梅雨の合間に水蒸気が谷を満たす七月の上州。三国峠の麓、群馬みなかみ町の南半分には、足元から湯が湧き上がる古い湯場と、登録有形文化財に指定された湯屋建築を継ぐ宿が残されている。猿ヶ京、湯宿、法師。三つの湯場をつないで、ヤドリスト編集部が選んだ五軒を紹介する。年配の温泉通に向け、湯量と自噴の数値、創業年、そして湯あみ着や混浴の作法を史実として静かに記す。
| # | 宿 | 湯場 | 客室 | 1行特徴 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 湯宿温泉 太陽館 | 湯宿温泉 | 14 | 源泉掛け流しの「太陽の湯」、24時間入浴可 |
| 2 | 薬師の湯 大滝屋 | 湯宿温泉 | 6 | 2源泉のかけ流し、湯宿温泉接骨院併設の湯治宿 |
| 3 | 猿ヶ京ホテル | 猿ヶ京温泉 | 52 | 赤谷湖を望む52室、源泉かけ流しの大浴場 |
| 4 | 源泉湯の宿 千の谷 | 猿ヶ京温泉 | 110 | 赤谷湖畔、内湯と露天併せて4種の湯処 |
| 5 | 法師温泉 長寿館 | 法師温泉 | 33 | 1875年創業、法師乃湯は国登録有形文化財、足元自噴 |
1. 湯宿温泉 太陽館 — 群馬・みなかみ町湯宿温泉
三国街道沿いの湯宿に、千三百年の湯脈をうたう源泉掛け流しの湯がある。湯口から温まる、上州の里湯の代表。
14室、和の旅館。

なぜ選ばれるか
湯が、まず良い。三国街道に面した小さな湯場の中心に建つ太陽館は、湯宿の湯を源泉掛け流しで引く。24時間入浴できる大浴場「太陽の湯」に加え、2023年には夜空を仰ぐ貸切露天風呂「布袋の湯」「観音の湯」が誕生し、貸切風呂は「恵比寿の湯」を含め五つになった。湯宿という名のとおり、湯のために来る客が大半である。
集約レビューの傾向
公開レビューデータを集計したところ、湯質と湯量についての高い評価が集まる傾向が確認された。家庭的な接客と素朴な部屋を好む層に支持される一方で、近代的な設備の充実を求める層には選びにくいという声も同居する。湯を主目的にする宿として位置付けるなら、宿側の意図と客の期待が合致するつくりである。
向く人 / 向かない人
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向く:
湯質を最重要視する温泉通、夜中に湯に入りたい湯治志向、街道沿いの素朴な宿に親しみを感じる年配の旅 -
向かない:
豪華な懐石や近代的なスパを求める旅、子連れで広い客室を必要とする家族、車椅子で大浴場まで段差なく辿りたい旅程
具体情報
- 所在地: 群馬県利根郡みなかみ町湯宿温泉2384
- 客室数: 14室
- 大浴場: 太陽の湯(24時間入浴可)・貸切「布袋の湯」「観音の湯」(2023年新設)
- 泉質: 硫酸塩泉(源泉掛け流し)
- アクセス: 上越新幹線「上毛高原」駅から関越交通バスで約20分、関越自動車道「月夜野」ICから約15分
2. 薬師の湯 大滝屋 — 群馬・みなかみ町湯宿温泉
薬師如来堂の名を頂く湯宿の湯治宿。源泉を二つ持ち、接骨院を併設する家庭的な六室。
6室、和の旅館。

なぜ選ばれるか
湯宿の湯は硫酸塩泉が一般的だが、大滝屋は窪湯源泉(硫酸塩泉)に加えて炭酸水素塩泉の大滝源泉を使い、内湯「大滝の湯」「薬師の湯」へかけ流す。宿の名「薬師の湯」は、沼田城主・真田信直が裏山に建立したと伝わる薬師如来堂に由来する。腰痛・神経痛・関節痛などの治療を担う「湯宿温泉接骨院」が併設され、湯と治療の両輪で滞在を支える湯治の宿である。直営の食事処「五郎兵衛やかた」では、うどん・そばを軸に郷土の品が並ぶ。
集約レビューの傾向
公開レビューデータを集計したところ、湯量と泉質、そして家族的な接客への評価が高く揃う傾向が確認された。客室は素朴で、近代的な設備は最小限。料理は派手さよりも家庭の延長として親しまれる構成である。湯治の系譜を継ぐ宿として、滞在期間を長く取る客にも応える設えが残されている。
向く人 / 向かない人
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向く:
湯治を目的とする年配の旅、長逗留で身体を整えたい夫婦、素朴な郷土料理に親しみを感じる旅 -
向かない:
豪華な懐石を期待する記念日旅、ホテル並みの設備や英語対応を求める旅、子連れで賑やかに滞在したい家族
具体情報
- 所在地: 群馬県利根郡みなかみ町湯宿温泉2383
- 客室数: 6室
- 湯舟: 内湯「大滝の湯」「薬師の湯」(窪湯源泉・大滝源泉の二源泉かけ流し、貸切制)
- 併設: 湯宿温泉接骨院(直営の食事処「五郎兵衛やかた」は須川地区)
- アクセス: 上越新幹線「上毛高原」駅・上越線「後閑」駅から関越交通バス「湯宿温泉上」下車、徒歩1分
3. 猿ヶ京ホテル — 群馬・みなかみ町猿ヶ京温泉
赤谷湖を望む52室、源泉かけ流しの大浴場。2026年7月、伊東園ホテルズの一館として新しくなった。
52室、和の旅館。

