処暑を過ぎ、本州がなお夜半まで蒸す頃、大雪山系の谷はもう秋の冷気を呼び込みはじめる。石狩川が柱状節理の壁を刻んだ層雲峡と、忠別川の奥に湯けむりを立てる天人峡。いずれも明治の末に世に知られ、大正から昭和にかけて渓に沿って湯を汲み継いできた山の湯場である。四十代から七十代、温泉の文化に親しむ二人旅へ向けて、源流の湯を守る五軒を、地図とともに辿ってみたい。道内の温泉記事は登別・洞爺・定山渓に集まりがちだが、大雪の懐に抱かれたこの二つの谷は、まだ静かに湯を守り続けている。

# 宿 湯場 Score 客室 目安価格 一行の特徴
1 御やど しきしま荘 天人峡温泉 93 18 ¥42,000–60,000 天人峡唯一の宿。メタけい酸を含む美肌の湯を全室で
2 ホテル雲井 層雲峡温泉 91 33 ¥21,000–30,000 2025年再生。単純硫黄泉を100%かけ流しで守る
3 層雲閣 MOUNTAIN RESORT 1923 層雲峡温泉 89 161 ¥47,000–62,000 大正12年開業、八本の自家源泉を持つ層雲峡最古
4 層雲峡温泉 湯元銀泉閣 層雲峡温泉 88 36 ¥21,000–32,000 四種の源泉を混ぜて注ぐ、渓谷際の湯元の宿
5 ホテル大雪 ONSEN & CANYON RESORT 層雲峡温泉 86 188 ¥49,000–77,000 柱状節理を見晴らす展望・峡谷の湯を擁する大型湯宿

※ 目安価格は公開販売価格の集計に基づく参考値で、実際の予約料金とは異なります。二名一室利用時の一室あたり料金(税込)です。

↕︎ 地図右下の角をドラッグすると高さを調整できます

1. 御やど しきしま荘 — 東川町・天人峡温泉

天人峡にただ一軒残る、全18室の源泉かけ流しの宿。

Media Picks Score: 93 / 100  18室、温泉旅館。

目安価格 ¥42,000–¥60,000 / 泊(二名一室・通常期)


御やど しきしま荘 — 東川町・天人峡温泉 · 日本の滝百選「羽衣の滝」を望む柱状節理の谷の一軒
PHOTO: 御やど しきしま荘 — 公式サイトを見る →

なぜ選ばれるか

忠別川が柱状節理の岩壁を穿った天人峡は、明治三十三年に世に知られた山の湯場である。かつては数軒の宿が湯けむりを競ったが、いまここに灯を守るのはこの一軒のみ。全十八室という小ささを、宿はむしろ拠りどころとしている。湯は源泉かけ流し百パーセント。美肌成分のメタけい酸を基準値の四倍を超えて含み、道内でも指折りの化粧水のような湯として知られる。木造りと石造りの内湯が男女入替りで供され、二〇二五年秋の改修では半露天風呂を備えた客室も加わった。

集約レビューの傾向

公開レビューデータを集計すると、谷の静けさと湯の柔らかさ、そして小規模ゆえの目の行き届いた運営への評価がそろって高い。日本の滝百選「羽衣の滝」への近さを滞在の核に据える声も多く、渓谷歩きと湯を組み合わせる旅程との相性がうかがえる。一方、山峡ゆえ交通の便は限られ、送迎前提の行程になる点は織り込んでおきたい。

向く人 / 向かない人

  • 向く: 二人旅・記念日の静養、湯質そのものを目当てにする旅、羽衣の滝や渓谷歩きと湯を組み合わせたい人
  • 向かない: 鉄道駅からの気軽なアクセスを望む旅程、館内に多彩な娯楽や大浴場のにぎわいを求める滞在

具体情報

  • 最寄り: 旭川駅から車で約1時間20分(旭岳源水公園前からの送迎は要予約)
  • 客室: 全18室(源泉かけ流し半露天風呂付の特別室あり)
  • 湯: 源泉かけ流し100%、メタけい酸202.6mg/L(基準値の4倍超)
  • 泉質: マグネシウム・カルシウム・ナトリウム-硫酸塩・炭酸水素塩・塩化物泉
  • 周辺: 日本の滝百選「羽衣の滝」まで徒歩約15分
  • 時間: チェックイン15:00/チェックアウト10:00
  • 開湯: 天人峡温泉は明治33年(1900年)開湯


