梅雨の合間の城崎は、円山川沿いの柳が雨に濡れ、七つの外湯がそろって湯気を立て始める頃です。志賀直哉が「城の崎にて」を綴った頃から、この町には浴衣と下駄を宿が貸し出し、客が連れ立って外湯を巡る作法が受け継がれてきました。湯は宿の内ではなく町にあり、宿はその玄関口にすぎない——そう言い切れる温泉地は、いまや数えるほどです。一の湯、鴻の湯、御所の湯、まんだら湯、地蔵湯、柳湯、さとの湯。七湯それぞれの泉質と湯守の系譜を、外湯巡りの作法を今に継ぐ老舗五軒の窓から記録します。
| # | 宿 | エリア | Score | 客室 | 目安価格 | 一行の特徴 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 1 | 西村屋本館 | 御所の湯前 | 94 | 34 | ¥169–¥224k | 山陰随一と称される純和風の本流 |
| 2 | 三木屋 | 一の湯界隈 | 92 | 16 | ¥68–¥108k | 志賀直哉が「城の崎にて」を綴った文化財 |
| 3 | 小林屋 | 地蔵湯近く | 91 | 14 | ¥75–¥107k | 元禄創業、大正の再建を継ぐ登録有形文化財 |
| 4 | 山本屋 | 柳湯・柳並木 | 89 | 20 | ¥51–¥59k | 柳並木の中心に立つ外湯巡りの拠点 |
| 5 | つばきの旅館 | 地蔵湯界隈 | 88 | 22 | ¥52–¥84k | 先代の地蔵絵が館を彩る和の心の宿 |
※ 目安価格は公開販売価格の集計に基づく参考値で、実際の予約料金とは異なります。1泊2名利用時の1室あたり料金(税込)です。
1. 西村屋本館 — 御所の湯前
数寄屋造りの大広間が、150年余の時を静かに語る。山陰随一と称される城崎の本流の一軒。
Media Picks Score: 94 / 100 34室、温泉旅館。
目安価格 ¥169,000–¥224,000 / 泊(2名1室・通常期)

なぜ選ばれるか
湯が、まず外湯にある城崎で、宿そのものが目的地になりうる稀有な一軒です。江戸安政期に始まり、150年余を重ねた本館は、数寄屋の名匠・平田雅哉の手による別棟「平田館」が登録有形文化財に指定されています。柱の一本、欄間の一枚に作法が宿り、館内の三つの湯と御所の湯への近さが、外湯巡りの起点としての格を保ちます。代を継いで磨かれた接遇は、過度に出ず、退かず。和の宿の規範を体で知る人ほど、その間合いに静かに頷く一軒です。
集約レビューの傾向
公開レビューデータを集計したところ、建物の意匠と庭の手入れ、そして仲居の所作への評価が一貫して高く、城崎の他の宿とは一線を画す「本物の和」を求める層から強く支持されていることが確認できました。価格帯は町内でも上位に位置し、記念の旅や節目の宿として選ばれる傾向が読み取れます。一方で、にぎやかな湯治気分を求める客には格式が勝ちすぎると映る場面もあり、滞在の目的を選ぶ宿だと言えます。
向く人 / 向かない人
-
向く:
数寄屋建築と庭を主目的にする旅、記念日の夫婦旅、和の作法に造詣のある滞在 -
向かない:
予算を抑えたい旅程、にぎやかな湯治気分を望む人、幼い子を連れた慌ただしい滞在
具体情報
- 最寄り駅: JR城崎温泉駅から徒歩 約12分(送迎あり)
- 客室数: 34室(本館・平田館・薬師の館)
- 湯: 館内3か所(吉の湯・福の湯・尚の湯)、外湯「御所の湯」が至近
- 食事: 但馬の四季を映す会席。冬は松葉蟹、但馬牛
- 創業: 江戸安政期(別棟「平田館」は登録有形文化財)
2. 三木屋 — 一の湯界隈
木造三階の東館が、文豪の養生の日々を今に伝える。志賀直哉「城の崎にて」生誕の宿。
Media Picks Score: 92 / 100 16室、登録有形文化財の宿。
目安価格 ¥68,000–¥108,000 / 泊(2名1室・通常期)

