梅雨明けの越前平野は、田植えを終えた早苗の青が一面に広がる。あわら温泉は、その平野の北の縁、九頭竜川がやがて日本海へ注ぐ低地に湧く塩化物泉である。明治十六年に湯が掘り当てられて以来、関西の奥座敷と呼ばれ、文人や旅人の足を留めてきた。ここに選んだのは、その湯を客室の露天に引き込み、田園の季節を湯舟ごしに眺められる五軒。湯の温度と源泉の素材を主役に、青田を映す宿を編んだ。
| # | 宿 | エリア | Score | 客室 | 目安価格 | 一行の輪郭 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 1 | 光風湯圃 べにや | あわら市温泉 | 93 | 24 | ¥121–¥180k | 全室源泉かけ流しの半露天を備える老舗 |
| 2 | 越前あわら温泉 つるや | あわら市温泉 | 92 | 25 | ¥86–¥139k | 明治十七年創業、二十四時間かけ流しの露天付客室 |
| 3 | グランディア芳泉 | あわら市舟津 | 90 | 111 | ¥72–¥102k | 離れと別邸に三十三の露天付客室を擁する大型宿 |
| 4 | 月香 | あわら市舟津 | 90 | 20 | ¥66–¥86k | 静けさを旨とした、半露天を備える小体な和の宿 |
| 5 | 夢屋 華筑紫 | あわら市二面 | 87 | 16 | ¥35–¥52k | 温泉街を少し離れ、田に近い十六室の割烹旅館 |
※ 目安価格は公開販売価格の集計に基づく参考値で、実際の予約料金とは異なります。一泊二名利用時の一室あたり料金(税込)です。客室露天付きの宿が中心のため、二食付きの宿泊単価として読まれたい。
1. 光風湯圃 べにや — あわら市温泉
湯が、客室ごとに引かれている。全室に源泉かけ流しの半露天を備える、あわら随一の老舗である。
Media Picks Score: 93 / 100 24室、和風旅館。
目安価格 ¥121,000–¥180,000 / 泊 (2名1室・通常期・二食付き)

なぜ選ばれるか
べにやは、明治十七年に料亭として始まり、あわらの湯とともに代を重ねてきた。二〇一八年の火災を経て建て直された現在の宿は、全二十四室すべてに源泉かけ流しの半露天を引き込んだ点が際立つ。塩化物泉は塩分が肌に膜をつくり、湯上がりに体温を長く保つ。田植え後の青田を望む湯舟に身を沈めれば、越前平野の湿った風と湯気が混じり合う。湯と建築と料理、いずれも抜きん出た一軒である。
集約レビューの傾向
公開レビューデータを集計したところ、客室に備わる半露天の湯量と泉質への評価が群を抜いて高い。懐石を客室で供する形式と、火災後に整えられた館内の清新さも繰り返し支持されている。一方で、価格帯はあわらの中で最も高い部類に入り、記念の旅や夫婦の節目に選ばれる傾向が読み取れる。気軽さよりも、静かに過ごす時間を求める層に向く宿だと言える。
向く人 / 向かない人
-
向く:
記念日や節目の夫婦旅、客室の湯にこもって過ごしたい人、懐石を部屋で味わいたい人 -
向かない:
宿泊費を抑えたい旅程、大浴場での湯めぐりを主目的とする人、賑やかな団体での滞在
具体情報
- 最寄り駅: ハピラインふくい芦原温泉駅からタクシー約10分
- 客室: 全24室、全室に源泉かけ流しの半露天風呂
- 泉質: ナトリウム・カルシウム-塩化物泉(あわら温泉)
- 食事: 旬の地の素材を用いた懐石を客室で供する
- 創業: 明治17年(1884年)/2019年に新館を再建
2. 越前あわら温泉 つるや — あわら市温泉
湯が、開湯の翌年から湧き続けている。明治十七年創業、あわら最古参の大人の湯宿である。
Media Picks Score: 92 / 100 25室、和風旅館。
目安価格 ¥86,000–¥139,000 / 泊 (2名1室・通常期・二食付き)

