神無月の加茂湖に、牡蠣筏が静かに並びはじめます。佐渡・両津の湖畔で、安政五年(1858)に料理屋として暖簾を掲げた系譜を今に継ぐ宿が、「湖畔の宿 吉田家」です。本稿はこの一軒だけを取り上げます。当初、編集部は金山の町・相川で慶長期から続く宿を探しましたが、創業をその時代まで公式にたどれる宿は確認できませんでした。そこで、北の夷(えびす)と南の湊という二つの港町が合わさって名づけられた両津に視点を移し、島で現在営業している宿のなかでも古い部類に入る料理屋の血脈を、湖と湯と膳から描きます。世界遺産登録から二年あまり、金山を目指す旅の起点となる両津港から車でおよそ五分の宿です。

※ 目安価格は公開販売価格の集計に基づく参考値で、実際の予約料金とは異なります。1泊2名利用時の1室あたり料金(税込)です。

湖畔の宿 吉田家 — 新潟県佐渡市両津

安政五年の料理屋に始まり、加茂湖の畔で百六十余年。両津の湊町で膳の伝統を守り続ける一軒です。

64室、政府登録国際観光旅館。

目安価格 ¥31,000–¥44,000 / 泊 (2名1室・通常期)


湖畔の宿 吉田家 — 佐渡市両津夷 · 加茂湖の対岸から望む東館・南館と湖畔の街並み
PHOTO: 湖畔の宿 吉田家 — 公式サイトを見る →

歴史と建築 — 料理屋の暖簾から湖畔の宿へ

宿の公式案内は、安政五年(1858)に前身の料理屋「吉田家」が開業したと記しています。江戸後期から、北の夷町と南の湊町を合わせて「両津」と呼ぶようになった港町。そこに開いた一軒の料理屋が、この宿の出発点です。宿になってからも「料理屋としての血脈」を看板に掲げ、いまも宴会や法事の膳を地元から預かっています。宿泊者を迎える旅館であると同時に、島の暮らしの節目を支える台所でもあり続けている点に、この一軒の性格がよく出ています。

建物は、加茂湖に面した東館(五階建)と南館(八階建)に、大浴場のある西館が連なる構成です。客室は全64室、八畳から二十畳の和室57室に、準特別室8室と特別室1室が加わります。百八十帖の大広間「平安」、百二十帖の「高砂」、コンベンションホール「飛天」を備え、観光バス事業「吉田交通」まで営む規模は、島の老舗が観光の時代に歩みを広げてきた証と言えます。古い町家建築の佇まいを残す宿ではなく、料理屋の伝統を大きな館に引き継いだ宿です。年季の入った箇所がある点は、先に知っておくとよいでしょう。

滞在の体験 — 湖を見下ろす湯と、安政から続く膳

湯が、この宿の夕刻を形づくります。東館六階の屋上展望露天風呂は、佐渡加茂湖温泉をかけ流しで引いた湯船で、湖と両津の町並み、その奥の大佐渡の山並みまでが一望に収まります。かけ流しのため石鹸やシャンプーは使えず、営業は16時から22時30分までの夕方のみです。冬は強い風が吹きやすく、12月1日から2月28日までは休みます。西館一階の大浴場「湖(うみ)の湯」は天候にかかわらず使え、朝は5時30分から入れます。泉質はナトリウム-炭酸水素塩温泉(弱アルカリ性低張性)で、肌がつるりとする湯です。

膳は、佐渡沖の魚介を主役にした会席です。安政年間の料理屋時代から受け継いだという伝統の配合で仕込む自家製のイカの塩辛、エゴノリを煮溶かして固めた郷土食「巻いごねり」、朝の膳で自ら焼くアジの開き、佐渡産コシヒカリ。追加の一品には、殻ごと網で焼くアワビの踊り焼き、佐渡沖のベニズワイガニ、南蛮えびの名で親しまれる甘エビが並びます。客室は十畳の和室が基本で、多くが加茂湖に面しています。部屋で夕食をとれる設えも残っています。

集約レビューが映すこの宿の本質

公開レビューデータを集計すると、評価の中心にあるのは食事の質です。佐渡沖の魚介を軸にした会席への支持が最も厚く、料理屋を前身とする宿の看板がいまも利いていることがうかがえます。続いて、加茂湖を見渡す客室の眺め、屋上の露天風呂、なめらかな湯の質、客室の広さが評価されています。一方で、建物や客室の古さを指摘する声も一定数あります。露天風呂については、眺めを称える声と、夕方のみの営業や冬期休止を惜しむ声の両方が見られます。価格についての不満は目立ちません。総じて「建物の新しさより、湖と湯と膳の確かさで選ぶ宿」という像が浮かびます。

