梅雨が明け、石見の海と山に夏の光が戻る頃に訪ねたい湯宿を五軒、編んだ。世界遺産・石見銀山の積出港として栄えた温泉津(ゆのつ)と、山あいに薬師を祀る有福(ありふく)。塩を含む海辺の湯と、とろりとした山の単純泉。性格の異なる二つの湯場に、湯治の作法を今に継ぐ木造の宿が静かに残る。湯と建物を主語に、四十代から七十代の、温泉文化に造詣ある読者へ向けて選んだ五軒である。

# 宿 湯場 Score 客室 目安価格 一行の輪郭
1 のがわや旅館 温泉津 94 10 ¥46–¥61k 1,300年の天然湯を掛け流す、海辺の小体な老舗
2 三階旅館 有福 93 8 ¥39–¥52k 江戸末期の木造三階、外湯三軒に囲まれた一日二組の宿
3 旅館ますや 温泉津 91 10 ¥38–¥70k 明治43年創業、温泉津最古の木造三階建て
4 旅館ぬしや 有福 91 9 ¥58–¥76k 創業250年余、古民家を移した離れの一軒宿
5 寛ぎの宿 輝雲荘 温泉津 84 14 ¥42–¥61k 薬師湯の引き湯と、温泉街で唯一の露天をもつ宿
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※ 目安価格は公開販売価格の集計に基づく参考値で、実際の予約料金とは異なります。1泊2名利用時の1室あたり料金(税込)です。湯治を旨とする宿では、素泊まりや連泊での利用により、これより下がる場合がある。

1. のがわや旅館 — 温泉津

港町の湯を、十室の小体な構えで守る。1,300年続く天然温泉の掛け流しを、編集部がまず推したい一軒。

Media Picks Score: 94 / 100  10室、温泉旅館。

目安価格 ¥46,000–¥61,000 / 泊 (2名1室・通常期)


のがわや旅館 — 大田市温泉津 · 1,300年続く天然温泉を掛け流す木造の老舗湯宿
PHOTO: のがわや旅館 — 公式サイトを見る →

なぜ選ばれるか

湯が、この宿の主語である。狸が湯浴みする姿を旅の僧が見つけたという開湯伝承を温泉津と共有し、1,300年以上続く天然温泉を加水せず掛け流す。岩風呂、石風呂、そして貸切風呂と、湯のあたりを変えて入り分けられるのも湯治宿らしい構えだ。六畳一間から二十畳の二間続きまで、客室の懐が広いことも、長逗留を旨とする旅人の心に適う。海辺の宿らしく、地元漁師が運ぶ近海の魚を主役に据えた膳が、湯のあとの体に染みる。

集約レビューの傾向

公開レビューデータを集計したところ、当該エリアで湯質そのものへの評価が際立って高い宿として確認された。塩を含む湯のあたたまりの深さ、湯口から注がれる新鮮さに触れる声が目立ち、一人旅での連泊にも向くという受け止めが多い。料理は近海の魚を素朴に仕立てた構成で、量よりも素材の鮮度を尊ぶ姿勢が支持されている。華美を求める向きには静かに過ぎるかもしれないが、湯を目的に訪れる旅人の評価は安定して高い。

向く人 / 向かない人

  • 向く:
    湯質を第一に選ぶ夫婦旅、温泉津で連泊して湯治を試したい人、近海の地魚を静かに味わいたい旅程
  • 向かない:
    露天風呂や大浴場の規模を重んじる人(内湯主体の小体な構え)、館内の娯楽設備を求める滞在、幼児連れで賑やかに過ごしたい家族

具体情報

  • 湯場: 温泉津温泉(薬師湯系の塩化物泉・掛け流し)
  • 風呂: 岩風呂・石風呂・貸切風呂の三種
  • 客室: 全10室(6畳一間〜20畳の二間続き)
  • 食事: 近海の地魚を主役にした会席
  • 最寄り駅: JR温泉津駅から車で数分(温泉街中心)
  • 開湯: 温泉津温泉は約1,300年前と伝わる


2. 三階旅館 — 有福

江戸末期の木造三階が、外湯三軒に囲まれて建つ。一日二組の会席を供する、有福の象徴的な一軒。

Media Picks Score: 93 / 100  8室、温泉旅館。

目安価格 ¥39,000–¥52,000 / 泊 (2名1室・通常期)


