栗駒国定公園のなかに、源泉をそのまま湯船に落とす湯宿が点在しています。本稿では岩手・宮城・秋田の三県にまたがるこの公園から、夏油(げとう)・須川・鬼首(おにこうべ)という三つの湯場に灯る五軒を選びました。いずれも自家の源泉を引き、加水も加温もほとんど加えない宿です。うち三軒は雪に閉ざされる冬を休み、一年の半分ほどしか灯りをともしません。処暑を過ぎ、山の空気が朝夕に締まりはじめる晩夏から初秋は、その短い季節がもっとも深まるころ。湯治という古い作法が、いまも生きている山の湯を訪ねます。
| # | 宿 | 湯場 | Score | 客室 | 目安価格 | 1行特徴 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 1 | 栗駒山荘 | 秋田・東成瀬村 | 92 | 24 | ¥46–¥55k | 標高1,126mで自噴する毎分6,000ℓ。鳥海山を正面に望む展望露天 |
| 2 | 須川高原温泉 | 岩手・一関市 | 91 | 36 | ¥29–¥37k | pH2.2の強酸性泉を四つの湯で。蒸気を浴びる「おいらん風呂」も |
| 3 | 元湯夏油 | 岩手・北上市 | 90 | 70 | ¥18–¥35k | 七つの湯すべて掛け流し。露天は湯船の底から湧く足元自噴泉 |
| 4 | 大新館 | 宮城・大崎市 | 80 | 14 | — | 大正七年創業。公式が「鬼首唯一」と掲げる男女別の庭園露天 |
| 5 | 夏油温泉観光ホテル | 岩手・北上市 | 79 | 15 | — | 2025年秋に一年半ぶり再開。食事を出さない自炊湯治の宿 |
※ 目安価格は公開販売価格の集計に基づく参考値で、実際の予約料金とは異なります。1泊2名利用時の1室あたり料金(税込)です。集計期間に紅葉期を含むため、晩夏の平日はこれより下回る日があります。大新館と夏油温泉観光ホテルは公開販売データが少なく、範囲を示すに足りないため掲載していません。
1. 栗駒山荘 — 秋田・東成瀬村(須川温泉)
標高千百二十六メートルで自噴する毎分六千リットルの湯を、鳥海山に正対する展望露天で受ける一軒。
Media Picks Score: 92 / 100 24室、秋田・岩手県境に建つ高原の湯宿。
目安価格 ¥46,000–¥55,000 / 泊(2名1室・夏〜秋)

なぜ選ばれるか
湯が、まず桁違いです。公式サイトによれば源泉は日本でも稀な強酸性の明礬緑礬(みょうばんりょくばん)泉で、pH二・一、源泉温度四九・五度。標高千百二十六メートルの高地で単独源泉から自噴する湧出量は毎分六千リットルに達し、古い言い伝えでは国内第二位とされてきました。湯は源泉から溢れ、湯の川となって流れていきます。二つ目は眺望で、標高およそ千百メートルに架かる展望大浴場からは、左手に秣岳(まぐさだけ)、右手にブナ原生林の野鳥の森、眼下にイワカガミ湿原、そして正面中央に出羽富士と呼ばれる鳥海山が並びます。三つ目は、その規模に対して二十四室という抑えた客室数。湯と眺めに人が集中しない造りです。
集約レビューの傾向
公開レビューデータを集計すると、評価は露天からの眺望と湯の力に強く集まります。稜線と湿原を見晴らす開放感、そして酸性泉特有の湯ざわりを挙げる声が厚く、夜の星空に触れる評もめだちます。一方で、山上という立地ゆえの制約に戸惑いが残る傾向も読み取れます。冬季は完全に閉ざされること、天候によって道路規制がかかること、そして宿がみずから案内しているとおり客室のすべてがインターネット予約に開かれていないこと。設備の便を数える物差しよりも、湯と景色を目的に据えた人の評価が高く出る宿だと言えます。
