小暑の候、上信越国境に連なる湯場が、雪原の記憶をまだ薄く残したまま夏の入口を迎える。本稿は、外湯文化を戸口に置く湯宿を、野沢温泉と赤倉温泉から五軒選んで並べる。野沢の麻釜と大湯、赤倉の大湯、それぞれの共同源泉が里の湯場として今も守られている場所で、内湯を持ちながらも外湯への動線を宿の主人が語れる家を、編集部が選んだ。
| # | 湯宿 | 湯場 | Score | 客室 | 目安価格 | 1行特徴 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 1 | 野沢温泉 旅館 さかや | 下高井郡野沢温泉村 | 93 | 29 | ¥51–¥66k | 慶応期創業、大湯裏に構える野沢十八代の湯宿 |
| 2 | 野沢温泉 朝日屋旅館 | 下高井郡野沢温泉村 | 93 | 26 | ¥27–¥34k | 麻釜からの引湯を守り、外湯十三を徒歩で結ぶ |
| 3 | 赤倉温泉 ホテル太閤 | 妙高市 | 93 | 59 | ¥36–¥36k | 赤倉大湯通り、妙高山の源泉を露天に落とす |
| 4 | 赤倉温泉 香嶽楼 | 妙高市 | 92 | 38 | ¥34–¥43k | 明治十九年開業、100%かけ流しを守り継ぐ老舗 |
| 5 | 野沢温泉 かわもとや | 下高井郡野沢温泉村 | 89 | 23 | ¥24–¥54k | 和洋を静かに折衷した麻釜引湯の小宿 |
※ 目安価格は公開販売価格の集計に基づく参考値で、実際の予約料金とは異なります。1泊2名利用時の1室あたり料金(税込)です。
1. 野沢温泉 旅館 さかや — 下高井郡野沢温泉村
慶応の代替わりから数えて十八代、大湯の湯気が路地に立つ夕暮れに戸を閉ざす宿。
Media Picks Score: 93 / 100 29室、旅館。
目安価格 ¥51,000–¥66,000 / 泊 (2名1室・通常期)

なぜ選ばれるか
大湯の裏、路地一本を隔てた場所に構える。館内には野沢温泉に十三ある外湯の由緒を伝える展示があり、宿の湯と里の湯場の関係を目に見える形で語り継ぐ姿勢が伝わる。庭園から自然湧出する源泉を加水せずに湛える大浴場は、湯口に近づくと硫黄の薫りが立つ。夕方の膳には信州の川魚と山の走りが並び、器はどれも古びた漆で、家の年輪を静かに知らせる。
集約レビューの傾向
数寄屋の棟と昭和期の増築棟が中庭を挟む構えで、宿の内部でも時代の層が見える。集約された評価では、湯の質と館内の落ち着きに触れる声が多く、朝夕の食膳の丁寧さも支持されている。夜、外湯めぐりの下駄音が宿の玄関先を過ぎるのを、板張りの上がり框で受けるところに、里の湯場と宿の間合いが残っている。
向く人 / 向かない人
- 向く: 外湯めぐりを主目的とする夫婦旅・熟年友人連れ、和の家に落ち着ける旅程を組める人、湯上りに膳と酒を静かに嗅ぎ分けたい人
- 向かない: 幼児連れで段差回避が必須の家族、洋室・洋食主体を望む旅、深夜チェックインの旅程
具体情報
- 最寄り駅: JR飯山駅から野沢温泉行きバス約25分「野沢温泉」下車徒歩2分
- 客室: 29室・数寄屋棟と中央棟を中庭で連結
- 外湯至近: 大湯・麻釜まで徒歩数分
- チェックイン: 15:00〜 / チェックアウト 〜10:00