三階旅館 — 江津市有福温泉 · 江戸末期の意匠を残す木造三階建ての純和風旅館
PHOTO: 三階旅館 — 公式サイトを見る →

なぜ選ばれるか

建物が、まず語りかけてくる。江戸末期に建てられた木造三階建てで、外観はもとより、階段、細工を施した手摺、欄間、戸袋、部屋の誂えに至るまで、当時の趣を大切に守り継いできた。今の法では同じ建て方の叶わぬ建築であり、宿そのものが有福温泉の象徴となっている。会席料理は一日二組限定。湧き続ける外湯三軒(元湯系)に四方を囲まれた立地ゆえ、湯場をめぐり歩く有福本来の作法をそのまま味わえる。山あいのとろりとしたアルカリ単純泉が、肌をやわらかく包む。

集約レビューの傾向

公開レビューデータを集計したところ、建物の風格と一日二組という静けさへの評価が、当該エリアで突出して高い宿として確認された。手の込んだ会席を少組数で供する姿勢、外湯めぐりを前提とした湯治場らしい構えに、温泉文化に通じた旅人の満足が集まる。客室数が少なく予約の取りにくさを指摘する声はあるが、それ自体がこの宿の質を裏づける。建築と湯を主目的に据えた、目的の明快な滞在に向く。

向く人 / 向かない人

  • 向く:
    古建築に造詣のある夫婦旅、外湯めぐりで湯場を歩きたい人、一日二組の静けさを求める記念の旅
  • 向かない:
    段差や急な階段を避けたい人(古建築ゆえの構造)、当日や直前の予約を望む旅程、大浴場・露天の規模を重んじる滞在

具体情報

  • 湯場: 有福温泉(アルカリ単純泉・美人の湯)
  • 建築: 江戸末期の木造三階建て、当時の意匠を保存
  • 客室: 全8室
  • 食事: 会席料理、一日二組限定
  • 立地: 外湯(元湯)三軒に囲まれた温泉街中心
  • アクセス: 山陰自動車道・浜田ICから約15分/江津西ICから約10分


3. 旅館ますや — 温泉津

明治43年創業、温泉津でもっとも古い木造三階建て。建物の年輪そのものが湯治の歴史を語る。

Media Picks Score: 91 / 100  10室、温泉旅館。

目安価格 ¥38,000–¥70,000 / 泊 (2名1室・通常期)


旅館ますや — 大田市温泉津 · 明治43年創業、温泉津最古の木造三階建て湯宿
PHOTO: 旅館ますや — 公式サイトを見る →

なぜ選ばれるか

建物の年輪が、そのまま温泉津の歴史と重なる。明治43年(1910年)に創業した、温泉津でもっとも古い旅館で、木造三階建ての構えは今では建てることの叶わぬ希少なものだ。温泉津の湯は、日本温泉協会の審査で県内唯一、全国でも十二か所しかない最高評価「オール5」を受けた名湯であり、その町の湯を享ける場として、この宿は確かな由緒をもつ。近海の魚を中心に、旬の食材をすべて手作りで仕立てる膳は、派手さよりも土地の滋味を尊ぶ。湯治場の宿らしい、慎ましくも芯のある一軒である。

集約レビューの傾向

公開レビューデータを集計したところ、建物の趣と湯質の双方に高い評価が集まる宿として確認された。木造三階の重みある佇まい、軋む階段や古い欄間に往時を感じる声が多く、温泉津の湯そのものの質の高さへの言及も目立つ。手作りの家庭的な膳を評価する声がある一方、設備の新しさを求める向きには古さが気になる場合もある。建物と湯の歴史を味わう滞在を望む旅人に、評価が安定して高い。

向く人 / 向かない人

  • 向く:
    明治の木造建築に惹かれる夫婦・友人連れ、温泉津の名湯を素泊まりで湯治したい人、手作りの素朴な膳を好む旅
  • 向かない:
    新しい設備や広い客室を重んじる人、急な階段を避けたい旅程、洋食中心の食を望む滞在

