夏至を過ぎて梅雨の合間に入る飛騨は、宮川の谷に朝霧が落ち、市の棚には宿儺南瓜と夏野菜が並びはじめる季節である。標高五百メートル前後の高原で育つ飛騨牛のA5格付、里芋、川魚、そして在来種の宿儺南瓜を主軸に据え、料理長の経歴と素材の産地まで丁寧に語れる宿——内陸高原の食卓を主目的にする旅人のため、高山と古川から五軒を選んだ。
| # | 宿 | エリア | Score | 客室 | 目安価格 | 食卓の軸 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 1 | 八ツ三館 | 飛騨市古川町 | 94 | 21 | ¥80–¥111k | 飛騨牛・宿儺南瓜・宮川の川魚を料亭式の個室で |
| 2 | 隠庵ひだ路 | 高山市奥飛騨福地温泉 | 93 | 12 | ¥90–¥101k | 囲炉裏端で焼く飛騨牛と山菜、福地の朝市から仕入れる山の幸 |
| 3 | 飛騨亭 花扇 | 高山市 | 93 | 48 | ¥92–¥132k | 京風懐石で組み立てる飛騨牛会席、飛騨米「龍の瞳」 |
| 4 | 元湯 孫九郎 | 高山市奥飛騨福地温泉 | 92 | 24 | ¥56–¥64k | 源泉四本毎分六百ℓ、囲炉裏会席に飛騨牛朴葉焼き |
| 5 | 本陣平野屋 花兆庵 | 高山市本町 | 91 | 26 | ¥109–¥145k | 町並み徒歩一分の立地、夕食は飛騨牛しゃぶしゃぶ・会席選択 |
※ 目安価格は公開販売価格の集計に基づく参考値で、実際の予約料金とは異なります。1泊2名利用時の1室あたり料金(税込)です。
1. 八ツ三館 — 飛騨市古川町
明治三十八年築の招月楼が国の登録有形文化財。古川の料亭旅館として、夏の食卓を編集部が真っ先に推す一軒。
Media Picks Score: 94 / 100 18室、料亭旅館。
目安価格 ¥80,000–¥111,000 / 泊 (2名1室・通常期)

なぜ選ばれるか
創業は江戸末期、現在の建物は明治三十八年(1905)築の招月楼が国の登録有形文化財に指定されている。木造三階建ての座敷は古川の祭礼文化を伝える数寄屋造りで、宿儺南瓜・里芋・宮川の鮎・飛騨牛を、夕朝食ともに個室の御食事処で供する。料理は当代の料理長が献立を組み、地元生産者から仕入れる素材の産地を品書きに明記している。
集約レビューの傾向
公開レビューデータを集計すると、料理と接客の評価が突出して高い宿である。とくに季節の素材を主役にした献立、囲炉裏のある観月楼と露天風呂付きスイートの光月楼を選んだ宿泊者からは、建物の意匠と食卓の連続性に対する評価が集中している。古川駅から徒歩圏という立地に対しては、街歩きと宿の静けさの両立が支持されている。
向く人 / 向かない人
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向く:
文化財建築のなかで食事をしたい夫婦旅、料亭の品書きをじっくり読みたい食通、古川の祭礼文化に関心のある旅人 -
向かない:
ビュッフェ形式や量を重視する食事観の旅程、幼児連れで個室の正座が難しい家族、車中心で大駐車場を求める旅
具体情報
- 最寄り駅: JR高山本線 飛騨古川駅から徒歩約6分
- 客室数: 18室(招月楼・観月楼・光月楼の三棟構成)
- 食事: 夕朝食ともに個室の御食事処、飛騨牛・宿儺南瓜・宮川の川魚を季節で構成
- 建物: 明治38年(1905年)築の招月楼が国登録有形文化財
- 創業: 江戸末期
2. 隠庵ひだ路 — 高山市奥飛騨温泉郷福地温泉
全十二室が客室露天と檜内湯を備え、囲炉裏端で焼く山の幸を主軸とした、福地温泉の隠れ家。
Media Picks Score: 93 / 100 12室、客室露天旅館。
目安価格 ¥90,000–¥101,000 / 泊 (2名1室・通常期)

なぜ選ばれるか
奥飛騨温泉郷の最奥、福地温泉に十二室だけの宿。全室が岩造りの客室露天と檜造りの内湯を備え、夕食は囲炉裏端で山の幸を炭火で焼く田舎料理である。福地温泉の朝市から山菜や野菜を仕入れ、飛騨牛は奥飛騨の指定農場から。建物は数寄屋風の木造、苔と石の中庭、行灯の光——食事と湯と建築が一体で組まれている。
集約レビューの傾向
公開レビューデータを集計すると、客室露天と田舎料理の組み合わせに対する評価が突出して高い。とくに囲炉裏で焼く飛騨牛朴葉焼き、岩魚の塩焼き、夏の宿儺南瓜の煮物、山菜の天ぷらに言及する宿泊者が多い。十二室という小規模ゆえの静けさと、食事処までの導線の演出にも評価が集まっている。
