盛夏の置賜、月山と葉山の麓を渡る風が、城下のうだつの上にやわらかく落ちる。山形は上山、羽州街道の宿場として開けた湯場のひとつ、葉山の高台に、二百年近く湯と帳場を守り継ぐ一軒がある。山形県上山市葉山に佇む葉山舘は、ナトリウム塩化物泉の源泉百パーセントを湯殿に湛え、上杉領を望む高台に三十二の客間を構える。盛夏の置賜行にあたって、編集部が深く語りたい一軒である。

※ 目安価格は公開販売価格の集計に基づく参考値で、実際の予約料金とは異なります。1泊2名利用時の1室あたり料金(税込)です。

葉山舘 — 山形・かみのやま温泉

葉山の高台、源泉百パーセントの湯と三十二の客間。羽州街道の宿場に代を継ぐ、編集部が深く語りたい一軒である。

Media Picks Score: 95 / 100  32室、旅館。

目安価格 ¥48,000–¥66,000 / 泊 (2名1室・通常期)


葉山舘 — 山形・かみのやま温泉 葉山地区 · 蔵王連峰を望む高台に立つ源泉100%の老舗旅館
PHOTO: 葉山舘 — 公式サイトを見る →

葉山という湯と、羽州街道の城下町

かみのやま温泉は、長禄二年の発見と伝わり、月待山の麓に湧いた湯を湯町・新湯・湯町新地・河崎・葉山の五地区に分けて受け継いできた。上杉領の南端、羽州街道の宿場として米沢と山形を結ぶ要衝に開けたこの湯場は、城下町の格と街道の通行人を同時に抱える二重の機能を持っていた。葉山地区は、その中でも上山城跡の北、葉山の中腹を背にした高台に位置し、城下を見下ろす視座を持つ。葉山舘の創業は、地域の伝承では文政の頃と語り継がれる。二百年近い時を経て、代を継ぎながら湯と帳場を守ってきた一軒として、置賜の宿の系譜に深く根を下ろしている。

蔵王権現の祭礼との関わりも、葉山地区の宿の特徴である。夏越の頃、上山近隣で営まれる修験の縁を遠く受け、宿の表構えにもどこか山岳信仰の名残が感じられる。城下町の歩き手にとって、葉山舘は単なる湯宿ではなく、上山という土地の継承の一端を担う場として読み取られる一軒であろう。

源泉百パーセント、ナトリウム塩化物泉という湯

葉山舘の湯は、ナトリウム塩化物泉。海から離れた内陸の湯場で塩化物泉を湛えるのは、太古の海水が地下深くに残った深層由来とされ、湯あたりはやわらかく、湯上がりは肌の表面に薄い塩の膜を残して保温を続ける。湯量は豊富で、館内の浴槽はいずれも源泉百パーセントの掛け流しを基本とする。加水・加温に依存せず、湯口から湯舟へ、湯舟から床面へと、ただ流れて出ていく。湯の鮮度を保つこの方式は、湯量の十分に確保できる宿でなければ成立しないものである。

葉山舘 客間 — 上山城下と蔵王を望む高台の数寄屋の間
PHOTO: 葉山舘 客間 — 公式サイトより

露天の湯殿は、葉山の中腹という地勢を活かして開かれている。湯に浸かりながら遠くを望めば、蔵王連峰の稜線が東に伸び、夜は上山の城下に灯る家々の明かりが膝下にひろがる。城を望む湯殿という言い方は誇張ではなく、宿の立地そのものが、上山の歴史地理に組み込まれている。客間の多くにも温泉の内風呂が設えられ、自室の窓辺から城下を見下ろしながら湯に身を沈める時間を持てる構成となっている。

数寄屋の客間と、三つの棟

葉山舘は、翠葉亭・華葉亭・四季亭の三棟を擁し、計三十二の客間を抱える。それぞれの棟は、立地と内装の格の取り方が異なる。翠葉亭は数寄屋造りの落ち着きを基調とし、京の町家の手法に通じる障子と簾の使い分けを基調に据えた間取り。華葉亭は、葉山舘のなかでもとりわけ広めの客間を擁し、和洋融合の意匠を取り入れた現代的な滞在に応える。四季亭は、より気軽に湯を楽しむ層を受ける標準的な棟であり、価格帯のなかで湯と食事を中心に据えた一泊に向く。三棟いずれも、置賜の山々を借景にした視座を確保している。

客間の床の間には、季節ごとに掛けの軸が改まる。盛夏は涼を呼ぶ筆致、初秋は月見の趣向。床に置かれる花は、宿の主と仲居の手によるものが多く、土地の野花を活かす慎みのある活け方が目を引く。

夕餉 — 米沢牛と置賜の夏野菜

葉山舘 夕餉 — 米沢牛と置賜の夏野菜を組み合わせた季節の会席
PHOTO: 葉山舘 季節の会席 — 公式サイトより

葉山舘の夕餉は、置賜の土地の食材を軸に組み立てられる。柱となるのは米沢牛。米沢の盆地で肥育された黒毛の脂は融点が低く、口中で品よく崩れる。葉山舘では、米沢牛を会席の複数品に展開し、一品の主役ではなく、献立全体を引き締める役回りに据えている。盛夏の頃は、米沢牛と並べて、置賜の夏野菜が膳に上る。だだちゃ豆、丸茄子、青菜、紅花の若葉。山形は果樹の県でもあり、宿の前菜には佐藤錦やデラウェアが季節の彩りとして添えられることもある。

