立秋を前にした庄内の海は、岩牡蠣と庄内おばこサワラの旬を迎える。日本海の幸と月山の伏流に育つ食材を膳の主役にする宿として、湯野浜・湯田川・温海の三温泉から編集部が選んだ五軒を紹介する。料理長の賞歴、地元在来作物の扱い、湯上がりに添えられる庄内の塩湯まで、素材と土地の関係で読み解く。

# 宿 温泉地 Score 客室 目安価格 1行特徴
1 九兵衛旅館 湯田川温泉 92 13 ¥52–¥70k 庄内の食材を主役に据えた湯田川の名旅館、料理の宿の指標的存在
2 珠玉や 湯田川温泉 91 8 ¥45–¥55k 九兵衛別館、八室と貸切風呂三種、静けさと料理に全振り
3 游水亭 いさごや 湯野浜温泉 89 48 ¥56–¥77k 日本海に沈む夕陽を望む美食宿、岩牡蠣と鮑の扱いに定評
4 亀や(KAMEYA HOTEL) 湯野浜温泉 88 66 ¥52–¥73k 創業二百年の老舗、二〇二四年春の全館刷新で新章へ
5 萬国屋 あつみ温泉 87 127 ¥55–¥91k 創業三百五十年、俳人芭蕉の湯と日本海の膳を大型旅館の作法で
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※ 目安価格は公開販売価格の集計に基づく参考値で、実際の予約料金とは異なります。1泊2名利用時の1室あたり料金(税込)です。

1. 湯田川温泉 九兵衛旅館 — 鶴岡市湯田川

開湯千三百年の湯田川に、庄内の食を膳の主役に据える名旅館。料理宿の指標として編集部が真っ先に推したい一軒。

Media Picks Score: 92 / 100  13室、料理旅館。

目安価格 ¥52,000–¥70,000 / 泊 (2名1室・通常期)


湯田川温泉 九兵衛旅館 — 鶴岡市湯田川 · 開湯千三百年の名湯に建つ料理旅館の外観
PHOTO: 九兵衛旅館 — 公式サイトを見る →

なぜ選ばれるか

庄内平野と月山を背に、湯田川の湯の里に長く続く一軒。個室食を基本とする膳では、月山筍、寒鱈、庄内おばこサワラ、岩牡蠣といった庄内の在来食材が季節ごとに主役を交代する。湯量豊かな源泉かけ流しの内湯と、朝夕を通じて手を抜かない仕事の食が、この宿の評価を長く支えている。料理を目的にしても、湯を目的にしても、旅の芯が揺らがない。

集約レビューの傾向

公開レビューデータを集計したところ、食事に対する評価が突出して高い一軒として確認できる。特に個室での夕食、素材の状態、量と品数のバランスに触れる声が多い。湯質の良さ、女将と若旦那による節度ある接客も高評価に寄与している。連泊時の献立変化にも配慮が行き届いており、二泊三日以上の食通旅を成立させる数少ない宿として支持を集める。

向く人 / 向かない人

  • 向く:
    料理を主目的にする夫婦・友人旅、庄内在来食材への関心が深い旅、湯質と食事を両立させたい年配の連泊旅
  • 向かない:
    幼児連れの家族旅、大浴場や露天の広さを最優先する滞在、都市型のホテルステイに慣れた短時間の宿泊

具体情報

  • 最寄り駅: JR鶴岡駅からタクシー約15分(湯田川温泉行きバスあり)
  • 客室数: 13室(全室禁煙)
  • チェックイン: 15:00〜 / アウト 〜10:00(プラン・時期により変動)
  • 食事: 個室で朝夕会席、庄内の在来食材主体
  • 湯: 湯田川温泉 源泉かけ流し(開湯千三百年)


2. 湯田川温泉 珠玉や — 鶴岡市湯田川

八室のみ、貸切風呂三種を備える九兵衛の別館。料理と静けさに全振りした造りが、二人旅の宿として長い信頼を得る。

Media Picks Score: 91 / 100  8室、料理旅館(九兵衛別館)。

目安価格 ¥45,000–¥55,000 / 泊 (2名1室・通常期)