立地と周辺

宿は佐渡汽船の両津港から車で五分、歩いても十五分ほどの両津夷にあります。港に着いて電話をすれば、14時から19時のあいだは送迎を頼めます。目の前は加茂湖、背後には両津の商店街と飲食店街が続き、夕食後に湊町を少し歩くこともできます。世界遺産「佐渡島の金山」の中心となる相川へは車でおよそ四十五分です。金山を目的にした旅でも、船の発着に合わせて初日か最終日を両津で過ごす旅程によく合います。

向く人 / 向かない人

  • 向く:
    島の魚介を会席で味わいたい夫婦旅、港の発着に近い宿を選びたい金山巡りの旅程、法事や祝いの席を含む三世代の集まり、湖の夕景を湯から眺めたい人
  • 向かない:
    新しい設えや客室露天を求める人(館内に年季のある箇所がある)、朝の露天風呂を楽しみにする人(屋上露天は夕方のみ)、12〜2月に屋上露天を目当てにする旅(冬期休止)、ペットと同室で泊まりたい人(客室への同伴不可)

具体情報

  • 所在地: 新潟県佐渡市両津夷261-1
  • アクセス: 佐渡汽船両津港から車で5分、徒歩15分(14:00〜19:00は到着時の電話で送迎あり)
  • 創業: 安政5年(1858)、前身の料理屋「吉田家」として開業
  • 客室: 全64室(和室8〜20畳 57室、準特別室 8室、特別室 1室。全室バス・トイレ付)
  • チェックイン: 15:00〜 / アウト 〜10:00
  • 温泉: 佐渡加茂湖温泉 ナトリウム-炭酸水素塩温泉。大浴場 15:00〜24:00・5:30〜8:30、屋上展望露天風呂 16:00〜22:30(12/1〜2/28休止)
  • 食事: 佐渡沖の魚介を中心にした会席。夕食は17:30〜19:30の間に開始
  • 駐車場: 無料(乗用車約60台)

編集部の評価

公開レビューデータを集計した総合評価に、料理屋の系譜を今に伝える膳、港からの近さ、湖を見下ろすかけ流しの露天という本稿のテーマへの適合度を加えて算出しています。

よくある質問

Q. 吉田家はいつ創業した宿ですか?

A. 宿の公式案内によれば、安政5年(1858)に前身の料理屋「吉田家」が両津で開業しました。料理屋としての伝統を受け継ぎながら旅館として営業を続け、現在は全64室の政府登録国際観光旅館です。

Q. 温泉の泉質と、露天風呂の営業時間は?

A. 佐渡加茂湖温泉で、泉質はナトリウム-炭酸水素塩温泉(弱アルカリ性低張性)です。東館6階の屋上展望露天風呂はかけ流しで16:00〜22:30の営業、翌朝は入れません。12月1日〜2月28日は休止します。西館1階の大浴場は通年で使えます。

Q. 子ども連れでも泊まれますか?

A. 泊まれます。2〜6歳向けの子ども用の夕食・朝食があり、7歳以上は大人の料理から2品を減らした内容が基本です。食事と布団が要らない2歳以下は、施設使用料が無料です。準特別室は十畳と四畳の二間で、家族旅に向きます。

Q. 両津港からのアクセスは?

A. 新潟港から両津港まではジェットフォイルで67分、カーフェリーで2時間30分です。両津港から宿までは車で5分、徒歩15分。14:00〜19:00に港へ着いた場合は、電話をすれば送迎を頼めます。駐車場は無料です。

Q. 訪れる季節はいつがよいですか?

A. 屋上露天から湖の夕景を楽しむなら、春から晩秋までが向きます。加茂湖のマガキは1〜2月が最も美味しい時期とされ、例年2月には島でカキ祭りも開かれます。冬は屋上露天が休止するため、湯と牡蠣のどちらを優先するかで時期を選ぶのがよいでしょう。

本記事の参考情報

編集部から

相川の金山の町に、慶長から続く宿は見つかりませんでした。それでも、島の湊には安政の料理屋の系譜が、湖畔の大きな館のなかでいまも膳を整えています。老舗の価値は建物の古さだけでは測れず、土地の宴を引き受けてきた台所の連続にも宿る。吉田家を歩いて、編集部はそう感じました。金山を訪ねる旅の初日か最終日に、港に近いこの宿で湖の夕景と島の魚介を味わう。冬に牡蠣筏が実りを迎えるころ、次はどの湊町の老舗を訪ねましょうか。

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