なぜ選ばれるか
猿ヶ京温泉は、1955年の相俣ダム完成で赤谷湖の底に沈んだ旧温泉街(湯島)の歴史を受け継ぐ湯場である。猿ヶ京ホテルは、戦後再編された湯場の中心を占めてきた。高い天井の大浴場には岩風呂と檜風呂が並び、源泉かけ流しで満たされている。露天風呂からは赤谷湖と谷川連峰が望め、夏は新緑、冬は雪化粧の山並みが目に入る。2026年7月に伊東園ホテルズの一館としてリニューアルし、夕食は料理長が仕立てる「創作和食膳」にハーフバイキングと飲み放題が付き、朝食は和洋中のバイキングとなった。
集約レビューの傾向
公開レビューデータを集計したところ、湯と料理、そして眺望の三要素に高い評価が安定して集まる傾向が確認された。客室の広さや建物の年季には好みが分かれるが、湯舟の開放感については賞賛が揃う。家族・夫婦の二世代旅にも応える構成として、湯場で最も信頼できる宿の一軒である。
向く人 / 向かない人
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向く:
湯と眺望と料理のバランスを取りたい夫婦旅、二世代・三世代の親族旅、飲み放題付きの夕食で気軽に過ごしたい旅 -
向かない:
最新のデザイナーズ宿を好む若年層、和の食事が苦手な海外旅行客、極めて静かな数寄屋宿を求める旅
具体情報
- 所在地: 群馬県利根郡みなかみ町猿ヶ京温泉1171
- 客室数: 52室
- 湯舟: 源泉かけ流し大浴場(岩風呂・檜風呂)、露天風呂(赤谷湖・谷川連峰の眺望)
- 食事: 夕食は創作和食膳+ハーフバイキング(飲み放題付き)、朝食はバイキング
- アクセス: 関越自動車道「月夜野」ICから約20分、上越新幹線「上毛高原」駅からタクシーで約20分
4. 源泉湯の宿 千の谷 — 群馬・みなかみ町猿ヶ京温泉
赤谷湖を見下ろす110室、天然温泉の大浴場と貸切露天風呂を合わせて四つ持つ猿ヶ京の大型湯処。
110室、和の旅館。

なぜ選ばれるか
赤谷湖を見下ろす高台に建つ千の谷は、110室を抱える大型旅館でありながら、湯処に手を抜かない宿として知られる。一階と三階に大浴場を二つ、貸切露天風呂を二つ。四つの湯舟はすべて天然温泉で、客室タイプには露天風呂付きや和洋室を含む。食事は地元群馬の食材を主軸にライブキッチンを伴うバイキング形式で、家族連れや団体客にも応える構成である。「和の趣と洋の機能美を配した寛ぎのリゾートホテル」を掲げる。
集約レビューの傾向
公開レビューデータを集計したところ、湯量と食事の幅、そして客室の選択肢の多さへの評価が安定して集まる傾向が確認された。大型宿ながら、湯舟と料理の品質を維持する運営姿勢が支持を受けている。一方で、ごく小さな静寂を求める客にはやや活気が強く感じられる場面もある。
向く人 / 向かない人
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向く:
バイキング形式で選択肢を広く取りたい家族旅、客室露天風呂を試したい夫婦、設備の整った和の宿を求める年配旅 -
向かない:
個室会席のみを楽しみたい食通、極めて静かな小規模宿を望む旅、湯あみ着不要の混浴文化に触れたい湯治志向
具体情報
- 所在地: 群馬県利根郡みなかみ町相俣248
- 客室数: 110室(客室露天付き含む)
- 湯舟: 大浴場2(1階「名月の湯」・3階「星あかりの湯」)、貸切露天風呂2 — すべて天然温泉
- 食事: 地元群馬の食材を中心としたバイキング、ライブキッチン併設
- アクセス: 関越自動車道「月夜野」ICから約15分、上毛高原駅・後閑駅から送迎バスあり(前日までに要予約)
5. 法師温泉 長寿館 — 群馬・みなかみ町法師温泉
三国峠の麓、1875年創業の一軒宿。法師乃湯は国の登録有形文化財、湯舟の底から湯が湧き上がる。
33室、和の旅館(一軒宿)。

