盛夏の上州、吾妻川の支流が刻む谷に湯を求めるなら、客室の湯舟から渓を見下ろせる四万温泉の五軒を、編集部は先に挙げたい。四万川と薬師の谷が青葉に沈む七月下旬から八月、朝の湯気は樹相を映して立ちのぼる。四万温泉は昭和二十九年に環境庁の国民保養温泉地第一号へ指定された湯の里で、隣る沢渡は古くからの湯治場である。両湯ともナトリウム-塩化物・硫酸塩泉のやわらかな湯。ここでは客室露天の湯舟の素材、源泉の扱い、窓に映る渓の緑とともに、五軒を紹介する。

# 宿 地区 Score 客室 目安価格 1行特徴
1 積善館 佳松亭・山荘 新湯 93 17 ¥79–¥110k 元禄創業の高台に建つ最上級棟、半露天付き客室
2 時わすれの宿 佳元 ゆずりは 91 8 ¥48–¥79k 楓仙峡を望む全八室の料理宿、専用風呂付き四室
3 鹿覗きの湯 つるや 日向見 90 10 ¥79–¥110k 四万発祥の地、全室に源泉の半露天を備える
4 湯元四萬舘 温泉口 89 30 ¥27–¥40k 文豪の愛した老舗、別舘壺天は全室露天付き
5 叶 KANOUYA 四万温泉 新湯 83 8 ¥59–¥75k 全八室に源泉掛け流しの客室露天を備える小宿
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※ 目安価格は公開販売価格の集計に基づく参考値で、実際の予約料金とは異なります。二名一室利用時の一室あたり料金(税込・夕朝食付が中心)です。

1. 積善館 佳松亭・山荘 — 中之条町 四万温泉(新湯)

元禄四年から続く湯宿の高台に、半露天の客室を備えた最上級棟。四万を語るなら、まずこの一軒から。

Media Picks Score: 93 / 100  17室、客室露天・半露天付きの上級棟を有する老舗旅館。

目安価格 ¥79,000–¥110,000 / 泊 (2名1室・通常期)


積善館 佳松亭・山荘 — 四万温泉新湯 · 元禄四年創業、日本最古とされる木造湯宿建築を継ぐ最上級棟
PHOTO: 積善館 佳松亭・山荘 — 公式サイトを見る →

なぜ選ばれるか

本館は元禄四年(一六九一)に建てられた、日本最古とされる木造湯宿建築である。佳松亭・山荘はその奥、松を望む高台に建つ上級の棟で、三百年を数える松の古木を庭に据える。山荘は昭和十一年築、国の登録有形文化財に名を連ねる。歴史そのものを泊まる価値とし、上級棟の客室には温泉を引いた半露天や露天が備わる。渓と時間の厚みを、湯舟から味わえる一軒として編集部は先頭に据えたい。

集約レビューの傾向

公開レビューデータを集計すると、建築と歴史への評価が際立ち、庭の松と館内の意匠、湯の柔らかさへの支持が高い。客室に湯舟を持つ上級棟の静けさと、渓を望む眺めへの言及が続く。棟が高台にあるため温泉街の散策には坂を上り下りする旅程となる点、館内が広く歴史ある構造ゆえに動線が入り組む点は、静けさと引き換えの性格として受け止められている。

向く人 / 向かない人

  • 向く:
    建築と温泉史に関心のある夫婦旅、静けさを最優先する滞在、客室で湯を独り占めしたい旅
  • 向かない:
    段差や坂を避けたい旅程、宿泊費を抑えたい旅、温泉街の店を頻繁に行き来したい滞在

具体情報

  • アクセス: JR吾妻線・中之条駅から関越交通バス四万温泉行で約40分(四万温泉終点近く)
  • 創業 / 建築: 本館 元禄四年(一六九一)/ 山荘 昭和十一年(一九三六、国登録有形文化財)
  • 湯: ナトリウム-塩化物・硫酸塩泉、上級棟客室に温泉の半露天・露天を備える
  • 食事: 佳松亭・山荘は個室または半個室での会席が中心
  • 位置: 温泉街より奥、松を望む高台の棟


2. 時わすれの宿 佳元 — 中之条町 四万温泉(ゆずりは)

