五月雨の候、但馬の谷あいに湧く二つの古湯を結んで旅をするなら、外湯の作法を今に伝える湯宿を選びたい。城崎の柳並木と志賀直哉が綴った大正の町並み、そして九十八度の荒湯が噴き上がる湯村の里。山陰のこの二湯を一度の旅程で辿るために、創業の古い順から外湯文化を継ぐ宿まで、公開レビューデータを集計して五軒を選んだ。湯量と創業年、外湯巡りの慣習までを書き添える。梅雨の合間、人影のまばらな湯の町を歩く旅に向く五軒である。

# 宿 Score 客室 目安価格 一行の輪郭
1 西村屋本館 城崎 93 34 ¥168–¥224k 安政年間創業、山陰を代表する純和風の名旅館。
2 三木屋 城崎 92 16 ¥68–¥108k 志賀直哉「城の崎にて」ゆかり、登録有形文化財の木造宿。
3 川口屋本館 城崎 90 13 ¥20–¥47k 柳並木通りに面し、七つの外湯巡りに最も近い立地。
4 佳泉郷 井づつや 湯村 92 103 ¥46–¥77k 荒湯の里を望む高台、湯村随一の規模を誇る湯宿。
5 湧泉の宿 ゆあむ 湯村 91 36 ¥41–¥74k 荒湯のほとり、杞柳細工を編んだ和モダンの宿。
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※ 目安価格は公開販売価格の集計に基づく参考値で、実際の予約料金とは異なります。一泊二名利用時の一室あたり料金(税込)です。

1. 西村屋本館 — 城崎温泉(豊岡市)

安政の昔から城崎の湯を守る、山陰随一の純和風旅館。庭を抱く数寄屋の三棟が、旅人を静かに迎える。

Media Picks Score: 93 / 100  34室、料理旅館。

目安価格 ¥168,000–¥224,000 / 泊(2名1室・通常期)


西村屋本館 — 城崎温泉・湯島 · 安政年間創業、数寄屋造りと庭園を持つ山陰の名旅館
PHOTO: 西村屋本館 — 公式サイトを見る →

なぜ選ばれるか

湯が、まず旅人を落ち着かせる。江戸安政年間の創業から城崎の湯を守ってきた一軒で、純和風の構えと手入れの行き届いた庭が、町の喧噪をひとたび忘れさせる。理由は三つある。数寄屋造りの客室が庭と一体に設えられていること、大浴場と露天を含む複数の湯処を館内で巡れること、そして但馬の海の幸を主役にした会席が代々の料理に裏打ちされていること。城崎の格を一軒に求めるなら、編集部が真っ先に挙げる宿である。

集約レビューの傾向

公開レビューデータを集計すると、建物と庭の佇まい、そして接遇の落ち着きへの評価が際立って高い。三千件を超える声のなかで、湯の清潔感と静けさを挙げる傾向が一貫している。一方で価格帯は城崎でも上位にあたり、気軽な湯治というより、節目の旅や夫婦の記念の宿として選ばれている様子がうかがえる。喧噪を避け、宿そのものを目的にする旅人の支持が厚い。

向く人 / 向かない人

  • 向く:
    節目の旅・夫婦旅、宿そのものを目的にする滞在、和の様式と庭を静かに味わいたい旅人
  • 向かない:
    費用を抑えたい湯治旅、幼い子を連れての賑やかな滞在、外湯巡りより館内で完結したい人(城崎は外湯が主役)

具体情報

  • 最寄り駅: JR城崎温泉駅から徒歩 約12分(送迎あり)
  • 客室数: 34室(数寄屋造りの和室を主とする)
  • 湯: 館内に大浴場・露天を含む複数の湯処、城崎の外湯巡りに対応
  • 食事: 但馬の海の幸を主役にした会席(冬は松葉がに)
  • 創業: 江戸安政年間(1850年代)


2. 三木屋 — 城崎温泉(豊岡市)

志賀直哉が「城の崎にて」を綴った宿。昭和初期の木造建築が、国登録有形文化財として今も湯客を泊める。

Media Picks Score: 92 / 100  16室、文化財の木造旅館。

目安価格 ¥68,000–¥108,000 / 泊(2名1室・通常期)


