睦月の末、河津川の土手で早咲きの桜がほころび始めるころ、相模灘を客室の湯から望める伊豆稲取と河津の宿として、編集部が選んだ五軒を紹介します。湯が東の海へ開き、伊豆大島の影から昇る朝日を湯舟で迎えられること。それがこの一帯の客室露天の何よりの値打ちです。

稲取は岬が海へ突き出た金目鯛の港町で、昭和30年代のはじめに温泉が掘り当てられた比較的新しい湯の町です。河津は1955年に河津桜の原木が見つかった町で、例年2月上旬から約1か月、川沿いが桃色に染まります。東伊豆・北川・熱川の客室露天を扱った既刊の五軒とは宿を重ねず、今回は稲取の三軒と河津の二軒に絞りました。客室露天の数と向き、源泉の扱い(掛け流しか循環か)、公表されている湯量を、各宿の公式の記載に沿って明記しています。

# 宿 エリア 客室 目安価格 1行特徴
1 いなとり荘 稲取 57 ¥53–57k 全57室オーシャンビュー、温泉掛け流しの露天付13室、アウト12時
2 食べるお宿 浜の湯 稲取 56 ¥77–88k 岬の突端、露天・半露天付23タイプ、金目鯛姿煮と部屋食
3 花の風 河津・今井浜 4 ¥72–75k 高台に全4室、全室に半露天、中学生未満不可の大人の宿
4 稲取銀水荘 稲取 101 ¥59–68k 1957年開業、自家源泉毎分270L、露天付17室すべて掛け流し
5 河津温泉郷 海遊亭 河津・河津浜 12 ¥45–55k 全12室オーシャンフロント、露天付3室、桜並木まで徒歩30秒
↕︎ 地図右下の角をドラッグすると高さを調整できます


※ 目安価格は公開販売価格の集計に基づく参考値で、実際の予約料金とは異なります。1泊2名利用時の1室あたり料金(税込)です。

1. いなとり荘 — 東伊豆町稲取

全五十七室が海に面し、うち十三室に温泉掛け流しの露天を据える、稲取の浜辺の一軒。

57室、稲取温泉の温泉旅館。

目安価格 ¥53,000–¥57,000 / 泊 (2名1室・通常期)

いなとり荘 — 東伊豆町稲取 · 相模灘に面した温泉掛け流しの客室露天と海を望むベッドルーム
PHOTO: いなとり荘 — 公式サイトを見る →

なぜ選ばれるか

湯が、客室の縁からそのまま水平線へ続いて見える宿です。選んだ理由は三つあります。第一に、全57室がオーシャンビューで、そのうち13室が温泉掛け流しの露天または半露天を備えること。第二に、露天付客室の広さが41.7〜81.4㎡まで段階的にそろい、二人旅から三世代旅まで選べること。第三に、チェックアウトが12時と遅く、朝湯のあとにもう一度湯に浸かる時間が残ることです。

集約レビューの傾向

公開レビューデータを集計すると、評価の厚みは料理と眺めに集まります。とりわけ海辺の立地と客室からの眺望、魚介を軸にした夕食への言及が多く、接客全般の評価も安定しています。一方で、改装前の客室の古さを指摘する声や、繁忙時のフロント対応、価格に見合うかを問う声も一定数あり、客室タイプの選び方で満足度に差が出やすい宿と読めます。

向く人 / 向かない人

  • 向く: 朝日を湯舟で迎えたい夫婦旅、遅めのチェックアウトでゆっくり発ちたい旅程、金目鯛の煮付けを目当てにする食の旅
  • 向かない: 館内全体に静けさを求める人(カラオケルームや夏季の屋外プールなど家族向けの設備がある)、露天付以外の客室を選ぶ人(和室・和洋室の多くは客室露天なし)、夜に駅から到着する旅程(送迎バスは18時まで)

具体情報

  • 最寄り駅: 伊豆急行線 伊豆稲取駅から約900m(徒歩約15分、無料送迎バスで約5分・到着時は14:00〜18:00)
  • 露天付客室: 13室(温泉掛け流しの露天・半露天)、41.7〜81.4 ㎡
  • チェックイン: 15:00〜 / アウト 〜12:00
  • 温泉: 稲取温泉(ナトリウム・カルシウム塩化物温泉)。源泉温度が約80℃と高いため加水して温度を調整
  • 食事: 露天付スイートのうち「心」「天」「燎」「暁」「紬」の5室は夕朝食とも個室、ほかの露天付客室は夕食個室・朝食ビュッフェ
  • 駐車場: 50台(無料)


2. 食べるお宿 浜の湯 — 東伊豆町稲取

稲取岬の突端に建ち、二十を超えるタイプの露天付客室を揃える、金目鯛姿煮の宿。

56室、稲取温泉の温泉旅館(部屋食が基本)。

目安価格 ¥77,000–¥88,000 / 泊 (2名1室・通常期)