2. ホテル雲井 — 上川町・層雲峡温泉

廃業の淵から蘇った、単純硫黄泉かけ流しの美人の湯。

Media Picks Score: 91 / 100  33室、温泉ホテル。

目安価格 ¥21,000–¥30,000 / 泊(二名一室・通常期)


ホテル雲井 — 上川町・層雲峡温泉 · 単純硫黄泉を源泉かけ流しで継ぐ、2025年に再生した湯宿
PHOTO: ホテル雲井 — 公式サイトを見る →

なぜ選ばれるか

層雲峡の谷あいに、いったんは灯を落とした宿がある。ホテル雲井は、開拓期に農閑期の湯治宿として営まれた歴史を持ちながら、近年は休館を余儀なくされていた。その湯を惜しんだ担い手が再生に取り組み、二〇二五年九月に営業を再開した一軒である。湯は、日本でも数少ない良質な単純硫黄泉の源泉かけ流し百パーセント。アルカリ性に近い柔らかな肌触りから「美人の湯」と呼ばれ、硫黄の香りをまとった湯が黒岳の山裾に湯けむりを立てる。客室はかつての五十余室から三十三室へと絞られ、静けさを取り戻した。

集約レビューの傾向

公開レビューデータの集計では、濃厚な硫黄泉の質と、再生後の清新な設え、そして肌当たりの柔らかさへの評価が際立つ。層雲峡の中では小づくりで、湯そのものと向き合いたい旅人からの支持が厚い。再開して間もないため運営の細部はこれから磨かれていく段階と見え、その点を承知のうえで訪れたい。

向く人 / 向かない人

  • 向く: 硫黄泉のかけ流しを主目的とする湯めぐり、静かな環境を求める二人旅、再生した宿の物語に惹かれる人
  • 向かない: 大型館の多彩な設備や宴会場のにぎわいを望む滞在、確立された定番のもてなしを最優先する旅程

具体情報

  • 最寄り: 層雲峡温泉バスターミナルから徒歩圏(旭川駅から車で約1時間10分)
  • 客室: 33室(かつては50室超、再生にあたり客室数を絞り込み)
  • 湯: 単純硫黄温泉、源泉かけ流し100%(美人の湯)
  • 再開: 2025年9月、休館を経て営業再開
  • 立地: 大雪山国立公園・黒岳の山裾、層雲峡温泉街


3. 層雲閣 MOUNTAIN RESORT 1923 — 上川町・層雲峡温泉

大正十二年から続く、層雲峡開湯の系譜を汲む最古の一軒。

Media Picks Score: 89 / 100  161室、温泉ホテル。

目安価格 ¥47,000–¥62,000 / 泊(二名一室・通常期)


層雲閣 MOUNTAIN RESORT 1923 — 上川町・層雲峡温泉 · 渓谷を望む大浴場、大正12年開業の層雲峡最古の宿
PHOTO: 層雲閣 MOUNTAIN RESORT 1923 — 公式サイトを見る →

なぜ選ばれるか

層雲峡の湯を語るとき、この宿を外すことはできない。層雲閣は大正十二年、渓谷に本格的な湯宿として開かれ、以来一世紀にわたり谷とともに歩んできた。文人・大町桂月が紀行に記して以降、層雲峡の名を全国へ広げた立役者でもある。近年「層雲閣 MOUNTAIN RESORT 1923」と名を改めたが、掲げる数字は変わらない。八本の自家源泉を持ち、うち六本を浴用に使い、総湧出量は毎分八百リットルに及ぶ。単純温泉ながら源泉が高温のため加水して整え、渓谷を見晴らす大浴場に惜しみなく注ぐ。

集約レビューの傾向

公開レビューデータを集計すると、豊富な湯量に支えられた大浴場と、開業百年の風格、渓谷を望む眺めへの評価が集まる。大型館ゆえの利便と食事の充実を評価する声がある一方、規模相応に時間帯によって混み合う点や、設備の年輪を感じさせる部分への言及も見られる。歴史ある湯を構えて味わいたい向きに応える一軒と言える。