朝食は、米沢平野の米と土地の食材を中心に、宿の代を継ぐ所作として丁寧に整えられる構成である。

集約レビューが映すこの宿の本質

公開レビューデータを集計したところ、葉山舘の評価の核は、湯の鮮度と客間の格の二点に収斂する。源泉百パーセントの掛け流しという湯の運用、そして三棟に分かれた客間それぞれの格の保ち方が、滞在の満足度を底支えしているという像が浮かぶ。一方で、城下町の高台という立地ゆえに、駅から宿までの動線は車に依存する傾向にあり、公共交通のみで歩き通す旅程には少し不向きという指摘もある。仲居の応対は丁寧で、年配の宿泊客や、家族の節目の旅に選ぶ層に厚く支持されている、というのが集約レビューの示すところである。

立地と周辺 — 上山城、武家屋敷、羽州街道

葉山舘の南には、上山城の月岡公園が広がる。最上義光の頃に整った城の縄張りはいまも踏み跡として残り、復元天守の展望台からは上山盆地と蔵王連峰の全景が望める。城の周囲には武家屋敷の通りが残り、羽州街道の宿場として開けた町並みが、まだそこかしこに息づいている。葉山舘から城下へは坂を下りて十数分。夕餉の前、夏の夕暮れに城下を歩き、宿へ戻って湯に身を沈める。盛夏の置賜行に編集部が推す滞在の組み立てである。

かみのやま温泉駅から葉山舘までは車で五分ほど、徒歩なら二十分強。山形空港・仙台空港のいずれからもアクセスできるが、車での移動が湯場の高台に登る分には素直である。

こんな旅人に

  • 夫婦・友人連れで、上山城下と湯場を組み合わせて二泊三日を計画する旅人
  • 米沢牛と置賜の野菜を中心に、土地の夕餉を主目的に据えたい食通
  • 源泉百パーセントの掛け流しを、滞在の核として優先したい湯好き

具体情報

  • 所在地: 山形県上山市葉山5-10
  • 最寄り駅: JR かみのやま温泉駅から車で約5分(徒歩約20分)
  • 客室数: 32室(翠葉亭・華葉亭・四季亭の3棟構成)
  • 泉質: ナトリウム塩化物泉、源泉100%掛け流し
  • 食事: 米沢牛と置賜食材を中心とした会席(夕食・朝食ともに)

Media Picks Score の内訳

95 / 100 — 評価の構成は、立地の格(葉山の高台と城下の組み合わせ)、設備(源泉百パーセントと客室温泉付)、体験(数寄屋客間と米沢牛の夕餉)、価格感(¥48,000–¥66,000という置賜の老舗一軒の相応値)、編集適合度(盛夏の置賜行の核として据える価値)の五点である。

よくある質問

Q. 盛夏に訪れる際、避暑として成立しますか?

A. 葉山舘の標高は上山盆地の中ではやや高く、夏でも夜は風が抜ける。蔵王連峰の山地効果で、平地よりも体感の暑さがやわらぐ時間帯がある。盛夏の置賜行を組み立てるなら、宿の湯と城下の歩きを朝夕に振り分け、日中の暑さを避ける旅程が向く。

Q. 公共交通のみで訪れることはできますか?

A. JR奥羽本線・山形新幹線のかみのやま温泉駅から、宿の送迎または徒歩二十分強でアクセスできる。駅から宿への道のりは葉山の高台への上り坂を含むため、荷物が多い場合は車利用が素直である。

Q. 子連れでも泊まれますか?

A. 葉山舘は和の宿として、夫婦や友人連れの落ち着いた滞在を主軸に据えている。子連れの場合は、棟と部屋の選択を事前に相談するのが望ましい。

Q. 源泉100%掛け流しの湯は、湯あたりしやすい体質でも入れますか?

A. ナトリウム塩化物泉は刺激のやわらかい湯質である。とはいえ長湯は体に負担となるため、短時間の入浴を複数回に分け、合間に水分を取る入り方が安全である。

Q. 米沢牛を堪能したい場合、特別なプランはありますか?

A. 葉山舘の夕餉は、標準コースでも米沢牛を複数の手法で楽しめるよう献立が組まれている。さらに米沢牛を主役に据えたプランも用意されているため、予約時に確認すると良い。

本記事の参考情報

山形県公式観光・旅行情報サイト やまがたへの旅 — 上山・かみのやま温泉の観光情報
Wikipedia: かみのやま温泉 — 湯場の歴史と地理の背景
Wikipedia: 上山城 — 上山藩・羽州街道宿場の歴史

編集部から

葉山舘を取り上げるにあたって、編集部が重視したのは、湯と建物と土地の三つが一体として運営されているかという視点である。源泉百パーセントの掛け流しという湯の運用は、湯量の確保と継承の意志の両方を要する。葉山の高台に三棟を構え、城下と蔵王を借景に取り込む立地は、文政の頃から代を継ぐなかで土地と宿との関係を更新し続けてきた結果でもある。盛夏の置賜を旅するのであれば、宿のなかで一日を過ごす時間と、城下を歩く時間の両方を持ちたい。葉山舘は、その両方が叶う一軒として、編集部の記す宿のなかでも記憶に残る一軒である。次に書きたいのは、置賜の他の湯場、白布や赤湯の継承の記である。

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