霜月の山形で、客室の湯舟から初雪を待てる宿として、編集部は蔵王温泉と上山温泉から五軒を選びました。蔵王の山肌がうっすらと白くなり、樹氷の季節を前にした温泉街に硫黄の匂いが濃く立つころです。蔵王温泉は開湯一九〇〇年と伝わる古湯で、湯はpH1.25〜1.6、東北でも指折りの強酸性の硫黄泉です。ただしこの強い湯を客室の露天にまで引く宿はごく限られ、宿の公式表示によれば、源泉掛け流しの客室露天を備えるのは深山荘 高見屋のみです。そこで本稿は、蔵王の強酸性湯を部屋で受ける一軒に、山を下りた上山温泉の四軒を加えました。上山は室町期に僧・月秀が鶴の湯浴みを見て開いたと伝わる城下の湯で、湯は肌あたりの穏やかな塩化物・硫酸塩泉です。酸の湯と、柔らかな湯。十数キロを隔てて性格の異なる二つの湯を、客室露天の数と湯船の造りから記録します。
| # | 宿 | エリア | 客室 | 目安価格 | 1行特徴 |
|---|---|---|---|---|---|
| 1 | 名月荘 | 上山市葉山 | 20 | ¥115–¥136k | 離れ風の客室二十室。その過半に露天か半露天 |
| 2 | 深山荘 高見屋 | 山形市蔵王温泉 | 19 | ¥66–¥84k | 享保元年創業。蔵王の強酸性湯を客室露天に掛け流す |
| 3 | 日本の宿 古窯 | 上山市葉山 | 136 | ¥35–¥60k | 露天・半露天付が四十室近く。竹の蔵は湯船が一室ずつ違う |
| 4 | 彩花亭 時代屋 | 上山市葉山 | 18 | ¥31–¥59k | 十八室のうち七室が温泉付。pH7.8の柔らかな湯 |
| 5 | 花明りの宿 月の池 | 上山市湯町 | 18 | ¥46–¥66k | 開湯伝承の薬師堂の向かい。露天付三室はデッキに源泉を張る |
※ 目安価格は公開販売価格の集計に基づく参考値で、実際の予約料金とは異なります。1泊2名利用時の1室あたり料金(税込)です。本稿では雪を待つ季節に合わせて2026年11月〜12月下旬の宿泊日を対象に、露天・半露天付客室の日ごとの最安値から、平日の中心価格〜土曜の中心価格を示しています。
1. 名月荘 — 上山市葉山
蔵王連峰を正面に置く葉山の丘に、離れ風の二十室。その過半が専用の露天か半露天を持つ、上山で最も部屋の湯に徹した一軒です。
20室、離れ風の客室を庭に配した旅館。
目安価格 ¥115,000–¥136,000 / 泊 (2名1室・露天付客室・霜月〜師走)

なぜ選ばれるか
湯が、部屋ごとに違う器に張られています。蔵王の石をくり抜いた岩風呂の半露天、陶器の丸い部屋風呂、露天と檜の内風呂を二つ備えた部屋。宿の公式が客室を一室ずつ紹介しているため、湯船の造りと眺めを選んで泊まれることが、まず選んだ理由です。客室は55〜95㎡と広く、本間にリビングとテラスが付く造り。蔵王連峰を望む棟と中庭を望む棟に分かれ、雪の日は眺望側、静けさを取るなら庭側と、季節で選び分けができます。大浴場は檜造りで、蔵王岩をくり抜いた貸切露天も空いていれば予約なしで入れます。
集約レビューの傾向
公開レビューデータを集計すると、部屋付きの湯と、離れのように独立した客室の静けさへの評価が際立って高く、記念日の滞在で選ばれている傾向がはっきり見て取れます。会席料理は地元の旬の素材を軸にした献立として支持を集め、宿の人の距離感を好ましく受け止める声も目立ちます。一方で価格帯は上山のなかで明らかに高く、費用に見合うかどうかを客室の選び方で判断している様子もうかがえます。
向く人 / 向かない人
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向く:
記念日の夫婦旅、部屋で何度も湯に入りたい人、湯船の造りまで選んで泊まりたい人 -
向かない:
蔵王の強酸性の湯そのものを求める人(湯は上山の温泉)、一泊の費用を抑えたい旅程、駅から歩いて入りたい人(タクシー利用が前提)
具体情報
- 最寄り駅: JRかみのやま温泉駅からタクシー 5〜6 分
- 客室: 20室。露天・半露天付の客室は 55〜95 ㎡
- チェックイン: 14:00〜 / アウト 〜11:30
- 食事: 会席料理
