ユネスコ食文化創造都市に認定された山形県鶴岡を、料理を主目的に泊まる五軒として編集部が選んだ。卯月の庄内では月山の雪解け水が赤川を満たし、藤沢かぶや外内島きゅうりといった在来野菜の苗が畑に降りる。湯田川の孟宗竹、庄内浜の鯛と平目、刈屋梨の蕾。この季節に料理長が在来種と地魚を主役に据える宿だけを、湯田川温泉と湯野浜温泉から五軒に絞った。
| # | 宿 | 温泉地 | Score | 客室 | 目安価格 | 1行特徴 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 1 | 九兵衛旅館 | 湯田川温泉 | 95 | 13 | ¥46–¥70k | 1858年創業、湯田川孟宗と源泉かけ流しの本場 |
| 2 | 珠玉や | 湯田川温泉 | 94 | 8 | ¥42–¥55k | 九兵衛別館、貸切風呂三つとダイニング夕食の小宿 |
| 3 | つかさや旅館 | 湯田川温泉 | 93 | 10 | ¥40–¥57k | 江戸期創業十代目、孟宗汁の本家、地酒販売も自前 |
| 4 | 愉海亭みやじま | 湯野浜温泉 | 90 | 28 | ¥44–¥55k | 海辺の宿、庄内浜の活魚と夕日に最も近い湯 |
| 5 | 亀や (KAMEYA HOTEL) | 湯野浜温泉 | 89 | 66 | ¥51–¥68k | 1813年創業、2024年リブランド、新ダイニング蓬莱 |
※ 目安価格は公開販売価格の集計に基づく参考値で、実際の予約料金とは異なります。1泊2名利用時の1室あたり料金(税込)です。
1. 九兵衛旅館 — 湯田川温泉
湯田川孟宗の本場で、1858年から続く十三室の湯宿。地元食材と源泉百パーセントを編集部が真っ先に推したい一軒。
Media Picks Score: 95 / 100 13室、湯田川温泉の老舗旅館。
目安価格 ¥46,000–¥70,000 / 泊 (2名1室・通常期)

なぜ選ばれるか
開湯千三百年の湯田川温泉、その本通りに建つ十三室の旅館です。江戸時代中期の創業と伝わり、現当主まで代々受け継がれてきました。料理は朝夕とも個室で供され、夕食は山形県庄内の旬を中心とした手づくりの会席。卯月から五月の湯田川孟宗(細く繊維の柔らかいたけのこ)、寒の入りから二月までの寒鱈、夏の藤沢かぶ、秋の月山きのこ。料理長が自ら市場へ足を運ぶ運営で、地元食材の調達が宿の中軸に据えられています。湯は温泉法上の硫酸塩泉、源泉百パーセントの掛け流しが本館の露天、金魚風呂、貸切風呂で楽しめます。
集約レビューの傾向
公開レビューデータを集計すると、評価が突出して高いのは食事と湯質の二項目です。「孟宗の汁が記憶に残った」「魚も山菜も季節そのもの」といった、季節食材への言及が多くを占める傾向が読み取れます。建物は古いながら手入れの行き届きが評価され、客室数が少ないことに由来する静けさへの肯定的記述も目立ちます。一方で、急な階段や昔ながらの段差については年配の旅人から注釈付きの感想が見られ、足腰に不安のある旅程では事前確認が望ましいと言えます。
向く人 / 向かない人
-
向く:
食を主目的とする夫婦旅・記念日、湯田川孟宗や寒鱈など季節の食材を狙う旅程、静かに本を読みたい一人旅 -
向かない:
足腰に不安があり段差を避けたい人、新築のリゾート感を求める旅、観光名所巡り中心で宿に戻る時間が短い旅程
具体情報
- 所在地: 山形県鶴岡市湯田川乙19
- 最寄り駅: JR鶴岡駅からバス約25分、タクシーで約20分
- 創業: 1858年(安政五年)
- 客室数: 13室、全室禁煙
- 湯: 湯田川温泉 源泉100%かけ流し(硫酸塩泉)。露天、金魚風呂、貸切風呂
- 食事: 朝夕ともに個室、庄内の旬を中心とした手づくり会席
2. 珠玉や — 湯田川温泉
九兵衛旅館の別館として営まれる八室の小宿。ダイニング夕食と三つの貸切風呂で、洗練された美食を求める旅程に合う一軒。
Media Picks Score: 94 / 100 8室、湯田川温泉の別館型小宿。
目安価格 ¥42,000–¥55,000 / 泊 (2名1室・通常期)

なぜ選ばれるか