向く人 / 向かない人
- 向く: 鳥海山や稜線の眺めを湯から望みたい夫婦旅、強酸性泉を目的に据える湯めぐり、栗駒山の須川コースを歩く前後の一泊
- 向かない: 冬に訪ねたい旅程(十月末から四月下旬は休業)、公共交通のみで動く旅(路線バスは夏季のみ運行)、酸性泉が肌に障る人
具体情報
- 所在地: 秋田県雄勝郡東成瀬村椿川字仁郷山国有林(標高約1,126m)
- 源泉: 仙人温泉(源泉名:須川温泉)/ pH2.1 強酸性の明礬緑礬泉 / 源泉温度49.5℃
- 湧出量: 毎分6,000ℓ(単独源泉から自噴)
- 客室数: 24室
- 営業期間: 概ね4月下旬〜10月末(冬季休業)。シーズン中の休館日なし
- 日帰り入浴: 10:00〜16:00(大広間休憩は10:00〜15:30)
- 路線バス: 2026年は6月13日〜10月31日の運行予定
- 設備: 全館冷房、Starlink によるWi-Fi、客室に46ℓ冷蔵庫
- 温泉分析: 2022年8月24日 再分析
2. 須川高原温泉 — 岩手・一関市(須川温泉)
平安前期から千百年を数える栗駒山北麓の湯治場に、蒸し風呂を含む四つの湯を継ぐ一軒。
Media Picks Score: 91 / 100 36室、日本秘湯を守る会に名を連ねる高原の湯治宿。
目安価格 ¥29,000–¥37,000 / 泊(2名1室・夏〜秋)

なぜ選ばれるか
湯の履歴が、深い。公式サイトはこの湯を、平安時代前期の昔から湯治場として知られ、千百年以上にわたってみちのくの秘湯として愛されてきた湯と記します。東北大学医学部の四医局が五十年にわたり温泉治療を行ってきた「薬泉」でもあります。源泉は摂氏四八度から五二度、pH二・二の強酸性で、湧出量は毎分六千リットル。ドラム缶に換算しておよそ三十本という量が、標高千百二十六メートルの高山から湧き続けています。そして何より、湯の使い分けが豊かです。三十人から五十人が入る大露天風呂「大日湯」、二十四時間開く大浴場「須川の湯」、自炊棟の中浴場「霊泉の湯」、そして宿の裏手を百メートルほど登った木造の小屋で蒸気に身をゆだねる「おいらん風呂」。湯を浴びるだけでなく、蒸気を浴びる作法までが一軒のなかに残されています。
集約レビューの傾向
公開レビューデータを集計すると、支持はまず湯量と湯の個性に向かいます。強酸性の湯ざわり、大日岩を正面に据えた露天の景、そして蒸し風呂という珍しい体験への評が厚く積まれています。他方で、標高と規模から来る宿の質実な性格には、評価が分かれる傾向が読み取れます。旅館部と自炊部を併せ持つ構成(自炊部は雪害のため当面休止中)、山上ゆえの気温差、そして湯の強さそのもの。快適さの整った宿を想定して訪ねると印象が変わる一方、湯治の場として捉える人からは高い評点が返る——そうした二層の傾向が、集計からは見て取れます。
向く人 / 向かない人
- 向く: 湯治の作法や蒸し風呂に関心のある人、栗駒山の登山・トレッキングと湯を組み合わせたい旅程、強い泉質を求める湯めぐり
- 向かない: 冬に訪ねたい旅程(概ね5月上旬〜11月上旬の営業)、肌が過敏な人や高齢者の乾燥肌(公式が強酸性泉の禁忌として挙げています)、設備の新しさを重んじる滞在
具体情報
- 所在地: 岩手県一関市厳美町字祭畤山国有林46(栗駒山中腹・標高約1,126m)
- 源泉: 源泉名 須川温泉 / 泉温48〜52℃ / pH2.2 強酸性
- 湧出量: 毎分6,000ℓ(ドラム缶換算で約30本)
- 客室数: 36室
- 四つの湯: 大露天風呂「大日湯」6:00〜21:00 / 大浴場「須川の湯」24時間(清掃8:00〜9:00を除く)/ 中浴場「霊泉の湯」/ 天然蒸気ふかし湯「おいらん風呂」概ね6:00〜16:00