珠玉や — 鶴岡市湯田川 · 貸切風呂を備えた八室の別館旅館
PHOTO: 珠玉や — 公式サイトを見る →

なぜ選ばれるか

本館九兵衛旅館の食の作法を継ぎながら、規模を八室に絞り、静けさと貸切湯を軸に据えた別館。館内には湯田川の源泉を引く貸切風呂が三種、宿泊中は空きがあれば時間の指定なく利用できる。料理は本館と同様に個室食、庄内の在来食材を骨格に据えつつ、二人客・小人数客に合わせた運びで組まれている。連泊の旅にも耐える設計の宿。

集約レビューの傾向

公開レビューデータを集計したところ、貸切風呂の使い勝手、静けさ、料理の質という三点への高い評価が繰り返し確認できる。特に「同時間に他客と会わずに湯を巡れる」規模感が支持され、記念日利用や夫婦二人旅の目的地として選ばれている。館内の設えは抑制的で、器や漆・和紙の細部にまで手を入れた造り。料理の運びの間合いにも触れる声が多く、静けさを損なわないサービスの質が保たれている。

向く人 / 向かない人

  • 向く:
    記念日を控えた夫婦旅、貸切湯を重視する二人旅、静けさを最優先する食通の連泊旅
  • 向かない:
    三世代・大人数のグループ旅、大浴場文化を求める滞在、館内で人と交わる賑わいを楽しみたい旅

具体情報

  • 最寄り駅: JR鶴岡駅からタクシー約15分
  • 客室数: 8室(全室禁煙)
  • チェックイン: 14:00〜 / アウト 〜11:00
  • 食事: 個室で朝夕会席、庄内の在来食材主体
  • 湯: 貸切風呂 三種(湯田川源泉)、宿泊中先着


3. 游水亭 いさごや — 鶴岡市湯野浜

日本海に沈む夕陽を膳の主景に据える、湯野浜の美食宿。岩牡蠣と鮑の扱いに定評がある四十八室。

Media Picks Score: 89 / 100  48室、海浜料理旅館。

目安価格 ¥56,000–¥77,000 / 泊 (2名1室・通常期)


游水亭 いさごや — 鶴岡市湯野浜 · 日本海を望む美食宿の外景
PHOTO: 游水亭 いさごや — 公式サイトを見る →

なぜ選ばれるか

湯野浜温泉の中心に立ち、全室から日本海を望む配置の宿。膳の主景に夕陽を据える設計は、庄内の海に面した宿ならではの作法である。料理面では岩牡蠣、鮑、庄内おばこサワラといった日本海の魚介を主に据えつつ、山側の月山筍やだだちゃ豆など里の食材とも編み合わせる。「食の都庄内」を掲げる山形県の食文化発信の一角として、素材と土地の関係を膳の上で伝える宿。

集約レビューの傾向

公開レビューデータを集計したところ、夕食の質と海景の両輪への高い評価が確認できる。特に「岩牡蠣の状態」「鮑の火入れ」「サワラの脂ののり」といった素材面での言及が多く、料理長の仕事に対する信頼が滞在の骨格を支えている。館内の湯もかけ流し、屋上の展望湯からは日本海が広く望める。中規模四十八室でありながら、宿の作法を細部まで通した運営が評価される。

向く人 / 向かない人

  • 向く:
    海景と料理を両立させたい夫婦・友人旅、岩牡蠣と鮑の旬を狙う晩夏の食通旅、湯野浜温泉街を散策したい旅
  • 向かない:
    規模の小さい隠れ宿を望む滞在、山側の静かな湯里を求める旅、団体宿を避けたい二人旅(一部団体受入あり)

具体情報

  • 最寄り駅: JR鶴岡駅からタクシー約25分(送迎バスあり・要予約)
  • 客室数: 48室(全室日本海側)
  • チェックイン: 15:00〜 / アウト 〜10:00
  • 食事: 会席、庄内の海の幸主体、日本海直送
  • 湯: 湯野浜温泉 屋上展望湯・内湯(源泉ナトリウム塩化物泉)


4. 湯野浜温泉 亀や(KAMEYA HOTEL) — 鶴岡市湯野浜

創業二百年の湯野浜の老舗、二〇二四年春の全館刷新で新章に入った旅館ホテル。庄内の膳を現代の作法で読み直す。

Media Picks Score: 88 / 100  66室、老舗海浜旅館(二〇二四年リブランド)。

目安価格 ¥52,000–¥73,000 / 泊 (2名1室・通常期)


