神在月を前にした松江の湖畔に、代を継ぐ名旅館を四軒選んだ。宍道湖の落日、嫁ヶ島の影、不昧公以来の茶の湯が町に息づく城下と、南に続く玉造温泉。年配の読者に向けて、創業五十年以上の宿を、湖ビューの客室数と創業年を添え、地図とともに静かに記す。神在月前夜、参詣の里を歩くための宿選びの一助として。

# 旅館 エリア Score 客室 目安価格 1行特徴
1 なにわ一水 松江しんじ湖温泉 94 25 ¥68–¥101k 宍道湖に面した全室湖ビュー、水面すれすれの朝湯
2 佳翠苑 皆美 玉造温泉 92 115 ¥62–¥88k 皆美家の伝統を継ぐ数寄屋、松江名物「鯛めし」の系譜
3 湯之助の宿 長楽園 玉造温泉 91 69 ¥54–¥89k 明治元年創業、120坪の混浴大露天と自家源泉
4 曲水の庭 ホテル玉泉 玉造温泉 90 124 ¥43–¥78k 回廊で結ばれた曲水の庭園、夜の石見神楽の奉納
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※ 目安価格は公開販売価格の集計に基づく参考値で、実際の予約料金とは異なります。1泊2名利用時の1室あたり料金(税込)です。

1. なにわ一水 — 松江しんじ湖温泉

宍道湖に面した二十五室。全室が湖に向き、水面すれすれの朝湯が忘れがたい一軒。

Media Picks Score: 94 / 100  25室、宍道湖畔の中規模旅館。

目安価格 ¥68,000–¥101,000 / 泊 (2名1室・通常期)


なにわ一水 — 松江・千鳥町 · 宍道湖に面した客室露天と湖景の望楼
PHOTO: なにわ一水 — 公式サイトを見る →

なぜ選ばれるか

宍道湖の南岸ではなく、松江城下の北西、千鳥町の湖畔に建つ。二十五室のうち特別階「水と雲の書」の七室に客室露天が付き、いずれも湖面を借景にとる。朝、障子を開けると水鳥の群れが飛び立つ音が聞こえる立地は、湖畔の宿として稀少である。バリアフリー設計と源泉かけ流しを両立させた点でも、松江しんじ湖温泉の中で頭ひとつ抜けた運営が続く。

集約レビューの傾向

公開レビューデータを集計すると、湖ビューの客室と朝食の水鳥観察を支持する声が突出して多い。料理は月替わりの会席で、宍道湖七珍のシジミ・スズキ・ウナギを織り込んだ献立への評価が高い。玄関から湖畔遊歩道までが徒歩一分と近く、夕方の落日散策を体験の中心に据える宿泊者の満足度が特に高い傾向にある。

向く人 / 向かない人

  • 向く:
    夫婦の記念日、宍道湖の落日を目的にする一泊、車椅子利用・段差配慮を要する旅程、出雲大社参詣の前夜
  • 向かない:
    大浴場での長湯や多彩な湯めぐりを主目的にする人(客室露天が体験の中心)、子ども連れの賑やかな滞在

具体情報

  • 最寄り駅: JR松江駅から車で約10分(無料送迎あり)、松江しんじ湖温泉駅から徒歩約8分
  • 客室数: 25室(特別階「水と雲の書」7室に客室露天)
  • チェックイン: 15:00〜 / アウト 〜10:00
  • 食事: 個室・半個室での月替わり会席(宍道湖七珍)
  • 創業: 1967年(昭和42年)
  • 湖景: 全25室が宍道湖に面する


2. 佳翠苑 皆美 — 玉造温泉

松江の名門「皆美館」を継ぐ姉妹館。玉造の湯を、数寄屋造りで受け止める115室。

Media Picks Score: 92 / 100  115室、玉造温泉の大型旅館。

目安価格 ¥62,000–¥88,000 / 泊 (2名1室・通常期)


佳翠苑 皆美 — 松江・玉造温泉 · 数寄屋造りの本館と源泉「神の湯」
PHOTO: 佳翠苑 皆美 — 公式サイトを見る →

なぜ選ばれるか

松江・宍道湖畔で明治二十一年に創業した皆美館の姉妹館として、一九五二年に玉造の地で開かれた。以来、七十年余、皆美家の料理と接遇の系譜を玉造の湯に持ち込む役割を担う。館は純和風の数寄屋造りで、本館から新館へと段階的に増築されてきたが、廊下の意匠と庭の水音は共通する。玉造温泉の中では規模が大きい方だが、客室ごとの区切りと造作の丁寧さで、大型旅館の平板さを避けている。

