梅雨の合間の竹田は、阿蘇外輪の伏流水が芹川の谷を満たし、長湯の里に飲泉場の湯気が静かに立ちのぼる季節を迎えます。湯一リットルに千ミリグラム以上の遊離二酸化炭素を含む天然炭酸泉は国内屈指で、肌に細かな泡をまとい、飲泉によって体の内側からも湯を継ぐ稀有な土地です。本稿は長湯・赤川・三船(直入)から、炭酸泉と飲泉文化を継ぐ湯宿四軒を地図に配し、それぞれの湯の系譜と季節の食を編集部が記します。
| # | 宿 | エリア | Score | 客室 | 目安価格 | 1行特徴 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 1 | 大丸旅館 | 長湯温泉 | 95 | 15 | ¥45–¥57k | 大正六年創業、芹川を望む長湯の本流、外湯「ラムネ温泉」を継ぐ |
| 2 | 御宿 友喜美荘 | 長湯温泉 | 95 | 7 | ¥42–¥46k | 七室の平屋、月替わりの創作懐石、星空と源泉掛け流しの離れ感 |
| 3 | 赤川温泉 スパージュ | 赤川温泉(久住高原) | 91 | 10 | ¥11–¥17k | 青白濁の硫黄炭酸泉、阿蘇くじゅう国立公園の谷あい、湯治宿の趣 |
| 4 | 長湯温泉 かじか庵 | 長湯温泉 | 88 | 9 | ¥17–¥23k | 芹川沿いの客室露天、岩盤浴併設、長湯随一の総合湯処を抱える |
※ 目安価格は公開販売価格の集計に基づく参考値で、実際の予約料金とは異なります。1泊2名利用時の1室あたり料金(税込)です。
1. 長湯温泉 大丸旅館 — 大分県竹田市直入町長湯
大正六年創業、芹川を望む長湯の本流。外湯「ラムネ温泉館」を継ぐ、与謝野晶子も逗留した炭酸泉の老舗。
Media Picks Score: 95 / 100 15室、長湯温泉の旅館。
目安価格 ¥45,000–¥57,000 / 泊 (2名1室・通常期)

なぜ選ばれるか
長湯の地名は鎌倉以前より続くが、温泉地としての近代史を引いたのが大丸旅館です。大正六年に四代当主が宿を整え、与謝野鉄幹・晶子夫妻、大仏次郎ら文人を迎えて長湯の名を世に広めました。外湯として継いだ「ラムネ温泉館」は、藤森照信の設計による長湯随一の高濃度炭酸泉です。源泉温度三十二度の自噴泉が泡を纏って肌を覆います。本館・湯花楼の客室はすべて芹川に面し、川音と障子の格子を一夜の主役とします。
集約レビューの傾向
湯の質、特に炭酸泉の濃度と飲泉のしやすさへの評価が突出します。本館と離れの選択肢、芹川を見下ろす客室配置、湯量と源泉温度の率直な掲示が、湯治目的の宿選びにおいて高く支持されています。食事は豊後牛と地野菜を主役とした献立で、過度な装飾を避ける構成が同世代の旅人からの信頼を集めます。建物は古びを残しつつ手入れが行き届き、長湯の象徴としての継承責任を負う宿らしい節度が読み取れます。
向く人 / 向かない人
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向く:
湯治を主目的とする夫婦旅、長湯と飲泉文化の系譜を辿りたい温泉好き、文人の足跡に触れたい人 -
向かない:
新築のラグジュアリーリゾートを期待する旅、湯治と建築よりも食の華やかさを優先する人
具体情報
- 最寄り駅: JR豊後竹田駅から車で約25分、大分自動車道湯布院ICから車で約50分
- 客室数: 本館・湯花楼など15室、すべて芹川に面した配置
- 湯量・温度: 自家源泉・自噴、源泉温度約32度、毎分100リットル超
- 外湯: 直営「ラムネ温泉館」(藤森照信設計)を継承
- 創業: 1917年(大正六年)
2. 御宿 友喜美荘 — 大分県竹田市直入町長湯
長湯の山あいに、平屋造り七室の宿。源泉掛け流しと月替わりの創作懐石を、星空の静けさと共に継ぐ。
Media Picks Score: 95 / 100 7室、長湯温泉の小規模旅館。
目安価格 ¥42,000–¥46,000 / 泊 (2名1室・通常期)

なぜ選ばれるか
長湯温泉街から芹川を遡って約二キロ、山に抱かれた七室の平屋がこの宿の姿です。自家源泉を持ち、内湯と露天はいずれも掛け流し、湯温が高いために細かな気泡は溶存ガスとして肌に届きます。料理は月替わりの創作懐石で、豊後の地野菜と自家製の発酵調味料を軸に据え、彩りと栄養を含めて構成する姿勢が読み取れます。九州地方の宿泊賞で夕食部門の上位入賞歴があり、料理を目的に逗留する旅人を多く迎えてきました。
