由布院
渡り廊下という間 — 離れの宿が、母屋と棟をつなぐ一筋の屋根付きの道に、なぜ時間を持たせてきたか
長月の夕、離れへ向かう渡り廊下に灯がともる。母屋と客室棟を結ぶ屋根付きの廊下が、なぜ宿の格と静けさを設計してきたのか。大正6年創業の旅館花屋(長野・別所温泉)と、全10室の由布院別邸 風の森を手がかりに、数寄屋の作法から読み解く。
囲いの高さという按配 — 客室露天が、隣室の視線と眼前の景のあいだに、なぜ塀の高さを選んできたか
客室露天の湯船を囲う塀の高さは、隣室の視線を隔てる壁であり、眼前の景を招く窓でもある。御宿The Earth・別邸仙寿庵・山荘無量塔の三軒に、開けと隔ての按配を見る。
沓脱石という結界 — 離れの宿が、母屋と客室のあわいに一つの踏石を置いてきた理由
白露の朝、離れへ通う露地の先に据えられた一枚の沓脱石。母屋と客室のあわいに置かれたこの石が、なぜ離れの宿の独立と静けさを支えてきたか。数寄屋と露地の作法を辿り、由布院・亀の井別荘と湯河原・石葉を静かに訪ねる建築意匠の随筆。
露地の飛石という間合い — 離れの宿が、母屋から棟までの数歩の石をなぜ数えてきたか
神無月、露地の飛石を数えて母屋から離れへ。石の間隔・大きさ・苔が語る宿の格を、茶の湯の露地作法と重ね、由布院・修善寺・南禅寺の三軒に訪ねる。
露地という隔て — 離れの宿が、母屋への一歩を、なぜ庭で遠ざけてきたか
母屋と客室の間にわざと庭を挟み、露地の飛石で内と外を隔ててきた離れの宿。茶の湯の露地に倣ったこの一歩の間合いを、庭を隔てとして読む視点から問い直す。谷川・由布院・河津の三軒を静かに挙げる。
湯上がりの一刻 — 旅館の夕涼みが、浴衣と縁の腰掛けに季節を留めてきた
盛夏の宵、客室露天から上がった一刻を冷ます縁の腰掛けと夕涼みの設え。由布院と伊豆、気候の異なる二つの土地で、湯と建物が季節を留める装置としての夕涼みを辿る。
由布院の外、湯平と塚原に棟を分ける離れ五軒 — 由布岳南麓と石畳の湯場
由布院の中心を離れ、鎌倉期からの湯治場・湯平と、由布岳南麓の塚原高原に建つ棟分けの離れ五軒。酸性硫黄泉と弱アルカリ性、二つの湯場の対比を編む。
番頭という職能 — 玄関帳場の灯と、離れの宿に継がれる差配の作法
夏の宵、玄関帳場に灯が入る頃。客の到着から見送りまでを差配した番頭という職能を、帳場の建築や暖簾の格と重ね、離れ形式の宿に継がれる作法を辿る随筆。あさば・亀の井別荘・別邸 仙寿庵の三軒に触れる。
棟続きと離れの違い — 名旅館が「離れ」と呼ぶ建築の最小条件について
客室露天や半露天が普及した今日、何をもって「離れ」と呼ぶのか。母屋からの距離、廊下の有無、独立した玄関、湯の独立性。由布院・伊豆河津・阿蘇の三軒を入り口に、離れという形式の最小条件を辿る随筆。
離れという建築の系譜 — 数寄屋から現代の独立棟へ
離れの形式は、桂離宮の数寄屋造りから明治の別邸建築を経て、現代の独立棟へと続く系譜を辿ってきた。本稿はその三段階を建築論として読み解き、各々の段階を体現する三軒の宿を引きながら語る。