梅雨の合間に晴れ間がのぞくころ、庄内は海と里の湯が最もよく匂い立つ。出羽の海辺に湧く塩の湯と、山ふところに千三百年湧き続ける里の湯を、ひとつの旅で巡るための五軒を選んだ。同じ庄内藩の領内にありながら、湯野浜と由良は日本海に面した塩湯、湯田川は和銅五年の開湯と伝わる里湯。泉質も地形も対照をなす二つの湯どころを、海と里の往還として歩いてほしい。発酵と魚食の文化が交わる庄内の食卓を、湯のあいだに味わう旅である。

# 宿 湯どころ Score 客室 目安価格 一行の輪郭
1 つかさや旅館 湯田川(里湯) 93 10 ¥40–¥57k 庄内の食と地酒を継ぐ、十代続く里湯の宿
2 龍の湯 湯野浜(海湯) 93 31 ¥33–¥41k 奥湯野浜の谷あいに湧く、二つの泉質をもつ一軒宿
3 亀や(KAMEYA HOTEL) 湯野浜(海湯) 91 66 ¥52–¥70k 文化十年創業、海を望む老舗が改装で生まれ変わった塩湯の宿
4 湯どの庵 湯田川(里湯) 90 14 ¥30–¥36k 酒井家の湯治場を改めた、庄内イタリアンの食宿
5 ホテル八乙女 由良(海湯) 87 59 ¥33–¥46k 弧を描く由良海岸に面した、夕日と塩湯の宿

海湯 — 日本海に面した塩の湯

龍の湯・亀や(湯野浜)/ホテル八乙女(由良)。塩化物泉が肌を包み、夕日が海に落ちる。

里湯 — 山ふところの千三百年の湯

つかさや旅館・湯どの庵(湯田川)。和銅五年開湯と伝わる、庄内三名湯のひとつ。

※ 目安価格は公開販売価格の集計に基づく参考値で、実際の予約料金とは異なります。二名一室・一泊あたりの一室料金(税込)です。

1. つかさや旅館 — 鶴岡市・湯田川温泉

山ふところの里湯に十代続く、庄内の食と地酒を語り継ぐ一軒。

Media Picks Score: 93 / 100  10室、和の旅館。

目安価格 ¥40,000–¥57,000 / 泊(二名一室・通常期)


つかさや旅館 — 鶴岡市湯田川温泉 · 庄内の食と地酒を継ぐ十代続く里湯の宿
PHOTO: つかさや旅館 — 公式サイトを見る →

なぜ選ばれるか

湯が、十代の主に守られてきた。和銅五年の開湯と伝わる湯田川は、かつて庄内藩主の湯治場であり、出羽三山を巡った修験者が精進落としをした里湯でもある。その湯を、一日数組に限って供する小さな宿が、つかさや旅館である。源泉かけ流しの内湯を貸切で使えること、庄内の旬を映す献立、そして地元の酒蔵と深く結んだ品揃えが、この宿の核を成す。湯田川の谷の静けさを、人数を絞ることで守り続けている点が、編集部が最初に推す理由である。

集約レビューの傾向

公開レビューデータを集計したところ、料理と地酒への評価がとりわけ高く、庄内の食材を主役にした夕食を旅の目的に挙げる声が目立つ。湯については、湯量と肌あたりのやわらかさに触れる感想が多い。一方で、客室は数寄屋造りの風情を残すぶん最新設備ではなく、静かな滞在を望む層と、利便を求める層とで受け止めが分かれる傾向も見て取れる。十代続く家族経営ゆえの、行き届いたもてなしを評価する傾向が一貫している。

向く人 / 向かない人

  • 向く:
    庄内の食と地酒を旅の主目的にする夫婦旅、湯田川の里湯を静かに味わいたい温泉好き、少人数の宿を好む人
  • 向かない:
    大浴場の規模や新しい設備を重視する人、観光地巡りで宿に戻る時間が短い旅程、大人数のにぎやかな滞在を望む人

具体情報

  • 最寄り: JR鶴岡駅からバスで約25分、湯田川温泉下車すぐ(車で約20分)
  • 客室数: 10室(和室中心)
  • 湯: 湯田川源泉かけ流し、貸切利用可
  • 食事: 夕食・朝食ともに庄内の旬を映す会席、地元蔵の地酒を揃える
  • 継承: 十代続く家族経営、開湯は和銅五年(西暦712年)と伝わる