向く人 / 向かない人

  • 向く: 層雲峡の歴史と湯量を体感したい旅、渓谷ビューの大浴場を求める人、館内で完結する滞在を好む二人旅
  • 向かない: 小宿の親密さや静寂を最優先する滞在、源泉かけ流し(非加水)にこだわる湯めぐり

具体情報

  • 最寄り: 層雲峡温泉街の中心(旭川駅から車で約1時間10分)
  • 客室: 161室
  • 湯: 8本の自家源泉(うち6本を浴用)、総湧出量 毎分800リットル
  • 泉質: 単純温泉(源泉高温のため加水して調整)
  • 開業: 大正12年(1923年)、層雲峡最古の宿


4. 層雲峡温泉 湯元銀泉閣 — 上川町・層雲峡温泉

四種の自家源泉を混ぜて注ぐ、名の通りの「湯元」の宿。

Media Picks Score: 88 / 100  36室、温泉旅館。

目安価格 ¥21,000–¥32,000 / 泊(二名一室・通常期)


層雲峡温泉 湯元銀泉閣 — 上川町・層雲峡温泉 · 流星・銀河の滝を望む渓谷、四種の自家源泉を持つ湯元の宿
PHOTO: 層雲峡温泉 湯元銀泉閣 — 公式サイトを見る →

なぜ選ばれるか

「湯元」を名に負う宿は、湯への責任をそのまま看板に掲げているに等しい。層雲峡温泉 湯元銀泉閣は、四種の源泉と七つの泉源を混ぜ合わせ、自家源泉百パーセントのかけ流しで供する。層雲峡ロープウェーの乗り場まで歩いて数分という谷際に立ち、窓の先には流星・銀河の二筋の滝を刻む柱状節理の壁が迫る。朝はいくらの食べ放題、夜は火鍋を据えたバイキングと、山の湯宿らしい実直な食卓も、この宿の人気を支える一因である。

集約レビューの傾向

公開レビューデータの集計では、自家源泉のかけ流しという湯の確かさと、渓谷に近い立地、そして朝夕の食事の満足度への評価が並ぶ。価格帯に対する納得感を挙げる声も多く、湯と食を程よい予算で両立したい二人旅に向く。館の設えは華美ではないが、湯元としての矜持が随所に表れている。

向く人 / 向かない人

  • 向く: 自家源泉のかけ流しを手頃に楽しみたい旅、ロープウェーや渓谷散策の拠点を探す人、食事の充実を重んじる滞在
  • 向かない: 上質な設えや静かな隠れ宿の趣を最優先する旅程、少人数向けの静謐さを求める滞在

具体情報

  • 最寄り: 大雪山層雲峡ロープウェー乗り場まで徒歩数分(旭川駅から車で約1時間10分)
  • 客室: 36室
  • 湯: 四種の源泉・七つの泉源を混合、自家源泉100%かけ流し
  • 食事: 朝はいくら食べ放題、夜は火鍋を据えたバイキング
  • 立地: 層雲峡温泉公園まち、渓谷際


5. ホテル大雪 ONSEN & CANYON RESORT — 上川町・層雲峡温泉

柱状節理の谷を見晴らす、展望と峡谷の湯を擁する一軒。

Media Picks Score: 86 / 100  188室、温泉ホテル。

目安価格 ¥49,000–¥77,000 / 泊(二名一室・通常期)


ホテル大雪 ONSEN & CANYON RESORT — 上川町・層雲峡温泉 · 柱状節理の谷を見晴らす展望大浴場を持つ大型湯宿
PHOTO: ホテル大雪 ONSEN & CANYON RESORT — 公式サイトを見る →

なぜ選ばれるか

柱状節理の谷を、湯に浸かったまま見晴らす。ホテル大雪 ONSEN & CANYON RESORT は、その一点で層雲峡の地形を最もよく味方につけた宿である。三つの大浴場と二つの露天を備え、展望風呂・峡谷風呂・欧風風呂と趣を変えながら、渓に向かって湯を開く。百八十八室の大型館ながら、湯場の設計は「谷を見せる」ことに徹している。層雲峡の湯を惜しみなく張った浴槽から、季節ごとに表情を変える岩壁と森を眺める時間が、この宿の主役と言える。