なぜ選ばれるか
大正二年、山手線にはねられた志賀直哉が養生のために逗留し、蜂と鼠と蠑螈の死を見つめて「城の崎にて」を綴った——その三週間の舞台が、この三木屋です。現在の木造建築は昭和二年の築で、玄関を構える東館は今では希少な木造三階建て。2013年の大改修で、歴史と現代の居心地が程よく溶け合いました。庭に面した文学の間に座れば、文豪が眺めた円山川の流れと変わらぬ柳が見えます。一の湯まで歩いてすぐの立地も、外湯巡りの起点として申し分ありません。
集約レビューの傾向
公開レビューデータを集計したところ、建築そのものへの敬意と、文学の記憶を静かに味わえる空気感への評価が際立ちます。客室数を絞った運営ゆえ、滞在中の静けさと一組ごとの目配りが保たれている点が支持の核にあると読み取れました。料理は派手さよりも土地の素材を端正に仕立てる方向で、食を主目的とする層からの満足も高い傾向にあります。木造建築ならではの音や段差を許容できるかが、評価の分かれ目になっています。
向く人 / 向かない人
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向く:
文学と建築に惹かれる旅、静けさを優先する夫婦・友人連れ、外湯巡りを徒歩で楽しむ滞在 -
向かない:
段差や木造の音が気になる人、大浴場の規模を重んじる旅、にぎやかな大人数のグループ
具体情報
- 最寄り駅: JR城崎温泉駅から徒歩 約10分
- 客室数: 16室(東館は木造三階建て)
- 文化財: 国登録有形文化財(昭和2年築の木造建築)
- 食事: 但馬の旬を映す会席。冬は松葉蟹
- ゆかり: 志賀直哉「城の崎にて」執筆の宿(大正2年逗留)
3. 小林屋 — 地蔵湯近く
元禄の屋号を継ぎ、大正の震災を越えて建つ。和紙と伝統工芸で再生した文化財の宿。
Media Picks Score: 91 / 100 14室、登録有形文化財の宿。
目安価格 ¥75,000–¥107,000 / 泊(2名1室・通常期)

なぜ選ばれるか
創業は元禄期にさかのぼり、城崎の宿のなかでも屈指の古い系譜を引く一軒です。現在の建物は、町を焼き尽くした大正十四年の北但大震災のあとに再建されたもので、2015年に登録有形文化財へ。2023年の全面改修では、和紙に包まれた寝室やワンフロアを貸し切るスイートが設けられ、日本の伝統工芸が随所に息づく宿へと生まれ変わりました。古い屋号を守りながら現代の快適さを編み込む——その手つきの確かさが、外湯巡りの拠点としての落ち着きを支えています。
集約レビューの傾向
公開レビューデータを集計したところ、改修後の客室の質と和紙・工芸を活かした意匠への評価が高く、歴史ある宿でありながら設備の新しさを両立している点が支持を集めていることが分かりました。少室数ゆえの静けさと、城崎駅から徒歩圏という地の利も繰り返し評価されています。価格は改修後に町内でも中上位へ移り、設えに見合うかを吟味する層が選ぶ傾向が見て取れます。湯の規模より室内の質を重んじる旅に合う一軒だと言えます。
向く人 / 向かない人
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向く:
工芸と意匠を楽しむ旅、歴史と新しさの両立を望む夫婦旅、静かなスイート滞在 -
向かない:
大規模な大浴場を求める旅、できるだけ予算を抑えたい滞在、大人数の宴会向けの利用
具体情報
- 最寄り駅: JR城崎温泉駅から徒歩 約7分
- 客室数: 14室(和紙の寝室・貸切スイートを含む)
- 建築: 大正14年再建、2015年登録有形文化財、2023年全面改修
- 食事: 但馬の旬の会席。冬は松葉蟹
- 創業: 元禄期(屋号「小林屋」を継承)
4. 山本屋 — 柳湯・柳並木
柳並木の中心に立ち、300m圏に四つの外湯。湯巡りの拠点として最も歩きやすい一軒。
Media Picks Score: 89 / 100 20室、温泉旅館。
目安価格 ¥51,000–¥59,000 / 泊(2名1室・通常期)

なぜ選ばれるか
城崎温泉の象徴である柳並木のただ中に立つ宿で、柳湯をはじめ300メートル圏内に四つの外湯が集まります。下駄を鳴らして湯から湯へ渡り歩くという、城崎本来の楽しみ方を最も素直に味わえる立地です。全二十室の純和風客室は、柳並木に面した間、庭に向いた間、特別室の三つの趣に分かれ、直営の地ビール工房で醸す四種の地ビールが食卓に彩りを添えます。地元の素材にこだわる料理と、肩肘張らない接遇。外湯巡りを主役に据えた旅に、過不足なく寄り添う一軒です。
集約レビューの傾向
公開レビューデータを集計したところ、何よりも立地の良さ——外湯と柳並木への近さ——が繰り返し評価されていることが確認できました。価格帯が町内では手の届きやすい水準にあり、外湯巡りを目的とする旅程との相性の良さが支持の中心にあります。地ビールや但馬の食材を用いた料理への好意的な傾向も読み取れます。客室や設備に最新の華やかさを求める層には素朴と映る場面もありますが、湯を巡る旅の拠点としての評価は安定しています。
向く人 / 向かない人
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向く:
外湯巡りを主目的にする旅、予算と質の釣り合いを重んじる滞在、地ビールと土地の食を楽しむ人 -
向かない:
客室や設備に最新の華やかさを求める旅、館内の大浴場で完結したい滞在
具体情報
- 最寄り駅: JR城崎温泉駅から徒歩 約10分(温泉街中心部)
- 客室数: 20室(柳並木側・庭側・特別室の3タイプ)
- 湯: 男女別大浴場・貸切露天。300m圏に外湯4か所(柳湯ほか)
- 食事: 但馬の食材を用いた料理、直営工房の地ビール4種
- 立地: 城崎の象徴・柳並木の中心
5. つばきの旅館 — 地蔵湯界隈
先代が描いた地蔵絵と季節の花が館を彩る。「和の心」を主題に据えた、ぎゃらりーの宿。
Media Picks Score: 88 / 100 22室、温泉旅館。
目安価格 ¥52,000–¥84,000 / 泊(2名1室・通常期)