なぜ選ばれるか
本記事の核を成す一軒である。三国峠の麓、標高800mほどの谷あいに、1875年(明治8年)創業の長寿館がある。鹿鳴館風のアーチ窓を持つ湯屋「法師乃湯」は、国の登録有形文化財。高い天井を太い梁が支え、湯舟の底に敷かれた玉砂利の隙間から湯が直接湧き出す「足元自噴」の湯場である。湯口から落とすのではなく、湯舟そのものが源泉となるこの構造は、全国でも数えるほどしか残されていない。1981年の国鉄「フルムーン」ポスターで上原謙と高峰三枝子が湯舟に並んだ写真の舞台としても知られる。
集約レビューの傾向
公開レビューデータを集計したところ、湯と建築への評価は際立って高い一方、設備や食事、価格感に対しては好みが分かれる傾向が確認された。木造の歴史的建築であるがゆえに、客室の段差や音、寒暖差は近代旅館と比較すれば残る。湯と建築を主目的に訪れる旅人と、利便性を重視する旅人とで、満足度が大きく分かれる宿である。混浴の作法、湯あみ着の有無、女性専用の時間帯などは公式サイトと現地の掲示で必ず確認したい。
向く人 / 向かない人
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向く:
文化財建築と足元自噴を体験したい温泉通、明治の湯屋空間に強い関心を持つ旅、混浴の作法を史実として尊重できる年配旅 -
向かない:
新築の快適性を求める旅、客室で完結する独立性を望む夫婦、混浴に抵抗があり時間枠の制約を許容できない旅
具体情報
- 所在地: 群馬県利根郡みなかみ町永井650
- 客室数: 33室(本館・別館・薫山荘・法隆殿)
- 湯舟: 法師乃湯(国登録有形文化財、足元自噴の混浴)、玉城乃湯、長寿乃湯
- 泉質: カルシウム・ナトリウム−硫酸塩泉、足元自然湧出
- アクセス: 上越新幹線「上毛高原」駅から関越交通バスで猿ヶ京まで約30分、町営バスに乗り継ぎ約20分。関越自動車道「月夜野」ICから車で約30分
- 創業: 1875年(明治8年)
よくある質問
Q. 盛夏の上州・みなかみ南部は涼しいのですか?
A. 三国峠の麓に位置する法師温泉は標高約800mの山あいにあり、湯宿・猿ヶ京も平地の前橋・高崎より標高が高い。朝晩は窓を開けると涼しく、薄掛けが要る日もある。日中の散策は熱中症対策が必要だが、湯場での過ごし方は標高に救われる。
Q. 法師乃湯の混浴の作法は?
A. 法師温泉 長寿館の法師乃湯は、伝統的な混浴の湯場である。20時から22時は女性専用の時間帯となり、湯あみ着の着用やバスタオルを巻いての入浴はできない。女性専用の時間帯がある玉城乃湯・長寿乃湯も含め、時間割は訪ねる前に公式サイトで確認したい。
Q. 「足元自噴」とはどのような湯場ですか?
A. 湯口から湯を注ぐのではなく、湯舟の底から直接源泉が湧き上がる構造の湯場を指す。湯が空気に触れることなく浴槽を満たすため、鮮度を保ったまま入浴できるのが特徴である。法師温泉 長寿館の法師乃湯がその代表例で、湯舟の底に敷かれた玉砂利の隙間から湯が立ち上る。
Q. 予約のタイミングはいつ頃が良いですか?
A. 法師温泉 長寿館は宿泊予定日の4か月前から予約を受け付けている。繁忙期(GW・夏休み・紅葉期・年末年始)に訪ねるなら、受付開始に合わせて早めに押さえたい。
Q. 子連れでも泊まれますか?
A. 猿ヶ京ホテル、千の谷の二軒は二世代・三世代旅にも応える設えで、客室の幅が広い。湯宿の太陽館・大滝屋は規模が小さく、湯治・夫婦旅向きの宿である(大滝屋は小学生以上の宿泊が基本)。法師温泉 長寿館は幼児料金を設けているが、法師乃湯は混浴で湯あみ着が使えないため、子連れの場合は入浴の時間割を事前に確認しておきたい。
本記事の参考情報
・みなかみ町観光協会 — 三湯場のアクセス・歴史
・Wikipedia: 法師温泉 — 歴史と泉質の背景
・Wikipedia: 湯宿温泉 — 三国街道宿場としての系譜
編集部から
三国峠の麓は、湯量と歴史の濃さで日本でも有数の湯場が連なる地域である。猿ヶ京の眺望、湯宿の素朴な街道の風情、法師の文化財建築という三つの異なる湯場の表情を、一度の旅でつなげて巡る愉しみがある。本記事の五軒は、湯と建物を主役に置いた選定とした。夏は標高に救われ、秋は紅葉、冬は雪見の湯と季節ごとに表情が変わる。次は群馬の北、水上温泉や谷川温泉まで湯場の足跡を辿ってみたい。