梅雨明けの仙石原は、すすき野の緑が深く、夜の風は思いがけぬほど涼やか。露天風呂付き客室の静かな宿を二夜つなげば、湯と静寂だけで構成された旅程ができる。本稿は二泊三日、一夜目を仙石原の宿に、二夜目を強羅の宿に置き、移動の合間に箱根美術館・彫刻の森・宮ノ下の坂を歩く。客室数、客室露天の源泉と泉質を記し、静けさの輪郭を編集部の言葉でなぞる。

日 宿 エリア 客室 湯の輪郭
Day 1 金乃竹 仙石原 仙石原 91 9 大涌谷源泉の白濁湯、客室露天 9 タイプ
Day 2 強羅花扇 円かの杜 強羅 20 敷地内に源泉 2 本、客室露天と大浴場で湯が異なる
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Day 1. 金乃竹 仙石原 — 仙石原

竹取物語を意匠の柱に据えた、全 9 室の宿。全室に露天風呂が付き、客同士が館内で顔を合わせないよう運営されている。

9 室、全室露天風呂付き。


金乃竹 仙石原 — 箱根町仙石原 · 全 9 室、全室露天風呂付きの宿
PHOTO: 金乃竹 仙石原 — 公式サイトを見る →

なぜこの宿を一夜目に置くか

仙石原は、箱根の中でも最も静けさが空気として残る集落である。標高は約 700 メートル。すすき野は秋に銀色へ変じるが、梅雨明けの頃は柔らかい緑のうねりとなり、夜には一段下がった気温が体に染みる。金乃竹は全 9 室、全室露天風呂付きの宿で、館内で他客と顔を合わせないアテンドが運営の核に据えられている。食事は夕・朝とも部屋でとるため、チェックインからアウトまで、部屋と湯のあいだだけで過ごせる。二泊三日の出発点として、まず一日かけて旅人の輪郭をほぐすに足る構成である。

湯の輪郭

引湯は大涌谷の白濁源泉、酸性−カルシウム−硫酸塩・塩化物温泉。客室は意匠の異なる 9 タイプで、全室に露天風呂が付く。源泉掛け流しで、湯量は客室の浴槽を満たして余りある。酸性の湯は角質をほどき、肌の表面を柔らかくする働きが知られる。仙石原の標高と相まって、湯から上がった直後の体温の落ち方が速く、夏の夜でも湯あたりを感じにくい。初日に長湯しておくと、二夜目の強羅の湯との対比がより鮮明になる。

向く人 / 向かない人

  • 向く:
    夫婦・気の置けない友人二人、結婚記念日や還暦の節目、館内で他客と顔を合わせたくない旅、湯と部屋の往復だけで二日を埋めたい旅
  • 向かない:
    幼児連れ(落ち着いた運営思想に合いにくい)、団体での宴会、夕食を簡単に済ませたい人(コースは長丁場)

具体情報

  • 客室数: 全 9 室(全室露天風呂付き、9 タイプ)

  • 湯: 大涌谷引湯、酸性−カルシウム−硫酸塩・塩化物温泉、源泉掛け流し

  • 最寄り: 箱根登山バス「台ヶ岳」徒歩約 3 分(箱根湯本駅から桃源台行きで約 30 分)

  • 食事: 京懐石の部屋食(夕・朝とも)
  • 運営思想: 館内で他客と動線が交わらないアテンド
  • 姉妹宿: 塔ノ澤・湯本などに同系列の宿あり(金乃竹リゾート)


中継ぎ — 仙石原から強羅へ

二日目の朝、金乃竹を出たら、車で南東へ約 15 分。標高を 700 メートルから 550 メートルへゆるやかに下げると、強羅の街が現れる。途中、箱根ガラスの森美術館やポーラ美術館の脇を抜けるが、ここは雨の日なら立ち寄り、晴れていれば素通りでも惜しくない。強羅に入る前、宮ノ下の坂を歩くのが編集部の薦めだ。富士屋ホテル本館の前から下り、奈良屋方面の路地を回ると、明治末から昭和初期の温泉地の輪郭が短い時間で掴める。昼は強羅駅前の蕎麦か、強羅花壇近くの軽い和食で済ませ、午後早めに二夜目の宿へ入る。湯の地が変わるという感覚を、午後の長い時間に浸ってもらうためである。

Day 2. 強羅花扇 円かの杜 — 強羅

敷地内に源泉 2 本を持ち、客室露天と大浴場で湯質が異なる、全 20 室の宿。客室は回廊に沿って配され、館内の割烹「むげん」で京会席を出す。

20 室、全室源泉露天風呂付き。


強羅花扇 円かの杜 — 箱根町強羅 · 全 20 室、敷地内に源泉 2 本を持つ宿
PHOTO: 強羅花扇 円かの杜 — 公式サイトを見る →

なぜこの宿を二夜目に置くか

強羅という土地は、箱根登山鉄道の終点であり、彫刻の森・箱根美術館・公園など、文化的な点が密に並ぶ。円かの杜は、その強羅の高台側に位置し、敷地に源泉 2 本を抱える。回廊に沿って配された全 20 室、京会席を出す館内の割烹、そして大浴場と客室露天で湯の質が違うという構造。仙石原の白濁湯から、強羅の透明な湯へ。地が変わると湯も変わるという旅の感覚を、二夜目に置くことで読者に味わってもらいたい。チェックインからアウトまでに時間が短くなる二夜目こそ、湯の質の差を体に刻む配置である。