2. 龍の湯 — 鶴岡市・湯野浜温泉

奥湯野浜の谷あいに、二つの泉質を一度に湛える緑の一軒宿。

Media Picks Score: 93 / 100  31室、和の旅館。

目安価格 ¥33,000–¥41,000 / 泊(二名一室・通常期)


龍の湯 — 鶴岡市湯野浜温泉 · 奥湯野浜の谷あいに立つ、二つの泉質をもつ一軒宿
PHOTO: 龍の湯 — 公式サイトを見る →

なぜ選ばれるか

湯が、二つの顔をもつ。海辺の湯野浜から谷あいへ少し入った奥湯野浜に立つ龍の湯は、創業九十余年、緑に囲まれた静かな一軒宿である。内湯と露天に五つの湯舟を備え、二種類の泉質を一度の滞在で湯比べできるのが、この宿のいちばんの個性。打たせ湯やサウナも揃え、湯そのものを目的に長く浸かりたい人に向く。海辺の喧騒から離れた谷の静けさと、豊かな湯量がもたらす湯あたりのよさが、繰り返し訪れる客を惹きつける理由である。

集約レビューの傾向

公開レビューデータを集計したところ、湯の充実ぶり、とりわけ湯舟の数と泉質の違いを楽しめる点への評価が際立って高い。森の薫りと微かな潮風が混ざる立地の心地よさに触れる声も多く、湯治のように滞在する層からの支持が厚い。料理は庄内の魚を中心とした構成で、量と質の双方に満足する感想が並ぶ。建物は年輪を重ねた風情があり、新しさよりも落ち着きを求める旅に合うという受け止めが一貫している。

向く人 / 向かない人

  • 向く:
    湯舟の数と泉質の違いを味わいたい温泉好き、海辺の喧騒を離れて静養したい夫婦旅、サウナや打たせ湯を好む人
  • 向かない:
    海に面した客室や砂浜への近さを最優先する人、新築同様の設備を望む人、繁華な温泉街の散策を主目的にする旅程

具体情報

  • 最寄り: JR鶴岡駅から車で約20分、湯野浜温泉の海辺から谷あいへ徒歩圏
  • 客室数: 31室
  • 湯: 二種類の泉質、内湯・露天に五つの湯舟、サウナ・打たせ湯あり
  • 食事: 庄内浜の魚を中心とした会席
  • 創業: 九十余年

3. 亀や(KAMEYA HOTEL) — 鶴岡市・湯野浜温泉

文化十年創業、日本海を望む老舗が、数年の改装を経て生まれ変わった塩湯の宿。

Media Picks Score: 91 / 100  66室、和の旅館。

目安価格 ¥52,000–¥70,000 / 泊(二名一室・通常期)


亀や KAMEYA HOTEL — 鶴岡市湯野浜温泉 · 日本海に沈む夕日を望む塩湯の老舗旅館
PHOTO: 亀や(KAMEYA HOTEL)— 公式サイトを見る →

なぜ選ばれるか

建物が、二百年の時を重ねて生まれ変わった。亀やは文化十年(一八一三年)創業、湯野浜を代表する老舗旅館である。数年にわたる改装を経て「KAMEYA HOTEL」として再生し、全客室から日本海を望む構えへと整えられた。最上階のHOURAIをはじめ、湯付きの特別客室やデザイナーが手がけた客室を備える一方、湯野浜で飲泉のできる唯一の宿でもある。塩化物泉の湯と、海へ沈む夕日。庄内の海湯を象徴する一軒として、価格帯は今回の五軒で最も高いが、それに見合う体験を備える宿である。

集約レビューの傾向

公開レビューデータを集計したところ、改装後の客室の質と、全室から望む海の眺めへの評価が高い。とりわけ夕日が海に落ちる時間帯の景色に触れる声が多く、海辺の老舗らしい滞在体験が支持を集めている。塩化物泉の温まりやすさ、湯上がりの肌あたりへの言及も目立つ。料理は庄内浜の魚介を軸にした構成で、品数と盛り付けの双方に満足する感想が並ぶ。規模のある宿でありながら、もてなしの細やかさを保っている点が一貫して評価されている。

