霜月の登別で湯の違いを確かめたい旅のために、地獄谷の湯を引く宿を、浴場ごとの泉質の配分を軸に編集部が四軒選びました。登別温泉は、自然湧出量が一日およそ一万トン、泉質は九種類と数えられる湯場です。その多くは約一万年前の火山活動で生まれた地獄谷から湧いています。低い空に噴気が立ちのぼり、谷の地肌が白く際立つ十一月は、湯の色や香りの違いがいちばん身に沁みる季節です。本稿では、四種の泉質を浴場ごとに分けて使う老舗から、白濁の硫黄泉ひとつを源泉のまま流す小宿まで、湯の引き方が異なる宿を並べました。各宿は源泉名や湯量を宿ごとには公表していないため、ここでは公式に示されている泉質と浴槽の配分、創業と改装の歩みを整理しています。選定にあたっては公開レビューデータを集計し、湯と食事への評価が安定している宿を残しました。

# 宿 エリア 客室 目安価格 1行特徴
1 登別温泉郷 滝乃家 登別温泉町 30 ¥78–¥133k 四種の泉質を最上階と地下の二つの湯処で分けて引く、大正6年創業の宿
2 ホテルゆもと登別 登別温泉町 約70 ¥47–¥64k 硫黄泉・食塩泉・酸性鉄泉・混合泉の四種を、一つの大浴場でかけ流す
3 花鐘亭はなや 登別温泉町 21 ¥54–¥65k 白濁の硫黄泉一本を源泉100%で流す、クスリサンベツ川沿いの小宿
4 望楼NOGUCHI登別 登別温泉町 40 ¥106–¥138k 全40室のスイートすべてに、硫黄泉を引いた展望風呂が付く
↕︎ 地図右下の角をドラッグすると高さを調整できます


※ 目安価格は公開販売価格の集計に基づく参考値で、実際の予約料金とは異なります。1泊2名利用時の1室あたり料金(税込)です。

1. 登別温泉郷 滝乃家 — 北海道・登別温泉町

四種の泉質を、最上階と地下の二つの湯処に分けて引く三十室の宿。登別の湯の幅を一泊で確かめるなら、まずこの一軒です。

30室、温泉旅館(うち12室が源泉かけ流しの露天風呂付き)。

目安価格 ¥78,000–¥133,000 / 泊 (2名1室・通常期)


登別温泉郷 滝乃家 — 北海道登別温泉町 · 樹林に面した露天風呂、硫黄泉・鉄泉・食塩泉・ラジウム泉の四種を引く宿
PHOTO: 登別温泉郷 滝乃家 — 公式サイトを見る →

なぜ選ばれるか

湯が、階によって性格を変えます。最上階の湯処「雲井の湯」には食塩泉と鉄泉、地下二階の「地縁の湯」にはラジウム泉と硫黄泉。宿は硫黄泉・鉄泉・食塩泉・ラジウム泉の四種を地獄谷からの湯脈で引くとしており、浴場を上下に行き来するだけで、温まり方の違う湯を比べられます。三十室の規模に対して、源泉かけ流しの露天風呂付き客室が十二室あることも、湯を目当てにする旅には大きい点です。料理は、大正6年に料亭として始まった流れを汲む懐石を、全席個室の食事処「原生林」で供します。

集約レビューの傾向

公開レビューデータを集計すると、登別温泉の中でも総合評価が上位に位置し、件数も十分に積み上がっています。評価が集まるのは、湯処ごとに泉質が異なる浴場の構成と、露天風呂付き客室の静けさ、そして個室で出される懐石の丁寧さです。宿泊単価に見合う上質さを求める層からの支持が厚い一方、価格帯が温泉街の中でも高めであるため、予算によって向き不向きが分かれる傾向が見て取れます。

向く人 / 向かない人

  • 向く:
    泉質の違いを入り比べたい温泉好きの夫婦旅、露天風呂付き客室で静かに過ごしたい記念日の旅、個室で懐石を味わいたい人
  • 向かない:
    予算を抑えたい旅(温泉街でも上位の価格帯)、深夜0時から早朝5時に大浴場を使いたい人(この時間は閉場)

