梅雨明けの朝、大山の西麓に薄く霧が立ち、三徳川の谷あいから湯気がのぼる。鳥取県の中央、三朝と関金は、伯耆国の山あいに静かに湯を湛えてきた温泉郷である。三朝の湯は世界屈指のラジウム含有量を持つ微量放射能泉として知られ、関金の湯は無色透明のアルカリ単純泉「白金泉」として古くから慕われてきた。本稿では、客室で湯に身を沈め、障子越しに山霧を眺めながら朝を迎えられる五軒を選んだ。いずれも昭和期までに創業した宿、いずれも自家源泉か掛け流しを持つ宿である。
| # | 旅館 | 所在 | Score | 客室 | 目安価格 | 特徴 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 1 | 三朝温泉 清流荘 | 三朝町 | 93 | 27 | ¥37–¥60k | 三本の自家源泉、八つの湯殿、館内湯めぐり |
| 2 | 三朝温泉 旅館大橋 | 三朝町 | 93 | 20 | ¥69–¥98k | 1932年創業、五棟が国登録有形文化財、トリウム泉「上の湯」 |
| 3 | 三朝温泉 旬彩の宿 いわゆ | 三朝町 | 92 | 9 | ¥51–¥74k | 木造三階建、自家源泉、女湯は低層階の半地下 |
| 4 | 三朝温泉 かがり火の宿 有楽 | 三朝町 | 91 | 13 | ¥51–¥63k | 1965年創業、料理長 千熊宗一の創作会席 |
| 5 | 三朝温泉 木造りの宿 橋津屋 | 三朝町 | 82 | 10 | ¥42–¥57k | 全館畳敷き、自家源泉檜浴槽、貸切露天 |
※ 目安価格は公開販売価格の集計に基づく参考値で、実際の予約料金とは異なります。1泊2名利用時の1室あたり料金(税込)です。
1. 三朝温泉 清流荘 — 三朝町
複数の自家源泉と多彩な湯殿。三朝の谷で、館内に湯めぐりが完結する一軒。
Media Picks Score: 93 / 100 27室、中規模旅館。
目安価格 ¥37,000–¥60,000 / 泊 (2名1室・通常期)

なぜ選ばれるか
清流荘が、三朝の宿のなかで群を抜く理由は、源泉である。湯は、三本の自家源泉を持ち、それぞれの泉質と湯量を別の湯舟へ分けて引いている。館内には八つの湯殿があり、宿泊客は名を書いて貸切で巡ることができる。湯は三朝の典型である高濃度ラジウム泉、いわゆる微量放射能泉。三徳川の流れを眼下に望む露天が二つ、檜の内湯が一つ、ほかは小規模で静かである。
集約レビューの傾向
公開レビューデータを集計したところ、湯質と湯の本数を主題にした記述が多く、家族二代で利用する客の継続的な支持が見て取れる。料理は会席に派手さはなく、地元の旬を中心とした穏やかな構成。古い館の改修を重ねた建物には、年代を含み込んだ落ち着きがある。設備の新しさを求める旅人より、湯の濃さと数を主目的とする旅人の評価が安定して高い、という編集部の読みである。
向く人 / 向かない人
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向く:
湯の濃さを目的とする湯治志向の旅人、貸切での湯めぐりを楽しみたい夫婦旅、温泉文化に造詣のある中高年層 -
向かない:
新装ホテル風の設備を望む人(建物は昭和期からの累積改修)、洋食中心の旅程を望む人
具体情報
- 最寄り駅: JR山陰本線 倉吉駅から路線バスで約20分、三朝温泉口から徒歩5分
- 客室数: 27室
- 源泉: 自家源泉3本、館内湯殿8
- 泉質: 含放射能−ナトリウム・塩化物泉(微量放射能泉)
2. 三朝温泉 旅館大橋 — 三朝町
1932年創業、本館・離れほか五棟が国登録有形文化財。三朝で唯一トリウム泉「上の湯」を自噴させる宿。
Media Picks Score: 93 / 100 20室、中規模老舗旅館。
目安価格 ¥69,000–¥98,000 / 泊 (2名1室・通常期)