向く人 / 向かない人

  • 向く:
    海を望む客室と夕日を旅の主目的にする人、改装後の上質な設備を望む夫婦旅、記念日の滞在
  • 向かない:
    価格を抑えたい旅程、小規模で静かな一軒宿を好む人、和室の素朴な風情そのものを目的にする旅

具体情報

  • 最寄り: JR鶴岡駅から車で約20分、湯野浜温泉の海辺に立つ
  • 客室数: 66室(全室オーシャンビュー、湯付き特別客室あり)
  • 湯: 塩化物泉、湯野浜で飲泉のできる唯一の宿
  • 食事: 庄内浜の魚介を軸にした会席
  • 創業 / 改装: 文化十年(1813年)創業、改装第一期は2024年4月開業

4. 湯どの庵 — 鶴岡市・湯田川温泉

酒井家の湯治場を改めた、庄内イタリアンと里湯を一夜で結ぶ食宿。

Media Picks Score: 90 / 100  14室、オーベルジュ。

目安価格 ¥30,000–¥36,000 / 泊(二名一室・通常期)


湯どの庵 — 鶴岡市湯田川温泉 · 庭を望む檜の内湯、酒井家の湯治場を改めたオーベルジュ
PHOTO: 湯どの庵 — 公式サイトを見る →

なぜ選ばれるか

建物が、藩主の湯治場として始まった。湯どの庵は、江戸期に庄内藩酒井家の湯治場であった歴史ある建物を、家具デザイナー岩倉榮利が改装した、わずか十四室の宿である。庄内イタリアン「アル・ケッチァーノ」の奥田政行が手がける食を、土地の湯とともに味わうオーベルジュという成り立ちが、ほかの里湯の宿とは一線を画す。檜と石の二つの浴室には、およそ四十三度の湯が豊かにかけ流される。庄内の食材を西洋の技で仕立てる食卓と、湯田川の名湯。食と湯の双方を旅の主役に据えたい人へ向けた一軒である。

集約レビューの傾向

公開レビューデータを集計したところ、料理への評価が突出して高い。庄内平野の在来野菜や日本海の魚を、土地の文脈ごと皿に映す料理に触れる声が多く、食を目的に遠方から訪れる層に支持されている。改装された建物の意匠と、岩倉榮利による家具の落ち着きに言及する感想も目立つ。湯については、源泉のかけ流しと浴室の静けさへの評価が一貫している。規模の小さな宿ゆえに、静かな滞在を望む層との相性がよいという受け止めが見て取れる。

向く人 / 向かない人

  • 向く:
    食を旅の主目的にする夫婦旅、改装建築や家具の意匠を愛でる人、湯田川の里湯を静かに味わいたい温泉好き
  • 向かない:
    大浴場や多彩な湯舟を求める人、純和風の旅館献立を望む旅、にぎやかな団体滞在を好む人

具体情報

  • 最寄り: JR鶴岡駅からバス・車で湯田川温泉へ、車で約20分
  • 客室数: 14室
  • 湯: 檜風呂・石風呂の二浴室、約43度の源泉かけ流し
  • 食事: 庄内イタリアン「アル・ケッチァーノ」の流れを汲む食、地の食材を主役に
  • 建物: 江戸期の酒井家湯治場を改装、家具デザイナー岩倉榮利が手がける

5. ホテル八乙女 — 鶴岡市・由良温泉

弧を描く由良海岸に面し、海に沈む夕日と塩湯を一望する宿。

Media Picks Score: 87 / 100  59室、和の旅館。

目安価格 ¥33,000–¥46,000 / 泊(二名一室・通常期)


ホテル八乙女 — 鶴岡市由良温泉 · 由良漁港直送の庄内の海の幸を映した夕食の膳
PHOTO: ホテル八乙女 — 公式サイトを見る →

なぜ選ばれるか

湯が、海とひとつになる。ホテル八乙女は、なだらかな弧を描く由良海岸の目の前に立つ宿である。由良の渚は「日本の渚百選」「日本の夕陽百選」に名を連ね、全客室から日本海を望み、屋上には海を見渡す露天風呂が据えられている。由良漁港から直送される魚を主役にした食卓と、海に面した塩湯。湯田川の里湯とは対極にある、海の湯どころの典型として、今回の旅程の対比を締めくくる一軒に選んだ。庄内の海をもっとも近くに感じられる宿である。