- 食事: 夕食・朝食ともに部屋出しまたは食事処。信州牛・岩魚・野沢菜
- 創業: 慶応期・十八代続く老舗
2. 野沢温泉 朝日屋旅館 — 下高井郡野沢温泉村
麻釜の湯を戸口に引き、朝の外湯へ下駄で通う客を静かに送り出す家。
Media Picks Score: 93 / 100 26室、旅館。
目安価格 ¥27,000–¥34,000 / 泊 (2名1室・通常期)

なぜ選ばれるか
大湯前の広場を出て一本入った場所に構え、麻釜からの引湯を守る湯宿。館内の展望大浴場は北信五岳を望み、外湯めぐりの拠点として使い勝手がよい。宿の湯と里の湯場の間合いを守る主人の口ぶりに、麻釜の分湯を預かる家の落ち着きが残る。夕食は個室での会席仕立てで、信州の食材を一膳ずつ、季節の走りとともに供する構え。
集約レビューの傾向
集約された宿泊評価では、湯量の豊かさと外湯めぐりの動線のよさに触れる声が多く、女将と主人の応対の落ち着きへの評価も高い。展望大浴場からは早朝の湯気立ちのぼる温泉街を見下ろせ、朝食前の外湯散策から戻って身体を温め直す使い方に自然と馴染む。館の中央に炉を切った談話の間があり、湯上りに茶を勧められる作法が残る。
向く人 / 向かない人
- 向く: 外湯めぐりを軸に一泊二日を組む夫婦旅、麻釜の由緒を宿の主人から聞きたい旅、雪見の湯を望む冬旅
- 向かない: 洋室主体・大型温泉施設を望む旅、車椅子で客室まで平坦動線が必須の旅
具体情報
- 最寄り駅: JR飯山駅からバス約25分「野沢温泉」下車徒歩3分
- 客室: 26室・木造和室主体
- 外湯至近: 大湯・麻釜まで徒歩圏、外湯十三のうち多くが徒歩5分圏
- チェックイン: 15:00〜 / チェックアウト 〜10:00
- 食事: 夕食は個室会席、朝食は食事処。信州牛・岩魚・野沢菜
- 湯: 麻釜引湯 源泉かけ流し、展望大浴場と貸切内湯
3. 赤倉温泉 ホテル太閤 — 妙高市
赤倉大湯の裏手に構え、妙高山の源泉を露天から谷へ落とす湯宿。
Media Picks Score: 93 / 100 59室、旅館。
目安価格 ¥36,000 前後 / 泊 (2名1室・通常期)

なぜ選ばれるか
赤倉大湯通りの一本裏、温泉街の中心に構える老舗。政府登録国際観光旅館の指定を受ける規模を持ちながら、源泉かけ流しの内湯と、妙高山を望む展望露天を宿の中心軸に据えている。館内には赤倉温泉の由緒を伝える調度が控えめに置かれ、里の湯場と宿の間合いを保つ姿勢が伝わる。夕食は上越の魚介と妙高高原の山の幸を組み合わせた会席で、季節ごとに献立を替えている。
集約レビューの傾向
集約された宿泊評価では、湯量の豊かさと展望露天の眺望、館内の清潔感と応対の丁寧さに触れる声が多い。赤倉大湯通りの外湯・共同浴場への動線がよく、湯めぐりに宿を拠点にする使い方に自然と馴染む。夜は温泉街の灯りが窓の下に広がり、朝は妙高山の稜線が白く光る時間帯があり、時間の流れを湯船で感じる宿。
向く人 / 向かない人
- 向く: 赤倉大湯を軸に湯めぐりを組みたい夫婦旅、上越の魚介と信越の山の幸を膳で味わいたい人、妙高山の眺望を宿の内に置きたい人
- 向かない: 家族連れで露天の水深を気にする旅、洋食主体の連泊、車椅子で全館平坦動線が必須の旅
具体情報
- 最寄り駅: JR妙高高原駅からタクシー約7分・バス「赤倉温泉」下車徒歩3分