- 営業期間: 概ね5月上旬〜11月上旬(例年11月上旬から5月上旬は国道の冬季通行止めにより休業)
- 登山道: 栗駒山「須川コース」が2026年7月18日に7年ぶり全線開通
- その他: 緑礬泉が見られるのは露天の女湯のみ。大日湯は木塀で男女に分かれます
3. 元湯夏油 — 岩手・北上市(夏油温泉)
露天のすべてが湯船の底から湧く足元自噴泉。七つの湯を渓に沿って巡る、半年だけ灯る湯治宿。
Media Picks Score: 90 / 100 旅館部70室・自炊部40室、日本秘湯を守る会の一軒。
目安価格 ¥18,000–¥35,000 / 泊(2名1室・夏〜秋)

なぜ選ばれるか
湯船そのものが、源泉です。公式サイトは「全ての露天風呂は温泉が発見されて以来、湯船そのものが源泉であり湯船の底、もしくは脇からこんこんと湧き出ています」と記し、一切手を加えていないと明言しています。空気に触れていない生まれたての湯に浸かる「足元自噴泉」は日本でも数十か所に限られる、と宿はいいます。湯は大湯・疝気の湯・真湯・女(め)の湯・滝の湯の五つの露天と、白猿の湯・小天狗の湯の二つの内風呂を合わせて七つ。すべて百パーセントの源泉掛け流しです。湯温は人が均さないため季節に委ねられ、およそ四十度から四十二度、大湯だけは時季によって四十七度から四十八度に達します。熱ければ入らない、ぬるければ長く浸かる——湯に人が合わせる宿です。
集約レビューの傾向
公開レビューデータを集計すると、湯の鮮度と渓に沿う湯場の景観に評価が集中します。湧きたての湯に身を沈める感覚、七つの湯を渡り歩く時間、そして山深い環境そのものへの支持が厚く積まれています。一方で、宿の設えについては明確に評が割れる傾向が読み取れます。客室に風呂と手洗いがなく共同であること、携帯電話が圏外であること、旅館部と自炊部で作法が異なること。快適さを求めて訪ねると戸惑いが残り、湯治の宿として訪ねると評点が高く出る——その分岐が、集計にはっきりと表れています。
向く人 / 向かない人
- 向く: 足元自噴泉を目的に据える湯めぐり、自炊湯治を試してみたい人、通信を断って湯と身体に向き合いたい滞在
- 向かない: 客室に風呂と手洗いを求める旅、連絡が取れないと困る旅程(携帯は圏外です)、冬に訪ねたい旅程(豪雪のため休館)
具体情報
- 所在地: 岩手県北上市和賀町岩崎新田1-22(駒ヶ岳の西麓)
- 客室数: 旅館部70室(本館・別館・嶽館・駒形館)/ 自炊部40室(紅葉館・薬師館・夏油館・経塚館)
- 湯: 露天5・内風呂2の計7湯。すべて100%源泉掛け流し、露天は足元自噴泉
- チェックイン: 15:00〜 / アウト 〜10:00。休館日は火曜日
- 料金: 1泊2食ベーシック14,300〜15,400円、スペシャル17,600〜18,700円、素泊7,700〜8,800円(入湯税150円別途)
- 自炊部: 室料 夏油館3,300円 / 経塚館2,860円。寝具は有料貸出、食器は無料貸出
- 通信: 携帯電話は圏外。電話線がなく宿は衛星電話を使用
- 近隣: 国の特別天然記念物の石灰華ドーム「天狗の岩」(夏油温泉駐車場から片道徒歩約30分・階段が多い)
4. 大新館 — 宮城・大崎市(鬼首温泉・宮沢)
大正七年創業、洞窟から湧く自家源泉を庭園露天に落とす、公式が「鬼首唯一」と掲げる男女別露天の宿。
Media Picks Score: 80 / 100 14室、旧館と新館を継ぐ大正創業の小さな湯宿。
目安価格 — 公開販売データが少なく、範囲を示すに足りません(公式サイトに宿泊料金の記載があります)