- 泉質: ナトリウム・カルシウム塩化物硫黄温泉(大浴場)
- 冬の注意: 一部の客室(蔵)はテラスの浴槽を12月〜3月に休止
2. 深山荘 高見屋 — 山形市蔵王温泉
享保元年から三百年、自家源泉三本を守る高湯通りの老舗。蔵王の強酸性の白濁湯を、客室の露天にまで掛け流す一軒です。
19室、蔵王温泉の老舗旅館。
目安価格 ¥66,000–¥84,000 / 泊 (2名1室・露天付客室・霜月〜師走)

なぜ選ばれるか
本稿の副題にある「強酸性湯と硫黄の朝」を、客室の湯で迎えられる宿です。蔵王温泉の湯は含硫化水素強酸性明ばん緑ばん泉。この強い湯は設備を傷めやすく、客室にまで引く宿はほとんどありません。高見屋は伝統的な蔵を一棟改装した離れの別邸「雛蔵」と、全室に露天を据えた「離庵山水」を設け、宿は雛蔵を蔵王温泉で唯一の源泉掛け流しの客室露天と案内しています。自家源泉は三本、館内の九つの浴槽すべてに混じり気なく掛け流す湯の守り方も、選んだ理由です。
集約レビューの傾向
公開レビューデータを集計すると、白濁した強酸性の湯そのものへの評価が際立ち、湯を目的に宿を選ぶ層の厚さがうかがえます。食事の満足度と、気さくで温かな応対にも支持が集まっています。一方で、三百年の老舗ゆえに客室の古さを指摘する声や、室温・湯温の感じ方に触れる声が一定数見られます。新しい設えを求めるなら、改装を経た離れの二棟や角部屋を選ぶのが合っています。
向く人 / 向かない人
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向く:
蔵王の強酸性湯を部屋で受けたい湯好き、老舗の歴史を感じながら泊まりたい夫婦、冬は樹氷と合わせて蔵王に滞在する旅程 -
向かない:
肌の弱い人や乳幼児連れ(湯の刺激が強い)、段差の少ない館内を望む人、露天付の部屋が少ないため直前に予約を探す旅程
具体情報
- アクセス: JR山形駅からバスで蔵王温泉バスターミナルへ、ターミナルから宿の無料送迎あり
- 客室: 19室。露天付は離れの雛蔵と離庵山水(離庵山水は 61 ㎡)
- チェックイン: 15:00〜 / アウト 〜10:00
- 泉質: 含硫化水素強酸性明ばん緑ばん泉(自家源泉3本、9浴槽に掛け流し)
- 創業: 1716年(享保元年)
- 冬の注意: 蔵王エコーラインは11月〜4月末まで冬期通行止め
3. 日本の宿 古窯 — 上山市葉山
七室の自炊宿から始まった葉山の大旅館。露天・半露天付の客室を四十室近く抱える一軒です。
136室、大型の温泉旅館。
目安価格 ¥35,000–¥60,000 / 泊 (2名1室・露天付客室・霜月〜師走)

なぜ選ばれるか
規模で客室露天を語れる宿です。四〜六階の半露天付客室が二十六室、六階の露天付が四室、二階の「竹の蔵」の露天付が七室、最上階の古窯スイートが二室。宿の公式によれば、半露天風呂も含めて湯はすべて温泉です。竹の蔵では、大石田焼の次年子窯で焼いた陶器風呂、御影石の楕円の露天、一枚岩を掘り下げた丸い岩風呂と、部屋ごとに湯船が異なります。源泉は64度と高く、湯量を絞って40〜43度に整えていると公式が明記している点も、湯の扱いが見える記述として評価しました。
集約レビューの傾向
公開レビューデータを集計すると、レビュー数の厚みが五軒のなかで群を抜き、そのうえで行き届いたもてなしと接客の細やかさへの評価が安定して高い水準にあります。食事も強みに挙がる一方、献立の好みは分かれる傾向があり、露天風呂や価格についても受け止めに幅が見られます。規模の大きな宿だからこそ、露天付の客室か標準の客室か、どの部屋を選ぶかで印象が変わる一軒と言えます。
向く人 / 向かない人
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向く:
三世代や家族での客室露天の旅、湯船の素材を選んで泊まりたい人、大型旅館の安定した運営を求める人 -
向かない:
小さな宿の密な距離感を好む人、館内のにぎわいを避けたい人(週末は団体客と重なりやすい)
具体情報
- 最寄り駅: JRかみのやま温泉駅から車で約 5 分