亀や KAMEYA HOTEL — 鶴岡市湯野浜 · 創業二百年の老舗旅館、日本海に面した海景と刷新された館内
PHOTO: 亀や(KAMEYA HOTEL) — 公式サイトを見る →

なぜ選ばれるか

創業から二百年、湯野浜温泉を代表する老舗として庄内の湯宿文化の一角を担ってきた一軒。二〇二四年四月の第一期リニューアルを経て「KAMEYA HOTEL」を掲げ、館内の設えと料理の両面を現代の旅の作法に合わせて読み直した。夕食は「龍宮殿会席」「亀やコース」といった名を持ち、庄内おばこサワラや岩牡蠣、山形牛など、海と里の食材を膳に組み込む。老舗としての骨格を保ちつつ、次の百年に向けた宿づくりを始めた段階である。

集約レビューの傾向

公開レビューデータを集計したところ、リニューアル後の館内設えへの評価上昇が顕著で、特に浴場や共用空間の刷新に触れる声が増えている。料理面では庄内の海の幸を軸に据えた会席の質、朝食の郷土料理の扱いへの言及が多い。老舗としての接客の呼吸を残しつつ、若い世代の旅にも耐える更新が進んでおり、湯野浜のなかで世代交代の作法を示す一軒として位置づけられる。

向く人 / 向かない人

  • 向く:
    老舗の骨格と新しい設えを両方楽しみたい旅、湯野浜温泉の代表格を体験したい訪問、庄内牛と海の膳を楽しむ夫婦旅
  • 向かない:
    極小規模の隠れ宿を望む滞在、リニューアル前の伝統様式を懐かしむ旅、静けさを最優先する連泊旅

具体情報

  • 最寄り駅: JR鶴岡駅からタクシー約25分(送迎バスあり)
  • 客室数: 66室(多様な客室タイプ)
  • チェックイン: 15:00〜 / アウト 〜10:00
  • 食事: 龍宮殿会席・亀やコース等、庄内の海と里の食材
  • 湯: 湯野浜温泉 大浴場・展望湯
  • リブランド: 2024年4月「KAMEYA HOTEL」第一期リニューアル開業


5. あつみ温泉 萬国屋 — 鶴岡市湯温海

創業三百五十年、俳人芭蕉が湯を浴びたと伝わる温海の宿。日本海の膳を大型旅館の作法で完成させた一軒。

Media Picks Score: 87 / 100  127室、老舗大型旅館。

目安価格 ¥55,000–¥91,000 / 泊 (2名1室・通常期)


萬国屋 — 鶴岡市温海 · 創業三百五十年の老舗旅館の料理と湯
PHOTO: あつみ温泉 萬国屋 — 公式サイトを見る →

なぜ選ばれるか

あつみ温泉は、松尾芭蕉が『奥の細道』の道中に湯浴みしたと伝わる庄内の名湯。萬国屋は、その温海の湯の里で三百五十年続いてきた老舗であり、日本の宿ベスト百選(プロが選ぶ日本のホテル・旅館百選)の常連としても知られる。日本海の魚介、山形牛、庄内の在来野菜を、大型旅館の作法で成立する会席として編み上げる。庭園露天、大浴場、そして展望を持つ湯の設え。規模を保ちながら宿の質を落とさない、庄内の老舗大型旅館の代表例。

集約レビューの傾向

公開レビューデータを集計したところ、料理の質と湯の豊かさ、そして老舗としての接客の呼吸への評価が突出して高い。特に夕食の会席の品数と器の使い、朝食の郷土料理の丁寧さに触れる声が多く、大型旅館でありながら細部の緊張感を保つ運営が支持されている。庭園露天風呂の設えと湯質、日本海の夕陽を望む立地も、この宿の評価軸として長く語られてきた。

向く人 / 向かない人

  • 向く:
    老舗大型旅館の作法を体験したい旅、庭園露天と会席を両立させたい夫婦・友人旅、芭蕉ゆかりの湯への文学的関心を持つ旅
  • 向かない:
    極小規模の隠れ宿・離れを望む滞在、館内で人と交わらない完全な静けさを求める旅、団体宿の賑わいを避けたい二人旅