九兵衛旅館の別館として、その料理思想を別の文脈で展開する八室の宿です。本館との大きな違いは夕食の供し方にあり、個室会席ではなくダイニングで一皿ずつ運ばれる形式を採用しています。庄内の旬を中心とした手づくり料理という主軸は変わらず、料理長が自ら市場で選んだ食材を、皿ごとに温度を整えて出す構成です。湯は本館と同じ湯田川源泉、貸切風呂が三つ用意され、利用は予約不要・無料で運営されています。客室数が少ないため、湯と食の双方を時間に追われずに楽しめる小宿として位置付けられます。
集約レビューの傾向
公開レビューの集約傾向では、夕食のダイニング形式と貸切風呂の運用に高い評価が集まっています。皿ごとの温度管理、品数と量の均衡、料理長との距離感など、ダイニングならではの体験が個別に言及される割合が高い傾向です。本館に泊まったうえで別館を選ぶリピーターからの記述も散見され、両館の使い分けが定着している様子が読み取れます。一方で、館内設備はコンパクトに収まる規模であり、温泉旅館に大広間や複数の浴場を求める旅人にとっては物足りなさが残る可能性があります。
向く人 / 向かない人
-
向く:
ダイニング夕食を好む夫婦旅、料理長との距離が近い小宿を望む人、貸切風呂を時間気にせず使いたい滞在 -
向かない:
大広間や複数の浴場を巡る旅館体験を求める人、団体客と賑やかに過ごしたい旅程、ペット同伴
具体情報
- 所在地: 山形県鶴岡市湯田川乙39(九兵衛旅館別館)
- 最寄り駅: JR鶴岡駅からバス約25分、タクシーで約20分
- 客室数: 8室、全室禁煙
- 湯: 湯田川温泉 源泉100%。貸切風呂3つを無料で利用可
- 食事: 夕食はダイニング(コース形式)、朝食は和食
3. つかさや旅館 — 湯田川温泉
江戸期創業、現当主で十代目。湯田川孟宗汁の発送まで自前で手がける、食の地元密着が際立つ一軒。
Media Picks Score: 93 / 100 10室、湯田川温泉の老舗旅館。
目安価格 ¥40,000–¥57,000 / 泊 (2名1室・通常期)

なぜ選ばれるか
湯田川温泉に江戸時代から続く十室の旅館で、現当主は十代目。料理は「庄内・鶴岡の自然の恵みを」を基本に据え、卯月から五月にかけては湯田川孟宗汁を主役の一品として供します。孟宗汁のキット販売・発送までを自前のオンライン窓口で運営する宿はこの土地でも珍しく、料理と地元食文化の伝承への姿勢が運営面にも顕れています。地酒は鶴岡市内蔵元を中心に揃え、宿の名で日本酒販売の許可を取得していることから、料理と酒の合わせ方への踏み込みが他の宿よりも一段深いと言えます。湯は源泉かけ流し、貸切風呂を備えます。
集約レビューの傾向
公開レビューの集約では、料理の量と素材の質、湯の柔らかさが繰り返し評価される傾向にあります。孟宗汁、寒鱈の真子煮、岩牡蠣、月山筍など季節食材への言及が多く、宿全体の主軸が「食」であることが客側にも明確に伝わっている様子が読み取れます。建物は古い和館で、近代的な設備を求める旅人には合わない記述も見られます。客室は和室中心、二人〜四人での滞在に向いた構成で、家族連れの利用記述では子連れ運営への配慮にも肯定的な感想が見られます。
向く人 / 向かない人
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向く:
孟宗汁・寒鱈など鶴岡食文化を主目的とする旅、地酒との合わせを愉しむ夫婦・友人旅、ペット同伴の検討 -
向かない:
洗練されたモダン旅館を求める人、洋食中心の食事を望む旅程、客室にバス・トイレの完全独立を必須とする滞在
具体情報
- 所在地: 山形県鶴岡市湯田川乙52
- 最寄り駅: JR鶴岡駅からバス約25分、タクシーで約20分
- 創業: 江戸時代(現当主で10代目)
- 客室数: 10室、和室中心
- 湯: 湯田川温泉 源泉かけ流し、貸切風呂あり
- 食事: 庄内・鶴岡の郷土料理、孟宗汁・寒鱈・庄内浜の魚介。地酒販売も自前
4. 愉海亭みやじま — 湯野浜温泉
湯野浜の波打ち際に建つ二十八室。庄内浜の活魚と、夕日に最も近い湯を主役に据える海辺の旅館。
Media Picks Score: 90 / 100 28室、湯野浜温泉の老舗旅館。
目安価格 ¥44,000–¥55,000 / 泊 (2名1室・通常期)

なぜ選ばれるか