楓仙峡を眼下に、全八室の料理宿。専用風呂を持つ四室で、渓を眺めながら会席と湯に浸る。

Media Picks Score: 91 / 100  8室、うち専用風呂付き4室の料理旅館。

目安価格 ¥48,000–¥79,000 / 泊 (2名1室・通常期)


時わすれの宿 佳元 — 四万温泉ゆずりは · 四万川の楓仙峡を望む全八室の料理宿
PHOTO: 時わすれの宿 佳元 — 公式サイトを見る →

なぜ選ばれるか

温泉街の奥まった「ゆずりは」地区に建つ、全八室の小さな料理旅館である。眼下には四万川が刻む楓仙峡が広がり、渓の樹相が窓を埋める。八室のうち四室が檜・石・信楽焼など、それぞれ趣の異なる専用風呂を備える。料理長は名料亭の出で、群馬の素材を丁寧に組む「ご褒美会席」を主目的に泊まる客が多い。湯と食、そして渓の静けさが同じ格で揃う点を評価し、二番手に据えた。

集約レビューの傾向

公開レビューデータを集計すると、会席の完成度への評価が突出し、器と献立の組み立て、地の素材の扱いへの言及が多い。専用風呂付きの客室と、川音の届く静けさへの支持が続く。全八室ゆえ館内は控えめで、大浴場や施設の華やぎを求める滞在には向かない。料理を軸に、渓の音と湯に静かに向き合う旅程で本領を発揮する一軒として受け止められている。

向く人 / 向かない人

  • 向く:
    料理を主目的にする夫婦旅・友人旅、専用風呂で静かに過ごしたい滞在、渓の音を好む旅
  • 向かない:
    大浴場や館内施設の充実を望む旅、大人数のにぎやかな滞在、幼児連れで手のかかる旅程

具体情報

  • アクセス: JR吾妻線・中之条駅から関越交通バス四万温泉行で約40分、温泉街奥のゆずりは地区
  • 客室: 全8室(専用風呂付き4室+和室4室)、楓仙峡に面する
  • 湯: 温泉露天風呂付き客室あり、檜・石・信楽焼など客室ごとに異なる湯舟
  • 食事: 名料亭出身の料理長による会席「ご褒美会席」、群馬の素材を用いる
  • 立地: 温泉街の最奥「ゆずりは」、四万川の渓に臨む


3. 鹿覗きの湯 つるや — 中之条町 四万温泉(日向見)

四万発祥の地・日向見に建つ全十室。すべての客室に源泉の半露天を備える、湯を惜しまぬ一軒。

Media Picks Score: 90 / 100  10室、全室に源泉の半露天風呂を備える。

目安価格 ¥79,000–¥110,000 / 泊 (2名1室・通常期)


鹿覗きの湯 つるや — 四万温泉日向見 · 四万発祥の地に建つ全十室、全室に源泉の半露天を備える宿
PHOTO: 鹿覗きの湯 つるや — 公式サイトを見る →

なぜ選ばれるか

上信越高原国立公園の懐、四万温泉発祥の地とされる静かな日向見地区に建つ。本館つるや五室と別邸美月庵五室、全十室のいずれもが源泉掛け流しの半露天を備える。宿の湯は御夢想の湯に加え、自家源泉「鹿覗きの湯」など複数の湯を用い、貸切の露天や内湯も揃う。客室で源泉に浸れる密度の高さと、発祥地という土地の由緒を評価し、上位に置いた。

集約レビューの傾向

公開レビューデータを集計すると、全室に湯舟を持つ湯の豊かさへの評価が高く、貸切風呂の質と静かな立地への支持が続く。日向見は温泉街の中心から離れた奥手にあるため、店の賑わいより静けさを求める旅程に合う。全十室の小規模ゆえ、団体向けの華やぎや大規模施設の利便を望む滞在には向かない。湯そのものを目的に据える人に、繰り返し選ばれている一軒である。

向く人 / 向かない人

  • 向く:
    源泉掛け流しを客室で味わいたい旅、静かな奥手の立地を好む夫婦旅、貸切風呂を巡りたい滞在
  • 向かない:
    温泉街の店を歩きたい旅程、大規模ホテルの利便を望む旅、宿泊費を抑えたい旅