集約レビューの傾向

公開レビューデータの集約からは、朝食の松江名物「鯛めし」を軸にした献立への評価が最も高い。皆美家伝来の鯛の身と黄身のそぼろを白米にかける一皿は、姉妹館である松江・皆美館で明治から続く名物で、佳翠苑の朝食でも同じ調理法が守られている。夕食の懐石は、玉造の地の食材を組み込んだ月替わり構成で、料理長の交代を経ても手数と温度の管理が保たれている旨の声が続く。

向く人 / 向かない人

  • 向く:
    松江の食文化を宿泊とともに味わいたい夫婦旅、皆美家の鯛めしを目当てにする食通、多世代での宿泊
  • 向かない:
    十数室規模の隠れ宿を望む人、館内が広いため長時間の歩行を避けたい高齢者の単独旅行

具体情報

  • 最寄り駅: JR玉造温泉駅から車で約5分(無料送迎あり)、松江駅から車で約25分
  • 客室数: 115室(和室、和洋室、客室露天付き特別室を含む)
  • チェックイン: 15:00〜 / アウト 〜10:00
  • 食事: 朝食「鯛めし」/夕食は玉造の食材を用いた会席料理
  • 創業: 1952年(皆美家の分家として、松江の皆美館は1888年創業)
  • 温泉: 源泉「神の湯」を大浴場・露天・客室で使用


3. 湯之助の宿 長楽園 — 玉造温泉

明治元年創業、玉造の湯守として代を継ぐ。120坪の混浴大露天と自家源泉を守る一軒。

Media Picks Score: 91 / 100  69室、玉造温泉最古参の湯守旅館。

目安価格 ¥54,000–¥89,000 / 泊 (2名1室・通常期)


湯之助の宿 長楽園 — 松江・玉造温泉 · 120坪の大露天「龍宮の湯」と広大な庭園
PHOTO: 湯之助の宿 長楽園 — 公式サイトを見る →

なぜ選ばれるか

玉造温泉における「湯之助」とは、藩政期に温泉の管理を任された役職を指す。長楽園は明治元年、その湯之助の系譜を引く家として旅館業を興し、以後五代にわたり自家源泉と混浴大露天を守り続けている。園内の「龍宮の湯」は畳一二〇坪(約三九六平方メートル)、庭園に囲まれた掛け流しの露天として国内屈指の規模である。数値と歴史のいずれから見ても、玉造の湯の物語を体現する一軒と言える。

集約レビューの傾向

公開レビューデータからは、庭園と大露天の広さに対する評価が中心を占める。夕食は玉造の食材を用いた会席で、しまね和牛や宍道湖のシジミを取り入れた献立が支持を集める。館内は増築を重ねた回廊の連なりで、迷いやすいという声もあるが、そのこと自体が長い歴史の反映として受け止められる。混浴大露天には湯浴み着の用意があり、女性一人でも入りやすい運営が続いている点も、近年の評価を押し上げている。

向く人 / 向かない人

  • 向く:
    温泉そのものを目的にする湯治風の一泊、玉造温泉の歴史に関心のある夫婦旅、庭園散策を楽しみたい高齢者
  • 向かない:
    近代的で機能的な客室設備を望む若い世代、コンパクトな動線を優先する短時間滞在

具体情報

  • 最寄り駅: JR玉造温泉駅から車で約8分(無料送迎あり)、松江駅から車で約25分
  • 客室数: 69室(本館・新館・特別室を含む)
  • チェックイン: 15:00〜 / アウト 〜10:00
  • 食事: 夕食は玉造の会席(しまね和牛・宍道湖の魚介)
  • 創業: 1868年(明治元年)、以後五代にわたる家業
  • 温泉: 自家源泉、混浴大露天「龍宮の湯」約120坪(湯浴み着あり)


4. 曲水の庭 ホテル玉泉 — 玉造温泉

回廊で結ばれた曲水の庭園と、夜の石見神楽の奉納が続く124室の大型旅館。

Media Picks Score: 90 / 100  124室、玉造温泉屈指の規模。

目安価格 ¥43,000–¥78,000 / 泊 (2名1室・通常期)


曲水の庭 ホテル玉泉 — 松江・玉造温泉 · 回遊式庭園と回廊の意匠
PHOTO: 曲水の庭 ホテル玉泉 — 公式サイトを見る →

なぜ選ばれるか

一九六五年開業。玉造の中心部に位置し、曲水を模した回遊式庭園を館の中央に配する。二つの大浴場「がにの湯」(石造り)と「ひのきの湯」(檜造り)は、広い浴槽を備える玉造屈指の大浴場である。夜には出雲の郷土芸能である石見神楽の奉納が続き、旅館単体で神在月の空気に触れる仕掛けを備える。旅の目的地が松江城下と出雲大社の二拠点にわたる旅程の中継点として、長く選ばれてきた。

