加賀温泉郷の山中・山代・粟津を、代を継いできた宿から辿る旅として、編集部が四軒を選んだ。行基が発見し、松尾芭蕉が逗留したと伝わる開湯千三百年余の谷は、大江戸の大型湯宿から静かな数寄屋の一軒宿まで表情が幅広い。ここでは処暑から初秋、鶴仙渓の川床に夕風が渡り、山代の総湯の軒先に行灯が灯る頃を選び、創業五十年を越えて主を継いできた老舗の今を、地図とともに淡々と記す。年配の読者にも無理のない、四軒の輪郭である。
| # | 旅館 | 湯 | Score | 客室 | 目安価格 | 一行の輪郭 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 1 | あらや滔々庵 | 山代温泉 | 93 | 18 | ¥114–¥191k | 寛永十六年創業、総湯前に立つ加賀の老舗 |
| 2 | 胡蝶 | 山中温泉 | 91 | 10 | ¥110–¥158k | 鶴仙渓に面す書院造り、一日七組の静けさ |
| 3 | たちばな四季亭 | 山代温泉 | 90 | 20 | ¥83–¥125k | 明治元年創業、湯の曲輪の庭園露天 |
| 4 | 旅亭懐石 のとや | 粟津温泉 | 89 | 50 | ¥60–¥81k | 開湯千三百年、自家源泉と懐石の宿 |
※ 目安価格は公開販売価格の集計に基づく参考値で、実際の予約料金とは異なります。一泊二名利用時の一室あたり料金(税込)です。
1. あらや滔々庵 — 加賀・山代温泉
山代の総湯前に、寛永十六年から代を継ぐ十八室。加賀の湯宿の格を、いまに伝える一軒である。
Media Picks Score: 93 / 100 18室、山代温泉の老舗旅館。
目安価格 ¥114,000–¥191,000 / 泊 (2名1室・通常期)

なぜ選ばれるか
山代の湯の曲輪、総湯の目の前に構える宿である。寛永十六年(一六三九年)の創業と伝わり、加賀の湯宿のなかでも古い歴史をもつ一軒として知られる。逗留の客に食と器を供し続けてきた土地柄は、後に北大路魯山人が滞在し、作陶と料理の縁を結んだことでも語られる。館の芯には自家の源泉があり、離れを含めた十八室の構えは、大型化の進んだ温泉地にあって希少な静けさを保っている。総湯へ下駄で下りられる立地も、湯の街の作法を味わう旅にかなう。
集約レビューの傾向
公開レビューデータを集計したところ、館の格と源泉の質、そして接遇の落ち着きへの評価が高く確認された。とりわけ、離れや古い意匠の残る客室、加賀の食材を用いた献立、魯山人ゆかりの器を含めた設えを、静かに味わう滞在として受け止める声がまとまっている。一方で、料金帯は加賀のなかでも上位にあり、価格に見合う体験を求める性格の宿と読み取れる。設備の新しさより、継承された空気そのものを目当てに選ぶ宿と言える。
向く人 / 向かない人
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向く:
記念の夫婦旅、加賀の湯宿の歴史や器・意匠に関心のある人、総湯を含めた湯の街歩きを楽しみたい旅 -
向かない:
新しい設備やモダンな内装を第一に望む人、価格を抑えて泊まりたい旅程、大浴場の規模を重視する旅
具体情報
- 所在: 石川県加賀市山代温泉18-119(総湯まで徒歩約1分)
- 客室数: 18室(離れを含む)
- 湯: 自家源泉、源泉かけ流しの内湯・露天
- 食事: 加賀の食材を用いた会席
- 創業: 寛永十六年(1639年)
- ゆかり: 北大路魯山人の滞在で知られる
2. 胡蝶 — 加賀・山中温泉
鶴仙渓に面す書院造りの十室。一日七組だけを迎える、山中でもっとも静かな一軒。
Media Picks Score: 91 / 100 10室、山中温泉の書院造り旅館。
目安価格 ¥110,000–¥158,000 / 泊 (2名1室・通常期)

なぜ選ばれるか