食べるお宿 浜の湯 — 東伊豆町稲取 · 2022年開設の源泉掛け流し露天付スイート「一天四海」のデッキテラス
PHOTO: 食べるお宿 浜の湯 — 公式サイトを見る →

なぜ選ばれるか

建物が、稲取の岬の最先端に立っています。宿自身が「視界を遮るものは何もない」と語る立地で、客室の露天も屋上の大露天も東の水平線に正対します。選んだ理由は、露天・半露天付の客室が23タイプにのぼり、2007年から2023年にかけて新設が段階的に続いてきたこと、最上級の「一天四海」(135.3㎡)が源泉掛け流しの露天を備えること、そして夕朝食を原則として客室で供する運営を守っていることです。

集約レビューの傾向

公開レビューデータを集計すると、料理全般と魚介を軸にした夕食への評価が最も厚く、接客、海辺の立地、湯の評価がそれに続きます。一組に客室係が付く運営への支持がうかがえる一方、価格帯への意見や、夕食の魚介、露天の使い勝手について期待との差を挙げる声も少数ながら見られます。客室タイプが多いぶん、予約時の選び方が満足度を左右する宿です。

向く人 / 向かない人

  • 向く: 記念日の夫婦旅(記念日の献立や演出を事前相談で受ける)、部屋食で落ち着いて金目鯛を味わいたい人、館内で湯巡りを楽しみたい人(湯舟は総数16ほど)
  • 向かない: 予算を抑えたい旅程(露天付客室は価格帯が上がる)、多品目の食物アレルギーがある人(対応は一人1〜2品程度が目安)、駅から歩きたい人(伊豆稲取駅から徒歩約20分)

具体情報

  • 最寄り駅: 伊豆急行線 伊豆稲取駅から車で約5分(徒歩約20分、駅送迎あり)
  • 客室: 総56室、露天・半露天付は23タイプ(50〜135 ㎡)
  • チェックイン: 15:00〜 / アウト 〜10:00(「一天四海」など一部は10:30)
  • 食事: 夕朝食とも原則部屋食(人数により食事処)
  • 温泉: 稲取温泉(ナトリウム-塩化物泉)。「一天四海」の客室露天は源泉掛け流し
  • 大浴場: 屋上8階の「望洋大露天風呂」は全長23m、夜は水中照明


3. 花の風 — 河津町見高(今井浜)

今井浜を見下ろす高台に四室だけ。全室に全天候型の半露天を備えた、大人だけの小さな宿。

4室、今井浜温泉の小宿(大人のみ)。

目安価格 ¥72,000–¥75,000 / 泊 (2名1室・通常期)

花の風 — 河津町見高・今井浜の高台 · 全4室に備わる全天候型半露天風呂(伊豆石の湯舟と窓越しの山と海)
PHOTO: 花の風 — 公式サイトを見る →

なぜ選ばれるか

湯舟が、窓ひとつ隔てて森と海の両方に開いています。花の風は河津町見高、今井浜からつづら折りの坂を上った高台にある全4室の宿で、すべての客室に温泉の半露天風呂が付きます。伊豆石の扇形風呂を据えた「河津桜」、陶器風呂の「石楠花」「紫陽花」の3室は窓から遠く海を望み、「山百合」は森に面したタイル風呂です。中学生未満を受け入れない大人の宿で、連泊も受けない一泊の設計である点が、五軒の中で際立ちます。

集約レビューの傾向

公開レビューデータを集計すると、件数はほかの四軒より少ないものの、評価は料理、湯、細やかな気配り、客室の清潔さに偏りなく集まっています。繰り返し挙がる弱点は見当たらず、少人数で切り盛りする宿の目の行き届き方が評価の芯にあると読めます。ただし母数が小さいため、季節や客室による差までは読み切れない点に留意が要ります。

向く人 / 向かない人

  • 向く: 二人きりで静かに過ごしたい夫婦・カップル、河津桜の時季に今井浜側から桜並木へ足を延ばす旅程、大浴場よりも客室の湯で滞在を完結させたい人
  • 向かない: 子連れの家族(中学生未満は宿泊不可)、足腰に不安のある人(エレベーターがなく、駐車場から玄関まで2階分の階段)、源泉掛け流しを求める人(加水・加温・循環式)、連泊したい人

具体情報

  • 最寄り駅: 伊豆急行線 今井浜海岸駅から送迎あり(15:00〜17:30、駅から電話)。河津駅からはタクシー約10分
  • 客室: 全4室、全室に全天候型の半露天風呂(3室は窓から海を望む)
  • チェックイン: 15:00〜17:30 / アウト 10:00(門限23時)
  • 食事: 夕食18:00・朝食8:15。部屋食は「河津桜」のみ、ほかは個室食事処・食事処
  • 温泉: 混合温泉(ナトリウム-塩化物温泉、弱アルカリ性・高温泉)、加水・加温・循環式
  • 駐車場: 5台(無料・予約不要)