集約レビューの傾向

公開レビューの集約では、大浴場のゆとりと石見神楽の奉納への評価が高い。二〇二五年に全客室を段階的に改装し、二〇畳の広い和室にシモンズ製ベッド二台を配する仕様に更新された旨が公式に告知されている。夕食は出雲・玉造の食材を用いた会席、朝食はビュッフェで宍道湖のシジミ汁と出雲そばを組み込む構成で、大型旅館の中では献立の地域性が比較的よく保たれている。

向く人 / 向かない人

  • 向く:
    大浴場の広さを重視する家族・グループ旅、石見神楽を宿泊のうちに体験したい人、出雲大社参詣の拠点
  • 向かない:
    小規模旅館の静けさを望む夫婦旅、朝食を会席で用意されたい人(ビュッフェ形式)

具体情報

  • 最寄り駅: JR玉造温泉駅から車で約5分(無料送迎あり)、松江駅から車で約25分
  • 客室数: 124室(2025年より全室段階的に改装、20畳和室+ベッド2台仕様)
  • チェックイン: 15:00〜 / アウト 〜10:00
  • 食事: 夕食は出雲・玉造の会席/朝食はビュッフェ(宍道湖のシジミ汁・出雲そば)
  • 創業: 1965年(昭和40年)
  • 温泉: 大浴場「がにの湯」「ひのきの湯」各200人規模、露天・サウナあり


よくある質問

Q. 神在月に合わせて泊まるならいつがよいですか?

A. 神在月は旧暦十月にあたり、二〇二六年は概ね十一月上旬から十一月中旬に相当する。出雲大社の神迎祭・神在祭の期間は宿の予約が集中するため、玉造・松江しんじ湖温泉ともに三か月以上前の予約が無難である。落日の湖景を第一の目的とするなら、神迎祭の前後より、少し早い十月下旬の方が落ち着いて選べる。

Q. 松江城下と玉造温泉、どちらに泊まるべきですか?

A. 一泊であれば、松江観光を主目的とするなら宍道湖畔(なにわ一水)、湯を主目的とするなら玉造温泉(皆美・長楽園・玉泉)が合う。二泊できれば、一泊目を玉造で湯を、二泊目を宍道湖畔で落日と朝の湖景を、という組み立てが編集部の勧める順序である。両温泉地は車で約二十分の距離にある。

Q. 出雲大社への交通手段は?

A. 玉造温泉から出雲大社までは車で約四十分、公共交通ならJR玉造温泉駅から一畑電車を乗り継ぐか、一畑バスの高速便を利用する。松江しんじ湖温泉から出雲大社前までは一畑電車で約一時間で直通する。神在月の期間は臨時便が増発される年もあるため、一畑電車の公式時刻表を事前に確認したい。

Q. 高齢者や車椅子利用でも安心できる宿はありますか?

A. なにわ一水は国土交通省観光庁のバリアフリー観光地整備事業で評価を受けた運営で、車椅子対応の客室と湖畔露天までの動線に配慮がある。他の三軒はいずれも増築を重ねた回廊構造で、段差が残る箇所がある。歩行に配慮が必要な場合、事前に宿へ動線を確認するのが確実である。

Q. 玉造温泉の湯質はどのようなものですか?

A. 玉造温泉は塩化物・硫酸塩泉(低張性弱アルカリ性高温泉)で、pH は概ね7.5〜8前後の弱アルカリ性である。『出雲国風土記』に「一たび濯げば形容端正しく、再び浴すれば万の病悉に除こる」と記され、清少納言も『枕草子』で日本三名泉に挙げた古湯として知られる。肌への当たりが柔らかく、湯上がりのしっとりした感覚を「美肌の湯」と表現する古い呼称も残る。

本記事の参考情報

しまね観光ナビ — 島根県公式観光情報サイト(各宿の基本情報の一次確認先)
たまなび(松江観光協会玉造温泉支部/玉造温泉旅館協同組合) — 玉造温泉全体の歴史と加盟旅館一覧
Wikipedia: 玉造温泉 — 『出雲国風土記』『枕草子』の記述と地質・泉質の背景

編集部から

四軒を選ぶ軸は、宍道湖の水景と玉造の湯を、それぞれの位置から誠実に受け止めているかどうかであった。湖畔のなにわ一水は水面の高さで、玉造の皆美・長楽園・玉泉はそれぞれ皆美家の系譜、湯之助の職掌、曲水の庭園という異なる継承の形で、この土地の歴史を宿の運営に翻訳している。神在月を目当てに出雲大社を目指す旅の前後に、あえて松江城下と玉造の湯にひと晩ずつ身を置くという遅い旅程を、編集部としては勧めたい。次に読むなら、島根の食通宿、あるいは客室露天が全室にある山陰の宿。神在月の余韻を、別の湯で受け止めるための一助になるはずである。

次に読むなら