具体情報

  • アクセス: JR吾妻線・中之条駅から関越交通バス四万温泉行、温泉街奥の日向見地区
  • 客室: 全10室(本館つるや5室+別邸美月庵5室)、全室に源泉の半露天付き
  • 湯: 御夢想の湯・自家源泉「鹿覗きの湯」ほか複数源泉、貸切露天・貸切内湯あり
  • 立地: 四万温泉発祥の地とされる日向見、上信越高原国立公園内
  • 付帯: 岩盤浴・サウナなどの湯上がり施設を備える


4. 湯元四萬舘 — 中之条町 四万温泉(温泉口)

太宰治や井伏鱒二が滞在した老舗。別舘壺天の全室に、源泉一〇〇%掛け流しの露天が付く。

Media Picks Score: 89 / 100  30室、別舘壺天(全12室)は全室に源泉露天付きの老舗旅館。

目安価格 ¥27,000–¥40,000 / 泊 (2名1室・通常期)


湯元四萬舘 — 四万温泉温泉口 · 太宰治・井伏鱒二ゆかりの老舗、源泉一〇〇%掛け流しの湯
PHOTO: 湯元四萬舘 — 公式サイトを見る →

なぜ選ばれるか

太宰治や井伏鱒二といった文豪が逗留した歴史を持つ、四万川沿いの老舗である。全室が渓流沿いで、対岸には四季の森、眼下には清流四万川が流れる。別舘壺天は全十二室で、いずれも源泉一〇〇%掛け流しの露天を備える。加えて七つの貸切風呂をすべて無料で開放し、湯量の豊かさを惜しみなく使う。文学の記憶と源泉の質、そして手の届く価格帯を評価して選んだ。

集約レビューの傾向

公開レビューデータを集計すると、源泉一〇〇%掛け流しの湯質と、無料の貸切風呂の多さへの評価が高い。文豪ゆかりの由緒と、渓流を望む眺めへの言及も目立つ。三十室と規模がやや大きく、館は歳月を重ねた造りゆえ、真新しい設備の均質さを求める滞在には向かない。湯そのものの質と、老舗ならではの落ち着きを、価格を抑えて味わいたい旅に合う一軒である。

向く人 / 向かない人

  • 向く:
    源泉掛け流しと貸切風呂巡りを楽しみたい旅、文学ゆかりの宿に惹かれる旅、費用を抑えたい滞在
  • 向かない:
    新築同様の設備を求める旅、小規模で人の気配の薄い滞在を望む旅、洋風の設えを好む人

具体情報

  • アクセス: JR吾妻線・中之条駅から関越交通バス四万温泉行、四万温泉の温泉口
  • 所在: 群馬県吾妻郡中之条町四万3838、四万川沿い
  • 客室: 全30室、別舘壺天は全12室で源泉100%掛け流しの露天付き
  • 湯: 源泉100%掛け流し、無料の貸切風呂を7つ備える
  • 由緒: 太宰治・井伏鱒二ら文豪が滞在した老舗


5. 叶 KANOUYA 四万温泉 — 中之条町 四万温泉(新湯)

昭和二十九年創業の宿を継ぐ、全八室の小宿。すべての客室に源泉掛け流しの露天が備わる。

Media Picks Score: 83 / 100  8室、全室に源泉掛け流しの客室露天を備える小規模宿。

目安価格 ¥59,000–¥75,000 / 泊 (2名1室・通常期)


叶 KANOUYA 四万温泉 — 四万温泉新湯 · 昭和二十九年創業を継ぐ全八室、全室に源泉掛け流しの客室露天
PHOTO: 叶 KANOUYA 四万温泉 — 公式サイトを見る →

なぜ選ばれるか

昭和二十九年(一九五四)創業の宿を受け継ぎ、近年に改めた全八室の小宿である。八室すべてに源泉掛け流しの客室露天を備え、湯を客室で完結させる設えとした。四万の湯を人目を気にせず味わえる密度と、新湯地区の落ち着いた立地が持ち味である。歴史の厚みでは老舗に及ばないが、客室露天という主題に照らせば、全室露天という一点で確かな一軒として加えた。