湯と料理の輪郭

敷地内の源泉は、ナトリウム塩化物泉系のひとつと別系統の二本。客室露天はそれぞれの源泉を引き、大浴場は客室とは別の湯を満たす。同じ宿の中で湯巡りができるという構造は、強羅の旅館でも珍しい。岩盤浴も付帯し、湯の温度差を体に通したい人には合う。料理は館内唯一の割烹「むげん」で供する京会席で、水素調理を取り入れたおまかせの構成。素材は滋賀・草津の熟成肉、岐阜・高山の野菜、鳴門や青森の魚介など、全国の生産者から季節で取り寄せる。料理目的で訪れる読者にも、湯を主軸に訪れる読者にも、二つの軸が並んでいる。

向く人 / 向かない人

  • 向く:
    京懐石を箱根で受けたい人、湯巡りを宿内で完結させたい人、強羅駅周辺の文化点(彫刻の森・美術館)を歩いて回りたい旅
  • 向かない:
    乳幼児連れ(落ち着いた静寂を保つ造り)、料理にこだわらず素泊まりを希望する人、湯本・芦ノ湖側へ動きたい旅程

具体情報

  • 客室数: 全 20 室(全室源泉掛け流しの露天風呂付き)
  • 湯: 敷地内源泉 2 本、客室露天と大浴場で湯が異なる、岩盤浴あり
  • 料理: 京会席(割烹「むげん」・個室・一部客室で部屋食)、全国の生産者から季節の食材

  • 最寄り: 箱根登山鉄道「強羅駅」より送迎あり(到着時に電話、高台側)
  • 姉妹宿: 強羅花扇(本館)が同系列


Day 3 — 強羅から下る

朝風呂のあと、円かの杜を出たら、強羅駅から箱根登山鉄道で下る。途中、彫刻の森駅で降りて屋外彫刻の点在する敷地を二時間ほど。再び鉄道で宮ノ下駅まで進み、富士屋ホテルのラウンジで遅い茶を取る選択肢もある。湯本まで下りれば、土産物の通りで箱根寄木細工を一つ手に取り、ロマンスカーで都心へ戻る。二泊三日の終わり方として、強羅から段階的に標高を下げる動線は体に優しい。湯あたりや温度差の疲れを感じやすい人ほど、最終日は急がず、駅と駅のあいだを長く取るのがよい。

よくある質問

Q. 二泊とも同じ宿に泊まる選択と、本稿のように一泊ずつ移る選択、どちらが向きますか?

A. 湯と地の対比を味わいたい旅人には、本稿の二泊二宿が向く。仙石原と強羅は標高差約 150 メートル、湯の組成も白濁系と透明系で大きく異なる。一方、移動の負荷を避け、料理や湯の細部を二夜かけて深く味わいたい場合は、同じ宿に二泊する選択も理に適う。荷物の移し替え、二回のチェックイン・アウト、これらが許容できるかが判断軸となる。

Q. 梅雨明けから盛夏は混雑しますか?

A. 箱根の繁忙期は秋の紅葉期と年末年始であり、梅雨明け直後から盛夏は、避暑目的の固定客層を除けば比較的予約が取りやすい時期に入る。標高 700 メートル前後の仙石原は夜間 20℃ を下回ることがあり、東京の蒸し暑さとは別世界。料金面でも秋の紅葉期に比べて緩むため、本稿の二泊行程は 7〜8 月が最も組み立てやすい。

Q. 子連れでも泊まれますか?

A. 両宿とも、運営の核に静寂を据えているため、乳幼児連れには合いにくい。小学校高学年以上であれば、客室露天と部屋食・個室の食事スタイルを楽しむことはできる。家族連れで箱根の離れに泊まる旅程を組むなら、別途、家族向けの全室露天宿を選ぶ方が、両者にとって心地よい。

Q. アクセスは?

A. 新宿から小田急ロマンスカーで箱根湯本まで約 85 分。湯本から箱根登山鉄道で強羅駅まで約 40 分。金乃竹 仙石原へは箱根湯本駅から桃源台行きバスで約 30 分(台ヶ岳下車、徒歩約 3 分)。車の場合は東名高速・御殿場 IC が最寄りで、仙石原を経て強羅へ下る。二泊三日の場合、初日に仙石原まで一気に上がり、二日目に強羅へ下る流れが体に優しい。

Q. 雨の日はどう過ごせますか?

A. 強羅・仙石原のあいだには、ポーラ美術館・箱根ガラスの森美術館・箱根美術館・彫刻の森美術館が密集している。雨の日は美術館を中継ぎに据え、移動は車かタクシーを軸にすれば、屋内動線で組める。金乃竹は全室の客室露天、円かの杜は客室露天に大浴場と岩盤浴が加わり、雨でも宿内で湯の時間を十分に取れる。

本記事の参考情報

・箱根町観光協会 — 箱根の温泉郷・美術館・登山鉄道の公式情報
・Wikipedia: 仙石原 — 仙石原の地理・標高・すすき野の背景
・Wikipedia: 強羅 — 強羅温泉の地理・登山鉄道との関係

編集部から

箱根は、湯本・宮ノ下・強羅・小涌谷・仙石原・芦ノ湖・湯坂と、地の単位で性格が異なる温泉地が並ぶ稀な集合である。本稿はそのなかで、湯の性格が対照的なふたつの地、仙石原と強羅をつないだ。湯と建物に主役を譲り、移動の合間は美術館と坂歩きで埋める。一泊で完結させない旅程は、湯の対比を体に通す装置として働く。次は強羅から芦ノ湖へ抜けて二泊する行程、あるいは湯本の老舗を起点に塔之沢・宮ノ下を回る行程を書きたい。箱根は何度書いても新しい題が出る土地である。