- 露天付客室: 半露天付 46 ㎡・六階露天付 60 ㎡・竹の蔵 50〜104.5 ㎡ ほか
- チェックイン: 15:00〜 / アウト 〜10:00
- 駐車場: 325台(無料)
- 創業: 1951年(昭和26年)、七室の自炊旅館として
4. 彩花亭 時代屋 — 上山市葉山
十八室のうち七室が温泉付。坪庭に接した円形の湯船から檜の露天まで、七通りの「湯空間」を持つ小さな宿です。
18室、小規模の温泉旅館。
目安価格 ¥31,000–¥59,000 / 泊 (2名1室・露天付客室・霜月〜師走)

なぜ選ばれるか
湯が、七つの部屋でそれぞれ違う姿をしています。坪庭に接した円形の露天の「橙彩」、檜の露天とテラスの「萌黄彩」、開放的な露天の「白蘭彩」、窓を開けて蔵王連峰を見渡す半露天の「茜彩」、豆砂利洗い出しの半露天の「紺碧彩」「浅黄彩」。宿はこれを「湯空間」と呼び、露天・半露天・内湯の温泉付客室として案内しています。湯はpH7.8の弱アルカリ性で、生まれて間もない赤ちゃんも入れると宿が明記するほど肌に優しい湯。蔵造りの大浴場と貸切露天も備えます。
集約レビューの傾向
公開レビューデータを集計すると、客室付きの温泉と客室の清潔さへの評価が高く、部屋の湯を目的に選ばれている様子がうかがえます。食事と、小さな宿らしい応対も支持を集めています。一方で、建物の年季を感じるという声や駐車場の使い勝手に触れる声があり、食事の好みも分かれる面があります。この宿では、温泉付の部屋を選ぶことが満足度を左右すると言えます。
向く人 / 向かない人
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向く:
客室露天を手の届く価格帯で探す夫婦、乳幼児連れで部屋の湯を使いたい家族、湯船の意匠を選びたい人 -
向かない:
強酸性や白濁の湯を期待する人(湯は無色透明の弱アルカリ性)、新しい建物の設えを重視する人
具体情報
- 最寄り駅: JRかみのやま温泉駅からタクシー約 10 分
- 客室: 18室(温泉付客室 7室・標準客室)
- 泉質: カルシウム・ナトリウム硫酸塩泉、pH7.8
- 車: 東北中央道かみのやま温泉ICから約 7 分
- 館内の湯: 蔵造りの大浴場、貸切露天風呂
5. 花明りの宿 月の池 — 上山市湯町
開湯伝承の「鶴の休石」が残る薬師堂の向かい。その源泉をそのまま引き、三室の客室露天のデッキに掛け流す湯町の宿です。
18室、小規模の温泉旅館。
目安価格 ¥46,000–¥66,000 / 泊 (2名1室・露天付客室・霜月〜師走)

なぜ選ばれるか
上山温泉の始まりの地に建つ宿です。玄関の向かいの薬師堂には、僧・月秀が鶴の湯浴みを見たという開湯伝承にちなむ「鶴の休石」があり、宿はその源泉をそのまま引いていると公式で述べています。露天付の客室は三室と少ないものの、いずれも一階にあり、部屋から続くデッキに源泉掛け流しの露天を据えた造りです。湯は62〜68度のナトリウム・カルシウム塩化物・硫酸塩泉。夕刻には大浴場の檜露天の湯面に灯りが浮かび、一人用の「笹舟露天」もあります。温泉街を浴衣で歩ける立地も、この宿ならではです。
集約レビューの傾向
公開レビューデータを集計すると、花明りが灯るロビーの雰囲気と、食事への評価が高く、細やかな応対にも支持が集まっています。一方で、建物の古さを指摘する声や、湯温の感じ方、立地に触れる声が見られます。露天付の部屋は三室に限られること、駅からは歩いて十五分ほどかかることも踏まえて計画したい一軒です。
向く人 / 向かない人
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向く:
温泉街の足湯や薬師堂を浴衣で歩きたい夫婦、開湯の歴史に触れたい人、雰囲気のある館内で静かに過ごしたい人 -
向かない:
小学生以下の子ども連れ(露天付客室は中学生以上2名での利用)、露天付の部屋を直前に探す旅程
具体情報
- 最寄り駅: JRかみのやま温泉駅から徒歩約 15 分
- 客室: 18室(露天付 3室・8畳+広縁+デッキ、定員2名)
- 泉質: ナトリウム・カルシウム-塩化物・硫酸塩温泉、62〜68度
- 駐車場: 20台(無料)