集約レビューの傾向
静けさと料理への評価が両輪で、特に七室規模ゆえの目配りと、月替わりで姿を変える夕食への満足度が際立ちます。一人旅にも丁寧な対応が継がれており、湯治目的・健康目的での連泊にも応じる構えが見て取れます。客室は和室主体で派手さを抑えた設え、夜の静けさと星空の濃さに触れた感想が繰り返し残されます。湯の細かな泡を「美肌の湯」として体感する記述が多く、宿が掲げる名と実感が一致しています。
向く人 / 向かない人
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向く:
料理と静けさを両立したい夫婦旅、ひとり湯治の連泊、長湯の中心街から離れた山中を望む人 -
向かない:
徒歩で温泉街を巡りたい旅、大規模ホテルの賑わいを求める人、夜更けまでの遊歩を予定する人
具体情報
- 最寄り駅: JR豊後竹田駅から車で約30分、長湯温泉街から車で約5分
- 客室数: 7室、平屋造り和室主体
- 湯: 自家源泉、内湯と露天ともに源泉掛け流し
- 食事: 月替わり創作懐石(朝・夕とも)
- 立地: 長湯温泉街から芹川上流側へ車で約5分の山中
3. 赤川温泉 スパージュ — 大分県竹田市久住町
久住の谷あいに湧く青白濁の硫黄炭酸泉。阿蘇くじゅう国立公園内、湯治の本道を継ぐ十室の宿。
Media Picks Score: 91 / 100 10室、赤川温泉の湯治系宿。
目安価格 ¥11,000–¥17,000 / 泊 (2名1室・通常期)

なぜ選ばれるか
赤川温泉は、姉妹館「赤川荘」と共に久住の南斜面の谷に湧く、九州でも稀な青白濁の硫黄炭酸泉を擁します。スパージュは2011年に開かれた本館の宿泊・日帰り棟で、貸切で入る露天風呂はメタケイ酸が豊富、肌に絹のような感触を残す湯として知られます。阿蘇くじゅう国立公園の中にあって、車の通行も少なく、湯と山の音だけで一夜を過ごせる立地は近年なお希少です。料理は宿主夫人による韓国家庭料理の系譜が継がれ、湯治と栄養の二つを意識した献立が並びます。
集約レビューの傾向
湯の色と泉質、特に貸切露天の独占感への評価が中心となります。建物は質素で湯治宿の趣を残し、設備の新しさよりも「湯と立地」を主軸に置く宿として支持を集めてきました。料理は韓国家庭料理の温かさが繰り返し言及されており、辛さと滋味のバランスが湯上がりの体に合うと記す感想が目立ちます。山深い立地ゆえアクセスは車前提で、移動の煩わしさを承知した湯治志向の旅人による再訪率の高さが指標として残ります。
向く人 / 向かない人
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向く:
青白濁の炭酸泉を体験したい温泉好き、静かな山中の湯治宿を求める旅、車利用前提の温泉巡り -
向かない:
公共交通だけで旅程を組む人、設備の新しさや内装の華やかさを宿選びの主軸に置く旅
具体情報
- 住所: 大分県竹田市久住町大字久住4026-1(阿蘇くじゅう国立公園内)
- 最寄り駅: JR豊後竹田駅から車で約40分、長湯温泉から車で約30分
- 客室数: 10室、館内にキャンプ場併設
- 湯: 青白濁の硫黄炭酸泉(メタケイ酸豊富)、貸切露天あり
- 食事: 韓国家庭料理を軸とした夕食
- 開業: 2011年(姉妹館「赤川荘」の本館として)
4. 長湯温泉 かじか庵 — 大分県竹田市直入町長湯
芹川沿いの客室露天と長湯随一の総合湯処。岩盤浴・家族湯・レストランを抱える、長湯の生活拠点。
Media Picks Score: 88 / 100 9室、長湯温泉の総合湯処宿。
目安価格 ¥17,000–¥23,000 / 泊 (2名1室・通常期)

なぜ選ばれるか
かじか庵は、宿泊・日帰り温泉・岩盤浴・食事処を一棟にまとめた長湯温泉の総合湯処です。客室露天付きの部屋を備え、宿泊客は芹川の流れを聞きながら源泉に浸れます。日帰り入浴客との動線は明確に分かれており、宿泊側の静けさは保たれます。泉質は炭酸水素塩泉、長湯温泉のもう一つの顔である「美肌系」の湯で、長湯随一の岩盤浴と組み合わせて代謝を整える滞在が組めます。フリーダイヤルから個人客が直接予約しやすい体制を継ぎ、長湯のリピーター層の生活拠点として機能してきました。