4. 稲取銀水荘 — 東伊豆町稲取

1957年開業。自家源泉を十七室の露天付客室すべてに掛け流す、稲取の老舗大旅館。

101室、政府登録国際観光旅館。

目安価格 ¥59,000–¥68,000 / 泊 (2名1室・通常期)

稲取銀水荘 — 東伊豆町稲取 · 1957年開業、自家源泉を掛け流すエグゼクティブフロアの展望露天風呂付客室
PHOTO: 稲取銀水荘 — 公式サイトを見る →

なぜ選ばれるか

湯が、敷地の中から湧いています。同館の沿革によれば、創業者が経営に携わった「金鵄館」が1955年に温泉の掘削に成功して稲取で最初の温泉旅館となり、その2年後に開いたのが銀水荘です。1962年には敷地内で専用源泉の掘削に成功し、公式に記された湧出量は毎分270リットル、湧出口温度は85.0℃。2010年の10階3室に始まり、2012年に9階5室、2018年に6階7室、2023年に4階2室と、源泉かけ流しの露天付客室を増やしてきた経緯も沿革に残ります。湯量と源泉の出自まで明かす点で、この主題に最も忠実な一軒です。

集約レビューの傾向

公開レビューデータを集計すると、6階のラウンジ「濤の音」への言及が最も多く、料理、接客、客室からの眺望、海辺の立地がそれに続きます。一方で、改装の及んでいない一般客室の古さや客室のにおいを挙げる声が一定数あり、ラウンジも混雑時の使い勝手に注文がつくことがあります。総合評価がほかの四軒より控えめなのはこの客室差によるところが大きく、露天付のフロアを選ぶかどうかで印象が分かれる宿と読めます。

向く人 / 向かない人

  • 向く: 源泉の素性と湯量を重んじる湯好き、三世代旅(6階「茜」や10階の客室はユニバーサルデザイン)、部屋食で稲取の海の幸を味わいたい夫婦(9・10階「銀の栞」は「しろたえ」を除き部屋出し)
  • 向かない: 小さな宿の距離感を求める人(総101室の大型旅館)、一般客室でも海の湯を期待する人(露天付は17室のみ)、刺青・タトゥーのある人(大浴場は利用不可)

具体情報

  • 最寄り駅: 伊豆急行線 伊豆稲取駅から送迎バスで約5分(到着時13:00〜19:00、予約不要。17時以降は駅到着時に電話)
  • 客室: 総101室、源泉かけ流しの露天付客室17室(54.2〜135 ㎡)
  • チェックイン: 14:00(最終18:00)/ アウト 10:00(露天風呂付客室は11:00)
  • 温泉: 自家源泉、ナトリウム・カルシウム-塩化物泉(弱アルカリ性・高温泉)、湧出口85.0℃・毎分270L。大浴場は掛け流し循環併用・加水あり
  • 食事: 9・10階「銀の栞」は部屋食(9階「しろたえ」のみダイニング)、4・6階のスイートはダイニング「銀の海」
  • 開業: 1957年(木造2階建13室で開業、1983年に地上10階建へ改築)


5. 河津温泉郷 海遊亭 — 河津町浜

河津浜の波打ち際に全十二室。河津桜並木の入口まで徒歩三十秒、海と桜のあいだにある宿。

12室、河津温泉郷の温泉旅館。

目安価格 ¥45,000–¥55,000 / 泊 (2名1室・通常期)

河津温泉郷 海遊亭 — 河津町浜 · 2025年1月改装、全12室オーシャンフロントのうち3室に備わる温泉露天風呂
PHOTO: 河津温泉郷 海遊亭 — 公式サイトを見る →

なぜ選ばれるか

客室が、すべて海の真正面に並んでいます。海遊亭は河津町浜、河津駅から歩いて約7分の海沿いに建つ全12室の宿で、2025年1月に「青の物語」を主題に改装されました。露天風呂付は3室で、石造りの1室が源泉掛け流し、ほかに陶器とひのきの露天が1室ずつ。宿から河津桜並木の入口までは徒歩30秒と公式に記され、睦月末から如月にかけては、朝は客室の湯で日の出を、昼は川沿いの桜を、という一日が組めます。

集約レビューの傾向

公開レビューデータを集計すると、海辺の立地と客室からの眺めへの評価が最も厚く、料理、清潔さ、湯がそれに続きます。改装で客室の印象が新しくなった一方、建物の構造に由来する段差や古い設計を挙げる声、露天の広さや夕食の内容に期待との差を挙げる声も少数あります。露天付は3室に限られるため、予約の段階で客室タイプを確かめることが満足度を分けます。

