神無月、日本海の底びき網が解禁を待つこの季節に、松葉蟹を膳の主役に据える漁師町の食通宿として、編集部は丹後の間人・夕日ヶ浦と但馬の香住・浜坂から五軒を選んだ。ズワイガニ漁の解禁は十一月六日。京丹後の間人港には緑のタグを付けた「間人ガニ」が、但馬の柴山港には桃色、津居山港には青のタグを付けた蟹が揚がる。湯の町の城崎を外し、蟹を揚げる港の近くで、仕入れと料理に宿の手が届いている漁師町の宿に絞った。冬至の前、海がまだ荒れきらないうちに、一杯の蟹を囲む会席の作法を確かめる旅である。
| # | 宿 | エリア | 客室 | 目安価格 | 1行特徴 |
|---|---|---|---|---|---|
| 1 | 間人温泉 炭平 | 京丹後市丹後町間人 | 16 | ¥134–¥225k | 明治元年創業。港のタグにさらに宿独自の選別を重ねた「はしうど蟹」 |
| 2 | 湯宿 川本屋 | 香美町香住区下浜 | 7 | ¥63–¥102k | 釣り宿に始まる創業八十年。かにすきを考案したと伝える宿 |
| 3 | 海べのおやど 丸文 | 新温泉町浜坂 | 1日3組 | ¥40–¥96k | 主人が仲買人を兼ね、朝の競りで蟹を自ら競り落とす家族の小宿 |
| 4 | 丹後 食の宿 みのり旅館 | 京丹後市網野町浜詰 | 20 | ¥41–¥69k | 土鍋で蒸す漁師の蒸しがにと、かまどで炊く丹後米の朝 |
| 5 | 間人温泉郷 海雲館 | 京丹後市丹後町間人 | 10 | ¥40–¥171k | 間人港を見下ろす大人専用の宿。全室に専用の温泉風呂 |
※ 目安価格は公開販売価格の集計に基づく参考値で、実際の予約料金とは異なります。1泊2名利用時の1室あたり料金(税込)です。十月から十二月末までの販売価格を集計しているため、解禁前の料金と蟹の会席の料金の両方を含み、幅が広くなっています。
1. 間人温泉 炭平 — 京丹後市丹後町間人
間人の港に明治元年から建つ十六室の宿。タグ付きの蟹を、さらに宿の目で選び直して膳に置く。
16室、全室オーシャンビューの料理旅館。
目安価格 ¥134,000–¥225,000 / 泊 (2名1室・蟹期を含む)

なぜ選ばれるか
間人ガニは、日帰り操業の小型底びき船五隻だけが揚げる蟹で、漁師が船上で緑のタグを付ける。炭平はその間人で明治元年から続く宿であり、港のタグを「入口」とみなしている点が他と違う。理由は三つある。間人蟹や津居山蟹を目利きしたうえで、重さ・硬さ・腹の張りまで宿独自の基準で選び直し、「はしうど蟹」と名付けていること。七機の専用水槽で一、二日かけて泥を吐かせてから料理に回すこと。一度茹でて熟成させ、塩をなじませる間人流の茹で蟹を守っていること。蟹の宿として、仕入れの先まで手を入れている一軒である。
集約レビューの傾向
公開レビューデータを集計すると、評価の中心は料理にあり、なかでも蟹料理への言及が厚い。それと並ぶのが接客で、細やかな気配りと老舗らしいもてなしを挙げる感想が多く見られる。一方で、価格に触れる声は一定数あり、蟹の杯数や献立の内容と値段の釣り合いを確かめてから予約する客が多いことがうかがえる。湯については受け止めが分かれており、料理と接客ほどには評価が揃っていない。蟹と人を目当てに選ぶ宿だと言える。
向く人 / 向かない人
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向く:
間人ガニを一度は産地で食べたい夫婦旅、蟹の調理法の違いを一夜で比べたい人、老舗の行き届いた接客を求める記念日の二人連れ -
向かない:
予算を一泊数万円に抑えたい旅程(蟹期は一室十万円を超える日が多い)、車も送迎も使わずに移動したい人(網野駅から車で約二十分)
具体情報
- 最寄り駅: 京都丹後鉄道 網野駅から無料送迎で約20分(要予約)
- 車: 京丹後大宮ICから約30分、無料駐車場あり
- 客室: 16室、全室オーシャンビュー
- 湯: 貸切露天風呂6つ。入浴は15時〜24時、翌朝6時〜10時
- 食事: 蟹会席(茹で蟹・蟹刺し・蟹みそ・蟹炭火焼など)
- 創業: 1868年(明治元年)
2. 湯宿 川本屋 — 香美町香住区下浜
香住の浜で釣り宿として始まり、三代目が継ぐ七室の湯宿。かにすきを生んだと伝える宿である。
7室、温泉旅館。
目安価格 ¥63,000–¥102,000 / 泊 (2名1室・蟹期を含む)