なぜ選ばれるか
建物が、そのまま時代を語ります。創業は大正七年。公式サイトは画家の谷内六郎、作曲家の中山晋平がこの宿に滞在したことを記し、館内には谷内六郎の直筆が残されています。湯は洞窟から湧き出す自家源泉で、泉質は弱アルカリ性単純温泉、pH七・七。宿はこの湯を、どの浴槽もすべて源泉かけ流しとし、源泉温度が高いために気温と天候を見ながら湯船へ少しずつ注いでいると説明しています。人の手が加わるのは湯量の匙加減だけ、という姿勢です。そして三つ目に、公式サイトが「鬼首唯一 男女別露天風呂のあるお宿」と掲げるとおり、庭園に開いた男女別の露天と貸切の檜風呂を備えます。十四室という規模で、湯を分け合う相手が少ないことも、この宿の価値のうちに数えられます。
集約レビューの傾向
公開レビューデータを集計すると、まず件数そのものが少なく、この宿がインターネット上の流通に多くを委ねていないことが見て取れます。そのうえで内容を読むと、評価は建物の風情と庭園露天の静けさ、そして小規模ゆえの落ち着きに集まる傾向があります。逆に、客室にバスと手洗いがないこと、客室がすべて二階にあって昇降機がないことなど、大正期の造りに由来する制約への言及も見られます。数字の厚みで語る宿ではなく、建物と湯の性格を承知したうえで訪ねる宿だと言えます。なお本欄の評点は公開レビューの件数が少ないため、他の四軒と同じ精度では比較できない点を申し添えます。
向く人 / 向かない人
- 向く: 大正期の木造建築と庭園露天を目当てにした夫婦旅、静けさを優先する二人旅、鬼首の地獄谷やかんけつ泉と組み合わせる旅程
- 向かない: 客室に風呂と手洗いを求める旅、階段の上り下りが難しい人(全客室が2階・昇降機なし)、日帰り入浴だけの立ち寄り(受け付けていません)
具体情報
- 所在地: 宮城県大崎市鳴子温泉鬼首字宮沢22
- 創業: 大正7年(1918年)
- 源泉: 洞窟から自噴する自家源泉 / 弱アルカリ性単純温泉 pH7.7 / 全浴槽 源泉かけ流し
- 客室数: 14室(旧館・新館。全客室が2階、昇降機なし、バス・トイレ付客室なし)
- 浴場: 男女別の庭園露天風呂、内湯、貸切檜風呂
- アクセス: JR陸羽東線 鳴子温泉駅から大崎市営バス鬼首線「宮沢温泉」下車 徒歩1分 / 古川ICから車で約1時間
- 道路: 県道171号線は4月15日〜11月15日が一方通行。宿の出発時は左折となります
- 夏季休業: 2026年8月13日〜16日
- 支払い: 2026年3月31日でクレジットカード決済を終了。周辺に金融機関が少なく現金の用意が必要
- 日帰り入浴: 受け付けていません
5. 夏油温泉観光ホテル — 岩手・北上市(夏油温泉)
一年半の休業を経て2025年秋に灯をともし直した、食事を出さない自炊湯治の宿。
Media Picks Score: 79 / 100 15室、一年の半分だけ開く夏油温泉のもう一軒。
目安価格 — 再開後の公開販売データが乏しく、範囲を示すに足りません(公式サイトによれば素泊8,800円〜11,000円・税込)

なぜ選ばれるか
この宿が今年の一覧に入る理由は、湯よりもまず、継承にあります。従業員の高齢化により二〇二四年四月から休業していたこの宿は、二〇二五年一月に設立されたGETO Village株式会社が経営を引き継ぎ、同年十月、一年半ぶりに灯をともし直しました。公式サイトはみずからを「源泉かけ流しの湯治宿」と名乗り、一年のうち半年しか開業しない秘湯の宿であること、趣のある内湯を備えることを掲げています。食事の提供はありません。自炊用の簡易キッチンに冷蔵庫、電子レンジ、IH、炊飯器、基本の調味料が備えられ、客は地元の産直で求めた野菜を持ち込んで自ら煮炊きする——湯治宿の作法をそのまま運営の骨格に据えた宿です。二〇二六年からは日替わりの担い手が不定期に開く「夏油スナック」も加わりました。