向く人 / 向かない人

  • 向く: 河津桜まつりの時季に駅から歩いて桜並木へ出たい旅程、波音を間近に聞きたい二人旅、手の届く価格帯で海側の客室露天を試したい人
  • 向かない: 全室に客室露天を求める人(露天付は12室中3室)、段差の少ない館内を望む人(宿自身が段差の残る箇所を案内)、子連れで和ベッド部屋を希望する人(同室は子ども不可)

具体情報

  • 最寄り駅: 伊豆急行線 河津駅から徒歩約7分(東京駅から特急踊り子で河津駅まで約2時間30分)
  • 客室: 全12室オーシャンフロント、露天風呂付3室(石・陶器・ひのき。石の1室は源泉掛け流し)
  • 改装: 2025年1月リニューアル
  • 温泉: ナトリウム塩化物泉。大浴場・露天風呂は男女各1、夜と朝で入れ替え
  • 食事: 金目鯛姿煮を主菜にした伊豆の四季会席
  • 周辺: 河津桜並木の入口まで徒歩約30秒


よくある質問

Q. 河津桜の時季はいつで、宿は取りやすいですか?

A. 河津桜は1955年に河津町で原木が見つかった早咲きの桜で、1974年に命名され、翌年に町の木となりました。原木のある河津町では例年2月上旬から約1か月咲き続け、睦月末は咲き始めにあたります。この時季の週末は五軒とも早くから埋まり、目安価格も宿によっては通常期より1万円以上上がる傾向があります。咲き始めの平日が、湯と桜の両方を落ち着いて味わえる日取りです。

Q. 客室露天の湯はすべて源泉掛け流しですか?

A. 宿と客室によって異なります。稲取銀水荘は露天付17室すべてが自家源泉のかけ流し、いなとり荘は露天付13室が温泉掛け流し、浜の湯は最上級の「一天四海」が源泉掛け流し、海遊亭は露天付3室のうち石造りの1室が源泉掛け流しです。花の風は全室が加水・加温・循環式の半露天です。湯の扱いにこだわる場合は、客室タイプごとに公式の記載を確かめてから予約するのが確実です。

Q. 子連れでも泊まれますか?

A. 花の風は中学生未満の宿泊を受けておらず、海遊亭の和ベッド部屋も子どもは利用できません。稲取銀水荘は大浴場の脱衣所にベビーベッドやベビーバスを備え、6階「茜」や10階の客室はユニバーサルデザインです。いなとり荘は2歳以上の子どもに施設使用料(3,000円・税別)がかかります。三世代旅なら、広い露天付客室の多い稲取の三軒が候補になります。

Q. 東京からのアクセスは?

A. 東京駅から特急踊り子で伊豆稲取駅まで約2時間20分、河津駅まで約2時間30分です。新幹線で熱海駅まで行き、伊豆急行線に乗り継ぐ方法もあります。今井浜海岸駅は特急の停車駅ではないため、花の風へは河津駅から各駅停車に乗り継ぐかタクシー(約10分)を使います。稲取の三軒はいずれも伊豆稲取駅から送迎があります。

Q. 客室露天からは朝日が見えますか?

A. 稲取と河津は伊豆半島の東岸にあり、海側の客室は東から南東の相模灘に開きます。冬は日の出の位置が南へ寄り、睦月末の日の出は6時40分前後、晴れた朝は伊豆大島の島影のそばから日が昇ります。浜の湯や海遊亭は公式に日の出の眺めを掲げています。花の風は高台から遠く海を望む眺めで、窓から海を望むのは「河津桜」「石楠花」「紫陽花」の3室です。

本記事の参考情報

・稲取温泉旅館協同組合 — 稲取温泉の宿の総客室数・チェックイン時刻
・伊豆・河津町観光協会 — 河津温泉郷と河津桜まつりの案内
・Wikipedia: カワヅザクラ — 原木の発見(1955年)と命名の経緯
・稲取銀水荘 企業概要・沿革 — 稲取初の温泉旅館と自家源泉の掘削年

編集部から

五軒に通底するのは、湯舟が東の海に向いていることです。西伊豆の宿が夕日で一日を締めくくるのに対し、稲取と河津の宿は朝の光で一日を始めます。岬の突端に湯を積み上げた浜の湯、自家源泉を六十余年守る銀水荘、海に面して全室を並べたいなとり荘、桜並木の入口に立つ海遊亭、高台に四室だけを置く花の風。同じ海を望みながら、湯の扱いも宿の大きさも大きく異なります。睦月末の咲き始めに訪ねるなら、源泉の素性で選ぶか、桜への近さで選ぶか。あなたなら、どちらの朝湯を取りますか。

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