なぜ選ばれるか
つるやは、あわらに湯が掘り当てられた明治十六年の翌年、初代・吉田前右衛門が湯宿として開いた最古参の一軒である。百四十年の時を重ねながら、いまは露天風呂付きの客室を中心に据えた大人の湯宿として静かに営まれている。客室の露天は二十四時間いつでも源泉に触れられ、夜半に湯へ降りる愉しみが残されている。歴史の厚みと、規模を抑えた落ち着き。あわらの来し方を体で辿るなら、まず訪ねたい宿である。
集約レビューの傾向
公開レビューデータを集計したところ、いつでも湯に入れる客室露天の使い勝手と、館の歴史にまつわる設えへの評価が高い。料理は越前の海の幸を据えた献立が支持を集め、もてなしの丁寧さを挙げる声も目立つ。客室数を抑えているため、静けさを求める滞在に向く。一方で、館の建ちは新しさよりも年輪を感じさせる趣で、真新しさを第一に求める層とはやや方向が異なると見て取れる。
向く人 / 向かない人
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向く:
温泉地の歴史を辿りたい人、深夜や早朝に湯へ入りたい人、落ち着いた夫婦旅・友人連れ -
向かない:
最新設備や真新しさを最優先する人、大人数での賑やかな宴を主目的とする旅程
具体情報
- 最寄り駅: ハピラインふくい芦原温泉駅からタクシー約10分
- 客室: 全25室、露天風呂付き客室は24時間源泉に入浴可
- 泉質: ナトリウム・カルシウム-塩化物泉(あわら温泉)
- 食事: 越前の海の幸を主とした会席
- 創業: 明治17年(1884年)、あわら開湯の翌年
3. グランディア芳泉 — あわら市舟津
離れと別邸が、三十三の露天付客室を抱えている。規模を持ちながら隠れ家を成立させた大型宿である。
Media Picks Score: 90 / 100 111室、和風リゾート旅館。
目安価格 ¥72,000–¥102,000 / 泊 (2名1室・通常期・二食付き)

なぜ選ばれるか
芳泉は、本館のほかに離れ「ゆとろぎ亭」と別邸「個止吹気亭」を擁する大型の宿である。離れの十四室には石造り、陶器造り、檜造りと趣の異なる庭園露天が付き、別邸を合わせれば露天付客室は三十三を数える。広大な日本庭園を囲んで棟が散らばる構成のため、客室数の多さを感じさせない。家族の集いから夫婦の静養まで、客室の格を選ぶことで滞在の濃淡を調えられる。規模と隠れ家の両立が、この宿の最大の持ち味である。
集約レビューの傾向
公開レビューデータを集計したところ、離れの露天付客室と庭園を巡る滞在体験への評価が高い。大浴場や館内施設の充実を挙げる声も多く、世代を問わず過ごしやすい点が支持されている。客室の格による価格差が大きいため、どの棟を選ぶかで満足の質が分かれる傾向も読み取れる。離れや別邸を選べば静けさが、本館を選べば手頃さが得られる。目的に応じて客室を見極めたい宿だと言える。
向く人 / 向かない人
-
向く:
三世代での集い、客室の格を選んで予算を調えたい旅、庭園を歩いて過ごしたい人 -
向かない:
小体な宿の静けさを最優先する人、館内の賑わいを避けたい滞在、本館の手頃な客室に露天を求める人
具体情報
- 最寄り駅: ハピラインふくい芦原温泉駅からタクシー約10分(送迎あり)
- 客室: 全111室、うち離れ・別邸に庭園露天付客室33室
- 泉質: ナトリウム・カルシウム-塩化物泉(あわら温泉)
- 食事: 越前の山海の素材を用いた会席(食事処または客室)
- 設備: 大浴場、日本庭園、湯上がり処
4. 月香 — あわら市舟津
湯が、二十室ぶんの静けさに包まれている。小体な構えに半露天を備えた、和の宿である。
Media Picks Score: 90 / 100 20室、和風旅館。
目安価格 ¥66,000–¥86,000 / 泊 (2名1室・通常期・二食付き)

なぜ選ばれるか
月香は、明治の頃より文人や芸術家の創作と癒やしの場として親しまれてきた一隅に佇む、二十室の小体な和の宿である。純和風の客室には半露天を備えた間があり、畳の上にしつらえたベッドと湯舟が静かに同居する。家族として迎える犬と同室で過ごせる客室を設ける点でも知られ、宿の性格は終始やわらかい。規模を持たないことを強みに変え、静けさと細やかさを旨とした宿づくりが貫かれている。
集約レビューの傾向
公開レビューデータを集計したところ、館全体に行き渡る静けさと、少室ゆえの細やかなもてなしへの評価が高い。半露天付の客室で人目を気にせず湯を愉しめる点も繰り返し支持されている。犬を伴える宿としての側面が滞在の目的になることも多く、客層は明確に分かれる。湯と部屋の落ち着きを第一に求める層に深く響く一方、大型宿の華やぎを求める向きとは趣を異にすると見て取れる。
向く人 / 向かない人
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向く:
静けさを最優先する夫婦旅、半露天付客室にこもりたい人、家族として迎える犬を伴う滞在 -
向かない:
大浴場や館内施設の多彩さを求める人、賑やかな大型宿を好む旅程、犬を伴う宿泊が苦手な人
具体情報
- 最寄り駅: ハピラインふくい芦原温泉駅からタクシー約10分
- 客室: 全20室、半露天風呂付き客室あり
- 泉質: ナトリウム・カルシウム-塩化物泉(あわら温泉)
- 食事: 季節の素材を用いた会席
- 特色: 家族として迎える犬と同室で過ごせる客室を備える
5. 夢屋 華筑紫 — あわら市二面
宿が、温泉街を少し離れ、田の縁に建っている。十六室の割烹旅館に、満天の星を映す露天がある。
Media Picks Score: 87 / 100 16室、割烹旅館。
目安価格 ¥35,000–¥52,000 / 泊 (2名1室・通常期・二食付き)