- 客室: 59室・和室主体に一部和洋室
- 外湯至近: 赤倉大湯まで徒歩数分、赤倉温泉源泉近接
- チェックイン: 15:00〜 / チェックアウト 〜10:00
- 食事: 夕食は会席・朝食は食事処。上越の魚介・妙高牛・地野菜
- 湯: 妙高山からの引湯 源泉かけ流し、大浴場と展望露天
4. 赤倉温泉 香嶽楼 — 妙高市
明治十九年、旧道の湯場に開いた家。100%かけ流しの矜持を三代に継ぐ。
Media Picks Score: 92 / 100 38室、旅館。
目安価格 ¥34,000–¥43,000 / 泊 (2名1室・通常期)

なぜ選ばれるか
明治十九年、赤倉温泉が観光の湯場として整い始めた頃に開いた家。妙高山の源泉を100%かけ流しで守り続け、湯の鮮度で選ぶ客を静かに惹きつけてきた。大湯通りに面した表玄関から一歩入ると、明治期の座敷の意匠を保ちながらも、水回りは代替わりのたびに手入れされていることがわかる。夕食は上越の魚と山の幸を軸にした会席で、器も宿の代替わりに合わせて少しずつ替えられてきた。
集約レビューの傾向
集約された宿泊評価では、湯の質のよさと源泉かけ流しへの信頼を挙げる声が最も多く、老舗の応対の落ち着きへの支持も厚い。館内の湯船は数が絞られており、どの浴槽でも湯口から新しい湯が流れ続ける構え。朝の外湯へ下駄で降りる客と、宿の湯で仕上げる客の、それぞれの湯浴みの時間が館内に自然と分かれている。
向く人 / 向かない人
- 向く: 湯の鮮度で宿を選ぶ湯好きの夫婦旅、明治期の意匠を静かに味わいたい旅、赤倉大湯との掛け合わせで湯めぐりを組む旅
- 向かない: 大型温浴施設・サウナ主体の旅、朝夕とも洋食主体を望む旅、大人数の宴会を宿で開きたい旅
具体情報
- 最寄り駅: JR妙高高原駅からタクシー約7分・上信越自動車道 妙高高原ICから車約15分
- 客室: 38室・和室主体
- 外湯至近: 赤倉大湯まで徒歩圏、旧道湯場に立地
- チェックイン: 15:00〜 / チェックアウト 〜10:00
- 食事: 夕食は会席・朝食は食事処。上越の魚・妙高高原の山の幸・地野菜
- 創業: 明治19年 (1886年)、100%源泉かけ流しの宿
5. 野沢温泉 かわもとや — 下高井郡野沢温泉村
古い町並みの一隅に、和洋を折り合わせて建て直された麻釜引湯の宿。
Media Picks Score: 89 / 100 23室、旅館。
目安価格 ¥24,000–¥54,000 / 泊 (2名1室・通常期)

なぜ選ばれるか
古い町並みの一隅に、和と洋を静かに折り合わせて建て直された小宿。麻釜からの引湯を家族風呂として提供し、外湯めぐりの前後に部屋で身支度できる動線を組んでいる。館内には焙煎所を兼ねた朝食の場が置かれ、宿の朝の景色に新しい間合いを差し入れている。夕食は宿では出さず、湯上りに町の食事処へ出るという街との関わり方を選んでいる。
集約レビューの傾向
集約された宿泊評価では、清潔感と設えの静けさ、麻釜引湯の家族風呂への支持が多い。夕食を宿で出さない構えは、外湯めぐりと町の食事処を巡る旅程に合わせて選ばれることが多く、湯場と町の間を歩く旅と親和する。客室にキッチンを備えた棟もあり、長逗留の客が朝の湯上りに珈琲を淹れる時間を持てる。