具体情報

  • 湯場: 温泉津温泉(日本温泉協会「オール5」評価の名湯)
  • 建築: 木造三階建て、温泉津で最古の旅館
  • 客室: 全10室
  • 食事: 近海の魚を中心に、旬の食材を手作りで
  • 創業: 明治43年(1910年)
  • アクセス: JR温泉津駅下車/出雲空港から約1時間半


4. 旅館ぬしや — 有福

創業250年余、古民家を移した離れの一軒宿。美人の湯と離れの静けさが、有福の谷あいに溶ける。

Media Picks Score: 91 / 100  9室、温泉旅館(離れ)。

目安価格 ¥58,000–¥76,000 / 泊 (2名1室・通常期)


旅館ぬしや — 江津市有福温泉 · 創業250年余、古民家を移築した離れの一軒宿
PHOTO: 旅館ぬしや — 公式サイトを見る →

なぜ選ばれるか

離れが、谷の静けさを各室に分け与える。創業から250年余を数える老舗で、古民家を移築した離れを含む全9室は、棟を分かつことで一組ごとの時間を守る構えだ。有福の湯は聖徳太子の時代から続くと伝わるアルカリ単純泉で、「美人の湯」と称される肌触りのやわらかさが身上。膳には、しまね和牛、ケンボロー豚、地物の有機野菜を据え、特選のどぐろ会席やしまね和牛炭火会席など、土地の滋味を主役にしたコースが組まれる。無垢材や藍染めを取り入れた近年の手入れが、古びを生かしながら清新さを添えている。

集約レビューの傾向

公開レビューデータを集計したところ、離れの独立性と料理の質に高い評価が集まる宿として確認された。一組ごとに区切られた静けさ、のどぐろや和牛を据えた会席の満足度に触れる声が多く、湯のやわらかさへの言及も目立つ。本館と離れで趣が分かれるため、棟による印象差を指摘する声はあるが、夫婦旅や記念の滞在には静かな環境が好まれている。料理と離れの時間を主目的にした旅に向く。

向く人 / 向かない人

  • 向く:
    離れで静かに過ごしたい夫婦旅、のどぐろや和牛の会席を目当てにする人、美人の湯のやわらかさを好む滞在
  • 向かない:
    価格を最優先する湯治利用、大浴場の規模を重んじる人、にぎやかな団体での滞在

具体情報

  • 湯場: 有福温泉(アルカリ単純泉・美人の湯)
  • 形式: 離れを含む全9室(離れ5室・本館4室)
  • 食事: しまね和牛・ケンボロー豚・地物有機野菜の会席
  • 手入れ: 無垢材・鉄・藍染めを取り入れた近年の改装
  • 創業: 250年余
  • 所在: 島根県江津市有福温泉町


5. 寛ぎの宿 輝雲荘 — 温泉津

薬師湯から引いた掛け流しと、温泉街で唯一の露天をもつ。湯あたりの選べる、温泉津の中核の一軒。

Media Picks Score: 84 / 100  14室、温泉旅館。

目安価格 ¥42,000–¥61,000 / 泊 (2名1室・通常期)


寛ぎの宿 輝雲荘 — 大田市温泉津 · 薬師湯の引き湯と温泉街唯一の露天をもつ湯宿
PHOTO: 寛ぎの宿 輝雲荘 — 公式サイトを見る →

なぜ選ばれるか

湯の選択肢の広さが、この宿の身上だ。1,300年の歴史をもつといわれる「元湯」と、天然温泉の審査で最高評価を受けた「薬師湯」。輝雲荘はその薬師湯から引いた掛け流しを湛え、温泉街で唯一の露天風呂をもつ。塩化物泉と二酸化炭素泉の混じる湯は、内湯の「甍の湯」「森の湯」、麦飯石セラミック泉の家族風呂と入り分けられる。膳は地元日本海の海産物を主役にした月替わりの創作会席で、島根和牛のステーキを選ぶこともできる。五軒のなかでは規模がやや大きく、湯めぐりと食事の幅を一軒で求める旅に向く。

集約レビューの傾向

公開レビューデータを集計したところ、湯の種類の豊富さと露天風呂の存在が評価される一方、客数の多い時間帯の混み合いに触れる声も見られる宿として確認された。薬師湯の掛け流しや、温泉街で唯一という露天への満足が中核をなし、部屋食での会席を評価する声も多い。十四室と相応の規模をもつぶん、静けさを最優先する向きにはやや賑わいが気になる場合もあるが、湯と料理の選択肢を広く取りたい旅人には扱いやすい一軒だ。