集約レビューの傾向
湯と岩盤浴の組み合わせ、客室露天の使い勝手、家族連れにも受け入れやすい構成への評価が中心となります。日帰り利用と宿泊が併存する施設特性は、繁忙期に賑わいが届く時間帯もある一方、夜半以降の静けさは確保されています。料理は地物の鶏や豚を主役とした家庭的な献立で、過度な懐石仕立てを避け、湯と岩盤浴を主目的とする滞在に合わせた設計が読み取れます。長湯の散策と外湯巡りの起点として再訪を選ばれる傾向が強く、集約レビューの数もその裏付けとなります。
向く人 / 向かない人
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向く:
客室露天と岩盤浴を組み合わせたい人、長湯の外湯巡りの起点として連泊する旅、家族連れ -
向かない:
静謐な離れ宿を最優先にする旅、本格懐石を宿選びの主目的とする人、日帰り客の動線を避けたい旅
具体情報
- 住所: 大分県竹田市直入町長湯温泉2961
- 最寄り駅: JR豊後竹田駅から車で約25分
- 客室数: 9室、客室露天付きあり
- 湯: 炭酸水素塩泉、内湯・露天・貸切湯あり、岩盤浴併設
- 日帰り入浴: 10:00〜23:00(火曜定休)、大人600円
よくある質問
Q. ベストシーズンはいつですか?
A. 長湯温泉は通年で湯量・湯温が安定していますが、編集部が推す時期は六月の梅雨入り直後から七月上旬です。芹川の蛍が最も活発に飛び、湿度が高いことで露天の湯気の立ち方が美しく、肌に届く炭酸の泡も粘性を増します。秋は外輪山の紅葉、冬は雪見の露天と季節ごとの良さがありますが、最初の一泊なら水無月の梅雨を選びたい土地です。
Q. 飲泉場は宿の外でも利用できますか?
A. 長湯温泉街には「飲泉場ガニ湯」「天満湯飲泉所」など複数の公衆飲泉場が点在し、誰でも自由に利用できます。本記事の宿はいずれも徒歩または車で短距離の位置にあり、宿の湯と公衆飲泉場を組み合わせた滞在が一般的です。飲泉は一回約150〜200ml、空腹時に少量から始めるのが土地の作法です。
Q. アクセスはどう考えればよいですか?
A. 公共交通の場合はJR豊後竹田駅からのバス・タクシー利用、車の場合は大分自動車道湯布院ICまたは九重ICから一時間圏内です。長湯温泉街内は徒歩で巡れますが、赤川温泉と長湯温泉の往来は車が前提となります。福岡空港から車で約二時間半、熊本空港から約二時間が目安です。
Q. 一人旅でも泊まれますか?
A. 友喜美荘・かじか庵・スパージュは一人客の受け入れ実績が継続しており、湯治志向の連泊にも対応します。大丸旅館は客室数の関係で時期により対応が変動しますので、直接の問い合わせが確実です。長湯温泉は元来、湯治のために一人で訪れる客を受け入れてきた土地で、ひとり湯治の系譜が今も生きています。
Q. 炭酸泉の効能の特徴は?
A. 長湯温泉の炭酸泉は遊離二酸化炭素を多量に含み、入浴と飲泉の双方で活用されてきました。入浴では血行促進、飲泉では胃腸機能への作用が古くから記録されています。源泉温度が三十度台と低めの場所も多く、湯治の伝統的な「ぬる湯長時間浴」が成立する稀有な土地です。医学的効能の判断は専門家の領域となりますので、長期療養目的の場合は事前相談を推めます。
本記事の参考情報
・ツーリズムおおいた(大分県観光連盟) — 大分県全域の観光情報
・竹田市観光ツーリズム協会 たけ旅 — 竹田市の観光スポット情報
・Wikipedia: 長湯温泉 — 長湯温泉の歴史と泉質
編集部から
長湯と竹田は、温泉を湯けむりや見栄えで語る土地ではありません。湯一リットルの中に含まれる二酸化炭素の量、源泉の温度、自噴か汲み上げか——数字と来歴を率直に開示しながら、入浴と飲泉の双方で湯を継ぐ稀有な里です。今回挙げた四軒はいずれも、湯の数値を語ることを恥じず、湯治の伝統に立ちながら今の旅人を受け入れる宿でした。次は冬の雪見と高温源泉の組み合わせ、あるいは飲泉場を歩いて巡る一日の記事を組みたいと考えています。湯と土地の系譜を、これからも宿の側から記していきます。