集約レビューの傾向

公開レビューデータを集計すると、全室の客室露天と、改修された客室の清潔感への評価が中心となる。小規模ゆえの静けさと、湯を独占できる快適さへの支持が続く。開業からの母数がまだ大きくないため評価は蓄積の途上にあり、老舗の由緒や大浴場の広がりを重んじる旅には物足りなさが残る場合もある。客室で完結する温泉時間を第一に置く旅程に、素直に応える宿である。

向く人 / 向かない人

  • 向く:
    客室露天で湯を完結させたい旅、改修後の清潔な客室を好む滞在、静かな小宿を求める夫婦旅
  • 向かない:
    大浴場の広がりを望む旅、長い歴史や由緒を第一に置く滞在、多彩な館内施設を求める旅

具体情報

  • アクセス: JR吾妻線・中之条駅から関越交通バス四万温泉行、新湯地区
  • 創業: 昭和二十九年(一九五四)、近年に客室を改修
  • 客室: 全8室、全室に源泉掛け流しの客室露天付き
  • 湯: ナトリウム-塩化物・硫酸塩泉、客室露天は源泉掛け流し
  • 規模: 全8室の小規模宿、静けさを主眼とした設え


よくある質問

Q. ベストシーズンはいつですか?

A. 客室露天から渓を眺める旅なら、青葉の濃い盛夏(七月下旬〜八月)と、紅葉の楓仙峡が色づく晩秋(十月下旬〜十一月上旬)を編集部は推したい。夏は川音が涼を運び、朝湯の湯気が緑を透かす。四万は標高が高く、盛夏でも朝夕は涼しいため、朝の谷を湯舟から眺める前泊の旅程が合う。冬は雪見の露天も趣深いが、路面凍結に備えた移動が要る。

Q. 予約のタイミングは?

A. 客室露天付きの部屋は各宿とも数が限られる。とりわけ全室露天の宿や専用風呂付きの客室は、夏休み・連休・紅葉期の週末で二〜三か月前から埋まり始める。特定の湯舟の素材や渓側の眺めを望むなら、早めの手配が確実である。平日は比較的取りやすく、静けさも増す。

Q. 泉質と効能は?

A. 四万温泉はナトリウム-塩化物・硫酸塩泉が中心で、肌あたりのやわらかい湯として知られる。飲泉の慣わしもあり、胃腸の湯として親しまれてきた。昭和二十九年に国民保養温泉地の第一号へ指定された湯の里で、湯治の歴史が長い。源泉一〇〇%掛け流しを掲げる宿が多く、客室の湯舟でも湯の鮮度を保っている。

Q. 子連れでも泊まれますか?

A. 全室が小規模で静けさを主眼とする宿が多いため、幼児連れには客室の段差や川沿いの立地に注意が要る。料理宿である佳元や、全室露天の宿は、静かな夫婦旅・友人旅に向く設えである。家族での利用可否や添い寝の扱いは宿ごとに異なるため、各公式サイトで確認するとよい。

Q. アクセスは?

A. JR吾妻線・中之条駅が玄関口となり、駅から関越交通バス四万温泉線でおよそ四十分。東京方面からは特急草津・四万で中之条駅へ向かう経路が分かりやすい。車では関越自動車道・渋川伊香保インターチェンジから約一時間。温泉街は日向見・新湯・ゆずりは・温泉口などの地区に分かれ、宿はそれぞれの谷あいに点在する。

本記事の参考情報

四万温泉協会(中之条町観光協会) — 四万温泉の泉質・アクセス・地区の案内
Wikipedia: 四万温泉 — 国民保養温泉地第一号としての歴史・地理の背景

編集部から

五軒に通底するのは、湯を客室まで引き入れて渓と向き合わせる四万の作法である。元禄の木造を継ぐ積善館から、料理と湯を並べる佳元、発祥の地に湧くつるや、文豪の記憶を宿す四萬舘、そして全室露天の叶まで、格も規模も異なるが、いずれも谷の音と源泉の柔らかさを客室に届ける。盛夏の朝、湯気の向こうで青葉が揺れる時間は、四万でしか得がたい。隣る沢渡の湯治場まで足を延ばせば、上州の湯の里の奥行きはさらに増す。次はどの谷の、どんな湯舟から夏を眺めるだろうか。

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