集約レビューの傾向
公開レビューデータを集計すると、湯そのものと山深い立地への評価は安定して高く出ます。ただしここには一つ、読み手に断っておくべき事情があります。集計に含まれる評は大半が二〇二四年の休業より前、すなわち前の運営体制のもとで書かれたものであり、現在の宿の姿を映しているとは限りません。再開後の宿は、食事を出さない自炊湯治へと運営の軸を明確に移しています。したがって本欄の評点は、湯と立地という変わらない要素の裏づけとしては有効である一方、いまのもてなしを測る数字としては慎重に扱う必要があります。
向く人 / 向かない人
- 向く: 自炊湯治を実際に試したい人、連泊で山にこもりたい滞在、費用を抑えて秘湯に長く身を置きたい旅
- 向かない: 食事の用意された宿を求める旅(食事の提供はありません)、浴衣や送迎を前提とする滞在、au以外の携帯で常時連絡を取りたい旅程
具体情報
- 所在地: 岩手県北上市和賀町岩崎新田8-7(白猿橋を渡った左側)
- 客室数: 15室(東館9室・本館6室。別館・自炊館は休館中)
- 運営: GETO Village株式会社(2025年1月設立)。2025年10月に1年半ぶり営業再開
- 食事: 提供なし。自炊用の簡易キッチンに調理器具と基本の調味料を用意
- チェックイン: 15:00〜18:00 / アウト 〜10:00
- 入浴時間: 15:00〜22:30、5:30〜9:00
- 料金: 素泊8,800円〜11,000円(税込・曜日により変動)、入湯税75円別途。支払いは現金またはPayPay
- 通信: 2026年6月からStarlink によるWi-Fiを設置。au以外の電波は入りにくい
- 備品: タオル・バスタオル・歯ブラシは備付。浴衣はありません
- 送迎: なし。山道のため日没前の到着が案内されています
よくある質問
Q. 訪ねるのに適した時期はいつですか?
A. 五軒のうち三軒(栗駒山荘・須川高原温泉・元湯夏油)は冬季休業のため、選べる時期がそもそも限られます。栗駒山荘は概ね四月下旬から十月末、須川高原温泉は概ね五月上旬から十一月上旬、元湯夏油も豪雪期は休館します。処暑から白露にかけての晩夏は、高原の朝夕が締まりはじめ、紅葉期の混雑にはまだ早い時期。編集部が静けさの面で推すのはこのころです。九月下旬から十月にかけては紅葉で価格も人出も上がります。
Q. 予約はどのように取ればよいですか?
A. この五軒は、いずれもインターネット上の流通に多くを委ねていません。栗駒山荘は公式サイトで「全室ネット予約は出来ません」と案内し、満室表示でも空室がある場合は電話での問い合わせを求めています。大新館は冬季を電話のみの受付とし、二〇二六年三月末でクレジットカード決済を終了しました。とどろき旅館など鬼首の小規模宿も電話受付が基本です。紅葉期を狙うなら数か月前から、電話での確認を含めて動くのが確実です。
Q. 子ども連れでも泊まれますか?
A. 泊まることはできますが、宿によって条件が異なります。元湯夏油は幼児(三歳から小学生未満)の宿泊代を設定し、小人膳のコースも用意しています。ただし客室に風呂と手洗いがなく、携帯電話も圏外です。須川高原温泉と栗駒山荘の湯は強酸性で、公式サイトは皮膚の過敏な人を禁忌に挙げています。夏油温泉観光ホテルは食事の提供がなく自炊が前提です。湯治の作法に沿った宿が中心のため、小さな子ども連れであれば大新館のように食事の出る宿を選ぶほうが無理がありません。