三木屋 — 城崎温泉・湯島 · 志賀直哉ゆかり、登録有形文化財の木造旅館
PHOTO: 三木屋 — 公式サイトを見る →

なぜ選ばれるか

建物が、そのまま物語を語る一軒である。大正二年、志賀直哉がこの宿に三週間ほど滞在し、後の名作「城の崎にて」を書いた。今に残る木造建築は昭和初期の再建で、国の登録有形文化財に指定されている。選ぶ理由は明快だ。文豪が滞在した客室が今も見学でき、直筆の品に触れられること。手の入った中庭と数寄屋の意匠が文化財の格を保っていること。そして十六室という小ささが、町の喧噪から離れた静けさを約束することである。城崎の歴史を建物ごと味わいたい旅人に推したい。

集約レビューの傾向

公開レビューデータを集計すると、建物の風格と文学的な背景に惹かれて訪れる客が多く、その期待に佇まいが応えているという評が目立つ。文化財ゆえの古さを承知のうえで、むしろそれを味わいに来る層が中心で、静けさと中庭への評価が一貫して高い。一方、近代的な設備の真新しさを求める向きには物足りなさも残る。建物そのものを目的にできるかどうかで、満足の度合いが分かれる宿といえる。

向く人 / 向かない人

  • 向く:
    文学や近代建築に親しむ旅人、静かな夫婦旅、文化財の宿に泊まる体験を求める人
  • 向かない:
    最新設備の快適さを最優先する人、大浴場の規模を重視する旅、段差や古い造りを負担に感じる滞在

具体情報

  • 最寄り駅: JR城崎温泉駅から徒歩 約10分
  • 客室数: 16室(志賀直哉ゆかりの客室を含む)
  • 文化財: 昭和初期再建の木造建築、国登録有形文化財
  • 食事: 但馬の旬を映した会席、冬は松葉がに
  • 沿革: 大正2年に志賀直哉が滞在、2013年に改修


3. 川口屋本館 — 城崎温泉(豊岡市)

柳並木の通りに面し、七つの外湯のどれへも近い。城崎の町歩きを主役に据える旅に向く十三室の宿。

Media Picks Score: 90 / 100  13室、料理湯宿。

目安価格 ¥20,000–¥47,000 / 泊(2名1室・通常期)


川口屋本館 — 城崎温泉・湯島 · 柳並木通りに面し外湯巡りに近い料理湯宿
PHOTO: 川口屋本館 — 公式サイトを見る →

なぜ選ばれるか

立地が、この宿の価値を決めている。大谷川にかかる太鼓橋と柳並木の通りに面し、城崎の七つの外湯のいずれへも下駄で気軽に歩ける。理由は三つ。外湯巡りの拠点として町の中心にあること、貸切露天が用意され宿でも湯を愉しめること、そして十三室という小回りの利く規模が丁寧な運営を支えていること。価格帯も城崎では手の届きやすい部類にあり、外湯文化を主目的にした旅の足場として選びやすい一軒である。

集約レビューの傾向

公開レビューデータを集計すると、町の中心という立地の良さと、外湯巡りのしやすさを評価する声が中心を占める。価格に対する満足感も高く、城崎の作法を気負わず味わいたい層に支持されている。貸切露天や食事処の設えにも好意的な評が多い。豪奢さよりも、町と一体になって過ごす城崎らしい滞在を求める旅人に向いた宿だといえる。

向く人 / 向かない人

  • 向く:
    外湯巡りを旅の主役にする人、費用を抑えて城崎を味わいたい旅、町の中心に泊まりたい夫婦・友人連れ
  • 向かない:
    大規模な館内施設を求める滞在、宿で完結したい旅、静寂を最優先する人(町の中心ゆえ往来がある)

具体情報

  • 最寄り駅: JR城崎温泉駅から徒歩 約7分
  • 客室数: 13室
  • 湯: 貸切露天風呂あり、内湯は夜通し利用可、外湯巡りに至便
  • 立地: 太鼓橋・柳並木通りに面する町の中心
  • 食事: 個室処での会席、但馬の旬を映す


4. 佳泉郷 井づつや — 湯村温泉(新温泉町)