なぜ選ばれるか
大正期の創業以来、館内のそこここに先代主人が描いた地蔵絵、毎日活ける花々、丹精された庭が飾られ、「和の心」を主題に据えた宿として知られます。絵手紙のコーナーや浴衣の柄の豊富さなど、滞在に小さな遊び心を添える設えも特徴です。2023年のリニューアルでは、城崎温泉で初という陶器のマイクロバブル風呂「更紗の湯」と、総檜の「風花の湯」という二つの貸切風呂が整いました。城崎駅から徒歩五分、地蔵湯や柳湯への近さも相まって、外湯巡りと館内の趣の両方を楽しめる一軒です。
集約レビューの傾向
公開レビューデータを集計したところ、館内の地蔵絵や花、ギャラリーのような空間づくりへの好意的な評価が目立ちます。貸切風呂や柄浴衣といった、滞在を彩る細やかな仕掛けへの満足も繰り返し確認できました。家族連れや友人同士の旅で、堅苦しくない和の情緒を味わいたい層との相性が良い傾向にあります。格式の高さや料理の特別感を第一に求める層には穏やかすぎると映る場面もありますが、外湯巡りの拠点としての使い勝手は安定しています。
向く人 / 向かない人
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向く:
和の遊び心を楽しむ旅、貸切風呂を重んじる夫婦・友人連れ、外湯巡りと館内の趣を両取りしたい人 -
向かない:
最上級の格式を求める旅、料理を唯一の目的にする滞在、静寂のみを最優先する人
具体情報
- 最寄り駅: JR城崎温泉駅から徒歩 約5分
- 客室数: 22室
- 貸切風呂: 「更紗の湯」(陶器・マイクロバブル)/「風花の湯」(総檜)
- 食事: 但馬の旬の料理。冬は松葉蟹
- 創業/改装: 大正期創業、2023年リニューアル
よくある質問
Q. 城崎温泉の外湯巡りはどう楽しむのですか?
A. 城崎では多くの宿が浴衣と下駄、そして外湯の入浴券を用意します。宿で身支度を整え、円山川沿いや柳並木を歩いて七つの外湯を巡るのが古くからの作法です。湯は宿の内ではなく町にある、という考え方が今も息づいています。なお七湯のうち鴻の湯は2026年初夏時点で長期休館中のため、巡る前に各外湯の開湯状況を確認しておくと安心です。
Q. ベストシーズンはいつですか?
A. 編集部が推すのは、まず11月から3月の松葉蟹の季節です。但馬の冬の味覚を目当てに訪れる客が増え、宿も最も活気づきます。一方、本記事の季語でもある梅雨どきは、雨に濡れた柳と湯気の情景が美しく、客足も落ち着くため、静かに外湯を巡りたい旅に向きます。価格も通常期に収まりやすい時期です。
Q. 予約のタイミングは?
A. 蟹の最盛期(12〜2月の週末)と桜・紅葉の時期は、二〜三か月前には主要な宿が埋まり始めます。とりわけ本記事の少室数の老舗は枠が限られるため、早めの確保が無難です。梅雨や夏の平日は比較的取りやすく、価格も落ち着く傾向にあります。
Q. 子連れでも泊まれますか?
A. 多くの宿で家族連れの滞在は可能ですが、本記事で挙げた老舗は客室数を絞った静かな宿が中心で、木造建築ゆえの段差や音がある宿もあります。幼いお子様連れの場合は、貸切風呂のあるつばきの旅館や、改修で快適性を高めた小林屋などが比較的なじみやすいと言えます。事前に宿へ設備を確認しておくと安心です。
Q. 料理の特色は?
A. 城崎は但馬の食の玄関口で、冬は松葉蟹、通年では但馬牛が献立の柱になります。本記事の宿はいずれも土地の旬を会席に映す方向で、西村屋本館のように格式ある会席から、山本屋のように地ビールを添える肩肘張らない食卓まで、宿ごとに性格が分かれます。
本記事の参考情報
・城崎温泉観光協会 — 外湯の営業情報・町の歴史
・Wikipedia: 城崎温泉 — 七湯の由来・志賀直哉ゆかりの背景
編集部から
城崎の宿選びは、館内の豪華さを競う物差しでは測りきれません。湯は町にあり、宿は外湯へ客を送り出す玄関口である——その思想を体で継いでいるかどうかが、この温泉地では宿の格を決めます。今回選んだ五軒は、創業百年級の重みと、外湯巡りの作法への忠実さで共通しています。雨に濡れた柳の下を下駄で歩き、湯から湯へと渡る一夜。その所作のなかにこそ、城崎が千年かけて磨いてきた湯の文化があります。次はどの季節の、どの湯から巡りましょうか。