Q. 公共交通機関で行けますか?
A. 行ける宿と、車が前提の宿に分かれます。大新館はJR陸羽東線・鳴子温泉駅から大崎市営バス鬼首線に乗り換え、「宮沢温泉」下車で徒歩一分。栗駒山荘は路線バスが夏季のみの運行で、二〇二六年は六月十三日から十月三十一日の予定。夏油温泉観光ホテルは送迎を行っておらず、公式サイトは山道であることから日没前の到着とタクシー利用を案内しています。瀬美温泉のように北上駅から無料送迎バスを出す宿も、周辺にはあります。
Q. 五軒はどのような位置関係にありますか?
A. いずれも栗駒国定公園の内側にありますが、湯場は三つに分かれます。須川温泉には栗駒山荘と須川高原温泉が県境をまたいで並び、その距離は三百メートルほど。同じ源泉地帯の湯を、秋田県と岩手県の二軒が分かち合っています。夏油温泉は須川からおよそ三十キロ北、駒ヶ岳の西麓にあり、元湯夏油と夏油温泉観光ホテルの二軒だけが建ちます。鬼首温泉は須川の南西、鬼首カルデラの高原に位置し、大新館はその宮沢地区の一軒です。三つの湯場を一度に巡るなら、車で二泊三日以上を見ておくのが妥当です。
Q. 湯の強さはどれくらい違いますか?
A. かなり違います。須川温泉の二軒は公式サイトの表記でpH二・一から二・二の強酸性で、鉄と硫黄を含みます。対して大新館は弱アルカリ性単純温泉のpH七・七、とどろき旅館は弱アルカリ性の純食塩泉です。元湯夏油は含芒硝ホウ酸石膏食塩泉に分類され、湯口ごとに性格が異なります。同じ公園内でありながら、強酸性から中性寄りまでが揃うのがこの一帯の特徴。肌の弱い人は、まず弱アルカリ性の鬼首側から入るという順序も選べます。
本記事の参考情報
・北上市 — 夏油高原温泉郷 — 夏油温泉ほか温泉郷の概況
・いちのせき観光NAVI — 須川高原温泉 — 一関市公式観光サイトによる須川温泉の案内
・鳴子温泉郷観光協会 — 鬼首温泉の宿泊施設 — 鬼首の各宿の泉質・客室数
・岩手県 — 栗駒山の登山道情報 — 須川コースなど登山道の最新状況
・Wikipedia: 栗駒国定公園 — 公園の範囲と地形の背景
編集部から
五軒に通じているのは、湯を運ばないという一点です。引き湯をせず、加水も加温もほとんど加えず、湧いた場所のすぐ上に湯船を置く。その結果として湯温は季節に揺れ、冬には道が閉ざされ、営業は一年の半分に縮みます。不便の多くは、湯をそのまま使うことの代償として生じています。栗駒国定公園という一つの枠のなかに、pH二・一の強酸性から弱アルカリ性の単純泉まで、これだけ性格の異なる湯が並んでいるのは、この山塊が抱える火山地形の厚みゆえでしょう。処暑を過ぎ、朝の空気が澄みはじめるこれからの一月半は、その短い季節がもっとも深いところに届く時期。次はどの湯場から歩きはじめましょうか。
次に読むなら
・北八ヶ岳の裾、唐沢鉱泉と奥蓼科に山の湯治を継ぐ湯宿四軒 — 標高千五百の炭酸泉と鉱泉宿
・登別カルルスと二股、北海道の湯治場を継ぐ湯宿五軒 — 蝦夷の山あいに薬湯を守る里
・松之山と越後田中、越後妻有の薬湯に湯治宿を継ぐ湯宿五軒 — 十日町丘陵に湧く高濃度食塩泉
・蔵王東麓と遠刈田、宮城側の渓に湧く客室露天五軒 — 不忘山を望む盛夏の朝湯