なぜ選ばれるか
旅館大橋が三朝の宿のなかで別格に位置するのは、文化財としての建築と湯の両方を備えているからである。本館・離れ・西離れ・大広間・太鼓橋の五棟が1997年に国の登録有形文化財に指定された。三つの湯舟がいずれも自噴の自家源泉で、そのうちの「上の湯」は三朝唯一のトリウム泉として知られる。客室は宮大工の意匠が一室ごとに異なり、桜の間・竹の間と銘木の名が冠されている。
集約レビューの傾向
公開レビューデータを集計したところ、建築と湯の希少性を理由に挙げる記述が圧倒的に多く、リピーターの利用比率も高い。料理は地物を主にした会席で、派手さを求める層からは穏やかにすぎると映ることもあるが、宿の本質を建物と湯に置く客の支持は揺らがない。価格帯は記事中最上位、文化財建築という固有の価値に対する評価が反映されているとみる編集部の読みである。
向く人 / 向かない人
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向く:
文化財建築を体験したい旅人、記念日の夫婦旅、和の建築と湯の双方に関心のある海外からの旅行者 -
向かない:
幼児連れの家族(建物の段差が多く、客室の独立性ゆえに走り回れない)、コスト重視の旅程
具体情報
- 最寄り駅: JR倉吉駅から路線バスで約20分、三朝温泉バス停下車徒歩2分
- 客室数: 20室
- 源泉: 自家源泉3本(自噴)、うち「上の湯」は三朝唯一のトリウム泉
- 文化財: 本館・離れ・西離れ・大広間・太鼓橋の5棟が1997年国登録有形文化財
- 創業: 1932年(昭和7年)
3. 三朝温泉 旬彩の宿 いわゆ — 三朝町
九室の木造三階建。料理長 千熊修平の創作会席と、半地下に据えられた女湯が静かに語る一軒。
Media Picks Score: 92 / 100 9室、小規模旅館。
目安価格 ¥51,000–¥74,000 / 泊 (2名1室・通常期)

なぜ選ばれるか
いわゆが語られるとき、まず話題になるのは料理である。料理長 千熊修平が組み立てる旬彩会席は、山陰の山と海を一つの皿の上で結ぶ作りで、品評会での評価も継続的に高い。建物は築200年とも言われる木造三階建の構造を引き継ぎ、和の意匠を保ったまま改修を重ねている。湯は自家源泉の掛け流し、男女別の浴室は、女湯を半地下に配して湯の熱が籠もりやすい設計とされる。九室という規模が、料理と接遇の密度を担保している。
集約レビューの傾向
公開レビューデータを集計したところ、夕食の構成と料理長への信頼を主題にした記述が突出して多く、料理を主目的とする食通宿としての評価が定着している。建物の古さは肯定的に受け止められる傾向にあるが、設備の新しさを求める層には合いにくい。客室は数寄屋の意匠を残し、調度品にも控えめな主張がある、というのが編集部の読みである。
向く人 / 向かない人
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向く:
料理を旅の主目的にする食通、木造旅館の静けさを好む大人の夫婦旅、湯と食の両方に時間をかけたい人 -
向かない:
設備の新しさを優先する人、観光地巡りで宿に戻る時間が短い旅程
具体情報
- 最寄り駅: JR倉吉駅から路線バスで約20分、三朝温泉バス停下車徒歩3分
- 客室数: 9室(木造三階建)
- 源泉: 自家源泉、掛け流し
- 食事: 旬彩会席(料理長 千熊修平)
- 創業: 1960年(旧称 名泉閣 岩湯)
4. 三朝温泉 かがり火の宿 有楽 — 三朝町
十三室の小宿。1965年創業、夕食の評価が突出して高い、料理を主軸とする会席旅館。
Media Picks Score: 91 / 100 13室、小規模旅館。
目安価格 ¥51,000–¥63,000 / 泊 (2名1室・通常期)

なぜ選ばれるか
有楽は、1965年に開業した十三室の小宿である。派手な意匠は持たないが、夕食における会席の構成が高く支持され、山陰の食通宿として安定した位置を保ってきた。料理は名匠 千熊宗一が監修する創作会席。客室は内庭を望む和室を中心にした構成で、層が揃えられた畳の高さが心地よい。湯は三朝の代表的なラジウム泉、館内には静かな浴場が据えられている。
集約レビューの傾向
公開レビューデータを集計したところ、料理に関する評価が他項目を上回って高く、夕食を旅の主目的とする利用客の比率が高いと読める。接客は派手さを抑えた穏やかな構えで、リピーターの記述に「静かに過ごせた」「夕食の時間が長く感じられた」という趣旨の言及が多い。設備は華美ではないが、料理と湯に注力する宿としての一貫性が、編集部の評価軸でも安定して高い、という読みである。
向く人 / 向かない人
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向く:
会席料理を旅の核に据える食通、静かな小宿を選ぶ夫婦旅、地酒と山陰の山海の食材を堪能したい人 -
向かない:
大規模旅館の賑わいを好む人、洋風の設備を優先する人
具体情報
- 最寄り駅: JR倉吉駅から路線バスで約20分
- 客室数: 13室
- 源泉: 三朝温泉ラジウム泉
- 食事: 創作会席(料理長 千熊宗一監修)
- 創業: 1965年
5. 三朝温泉 木造りの宿 橋津屋 — 三朝町
全館畳敷きの十室。自家源泉の檜浴槽と貸切露天、2024年新設の個室食事処「翠蓮」。
Media Picks Score: 82 / 100 10室、小規模旅館。
目安価格 ¥42,000–¥57,000 / 泊 (2名1室・通常期)