九十八度の荒湯を見下ろす高台に、八つの湯処を擁する湯村随一の大湯宿。元禄の昔から里の湯を継ぐ。

Media Picks Score: 92 / 100  103室、大型の料理湯宿。

目安価格 ¥46,000–¥77,000 / 泊(2名1室・通常期)


佳泉郷 井づつや — 湯村温泉・湯 · 荒湯を望む高台、八つの湯処を持つ湯村随一の大湯宿
PHOTO: 佳泉郷 井づつや — 公式サイトを見る →

なぜ選ばれるか

湯が、この宿の主役である。湯村温泉の源泉「荒湯」は摂氏九十八度に達する高温泉で、井づつやはその里を見下ろす高台に立つ。自家源泉を引き、大浴場や露天を含む八つの湯処を館内に揃える点が大きな特色だ。理由は三つ。豊富な湯量を生かした湯巡りが館内で完結すること、百を超える客室を抱えながら運営が行き届いていること、そして料理長が腕を競う会席に日本海の幸と但馬の食材が並ぶことである。湯量と規模で湯村を代表する一軒といえる。

集約レビューの傾向

公開レビューデータを集計すると、館内に複数の湯処を巡れる湯量の豊かさと、その湯質への評価が群を抜いて高い。五千件を超える声のなかで、料理の品数と満足度を挙げる傾向も顕著である。大型の宿でありながら接遇の丁寧さを評価する向きが多く、家族三世代の旅から夫婦旅まで幅広い層に選ばれている。荒湯の里で湯三昧の時間を過ごしたい旅人に応える宿だといえる。

向く人 / 向かない人

  • 向く:
    館内で湯巡りを楽しみたい人、三世代の家族旅、料理と湯量を重んじる滞在、荒湯の里をゆっくり味わう旅
  • 向かない:
    小規模で静まり返った宿を望む人、館内の賑わいを避けたい滞在、町歩きより一棟の静けさを優先する旅

具体情報

  • 立地: 荒湯(98度の源泉)を見下ろす高台、湯村温泉の中心至近
  • 客室数: 103室(和室・露天付タイプなど)
  • 湯: 自家源泉、大浴場・露天を含む八つの湯処
  • 食事: 料理長の会席、日本海の幸と但馬の食材
  • 創業: 元禄期に遡る湯村の老舗


5. 湧泉の宿 ゆあむ — 湯村温泉(新温泉町)

荒湯のほとりに建ち、但馬の杞柳細工を「編む」意匠でまとめた和モダンの宿。湯の里の情景に最も近い三十六室。

Media Picks Score: 91 / 100  36室、和モダンの湯宿。

目安価格 ¥41,000–¥74,000 / 泊(2名1室・通常期)


湧泉の宿 ゆあむ — 湯村温泉・湯 · 荒湯のほとり、杞柳細工を編んだ和モダンの湯宿
PHOTO: 湧泉の宿 ゆあむ — 公式サイトを見る →

なぜ選ばれるか

湯の里の情景が、客室の窓のすぐ外にある。湧泉の宿 ゆあむは荒湯のほとりに建ち、湯けむり立つ里の眺めを最も近くで味わえる一軒だ。但馬の伝統工芸・豊岡杞柳細工を「編む」というコンセプトで館内を設え、旅館の趣を残しながら現代の居心地を編み直している。理由は三つ。荒湯に面する立地、温泉露天付の客室を含む和モダンの設え、そして日本海の幸を生かした身体にやさしい創作会席である。古湯を今の感性で味わいたい旅人に向く宿である。

集約レビューの傾向

公開レビューデータを集計すると、荒湯に面した立地と、和モダンに整えられた客室への評価が高い。三千七百件を超える声のなかで、温泉露天付客室の心地よさと、創作色のある会席への満足を挙げる傾向が目立つ。伝統的な湯宿の趣を保ちつつ、現代の快適さを求める層に支持されている。湯村の古さと新しさの折り合いを、宿の側で上手に編み直している印象が伝わってくる。