具体情報

  • 所在地: 北海道登別市登別温泉町162(JR登別駅から車で約15分の温泉街)
  • 泉質の配分: 最上階「雲井の湯」=食塩泉・鉄泉/地下2階「地縁の湯」=ラジウム泉・硫黄泉
  • 大浴場の時間: 雲井の湯 14:00〜22:00・5:00〜9:00/地縁の湯 15:00〜24:00・5:00〜10:00
  • 客室: 全30室。露天風呂付きは和室DWタイプ(92㎡・2室)と和洋室Dタイプ(10室)
  • 食事: 朝夕とも全席個室の食事処「原生林」で懐石
  • 創業: 大正6年(1917年)に料亭として創業。宴会場「桐」は料亭時代の造りを残す


2. ホテルゆもと登別 — 北海道・登別温泉町

硫黄泉・食塩泉・酸性鉄泉、そしてそれらを合わせた混合泉。四つの湯を一つの大浴場でかけ流す、湯巡りのための宿です。

約70室、温泉ホテル。

目安価格 ¥47,000–¥64,000 / 泊 (2名1室・通常期)


ホテルゆもと登別 — 北海道登別温泉町 · 湯けむりの立つ岩組みの露天風呂、四種の泉質をかけ流す大浴場
PHOTO: ホテルゆもと登別 — 公式サイトを見る →

なぜ選ばれるか

湯の数で選ぶなら、この宿は外せません。宿が示す泉質は、白濁して香りの立つ硫黄泉、湯冷めしにくい食塩泉、鉄分を含む酸性鉄泉、複数の源泉を合わせた混合泉の四種。一晩のうちに四つの湯に浸かれる構成を、宿自身が「当館の誇り」と掲げています。四種を備えながら、価格帯は今回の四軒でもっとも穏やかです。2023年にはサウナを刷新し、客室に天然温泉とセルフロウリュのサウナを備えた特別室も設けました。夕食は部屋食を基本とし、道産の食材を使った会席が並びます。

集約レビューの傾向

公開レビューデータを集計すると、件数の多さに比して評価がよくまとまっている宿です。とりわけ浴場の泉質の豊かさと湯の鮮度への評価が厚く、部屋食で落ち着いて食事ができる点も繰り返し支持されています。家族連れやグループの利用も多い一方、館内の設えには年季を感じるという受け止めも見られ、改装済みの客室を選ぶかどうかで印象が分かれる傾向があります。

向く人 / 向かない人

  • 向く:
    予算を抑えつつ泉質の数を味わいたい旅、部屋食で気兼ねなく食べたい家族・三世代旅、サウナと温泉を組み合わせたい人
  • 向かない:
    小規模な宿の濃いもてなしを求める人(中規模で団体利用もある)、館内すべてに新しさを求める人(客室タイプで改装の度合いが異なる)

具体情報

  • 所在地: 北海道登別市登別温泉町29(JR登別駅から車で約15分、登別東ICから約10分)
  • 泉質: 硫黄泉・食塩泉・酸性鉄泉・混合泉の四種(源泉かけ流し)
  • 客室: 和室10畳、和洋室(8階・48㎡)、天然温泉とサウナ付きの特別室など
  • 食事: 夕食は部屋食が基本。調理長は2025年11月に北海道社会貢献賞を受けた
  • 改装: 2023年にサウナをリニューアル
  • 宴会場: 最大180名の大広間「原始林」ほか中広間3室


3. 花鐘亭はなや — 北海道・登別温泉町

白濁の硫黄泉一本を、内湯も露天も源泉100%で流す二十一室の小宿。湯の数より、一つの湯の濃さを選ぶ旅に向きます。

21室、温泉旅館(4階建て)。

目安価格 ¥54,000–¥65,000 / 泊 (2名1室・通常期)