集約レビューの傾向

公開レビューデータを集計すると、渓谷を望む展望大浴場の眺めと、複数の湯を巡る楽しさへの評価が目立つ。大型リゾートとしての設備の幅を歓迎する声がある一方、規模ゆえの混雑や画一的な印象への言及も見られる。谷の眺めを湯とともに味わうという一点において、代えのききにくい一軒である。

向く人 / 向かない人

  • 向く: 渓谷ビューの露天を主目的とする旅、複数の湯を巡りたい人、設備の整った大型館の安心感を求める二人旅
  • 向かない: 小宿の静けさや源泉かけ流しへのこだわりを最優先する滞在、混雑を避けて過ごしたい旅程

具体情報

  • 最寄り: 層雲峡温泉街(旭川駅から車で約1時間10分、旭川空港からの送迎便あり)
  • 客室: 188室
  • 湯: 3つの大浴場と2つの露天(展望風呂・峡谷風呂・欧風風呂)
  • 眺め: 柱状節理の渓谷を見晴らす展望大浴場
  • 立地: 大雪山国立公園・層雲峡温泉


よくある質問

Q. 訪ねるべき時季はいつですか?

A. 谷が最も表情を変えるのは、処暑から秋分にかけての初秋である。層雲峡・天人峡ともに標高が高く、本州が残暑にあえぐ頃には朝晩の冷気が湯を引き立てる。九月下旬から十月上旬には渓谷の紅葉が始まり、大浴場や露天から色づく岩壁を望める。厳冬期は層雲峡氷瀑まつりが名高いが、雪道の運転には備えが要る。編集部が静けさの点で推すのは、紅葉前の九月上旬である。

Q. 予約はどのくらい前に取るとよいですか?

A. 紅葉期(9月下旬〜10月中旬)と氷瀑まつり期(1〜3月)は谷全体で客室が埋まりやすく、一〜二か月前の確保が安心である。とりわけ天人峡は宿が一軒に限られるため、この時季は早めの手当てが要る。平日と週末で価格差が生じやすい点も見込んでおきたい。

Q. 子ども連れでも泊まれますか?

A. いずれの宿も家族の滞在を受け入れているが、性格は分かれる。ホテル大雪や層雲閣は大型館で大浴場も広く、子連れでも動きやすい。御やど しきしま荘やホテル雲井は小づくりで湯質を主役とするため、静かな滞在を望む二人旅に向く。乳幼児連れの場合は、事前に客室タイプと入浴の可否を宿へ確認しておくとよい。

Q. アクセスはどうなりますか?

A. いずれも旭川が玄関口となる。層雲峡温泉へは旭川駅・旭川空港から車でおよそ一時間、路線バスも通じる。天人峡は東川町の奥にあり、旭川駅から車で一時間二十分ほど、公共交通は限られるため宿の送迎(要予約)やレンタカーが現実的である。

Q. 湯質にはどんな違いがありますか?

A. 天人峡はメタけい酸を多く含む中性の湯で、化粧水のような肌当たりの美肌泉として知られる。層雲峡は単純温泉や単純硫黄泉が主で、ホテル雲井の硫黄泉のように香り立つ湯もあれば、層雲閣や銀泉閣のように豊富な自家源泉を注ぐ宿もある。同じ大雪の谷でも、川筋が変われば湯の性格も移ろう。

本記事の参考情報

層雲峡観光協会 — 層雲峡温泉・渓谷・氷瀑まつりの観光情報
Wikipedia: 層雲峡 — 柱状節理の渓谷と温泉の歴史・地理
Wikipedia: 天人峡温泉 — 明治期の開湯と羽衣の滝をめぐる背景

編集部から

五軒に共通するのは、大雪山系の源流の湯を、それぞれの規模と流儀で守り続けているという一点である。天人峡にただ一軒残るしきしま荘の静けさも、大正から続く層雲閣の湯量も、再生を遂げた雲井の硫黄泉も、いずれも谷とともにある湯の姿にほかならない。処暑を過ぎ、朝湯に冷気が混じりはじめる頃、あなたはどの川筋の湯を最初に訪ねてみたいだろうか。次は、旭岳の裾に湧く湯や、道内のもう一つの源流の谷を辿ってみたい。

次に読むなら