向く人 / 向かない人

  • 向く:
    和モダンの設えを好む夫婦旅、荒湯の眺めを重んじる人、温泉露天付客室で静かに過ごしたい旅
  • 向かない:
    古典的な純和風の宿を望む人、大規模な湯処を最優先する滞在、賑やかな団体向けの宿を探す旅

具体情報

  • 立地: 荒湯のほとり、湯村温泉の里に面する
  • 客室数: 36室(温泉半露天付スーペリアを含む)
  • 湯: 湯村の源泉を引く大浴場・露天、客室露天タイプあり
  • 食事: 日本海の幸と但馬産こしひかりの創作会席
  • 意匠: 豊岡杞柳細工を「編む」コンセプトの和モダン


よくある質問

Q. 城崎温泉と湯村温泉、二湯を一度に巡れますか?

A. 巡れる。城崎温泉(豊岡市)と湯村温泉(新温泉町)はおよそ三十キロ、車で一時間ほどの距離にある。城崎で外湯巡りと町歩きを愉しんだのち、山あいを抜けて荒湯の里・湯村へ移る一泊二湯の旅程が組みやすい。鉄道なら城崎温泉駅から浜坂駅を経て湯村へ路線バスで入る経路もある。梅雨入りの平日は両湯とも人影が薄く、湯の町を静かに歩く旅に向く時季である。

Q. 城崎の外湯巡りには、どんな作法がありますか?

A. 城崎には七つの外湯があり、宿が館内に大きな湯を抱えないのがこの町の流儀である。多くの宿で外湯の入湯手形が用意され、宿の湯衣と下駄に着替えて柳並木の通りを巡る。御所の湯、まんだら湯、一の湯など、各湯に由緒と効能が異なる。湯衣のまま町を歩くこと自体が城崎の作法であり、湯巡りの所作を味わうことが滞在の主目的になる。

Q. 荒湯とは何ですか。入浴できますか?

A. 荒湯は湯村温泉の源泉で、摂氏九十八度に達する高温泉として知られる。里の中心で湯が噴き上がり、地元では卵や野菜を茹でる光景が今も見られる。荒湯そのものは入浴用ではなく源泉だが、その熱い湯が各宿の風呂や足湯に引かれている。荒湯のほとりには無料の足湯もあり、湯けむり立つ里の情景を間近に味わえる。

Q. 食事はどのようなものですか?

A. 両湯とも但馬の山海の幸を映した会席が中心となる。日本海の魚介、但馬産のこしひかり、季節の山菜が膳に並ぶ。とりわけ冬は松葉がにの時季にあたり、城崎・湯村ともにかにを主役にした会席が組まれる。湯村側の宿には料理長が品評で腕を競う食通向けの一軒もあり、料理を主目的に通う客も少なくない。

Q. 子連れでも泊まれますか?

A. 規模により向き不向きがある。湯村の佳泉郷 井づつやは百を超える客室を持つ大型の湯宿で、三世代の家族旅にも対応しやすい。一方、城崎の三木屋のような文化財の小規模な宿は、静けさを旨とするため幼い子を連れての賑やかな滞在には向きにくい。子連れの旅程なら、客室の広さと館内の湯処の規模を目安に宿を選び分けたい。

本記事の参考情報

城崎温泉観光協会 — 七つの外湯と町並みの情報
湯村温泉観光協会 — 荒湯と里の案内
Wikipedia: 城崎温泉 — 歴史・地理の背景
Wikipedia: 湯村温泉(兵庫県) — 荒湯と夢千代の里の背景

編集部から

但馬の二湯は、湯の流儀がはっきりと異なる。城崎は宿の湯より七つの外湯を巡る町歩きが主役であり、湯村は荒湯の熱い湯を里ぐるみで分かち合う。今回選んだ五軒は、その流儀のうえに立つ宿ばかりだ。城崎の格を西村屋本館に、文学と建築を三木屋に、外湯への近さを川口屋本館に、湯村の湯量を佳泉郷 井づつやに、里の情景を湧泉の宿 ゆあむに見た。梅雨の合間に湯衣を羽織り、下駄を鳴らして山陰の古湯を辿る――そんな旅程の起点に、この五軒を並べておきたい。次は、冬の松葉がにを主目的にした但馬の食通宿を辿ってみるのはどうだろう。

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