なぜ選ばれるか
香住漁港に近い下浜の湯宿で、宿の記録によれば昭和二十二年に釣り客相手の宿として始まった。理由は三つある。昭和三十五年ごろ、それまで茹でガニが中心だった蟹料理に、生の松葉蟹を鍋に仕立てる「かにすき」を常連客と考え出したと宿が伝えていること。厨房に隣り合う全室個室の食事処を設け、料理を出す頃合いにまで気を配っていると宿自身が記していること。香住の紅ずわい「香住がに」と冬の松葉蟹、柴山や津居山のブランドの違いを、宿自身が丁寧に説いていること。代を重ねた蟹の宿の厚みがある。
集約レビューの傾向
公開レビューデータを集計すると、もっとも多く語られているのは蟹料理で、香住の蟹を存分に味わったという趣旨の感想が評価の中心をなしている。次いで湯への評価が厚く、とりわけ露天風呂を巡る楽しみが支持されている。家族での利用に触れる感想が目立つのもこの宿の特徴で、七室の小さな宿でありながら、子ども連れから年配の夫婦まで幅広い客に選ばれていることがうかがえる。目立った不満の傾向は見られない。
向く人 / 向かない人
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向く:
個室で落ち着いて蟹の会席を囲みたい家族や夫婦、露天風呂を何種類も巡りたい人、列車で香住まで来る旅程 -
向かない:
客室に専用の風呂を求める人(専用風呂付きは特別客室「花梨」の一室のみ)、エレベーター前提の移動を望む人(一般客室はすべて二階)
具体情報
- 最寄り駅: JR山陰本線 香住駅から送迎あり
- 客室: 7室(特別客室「花梨」1室+一般客室6室、いずれも定員2〜5名)
- チェックイン: 15:00〜 / アウト 〜10:00
- 食事: 夕朝食とも全室個室の食事処(厨房隣接)
- 湯: 大浴場「石の湯」「木の湯」、露天風呂4種(木曽檜・麦飯石・備長炭・五右衛門)、貸切の寝湯
- 創業: 1947年(昭和22年)、現在は三代目
3. 海べのおやど 丸文 — 新温泉町浜坂
浜坂海岸の前に建つ、一日三組の家族の宿。仲買人を兼ねる主人が、朝の競りで蟹を選ぶ。
1日3組限定、家族経営の小宿。
目安価格 ¥40,000–¥96,000 / 泊 (2名1室・蟹期を含む)

なぜ選ばれるか
宿と仲買の関係が、もっとも短い距離で結ばれている一軒である。主人は仲買人であり、宿は「かにソムリエ」を名乗る。理由は三つある。毎朝、浜坂や諸寄の市場の競りに自ら立ち、目と指先で確かめた蟹だけを仕入れること。地元の港に揚がった蟹に限り、宿の生簀で活かして食事の直前に捌くこと。一日三組に絞り、個室でタグ付きの活松葉蟹の会席を出すこと。競りの声から膳までの道のりが、ひとつの家族の手の中で完結している。
集約レビューの傾向
一日三組の小さな宿であるため、公開されているレビューの数自体は多くない。そのうえで公開レビューデータを集計すると、総合評価は五軒のなかでも高い水準にあり、目立った不満の傾向は見られない。言及がまとまっているのは、浜坂の海岸を目の前にした立地である。宿の前の浜、港と市場の近さが、そのまま献立の鮮度につながる宿だと受け止められていることがうかがえる。件数が少ない分、評価は今後の蓄積で動きうる点も添えておきたい。
向く人 / 向かない人
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向く:
競りや産地の話を聞きながら蟹を食べたい人、小さな宿で静かに過ごしたい夫婦や少人数の家族、鳥取方面と組み合わせる旅程 -
向かない:
客室の意匠や客室露天を重視する人(風呂は貸切の岩風呂)、大きな館内施設やラウンジを求める人
具体情報
- 最寄り駅: JR浜坂駅から徒歩約10分(車で約3分、無料送迎あり)
- 車: 北近畿豊岡自動車道 八鹿氷ノ山ICから約70分、無料駐車場6台(先着順)
- 客室: 1日3組限定(海の見える和室、ベッドの客室)
- チェックイン: 15:00〜 / アウト 〜10:00
- 食事: 個室で活松葉蟹のフルコース(蟹刺し・陶板焼き・かにすき・甲羅みそ焼き・雑炊など)
- 湯: 貸切の天然温泉岩風呂
4. 丹後 食の宿 みのり旅館 — 京丹後市網野町浜詰
夕日ヶ浦の湯に建つ二十室の食の宿。漁師が土鍋で蒸した蟹を、宿の出汁で再現する。
20室、数寄屋風の温泉旅館。
目安価格 ¥41,000–¥69,000 / 泊 (2名1室・蟹期を含む)