具体情報

  • 最寄り駅: JR あつみ温泉駅からタクシー約5分(送迎バスあり)
  • 客室数: 127室(和室・和洋室中心、特別室あり)
  • チェックイン: 15:00〜 / アウト 〜10:00
  • 食事: 会席、日本海の魚介と山形牛、庄内の在来野菜
  • 湯: あつみ温泉 庭園露天・大浴場(源泉かけ流し)
  • 創業: 創業三百五十年余、日本のホテル・旅館百選の常連


よくある質問

Q. 岩牡蠣と庄内おばこサワラの旬はいつですか?

A. 庄内の岩牡蠣は六月頃から出始め、七月下旬から八月中旬にかけて最盛期を迎える。一方、庄内おばこサワラ(庄内浜で春から夏にかけて水揚げされたサワラを一定基準で選別したブランド魚)は、産卵前の五月〜六月と、脂を蓄える九月〜十月に膳の主役として供されることが多い。立秋前後は、この両者が同じ膳に揃う稀な時期にあたる。

Q. だだちゃ豆や民田茄子はいつ食べられますか?

A. だだちゃ豆は鶴岡市の在来種で、白山・小真木といった限られた区画で作付けが守られている。旬は八月中旬から九月上旬。民田茄子は鶴岡市民田地区の在来小茄子で、七月から九月にかけて盛りを迎え、油漬けや辛子漬けとして膳に上がる。いずれも晩夏の膳では欠かせない土地の食材である。

Q. 湯野浜、湯田川、あつみ温泉の違いは?

A. 湯野浜は日本海に面した海浜温泉で、夕陽を膳の主景に据える宿が多い。湯田川は鶴岡市街の東南、山あいに開く古湯で、開湯千三百年、規模の小さい料理宿が並ぶ。あつみ温泉は鶴岡市の南、日本海沿いにあり、俳人芭蕉が浴したと伝わる湯の里で、大型旅館と共同浴場が共存する温泉街を形成する。同じ庄内でも、風景も宿の作法も異なる三つの湯である。

Q. 料理長の賞歴や食の格付けを確認する方法は?

A. 各宿の公式サイトでは、料理長の紹介、受賞歴、品評会での評価が明示されている場合が多い。萬国屋は「プロが選ぶ日本のホテル・旅館百選」の常連であり、湯田川の九兵衛旅館は「食の都庄内」の推進宿として山形県の食文化発信に関わっている。予約前に各宿の公式サイトで確認するのが確実である。

Q. 子連れや高齢者連れでの利用は?

A. 大型旅館の萬国屋や游水亭いさごや、亀やは幅広い世代に対応する客室と食事プランを持つ。一方、湯田川の九兵衛旅館・珠玉やは静けさと料理に振った小規模宿であり、幼児連れの家族旅よりも夫婦・友人連れ・年配二人旅に向く。高齢者連れの場合は各宿の段差やエレベーターの有無、椅子席の会席対応を予約時に確認したい。

本記事の参考情報

つるおか観光ナビ(鶴岡市観光連盟公式) — 湯野浜・湯田川・あつみ温泉の観光情報と在来食材の紹介
やまがたへの旅(山形県観光公式) — 庄内地方の温泉・食の都庄内の解説
あつみ観光協会 — あつみ温泉の歴史・宿情報

編集部から

庄内という土地には、日本海の岩牡蠣・サワラ・鰤・寒鱈と、月山の伏流水に育つだだちゃ豆・民田茄子・藤沢かぶといった、海と里の在来食材が一枚の膳に共存する土壌がある。今回の五軒は、その土壌の上に立つ料理宿を、湯野浜・湯田川・あつみ温泉という三つの湯里から選んだ。立秋を前にした庄内は、岩牡蠣が最盛期を迎え、庄内おばこサワラは秋の脂を蓄え始める、一年で最も膳の緊張感が高まる季節である。旅の目的地を一軒に絞るなら、湯と料理のどちらを主役に据えるかで宿は分かれる。次に食通宿の連泊コース、あるいは湯田川・あつみの朝食比較といった続編を、季節を追って書き継いでいきたい。

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