山中温泉を流れる大聖寺川の渓谷、鶴仙渓に面して立つ小さな宿である。あやとりはし、こおろぎ橋にほど近く、昭和のはじめに建てられた書院造りの建物が今も芯を成す。客室は十室、一日に迎えるのは七組までとされ、規模を大きくせずに継いできた選択がそのまま滞在の質になっている。松尾芭蕉が「山中や 菊は手折らじ 湯の匂ひ」と詠み、日本三名湯の一つに数えた山中の湯を、渓の音とともに静かに味わえる。加賀懐石を軸にした食も、この宿の骨格である。
集約レビューの傾向
公開レビューデータを集計したところ、静けさと渓谷の眺め、そして少数のみを迎える接遇への評価が集まっている。書院造りの落ち着いた設え、季節の加賀懐石、湯の柔らかさを挙げる声がまとまり、賑わいよりも籠もる時間を求める旅に向く宿として受け止められている。一方で、客室数が少なく人気の時季は早く埋まる傾向があり、館は歴史ある建物ゆえに新しさを前面に出すつくりではない。静を選ぶ旅にこそ、その価値が立つ一軒と言える。
向く人 / 向かない人
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向く:
渓谷の静けさを第一に望む夫婦旅・友人連れ、書院造りの意匠を味わいたい人、加賀懐石を目当てにする旅 -
向かない:
大浴場や館内の賑わいを求める旅、幼い子連れで広い動線を要する滞在、直前予約で確実に泊まりたい旅程
具体情報
- 所在: 石川県加賀市山中温泉(鶴仙渓に面す、あやとりはし・こおろぎ橋近く)
- 客室数: 10室(一日七組まで)
- 建物: 昭和初期建築の書院造り
- 食事: 本格加賀懐石
- 湯: 山中温泉(日本三名湯の一・白鷺の湯)
- アクセス: 加賀温泉駅からバスで山中温泉へ約30分、下車後徒歩圏
3. たちばな四季亭 — 加賀・山代温泉
明治元年創業、湯の曲輪に立つ二十室。庭園露天と北陸の食で、山代の四季を編む宿。
Media Picks Score: 90 / 100 20室、山代温泉の老舗旅館。
目安価格 ¥83,000–¥125,000 / 泊 (2名1室・通常期)

なぜ選ばれるか
山代温泉の湯の曲輪、万松園通に構える宿である。創業は明治元年(一八六八年)と伝わり、湯の街の中心で百五十年余を継いできた。屋号の「四季亭」が示すとおり、北陸の四季を通じた食材の宝庫という土地柄を献立の芯に据え、能登牛や地の海の幸、加賀の味を折々に組む。庭園露天風呂を備え、混じり気のない源泉が絶えず注ぐ湯を、木々の景とともに味わえる。総湯や薬王院温泉寺、服部神社まで歩ける立地で、山代の湯の街をそのまま楽しむ拠点として無理がない。
集約レビューの傾向
公開レビューデータを集計したところ、料理の満足と庭園露天のくつろぎ、そして湯の街の中心という立地への評価がまとまっている。北陸の旬を組んだ会席、源泉の湯質、女将をはじめとした接遇の丁寧さを挙げる声が目立つ。一方で、明治創業の館ゆえに改装を重ねながら継いできた歴史があり、意匠の新旧が混じる点は好みが分かれるところと読み取れる。派手さより、湯の街に根を張った落ち着きを求める旅に合う宿と言える。
向く人 / 向かない人
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向く:
北陸の食を主目的にする旅、庭園露天でくつろぎたい夫婦旅、総湯や寺社を歩いて巡る山代滞在 -
向かない:
全室に客室露天を望む人、統一されたモダンな内装を求める旅、静かな一軒宿の趣を第一にする旅程
具体情報
- 所在: 石川県加賀市山代温泉万松園通16(湯の曲輪)
- 客室数: 20室
- 湯: 源泉かけ流し、庭園露天風呂あり
- 食事: 能登牛・地の海の幸を組む北陸の会席
- 創業: 明治元年(1868年)
- 周辺: 総湯・薬王院温泉寺・服部神社まで徒歩圏
4. 旅亭懐石 のとや — 小松・粟津温泉
開湯千三百年の粟津に、自家源泉を守る五十室。屋号のとおり、懐石に主眼を置いた宿である。
Media Picks Score: 89 / 100 50室、粟津温泉の懐石旅館。
目安価格 ¥60,000–¥81,000 / 泊 (2名1室・通常期)

なぜ選ばれるか