花鐘亭はなや — 北海道登別温泉町 · 源泉100%かけ流しの白濁した硫黄泉の露天風呂
PHOTO: 花鐘亭はなや — 公式サイトを見る →

なぜ選ばれるか

湯が、静かに底へ沈んでいます。はなやの浴槽では湯の花が底にたまり、かき混ぜるとふわりと白く濁るのだと宿は説明します。泉質は源泉100%の硫黄泉ひとつ。内湯と露天風呂の両方をかけ流しで使い、露天は隣を流れるクスリサンベツ川の音を聞きながら浸かる造りです。大浴場は深夜1時まで、早朝は4時半から入れるため、夜更けと夜明けの湯を両方味わえます。夕食は部屋でゆっくり供され、二十一室という規模がもてなしの細やかさを支えています。

集約レビューの傾向

公開レビューデータを集計すると、四軒の中でも件数が多く、評価の振れ幅が小さい宿です。支持の中心は、源泉そのままの硫黄泉の質と、部屋食の温度管理や配膳の丁寧さ。ロビーの飲み物を自由に楽しめる仕組みも好意的に受け止められています。一方、浴場はこぢんまりとしており、サウナは無いため、大きな浴場や設備の多さを期待する層とは相性が分かれる傾向が見て取れます。

向く人 / 向かない人

  • 向く:
    源泉そのままの硫黄泉に浸かりたい人、部屋食で夫婦や親子が水入らずで過ごす旅、還暦・喜寿などの祝いの旅
  • 向かない:
    複数の泉質を入り比べたい人(硫黄泉のみ)、サウナを旅の目的にする人(設備なし)、新千歳空港や札幌からの送迎を期待する人

具体情報

  • 所在地: 北海道登別市登別温泉町134
  • アクセス: JR登別駅から無料送迎車で約15分(前日までの予約制)
  • 泉質: 源泉100%の硫黄泉(白濁・かけ流し)。内湯・露天とも男女別
  • 入浴時間: 11:00〜翌1:00、4:30〜11:00
  • 客室: 全21室。スイート「松」は45㎡、唯一のバルコニー付き。2020年4月から全室禁煙
  • 食事: 夕食は部屋食、朝食は部屋または会食場。献立は3か月ごとに変わる
  • 駐車場: 30台・無料


4. 望楼NOGUCHI登別 — 北海道・登別温泉町

全四十室のスイートすべてに、硫黄泉を引いた展望風呂。2006年に開業し、今年二十周年を迎えた大人のための宿です。

40室、温泉旅館(全室スイート)。

目安価格 ¥106,000–¥138,000 / 泊 (2名1室・通常期)


望楼NOGUCHI登別 — 北海道登別温泉町 · 夕暮れの灯りに照らされた源泉かけ流しの露天風呂
PHOTO: 望楼NOGUCHI登別 — 公式サイトを見る →

なぜ選ばれるか

九種あるとされる登別の泉質のうち、この宿が選んだのは、乳白色の硫黄泉ただ一つです。そのかわり、湯に触れる場所を増やしました。直線を基調にした大浴場、山あいの露天風呂、そして全四十室の客室それぞれに設けた展望風呂。客室は50㎡のジュニアスイートから100㎡のエグゼクティブスイートまで、すべてがスイートです。食事は和食会席に洋の要素を加えた献立を、個室の食事処で供します。12歳以下は泊まれない、大人だけの宿という線引きも明確です。

集約レビューの傾向

公開レビューデータを集計すると、評価は安定して高く、記念日や夫婦の旅での利用が目立ちます。支持が集まるのは、客室の展望風呂でいつでも硫黄泉に浸かれる点と、個室で出される和洋折衷の会席、館内の静けさです。一方で、今回の四軒では最も高い価格帯にあり、泉質は硫黄泉のみであるため、価格と湯の種類の釣り合いをどう見るかで評価が分かれる傾向があります。