1919年(大正八年)創業、湯野浜温泉の中で唯一、波打ち際に海に浮かぶように建つ宿として知られます。料理は庄内浜で揚がる活魚を主軸に据え、刺身・煮付け・焼物の構成が季節で入れ替わるのが特色です。卯月以降は岩牡蠣、夏は岩魚と岩がき、秋は秋鮭と紅葉鯛、冬は寒鱈、と一年を通じて庄内浜・由良漁港・加茂漁港の水揚げに合わせた献立が組まれます。湯は塩化物泉、屋上の展望大露天風呂は船の浴槽と檜造りの二種類が設けられ、180度の日本海パノラマを見渡せます。客室はすべて海側のオーシャンビューで、ユニットバスにも源泉百パーセントが引かれている点も特徴です。
集約レビューの傾向
公開レビューを集約すると、夕日の見え方と夕食の魚介、屋上露天の解放感が三本柱の評価軸として浮かびます。庄内浜の活魚を素材の鮮度として記述する感想が多く、料理長の仕事への信頼が読み取れます。一方で、湯野浜温泉郷全体の建物年代に由来する一部の経年は記述に現れ、最新の高級リゾートを期待する層には合わない可能性があります。客層は二〜三人で食と海景を主目的に滞在する旅程との親和性が高い印象です。
向く人 / 向かない人
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向く:
庄内浜の活魚を目的とする旅、夕日を眺めながらの湯を望む滞在、屋上露天と海景を一度に体験したい人 -
向かない:
新築のリゾート感を求める旅、山菜・在来野菜中心の食事を望む滞在、内陸の静けさを優先する旅程
具体情報
- 所在地: 山形県鶴岡市湯野浜1-6-4
- 最寄り駅: JR鶴岡駅からバス約40分、車で約30分
- 創業: 1919年(大正八年)
- 客室数: 28室、全室オーシャンビュー
- 湯: 湯野浜温泉 塩化物泉、源泉100%。屋上展望大露天(船形浴槽・檜造り)
- 食事: 庄内浜の活魚を主軸とした和食会席
5. 亀や (KAMEYA HOTEL) — 湯野浜温泉
1813年創業、2024年に第一期リブランドを開業。新ダイニング「蓬莱」で庄内食材の現代解釈を提示する湯野浜の老舗。
Media Picks Score: 89 / 100 66室、湯野浜温泉の中規模老舗旅館。
目安価格 ¥51,000–¥68,000 / 泊 (2名1室・通常期)

なぜ選ばれるか
1813年(文化十年)創業、湯野浜温泉を代表する六十六室の旅館です。2024年四月に「KAMEYA HOTEL」として第一期リブランドを開業し、「人生にあたたかさを」をコンセプトに改装が進められました。料理面の核となるのが新ダイニング「蓬莱」で、庄内地方の食材を現代的に再構成したコースを供します。素材は鶴岡・庄内一帯で調達される鮮魚、月山山系の山菜、刈屋梨や庄内柿、藤沢かぶといった在来野菜が中心です。湯は塩化物泉、塩分が主成分のため湯冷めしにくいとされる「温まりの湯」。客室数は今回紹介する五軒のなかで最も多く、サウナ、スパ、複数の食事処を備える中規模の運営形態を取ります。
集約レビューの傾向
公開レビューの集約では、リブランド後の館内設備への評価と、新ダイニングでの食事体験への言及が増加傾向にあります。塩湯ならではの温まり方、屋上や大浴場からの海景についての記述が安定して高評価です。一方、改装は段階的に進められており、まだ手の入っていない部分との対比が客側にも認識されている様子が読み取れます。客室タイプの選び方で滞在体験が変わるため、料理を主目的とする旅程では蓬莱コースを含むプランの選択が望ましいと言えます。
向く人 / 向かない人
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向く:
リブランドされた近代設備と老舗の格を両立したい滞在、新ダイニングでの庄内食材の現代解釈に関心がある人、サウナ・スパを含む滞在 -
向かない:
静かな小宿を求める旅、伝統的な個室会席だけを望む人、改装途上の部分があることを許容しない滞在
具体情報
- 所在地: 山形県鶴岡市湯野浜1-5-50
- 最寄り駅: JR鶴岡駅からバス約40分、車で約30分
- 創業: 1813年(文化十年)。2024年4月にKAMEYA HOTELとして第一期リブランド開業
- 客室数: 66室
- 湯: 湯野浜温泉 塩化物泉(温まりの湯)