- 改装: ジャパニーズモダン和室を2019年・2022年に改修
よくある質問
Q. 蔵王温泉と上山温泉の湯は、どう違いますか?
A. 蔵王温泉はpH1.25〜1.6の強酸性の硫黄泉で、白く濁り、肌への刺激がはっきりしています。上山温泉は塩化物や硫酸塩を含む中性〜弱アルカリ性の湯で、無色透明に近く肌あたりが穏やかです。強い湯に浸かった後は真水で肌を流し、長湯を避けるのが蔵王の湯との付き合い方です。
Q. 子連れでも客室露天の部屋に泊まれますか?
A. 宿によって異なります。時代屋はpH7.8の湯を赤ちゃんも入れる湯として案内し、名月荘は乳児連れに半露天付の部屋を勧めています。月の池の露天付客室は中学生以上2名での利用です。蔵王の強酸性の湯は刺激が強いため、乳幼児連れは上山側の宿が向いています。
Q. 冬のアクセスで気をつけることは?
A. 上山温泉はJRかみのやま温泉駅から車で5〜10分ほどで、山形新幹線で東京から約2時間30分です。蔵王温泉へはJR山形駅からバスで約40分。宮城側と結ぶ蔵王エコーラインは11月から4月末まで冬期通行止めになるため、車の場合は山形側から入ります。雪道の装備も欠かせません。
Q. 樹氷を見るならいつ頃ですか?
A. 蔵王の樹氷は例年、年明けから2月にかけて見ごろを迎え、ロープウェイで山頂付近まで上がって眺めます。霜月から師走は樹氷の前、初雪を待つ季節で、スキー場の開業前後の静かな時期に当たります。雪見の湯を狙うなら師走、樹氷と合わせるなら睦月から如月が目安です。
Q. 露天付の部屋はどのくらい前に予約すべきですか?
A. 高見屋の雛蔵と離庵山水、月の池の三室など、露天付の部屋が数室に限られる宿では、雪の週末や年末は早くに埋まる傾向があります。日程が決まった段階で押さえるのが確実です。露天付客室の数が多い古窯や名月荘は、比較的選択の幅が残りやすい宿です。
本記事の参考情報
・蔵王温泉観光協会「蔵王温泉とは」 — 開湯の由来、泉質・pH・湯量
・Wikipedia: 蔵王温泉 — 温泉地の歴史と地理
・Wikipedia: かみのやま温泉 — 月秀による開湯伝承と温泉街の成り立ち
編集部から
五軒を並べてみると、蔵王と上山は同じ山の麓にありながら、湯の性格がまるで違うことに気づきます。強酸性の白濁湯を部屋で受けられる宿は蔵王でも高見屋に限られ、客室露天という旅の形は、むしろ柔らかな湯の上山で大きく育ってきました。名月荘や時代屋のように湯船の造りを一室ずつ変える宿、古窯のように数で応える宿、月の池のように開湯の地の源泉を引く宿。霜月から師走、初雪を待つ二泊を組むなら、一泊目を蔵王の強い湯に、二泊目を上山の穏やかな湯に置くのが編集部の考える順序です。樹氷の季節には、また別の宿の選び方があるのでしょうか。