向く人 / 向かない人

  • 向く:
    露天や家族風呂など湯の種類を求める人、部屋食の会席を楽しみたい夫婦・家族、島根和牛を選びたい滞在
  • 向かない:
    小体な静けさを最優先する人、混み合う時間帯を避けたい一人旅、素泊まりの低料金を主目的とする利用

具体情報

  • 湯場: 温泉津温泉(薬師湯引き湯・塩化物泉+二酸化炭素泉・掛け流し)
  • 風呂: 温泉街唯一の露天、甍の湯・森の湯、麦飯石の家族風呂
  • 客室: 全14室
  • 食事: 月替わり創作会席(日本海の海産物/島根和牛)、部屋食
  • チェックイン: 15:00〜 / アウト 〜10:00
  • 送迎: JR温泉津駅から送迎あり


よくある質問

Q. 温泉津温泉と有福温泉、湯の違いは何ですか?

A. 温泉津は石見銀山の積出港に湧く海辺の湯で、薬師湯系の塩化物泉。塩分を含み、湯上がりの保温に優れる。一方の有福は山あいの谷に湧くアルカリ単純泉で、「美人の湯」と称されるやわらかな肌触りが身上。塩の海湯と、とろりとした山のぬる湯という対比が、二つの湯場を分ける。湯治を旨とするなら、両方を巡って泉質の違いを体で確かめるのも一興である。

Q. 梅雨明けの石見を編集部が推す理由は?

A. 梅雨が明けると、温泉津の港町には潮の匂いが満ち、有福の谷あいには蝉時雨が降りる。海と山、二つの湯場の季節感が際立つのがこの時期だ。盛夏の観光地の喧騒からは外れた山陰の湯治場ゆえ、静かに湯と向き合える。近海の魚は夏の地物が並び、湯上がりの膳を彩る。混み合う連休を外した平日であれば、いっそう落ち着いた逗留が叶う。

Q. 湯治のように連泊や素泊まりはできますか?

A. 本記事の五軒はいずれも湯治の作法を継ぐ宿で、素泊まりや連泊に応じる宿が多い。とくに温泉津の旅館ますや・のがわや旅館は、湯を目的とした逗留に向く構えをもつ。目安価格は会席付きの2名1室を基準に集計しているため、素泊まりや連泊であればこれより下がる場合がある。詳細な料金や連泊の可否は、各宿の公式サイトで確認するのがよい。

Q. 子連れでも泊まれますか?

A. いずれも小体な木造の湯宿で、静けさを身上とする宿が中心となる。客室数の多い寛ぎの宿 輝雲荘は家族風呂をもち、部屋食にも応じるため、家族連れには比較的過ごしやすい。一方、江戸末期の木造三階を残す三階旅館や、離れの旅館ぬしやは古建築ゆえの段差や静けさがあり、幼児連れには向き不向きがある。子連れの可否や設備は、各宿の公式サイトで事前に確かめたい。

Q. 公共交通でのアクセスは?

A. 温泉津の宿はJR山陰本線・温泉津駅が最寄りで、駅から温泉街へは送迎や車で数分。有福の宿はJR江津駅・浜田駅からバスで約30分、バス停「有福温泉」が起点となる。出雲空港からは温泉津まで車で約1時間半。山陰自動車道を使えば、浜田ICや江津西ICから有福までいずれも15分前後である。

本記事の参考情報

しまね観光ナビ(島根県公式観光情報サイト) — 温泉津・有福を含む石見エリアの観光情報
江津市観光協会 — 有福温泉 — 有福温泉の歴史と外湯の案内
Wikipedia: 温泉津温泉 — 石見銀山と港町としての歴史背景

編集部から

石見の湯宿に通底するのは、湯と建物を急いで作り替えない、という節度である。木造三階を守り、外湯をめぐる流儀を残し、湯を薄めずに注ぐ。効率の物差しでは測れぬその選択が、世界遺産の里に湯治の作法を今に伝えている。海の塩湯か、山のぬる湯か。あなたの体がどちらの湯を欲するかで、訪ねる谷は自ずと決まるだろう。次はどの湯場の、どんな宿の物語を訪ねてみたいだろうか。

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