なぜ選ばれるか
橋津屋は三朝川沿いに建つ十室の木造旅館で、全館畳敷きという珍しい構成を取る。スリッパで歩く廊下はなく、宿に入った瞬間から足袋が地につく感覚が続く。湯は自家源泉、檜の大浴場と貸切露天を備える。料理は日本海の幸と地元黒毛和牛を中心とした会席で、2024年6月には個室食事処「翠蓮」が新設された。価格帯は記事中最も抑えめで、湯と料理を等しく扱う構成が編集部の評価点である。
集約レビューの傾向
公開レビューデータを集計したところ、評価は分かれる宿である。畳敷きの構成と檜の浴槽、貸切露天への支持は明確に高い一方、客室の経年や調度品の古さに対しては厳しい記述も散見される。集約スコアそのものは三朝の上位群とは差がつくが、宿のコンセプト(全館畳・自家源泉・個室食事)に明確な特色があり、合う客にはきわめて深く合う、という性格の宿、というのが編集部の読みである。
向く人 / 向かない人
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向く:
檜の浴槽と畳敷きの構成を好む人、価格と湯のバランスを重視する夫婦旅、個室食事を希望する旅人 -
向かない:
内装の経年に厳しい人、客室設備の新しさを優先する旅程
具体情報
- 最寄り駅: JR倉吉駅からバスで約20分、三朝温泉バス停下車徒歩3分
- 客室数: 10室
- 源泉: 自家源泉、檜大浴場+貸切露天
- 食事: 個室食事処「翠蓮」(2024年6月新設)、日本海の幸と地元黒毛和牛の会席
- 創業: 江戸期に湯治宿として開業(昭和初期に本格旅館化)
よくある質問
Q. 三朝温泉のラジウム泉とは何か。
A. 三朝温泉は世界屈指のラジウム含有量を持つ放射能泉で、含有される放射性元素から発するラドンガスを呼吸とともに取り込むことで、湯治効果が高いとされる。微量放射能はホルミシス効果として研究され、岡山大学三朝医療センターが長年研究対象としてきた。湯は無色透明で湯の触感は柔らかく、長く浸かると芯から温まる傾向がある。
Q. ベストシーズンはいつか。
A. 編集部が推す時期は梅雨明けの七月上旬から中旬、谷あいに朝霧が立ちやすく、川風が涼しい。秋は紅葉と新米の旬が重なり、冬の二月は雪見の露天が楽しめる。混雑は夏休み中の盆と年末年始、平日が静かに過ごせる。価格は七月平日と十一月平日が比較的落ち着く。
Q. 子連れでも泊まれるか。
A. 旅館大橋といわゆは静けさを主軸とする宿で、小さな子供連れには段差や個別客室の独立性が制約になる可能性がある。清流荘と有楽、橋津屋は客室の構成によって対応が分かれるため、各館へ直接問い合わせるのが堅実である。乳児の入浴は放射能泉の特性上、各館の判断に従うこと。
Q. アクセスは。
A. 五軒すべてJR山陰本線 倉吉駅からのアクセスとなり、駅からは三朝温泉行きの路線バスで約20分。羽田・関西からの空路は鳥取空港または米子空港経由、米子空港から倉吉までは特急で約45分。東京方面からは新幹線で岡山、特急やくもで倉吉のルートが現実的である。
Q. 関金温泉はなぜ本稿に含まれないのか。
A. 関金温泉は無色透明のアルカリ単純泉として「白金泉」とも呼ばれる名湯であるが、客室露天付きの旅館という本稿の主題に合致する宿が現在は限られる。倉吉市関金町には湯楽里など共同浴場・公共型の良質な宿があり、別稿で関金単独の宿選びを編む予定である。
本記事の参考情報
・三朝温泉ポータルサイト(三朝温泉旅館協同組合) — 温泉郷の宿泊施設・観光情報
・Wikipedia: 三朝温泉 — 泉質・歴史・地理的背景
・公益社団法人鳥取県観光連盟 — 大山西麓・伯耆エリアの広域観光情報
編集部から
三朝の宿選びは、湯の泉質・源泉の独立性・建物の時間軸という三つの軸で見定めるとよい。本稿で挙げた五軒は、いずれも昭和期までに開業し、自家源泉か掛け流しを持つ。最上位は文化財建築の旅館大橋と、自家源泉の本数で抜きん出る清流荘。料理を旅の主軸にするならいわゆと有楽、湯と価格のバランスならば橋津屋という配置である。次に編むのは、関金温泉の「白金泉」を主題にした宿選び、または大山西麓の蒜山高原を含めた伯耆エリアの広域編集を考えている。湯の旅は、宿の格よりも宿の独自性で組み立てるのが、結局のところ長く愉しめる。