向く人 / 向かない人
- 向く: 外湯と町の食事処を歩いて渡る夫婦旅、長逗留で野沢の湯を静かに味わいたい旅、和洋の折衷が過ぎない設えを好む人
- 向かない: 宿で夕食を摂りたい旅、大浴場での湯浴みが主目的の旅、宴会や大人数の集まりを望む旅
具体情報
- 最寄り駅: JR飯山駅からバス約25分「野沢温泉」下車徒歩3分
- 客室: 23室・1〜4寝室のスイート型、キッチン付き棟あり
- 外湯至近: 大湯まで徒歩2分、隣接して外湯「熊の手洗湯」
- チェックイン: 15:00〜 / チェックアウト 〜10:00
- 食事: 朝食は1階のカフェにて。夕食は宿では提供せず町の食事処へ
- 湯: 麻釜引湯・家族風呂2、館内小ジム・ランドリー
よくある質問
Q. 外湯めぐりは宿泊客でなくても利用できますか?
A. 野沢温泉の十三の外湯・赤倉温泉の共同浴場「大湯」は、いずれも湯守番が輪番で維持する里の湯場で、地元の家々と旅の客がともに使う構えを取ってきた。掃除料としての心付けを竹筒に納める作法が残る湯もある。宿泊客のみに限る形ではないが、朝と夕の掃除の時間帯は入湯を控える、湯口に近づかない、静かに湯浴みする、という基本の作法は共通する。
Q. 麻釜と大湯の分湯の関係を知るには?
A. 野沢温泉の麻釜は九十度前後の高温源泉で、村の家々が古くから分湯権を継いできた。宿の主人や女将に短く尋ねると、館内の湯口までどの樋を通してきたか、代々の分湯の由緒を教えてくれる家が多い。旅館さかや・朝日屋旅館の館内展示や、村の温泉資料館でも系譜が学べる。
Q. ベストシーズンは?
A. 編集部が推す時期は二つ。ひとつは小暑〜梅雨明けの静けさが残る初夏で、湯気の見え方が澄んで湯浴みの間合いが取りやすい。もうひとつは晩秋から初雪の時期で、外湯へ下駄で通う道が濡れて光り、湯気が谷の風に流れる情景が最も濃く出る。真冬は雪深く、スキー客の動線と重なるため、静けさを求めるなら平日を勧める。
Q. 予約のタイミングは?
A. 野沢温泉は年末年始とスキーシーズン(1〜3月)、赤倉温泉はスキーシーズンと紅葉期(10月中下旬)が最も混む。老舗の湯宿は室数が少なく、上記期間は2〜3ヶ月前から埋まる家が多い。小暑・小春日和の平日は比較的取りやすく、湯場の静けさを味わうならこの時期を狙うとよい。
Q. 子連れでも泊まれますか?
A. 湯場を主目的とした旅館が中心のため、乳幼児連れはやや配慮が要る。段差の多い古い木造建築、大浴場の湯温が高めの家、部屋食対応の可否など、家ごとに事情が異なる。宿に事前に確認するのが確実で、朝日屋旅館・ホテル太閤・かわもとやは家族風呂の設えがあり、比較的合わせやすい構えを持つ。
Q. アクセスは?
A. 野沢温泉は北陸新幹線 飯山駅からバスで約25分、東京から片道約2時間半。赤倉温泉は北陸新幹線 上越妙高駅からバス・在来線経由で妙高高原駅、そこからタクシー・バスで約7〜10分。上信越自動車道 妙高高原ICから車で約15分。両湯場の間は車で約1時間半、公共交通なら飯山駅経由で乗り換えを要する。
本記事の参考情報
・野沢温泉マウンテンリゾート観光局 — 外湯十三の由緒と分湯の作法
・赤倉温泉観光協会 — 赤倉大湯と湯坪の系譜
・Wikipedia: 野沢温泉 — 湯場の地理・歴史の背景
・Wikipedia: 赤倉温泉 (新潟県) — 高田藩湯治場としての由緒
編集部から
五軒に通底するのは、宿の湯と里の湯場を切り離さず、外湯を戸口に置く暮らしの延長として旅の客を迎える姿勢である。麻釜と大湯、それぞれの共同源泉が湯守番の輪番で守られている場所で、宿の主人と女将が語れることには限りがあり、しかしその限りのなかに、村の湯場を継ぐ家の矜持が残っている。次に組むなら、野沢と対を成す信州の湯場 — 渋温泉と山田温泉の外湯文化 — の系譜、または赤倉と隣り合う関温泉・燕温泉の湯宿を、同じ視座で並べたい。