なぜ選ばれるか
華筑紫は、あわらの温泉街から車で五分ほど、市街を少し離れた田の縁に建つ十六室の割烹旅館である。全室が十二畳以上のゆとりを持ち、半露天を備えた「胡蝶蘭」の間からは、夜にひらける満天の星が望める。準天然の湯を湛えた露天と、料理長が手をかける本格の会席。料理を主目的に据えられる宿でありながら、価格は今回の五軒で最も抑えられている。喧噪から距離を置き、田と星に近い湯を求める旅に応える一軒である。
集約レビューの傾向
公開レビューデータを集計したところ、割烹旅館としての料理の評価が高く、品数と素材の質を挙げる声が目立つ。温泉街の中心から離れた立地ゆえの静けさと、夜空の暗さを愉しむ露天への支持も読み取れる。客室数が少なく、もてなしの距離が近い点も好まれている。一方で、温泉街の散策や土産物店の賑わいを宿の近くに求める向きには、立地がやや物足りなく映る傾向がある。
向く人 / 向かない人
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向く:
料理を主目的にする旅、星空や田園の静けさを求める人、宿泊費を抑えつつ露天付客室を望む人 -
向かない:
温泉街の散策を宿のすぐ近くで楽しみたい人、半露天付客室の選択肢の多さを求める旅程
具体情報
- 立地: あわら温泉街から車で約5分、市街を離れた田園寄り
- 客室: 全16室(いずれも12畳以上)、半露天付「胡蝶蘭」あり
- 温泉: 準天然温泉の露天風呂から望む夜空が特色
- 食事: 料理長が手がける本格会席(割烹旅館)
- 最寄り駅: ハピラインふくい芦原温泉駅からタクシー約10分
よくある質問
Q. あわら温泉の湯はどんな泉質ですか。
A. ナトリウム・カルシウムを含む塩化物泉が中心である。塩分が肌に薄い膜をつくり、湯上がりの体温を長く保つため、保温の湯と呼ばれてきた。あわらは一本の大きな湯脈ではなく、宿ごとに掘られた多数の自家源泉から成り、組合管理の源泉は七十本を超える。同じ温泉地でも宿によって湯の温度や肌ざわりが少しずつ異なるのが特色である。
Q. 客室露天と半露天はどう違いますか。
A. 客室露天は屋外に開いた湯舟、半露天は屋根や囲いで一部を覆い、外気と眺めを取り込みつつ天候に左右されにくくした湯舟を指す。本記事のべにや、つるやは客室の露天を、月香、華筑紫は半露天を備える。田や星を眺めたいなら開放感のある露天を、雨の多い梅雨どきや冬の滞在なら半露天を、と季節と好みで選び分けたい。
Q. ベストシーズンはいつですか。
A. 田の表情で選ぶなら、梅雨明けから盛夏にかけての青田が見頃である。早苗の青から濃い緑へ、やがて秋口の黄金へと、客室露天から望む田は季節ごとに色を変える。冬は越前がに目当ての旅客で宿が混み合い、価格も上がる。静かに湯と田を味わうなら、編集部は梅雨明け直後の時期を推したい。
Q. 子連れでも泊まれますか。
A. 宿により対応が分かれる。客室に露天を備える宿は、湯の安全管理の都合から年齢に制限を設ける場合がある。グランディア芳泉は規模が大きく家族連れの受け入れに幅があり、世代を超えた滞在に向く。小体な宿で静かに過ごしたい場合は、事前に各宿の客室タイプと受け入れ条件を確かめておきたい。
Q. 駅からのアクセスは。
A. 北陸新幹線の延伸により、玄関口はハピラインふくい芦原温泉駅となる。各宿へは同駅からタクシーでおおむね十分前後で、送迎を設ける宿もある。大阪・京都方面からは特急とのつながりがよく、関西の奥座敷と呼ばれてきた所以がいまも交通に残っている。
本記事の参考情報
・芦原温泉旅館協同組合 — あわら温泉の宿と源泉に関する地域情報
・あわら市観光協会 — 市内の観光・アクセス情報
・Wikipedia: 芦原温泉 — 開湯の歴史と地理の背景
編集部から
あわらの湯は、海でも山でもなく、米どころの平野の只中から湧いた。だからこの温泉地の客室露天は、絶景に向けて開かれるのではなく、田に向けて静かにひらいている。早苗の青、稲穂の黄金、刈り取り後の土の色。湯に浸かりながら眺める田は、季節そのものを湯舟へ運んでくる。五軒はいずれも、その田と湯の関係を各々の構えで受け止めてきた宿である。次はどの季節の田を、どの湯から眺めるか。越前の奥座敷は、訪ねるたびに違う色を見せてくれるはずである。