向く人 / 向かない人
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向く:
静けさを最優先にする夫婦旅、囲炉裏料理を体験したい食通、客室露天で湯を独占したい大人二人旅 -
向かない:
子連れ家族(中学生以下不可の宿が多い福地温泉でも本宿は静けさを重視)、館内のにぎわいや大浴場の規模を求める旅、洋食を望む人
具体情報
- 立地: 高山市奥飛騨温泉郷福地687(福地温泉、JR高山駅から濃飛バス約50分+徒歩約1分)
- 客室数: 12室(全室に岩造り露天と檜造り内湯)
- 食事: 夕食は囲炉裏端で炭火焼の田舎料理、朝食も囲炉裏
- 食材: 飛騨牛・岩魚・山菜・宿儺南瓜(福地温泉朝市仕入れ)
- 客室タイプ: 数寄屋風の独立感、囲炉裏のある離れ仕様の客室を含む
3. 飛騨亭 花扇 — 高山市
地下千二百メートルから湧く神代の湯と、京風懐石で組み立てる飛騨牛会席が軸の高山の食通宿。
Media Picks Score: 93 / 100 48室、温泉旅館。
目安価格 ¥92,000–¥132,000 / 泊 (2名1室・通常期)

なぜ選ばれるか
地下千二百メートルから自噴する自家源泉「神代の湯」を有する数少ない高山の宿である。料理は京風懐石の組み立てを取り、厳選した飛騨牛と、土鍋で炊き上げる飛騨米「龍の瞳」を主役に据える。木材は本物の木にこだわり、館内全体に飛騨の大工技術の系譜が透けて見える設計である。
集約レビューの傾向
公開レビューデータを集計すると、自家源泉の湯の柔らかさと懐石料理の構成への評価が連動して高い。とくに飛騨牛の調理(鉄板・朴葉味噌焼き・しゃぶしゃぶの選択)、土鍋ご飯の炊き加減、夏は鮎の塩焼きへの言及が多い。客室露天風呂付きの部屋を選んだ宿泊者の満足度が顕著に上がる傾向もある。
向く人 / 向かない人
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向く:
自家源泉の湯にこだわる温泉好き、京風懐石の組み立てを好む食通、飛騨牛を多様な調理法で食べ比べたい旅 -
向かない:
古い町並みから徒歩圏を最優先にする旅程(駅・町並みからやや距離あり)、囲炉裏の田舎料理を期待する人、十室以下の極小宿を望む旅
具体情報
- 立地: 岐阜県高山市本母町411-1(JR高山駅から車約8分)
- 客室数: 48室(一部に客室露天風呂付)
- 食事: 京風懐石、飛騨牛会席、飛騨米「龍の瞳」の土鍋炊き
- 温泉: 自家源泉「神代の湯」(地下1,200mから自噴)
- 姉妹館: 花扇別邸いいやま
4. 元湯 孫九郎 — 高山市奥飛騨温泉郷福地温泉
自家源泉四本、奥飛騨でも有数の湯量を誇る福地温泉の源泉宿。囲炉裏会席で供する飛騨牛朴葉焼きが食卓の軸。
Media Picks Score: 92 / 100 21室、温泉旅館。
目安価格 ¥56,000–¥64,000 / 泊 (2名1室・通常期)
PHOTO: 元湯 孫九郎 — 公式サイトを見る →なぜ選ばれるか
自家専用泉を四本所有し、毎分六百ℓの湯量を誇る源泉宿で、内風呂「大湯」と外風呂「蒼の湯」、貸切風呂で源泉を使い分ける。料理は飛騨牛の朴葉味噌焼きを中心に据えた囲炉裏会席で、地元の山菜・川魚・宿儺南瓜が食卓を構成する。
集約レビューの傾向
公開レビューデータを集計すると、湯量豊富な源泉と飛騨牛朴葉焼きへの評価が突出する。とくに大湯の内湯の広さ、貸切風呂の使い勝手、朝食の朴葉味噌定食への言及が多い。価格帯が他四軒より一段抑えめにもかかわらず、料理と湯の満足度で同等以上の評価を得ている点が、編集部としてこの宿を四位に位置づけた理由である。
向く人 / 向かない人
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向く:
湯量と源泉の質を最優先する温泉好き、飛騨牛朴葉焼きを軸に組み立てたい食卓、価格と内容のバランスを求める二人旅 -
向かない:
京風懐石の様式を求める旅、客室露天を必須とする旅程、館内の現代的なデザインを好む人
具体情報
- 立地: 高山市奥飛騨温泉郷福地1005(JR高山駅から濃飛バス約50分・バス停福地ゆりみ坂)
- 客室数: 24室
- 食事: 囲炉裏会席、飛騨牛朴葉味噌焼き、山菜・川魚・宿儺南瓜