向く人 / 向かない人

  • 向く:
    客室の風呂で硫黄泉を独り占めしたい夫婦・記念日の旅、静かな館内でひとり籠もりたい人、札幌や新千歳空港から送迎バスで移動したい人
  • 向かない:
    子連れの家族(12歳以下は宿泊不可)、複数の泉質を入り比べたい人(硫黄泉のみ)、予算を抑えたい旅

具体情報

  • 所在地: 北海道登別市登別温泉町200-1
  • アクセス: JR札幌駅北口・新千歳空港から送迎バスあり(7日前までの予約制・条件により有料)
  • 泉質: 硫黄泉(硫化水素型・弱酸性・低張性・高温泉)
  • 客室: 全40室スイート、50〜100㎡。全室に温泉の展望風呂
  • チェックイン: 15:00〜19:00 / アウト 〜11:00
  • 開業: 2006年(2026年に開業20周年)
  • 駐車場: 無料(係員が車を預かる)


よくある質問

Q. 登別温泉の「九種類の泉質」は、一軒の宿ですべて入れますか?

A. 一軒で九種類すべてを備える宿はありません。九種類は温泉地全体としての数え方で、宿ごとに引く泉質は異なります。本稿の四軒では、滝乃家(硫黄泉・鉄泉・食塩泉・ラジウム泉)とホテルゆもと登別(硫黄泉・食塩泉・酸性鉄泉・混合泉)がそれぞれ四種、花鐘亭はなやと望楼NOGUCHI登別は硫黄泉のみです。

Q. 各宿の源泉名や湯量は分かりますか?

A. 本稿の四軒は、いずれも源泉名と湯量(ℓ/分)を公式サイトで宿ごとには公表していません。温泉地としての自然湧出量は一日およそ一万トンとされています。浴槽ごとの詳しい分析内容は、館内に掲示された温泉分析書で確かめるのが確実です。

Q. 硫黄泉に入るときの注意は?

A. 硫黄泉は刺激が比較的強く、肌の弱い人は長湯を避け、上がり湯で軽く流すと落ち着きます。銀や銅のアクセサリーは変色することがあるため、外してから入浴します。湯の花が浮く浴槽では、底をかき混ぜると白濁が強まります。

Q. 子連れでも泊まれますか?

A. 望楼NOGUCHI登別は12歳以下の宿泊を受けていません。ホテルゆもと登別は部屋食が基本で和室や四人向けの和洋室もあり、家族旅に組み込みやすい宿です。滝乃家と花鐘亭はなやも宿泊はできますが、静けさを重んじる小〜中規模の宿である点は踏まえておきたいところです。

Q. 霜月に訪ねる際のアクセスと見どころは?

A. 温泉街へはJR登別駅から路線バスや車で約15分、新千歳空港からは車で約1時間です。地獄谷は温泉街から歩いて行ける距離にあり、冷え込む朝ほど噴気が白く立ちます。大湯沼方面の遊歩道は通行止めになることがあるため、出かける前に登別国際観光コンベンション協会の案内を確認しておくと安心です。

本記事の参考情報

・一般社団法人 登別国際観光コンベンション協会「登別の温泉を知る」 — 地獄谷の成り立ちと温泉地の概要
・一般社団法人 登別国際観光コンベンション協会「宿泊」 — 各宿の泉質と施設の紹介
・Wikipedia: 登別温泉 — 歴史と泉質の背景

編集部から

四軒を並べてみると、登別の湯の引き方には二つの考え方があることが分かります。滝乃家とホテルゆもと登別は、谷が生む泉質の幅をそのまま浴場に並べる宿。花鐘亭はなやと望楼NOGUCHI登別は、白濁の硫黄泉一本に絞り、浸かる場所と時間を磨く宿です。どちらを選ぶかは、湯に何を求めるかで決まります。温泉街の始まりは、1858年に滝本金蔵が湯守として湯宿を建てたことに遡るとされます。それから百六十年あまり、同じ谷の湯を、宿それぞれが自分の流儀で引き継いできました。霜月の冷えた朝、地獄谷の噴気を見たあとで宿の湯に戻ると、その違いがよく分かります。次の登別では、どちらの流儀の湯に浸かりますか。

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