- 食事: 新ダイニング「蓬莱」コース、庄内食材を現代解釈
よくある質問
Q. 鶴岡で食を主目的に泊まる場合、ベストシーズンはいつですか?
A. 鶴岡は一年を通じて旬の食材が入れ替わる土地ですが、編集部が推す時期は卯月から五月にかけての湯田川孟宗の季節、それと冬の寒鱈祭り(一月下旬から二月)の二つです。卯月の孟宗は柔らかさが格別で、地元の宿が朝採りで仕入れる体制が整っています。寒鱈は鶴岡の冬の象徴で、真子・白子・身を一尾分使い切る献立が組まれる宿が多い時期です。秋は刈屋梨、月山きのこ、紅葉鯛が並びます。
Q. 湯田川温泉と湯野浜温泉は、食の方向がどう違いますか?
A. 湯田川温泉は鶴岡市の南郊、山と竹林に囲まれた内陸の湯で、孟宗・山菜・在来野菜・川魚を主軸に据える宿が多く、料理長文化が世代を超えて継承されています。湯野浜温泉は鶴岡市の西、日本海に面した湯で、由良・加茂漁港から届く活魚と岩牡蠣など海の幸が中心です。食の主目的が「土の食材か、海の食材か」で旅程の入り口が決まると考えると分かりやすい構造です。
Q. 予約のタイミングはどの程度を見ておくと安全ですか?
A. 湯田川温泉の小宿(九兵衛旅館、珠玉や、つかさや旅館)は客室数が八〜十三室と少なく、湯田川孟宗の出る卯月から五月、寒鱈の一月下旬から二月、紅葉の十月後半は二〜三ヶ月前から週末の埋まりが顕著になります。湯野浜の中規模宿(亀や、愉海亭みやじま)は同じ繁忙期でも比較的後発の予約に対応できる傾向ですが、夕日の見える季節と週末は早めの確保が安全です。
Q. 子連れでも泊まれますか?
A. 五軒のうち、子連れ運営に最も柔軟なのは亀や(KAMEYA HOTEL)と愉海亭みやじまの湯野浜の二軒です。客室数と館内導線に余裕があり、複数人での宿泊プランも整えられています。湯田川の小宿は客室と廊下が小さく、年配層の利用が多いため、幼児連れでは事前の相談を入れる旅程が向きます。なお、つかさや旅館はペット同伴の客室も用意されており、犬連れの旅にも対応します。
Q. アクセスはどのくらいかかりますか?
A. 庄内空港から鶴岡市街までは車で約25分、JR鶴岡駅から湯田川温泉までバスで約25分・タクシーで約20分、湯野浜温泉まではバス約40分・車で約30分です。東京から鶴岡へは羽田から庄内空港経由が最短で、所要約一時間半。新潟経由の在来線(羽越本線「いなほ」)でも所要五時間程度のアクセスが組めます。
Q. インバウンド客の利用は多いですか?
A. 五軒のうち、英語対応の充実度が比較的高いのは亀や(KAMEYA HOTEL)で、リブランドに伴い多言語の館内案内が整えられています。湯田川の小宿は和の客室と個室食事を主目的とする欧米層の利用が増えており、特に九兵衛旅館は予約サイト経由での海外個人旅行者の比率が上昇傾向です。共通して、食の説明は写真と簡易英語で対応する宿が多く、料理長と直接会話できる小宿の方が文化体験としての満足度が高い傾向があります。
本記事の参考情報
・つるおか観光ナビ — 鶴岡市観光協会公式サイト、食文化創造都市の取り組みや在来作物の紹介
・UNESCO Creative Cities Network — Tsuruoka — ユネスコ食文化創造都市認定(2014年)の背景
・Wikipedia: 湯田川温泉 — 開湯と歴史背景
・Wikipedia: 湯野浜温泉 — 湯野浜の地理と湯質
編集部から
ユネスコが鶴岡を食文化創造都市に認定した2014年の根拠は、在来種の継承、漁港と料理人の近さ、家庭料理から会席まで横断する食文化の厚みでした。本稿で取り上げた五軒は、いずれもこの三つの条件を運営の核に据えています。湯田川温泉の小宿は料理長の個性、湯野浜温泉の海辺の宿は素材の鮮度に軸を置き、亀や(KAMEYA HOTEL)は伝統と現代解釈の橋渡しを試みている、と整理できます。次に鶴岡を訪ねるなら、どの季節の、どの食材を主目的にするか。卯月の孟宗、二月の寒鱈、十月の紅葉鯛、いずれもこの土地でしか組めない旅程の核になります。