粟津温泉は、開湯千三百年余と伝わる北陸最古級の湯である。のとやはこの地で七百年に及ぶ歴史を重ね、館の全ての湯を自家源泉でまかなう数少ない宿として知られる。加水を行わず、地下から湧く湯をそのまま用いる姿勢は、湯量に恵まれた粟津ならではのものだ。屋号に「懐石」を掲げるとおり食への傾注が深く、地の旬「じわもん」を軸に、湯けむり源泉蒸しをはじめとした一皿を組む。露天風呂付きの客室も設けられ、静かに湯と食に向き合える構えである。
集約レビューの傾向
公開レビューデータを集計したところ、料理の満足度と自家源泉の湯質への評価が高く確認された。懐石を主目的にした献立、源泉蒸しに代表される土地の趣向、加水のない湯の柔らかさを挙げる声がまとまっている。五十室という規模ながら、食と湯に軸を置いた運営が保たれている点も評価されている。一方で、大型の温泉地に比べれば粟津は落ち着いた湯の街であり、賑やかな滞在を求める旅には静かに映るかもしれない。食を旅の中心に据える人にこそ向く宿と言える。
向く人 / 向かない人
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向く:
懐石料理を旅の中心に据える人、加水のない源泉の湯を好む旅、静かな湯の街で落ち着いて過ごしたい夫婦旅 -
向かない:
繁華な温泉街の賑わいを求める旅、少人数の一軒宿の趣を第一にする人、日帰り入浴を目的にする旅程
具体情報
- 所在: 石川県小松市粟津町ワ85
- 客室数: 50室(露天風呂付き客室あり)
- 湯: 自家源泉100%・加水なし(開湯1302年の粟津温泉)
- 食事: 懐石料理、加賀 湯けむり源泉蒸しなど
- 歴史: 創業以来約700年
- 備考: 宿泊者専用の湯(日帰り入浴なし)
よくある質問
Q. 加賀温泉郷を訪ねる時季は、いつが良いですか?
A. 湯の街の情緒を静かに味わうなら、編集部は処暑から初秋を推す時季として挙げる。山中の鶴仙渓は川床に涼が渡り、山代・粟津の総湯や街並みも人出が落ち着く。加賀は冬の蟹、春の山菜、夏の鮎と季節ごとに食の表情が変わるため、目当てを食に置くなら旬に合わせて選ぶのも一案である。
Q. 予約はどのくらい前がよいですか?
A. 本記事の四軒はいずれも客室数が十室から五十室と限られ、とりわけ胡蝶やあらや滔々庵のような小規模の宿は、週末や連休、蟹の時季には早くに埋まる傾向がある。日程が決まっているなら二〜三か月前を目安に動くと選択肢が広い。平日は比較的取りやすい。
Q. 子連れでも泊まれますか?
A. のとややたちばな四季亭のような中規模の宿は家族連れの受け入れにも慣れているが、胡蝶やあらや滔々庵は静けさを旨とする小さな宿で、動線や客室の構えが幼い子連れに必ずしも向かない場合がある。子連れの可否や設備は宿ごとに異なるため、予約前に各宿の公式サイトで確認するのが確実である。
Q. アクセスはどうなっていますか?
A. 山中・山代・片山津の各温泉へはJR加賀温泉駅が玄関口で、駅から各湯へは路線バスや宿の送迎で向かう。粟津温泉はJR粟津駅からが近い。空路の場合は小松空港が最寄りで、駅・空港いずれからも公共交通と送迎を組み合わせて到着できる。
Q. 温泉の効能に違いはありますか?
A. 山中・山代・粟津はいずれも古くから湯治の地として知られ、疲労回復や神経痛などに親しまれてきた。泉質や源泉の扱いは宿によって異なり、のとやのように自家源泉を加水なしで用いる宿もある。効能の詳細は各宿・各温泉協会の案内に拠るのが正確である。
本記事の参考情報
・山代温泉観光協会 — 山代温泉の湯の曲輪・総湯の案内
・Wikipedia: 加賀温泉郷 — 山中・山代・粟津・片山津の歴史と地理
・加賀温泉郷公式サイト — 三湯のエリア情報
編集部から
加賀温泉郷は、山中・山代・粟津・片山津という四つの湯が近接し、それぞれに固有の町割りと作法を保つ稀有な温泉地である。今回選んだ四軒に通底するのは、規模を無闇に大きくせず、湯と食と建物を代々の手で継いできたという一点だ。あらやの総湯前の格、胡蝶の渓に籠もる静けさ、たちばなの湯の街の落ち着き、のとやの懐石への傾注。同じ谷にありながら、宿が守ってきたものはそれぞれ異なる。処暑を過ぎ、行灯の灯る夕暮れに、どの湯の作法があなたの旅に添うだろうか。