集約レビューの傾向

公開レビューデータを集計したところ、海の眺めと夕日への評価が中心を成す。屋上の露天風呂から望む日本海の景色、客室からの海の眺めに触れる声が多く、海辺の宿らしい体験が支持を集めている。料理は由良の港から届く魚介を軸にした構成で、鮮度への満足が目立つ。規模のある宿ゆえ、繁忙期の混み合いや館内の年輪に触れる感想も見られ、新しさよりも海辺の立地と眺めを目的にする旅に合うという受け止めが一貫している。

向く人 / 向かない人

  • 向く:
    海の眺めと夕日を旅の主目的にする人、由良漁港直送の魚を味わいたい人、屋上露天で海を一望したい温泉好き
  • 向かない:
    小規模で静かな一軒宿を好む人、最新設備を最優先する旅、里湯の山あいの静けさを求める旅程

具体情報

  • 最寄り: JR鶴岡駅から車で約25分、由良海岸の目の前
  • 客室数: 59室(全室オーシャンビュー)
  • 湯: 海を見渡す屋上露天風呂、由良温泉の塩化物泉
  • 食事: 由良漁港直送の魚介を主役にした会席
  • 立地: 「日本の渚百選」「日本の夕陽百選」に選ばれた由良海岸に面する

よくある質問

Q. 庄内の湯巡りに最も合う時期はいつですか?

A. 梅雨が明けたころの庄内が、編集部が推す時期である。日本海の海湯では夕日が美しく晴れる日が増え、湯田川の里湯では山の緑が深まる。海水浴期の湯野浜・由良は週末を中心に混み合うため、平日に海湯と里湯を一日で往復する旅程が静かに過ごせる。秋は庄内の魚と新米が重なり、食を主目的にするなら実りの季節も好機である。

Q. 湯田川温泉と湯野浜・由良温泉では、泉質はどう違いますか?

A. 湯田川は和銅五年開湯と伝わる山ふところの里湯で、肌あたりのやわらかな湯が特徴とされる。一方、海辺の湯野浜・由良は日本海に面した塩化物泉、いわゆる塩湯で、体が温まりやすく湯冷めしにくいとされる。同じ庄内藩領にありながら地形も泉質も対照をなすため、二湯を一度の旅で湯比べする楽しみがある。

Q. 食事は庄内らしいものが味わえますか?

A. いずれの宿も庄内の食材を主役に据えている。海辺の宿は庄内浜や由良漁港から届く魚介が中心、里湯の宿は在来野菜や庄内平野のつや姫を映した献立が並ぶ。湯どの庵のように庄内イタリアンの流れを汲む食宿もあり、和の会席か西洋の技かで宿を選び分けるのも一案である。

Q. 子ども連れでも泊まれますか?

A. 規模のあるホテル八乙女や亀やは家族連れの滞在にも対応しやすい。一方、つかさや旅館や湯どの庵は客室数が少なく、静かな滞在を旨とするため、小さな子ども連れの場合は事前に各宿へ受け入れ可否を確かめておくのがよい。

Q. 鶴岡駅から各温泉へのアクセスは?

A. いずれもJR鶴岡駅が起点となる。湯田川温泉へはバスまたは車で約20〜25分、湯野浜温泉・由良温泉へは車で約20〜25分。海湯と里湯は車でおよそ30分の距離にあり、一日で往復しながら二湯を巡る旅程が組みやすい。

本記事の参考情報

つるおか観光ナビ(鶴岡市観光協会) — 庄内・鶴岡の温泉と食の観光情報
湯田川温泉観光協会 — 湯田川温泉の歴史と宿の情報
Wikipedia: 湯田川温泉 — 開湯と泉質の背景

編集部から

海と里、二つの湯を一度の旅で巡るとき、庄内という土地のかたちが体に残る。塩を含んだ湯野浜・由良の湯で日本海の夕日を浴び、山ふところの湯田川で千三百年の里湯に身を沈める。そのあいだを結ぶのは、庄内浜の魚と庄内平野の米、そして発酵の文化である。今回選んだ五軒は、価格も規模も成り立ちも異なるが、いずれも土地の湯と食を真ん中に置く宿という一点で通じている。梅雨明けの庄内を、海湯と里湯の往還として歩いてみてはどうだろう。次は、月山・湯殿山へ続く出羽三山の宿坊を巡る旅も、庄内のもう一つの顔として書いてみたい。

次に読むなら