源泉を引く宿があり、山中は渓谷の自然と一体になった湯が持ち味である。本稿の宿は源泉掛け流しや自家源泉を備えた一軒を選んでいる。

Q. 子ども連れでも泊まれますか?

A. 料理と静けさを主題にした小宿は、客室の段差や書院造の造作から、幼児連れには向かない宿も含まれる。粟津ののとやのように客室数があり、子ども向けの客室や貸切湯を備える宿は家族連れにも対応しやすい。離れの独立性を重んじるなら、年齢の条件を予約前に確かめておきたい。

Q. 離れと「露天付き客室」はどう違いますか?

A. 本稿でいう離れは、棟そのものが独立し、専用の庭や露天を伴う形式を指す。べにや無何有のように全室が山庭の露天を持つ宿、胡蝶の「聚楽第」のように一棟を丸ごと使う特別室がこれにあたる。一方、本館内の露天付き客室は独立性こそ離れに譲るが、湯を客室で楽しめる点は共通する。

本記事の参考情報

ほっと石川旅ねっと(石川県観光連盟) — 加賀温泉郷の観光情報
こまつ観光ナビ(小松市公式) — 粟津温泉の周辺情報
Wikipedia: 加賀温泉郷 — 四湯の歴史と地理の背景

編集部から

六軒に通底するのは、湯と建物を一続きの作法として差し出す姿勢である。鶴仙渓に身を寄せる小宿、湯の曲輪を守る名旅館、山庭に客室を散らした別荘形式、書院を一棟まるごと使う特別室――形は違えど、いずれも「静けさをいかに設計するか」という問いに答えている。梅雨の渓も、晩秋の紅葉も、雪見の露天も、離れであればその景を独り占めにできる。次の一夜、加賀の四湯のどの湯に身を委ねるか。湯量を取るか、書院の美を取るか、料理を主題に据えるか――その選びこそが、加賀温泉郷の旅の輪郭を決めていく。

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