- 温泉: 自家源泉4本、奥飛騨でも有数の湯量、内風呂「大湯」・外風呂「蒼の湯」・貸切風呂
- 創業: 1968年(昭和43年)/1974年より源泉100%
5. 本陣平野屋 花兆庵 — 高山市本町
高山陣屋・古い町並みから徒歩一分。城下町の中心で飛騨牛会席と「百のおもてなし」を組み合わせる一軒。
Media Picks Score: 91 / 100 24室、温泉旅館。
目安価格 ¥109,000–¥145,000 / 泊 (2名1室・通常期)

なぜ選ばれるか
高山陣屋と古い町並みから徒歩一分、城下町の中心に立つ食通宿である。「百のおもてなし」を掲げる運営姿勢で、夕食は飛騨牛の会席・しゃぶしゃぶ・鉄板焼から選べる構成。素材は飛騨高山の指定肉店から仕入れる飛騨牛と、季節で組み合わせる山菜・宿儺南瓜・川魚が軸となる。立地と食事の両立を求める食通に支持されている。
集約レビューの傾向
公開レビューデータを集計すると、立地(古い町並みへの徒歩アクセス)と料理・接客の三軸での評価が連動する。とくに女性専用ラウンジ、明け方の珈琲サービス、夕食の飛騨牛調理選択の自由度に対する満足度が高い。価格帯は本記事の五軒で最も高い水準だが、街歩きと宿の両立を取る旅人にとっての対価が支持されている。
向く人 / 向かない人
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向く:
街歩きと食事の両立を求める旅程、飛騨牛の調理法を選びたい食通、高山祭・古い町並みを徒歩圏で訪れたい旅 -
向かない:
奥飛騨の山あいの静けさを求める旅、囲炉裏端の田舎料理を期待する人、源泉かけ流しの大湯量を必須とする温泉志向
具体情報
- 立地: 高山市本町1-34(高山陣屋・古い町並みから徒歩1分)
- 客室数: 24室
- 食事: 夕食は飛騨牛会席・しゃぶしゃぶ・鉄板焼から選択
- チェックイン: 15:00〜 / アウト 〜11:00
- 姉妹館: 本陣平野屋 光風館
よくある質問
Q. 夏に飛騨を訪れるベストシーズンはいつですか?
A. 七月中旬から八月下旬がもっとも食材の幅が広い。宿儺南瓜は七月下旬から九月にかけて出回り、宮川の鮎は八月一日の解禁以降が脂が乗る。標高五百メートル前後の高原気候のため、盆地でも朝晩は二十度前後まで下がり、宿の囲炉裏や夕食の温かい献立が活きる季節である。
Q. 予約のタイミングは?
A. 八月のお盆前後と週末は三〜四ヶ月前から埋まる宿が多い。とくに八ツ三館の招月楼指定、隠庵ひだ路の露天付き客室、花兆庵の町並み側客室は早期に予約が必要である。平日は二ヶ月前でも空室が残ることが多い。
Q. 子連れでも泊まれますか?
A. 八ツ三館・花扇・花兆庵・元湯孫九郎は子連れの受け入れに柔軟である。一方、奥飛騨の隠庵ひだ路は十二室の小規模かつ静けさを重視する運営のため、子連れには別の宿の方が向く場合がある。詳細は各宿の公式サイトを確認したい。
Q. 飛騨牛と宿儺南瓜は、どの宿でも食べられますか?
A. 五軒すべてで飛騨牛は夕食の中心素材として供される。宿儺南瓜は出荷時期が七月下旬〜九月のため、夏の献立に組み込まれる宿が多い。飛騨米「龍の瞳」は花扇が土鍋炊きで供する。鮎は八月一日の宮川解禁以降が中心となる。
Q. アクセスは?
A. 高山市内(花扇・花兆庵)はJR高山駅から徒歩〜車十分以内。古川の八ツ三館はJR飛騨古川駅から徒歩五分。奥飛騨温泉郷(隠庵ひだ路・元湯孫九郎)はJR高山駅から濃飛バスで約六十分、または車での移動が中心となる。
本記事の参考情報
・岐阜県観光公式サイト「岐阜の旅ガイド」 — 飛騨の食と宿の文化背景
・飛騨市公式観光サイト「飛騨の旅」 — 古川町と匠の里の概要
・奥飛騨温泉郷観光協会 — 福地・新平湯の温泉地情報
編集部から
飛騨という土地は、海を持たない盆地でありながら、川魚・山菜・在来種野菜・A5格付の牛・米・蕎麦という素材の厚みを単独で完結させてきた稀有な地域である。料亭旅館の系譜が古川に残り、奥飛騨の山あいでは囲炉裏という最古の調理装置が現役で使われ、高山では京風懐石の様式が交わる——五軒それぞれの食卓は、同じ「飛騨牛と宿儺南瓜」という素材を扱いながら、まったく異なる料理思想で組み立てられている。夏の盛り、土用前のこの季節に、自分の食卓観に合う一軒を選ぶ旅は、内陸高原ならではの深さを持つ。次は同じ岐阜の郡上、あるいは丹後・若狭の海の食通宿との対比で読み直してみたい。