なぜ選ばれるか
夕日ヶ浦の浜詰は、間人より西、網野の浅茂川漁港に近い湯の集落である。みのり旅館は宿名に「食」を掲げ、料理を旅の主目的に据えている。理由は三つある。地元の漁師が水揚げした活蟹を土鍋で蒸し焼きにしていた食べ方を、宿の秘伝の出汁で仕立てた「漁師の蒸しがに」を看板にしていること。供する蟹の脚にはすべて包丁を入れ、殻と格闘せずに食べられるよう整えていること。二〇一〇年に設けた「かまどダイニング七姫」で、特Aの丹後コシヒカリをかまどで炊き、朝の膳まで手を抜かないこと。
集約レビューの傾向
公開レビューデータを集計すると、評価の中心は料理で、とりわけ海の幸を主にした夕食への言及が厚い。次いで客室の清潔さ、スタッフの親しみやすい応対が挙がる。夕日ヶ浦の浜に近い立地を評価する感想もまとまって見られ、客室から夕日を望めることを旅の印象として挙げる客もいる。二十室の規模でありながら、手入れと応対が行き届いている点が支持されていると言える。目立った不満の傾向は見られない。
向く人 / 向かない人
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向く:
蟹を量多く食べたい家族・三世代旅、朝食まで食を重視する人、夕日ヶ浦の浜歩きや外湯と組み合わせたい旅程 -
向かない:
間人ガニなど港を限ったブランド蟹を条件にする人(産地はプランごとに確かめる必要がある)、部屋食を望む人(夕食は二階の食事処)
具体情報
- 最寄り駅: 京都丹後鉄道 夕日ヶ浦木津温泉駅から車で約5分
- 客室: 20室(収容80名)
- チェックイン: 15:00〜 / アウト 〜10:00
- 食事: 夕食・朝食とも2階食事処「かまどダイニング七姫」(2010年開設)、朝食は8:00〜
- 湯: 天然夕日ヶ浦温泉の大浴場・露天風呂・サウナ(男女各1)
- 駐車場: 宿の前に無料の駐車スペースあり
5. 間人温泉郷 海雲館 — 京丹後市丹後町間人
間人港を見下ろす高台の十室。全室に専用の温泉を引いた、大人のための蟹の宿。
10室、大人専用の温泉旅館。
目安価格 ¥40,000–¥171,000 / 泊 (2名1室・蟹期を含む)

なぜ選ばれるか
同じ間人にあって、炭平とは違う距離で港と向き合う宿である。高台から間人港と日本海を一望し、その景色を客室から眺めることができる。理由は三つある。全十室が海に向き、すべての客室に二十四時間入れる専用の温泉風呂を備えていること。十二歳未満の宿泊を受けない大人専用の宿として、食事と湯の時間を静かに保っていること。間人ガニの会席を十一月六日から三月末まで出し、蟹刺し・焼きがに・雑炊と、一杯を食べ切る構成にしていること。
集約レビューの傾向
公開レビューデータを集計すると、もっとも多く語られているのは蟹料理で、間人ガニを目当てにした客の満足が評価の中心にある。それと並んで、客室からの眺めと、客室の専用温泉への言及が厚い。風呂から海を望めることを挙げる感想もまとまって見られ、港と海を部屋で楽しむ宿として受け止められていることがうかがえる。目立った不満の傾向は見られない。料理と部屋と湯の三つが、ほぼ同じ重さで評価されている一軒である。
向く人 / 向かない人
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向く:
客室で温泉と海を独り占めしたい夫婦、足腰に不安のある年配の旅人、間人ガニを静かな食事処で味わいたい人 -
向かない:
小学生以下の子ども連れ(12歳未満は宿泊不可)、露天の大浴場を求める人(露天は特別室2室の専用風呂のみ)
具体情報
- 最寄り駅: 京都丹後鉄道 網野駅から約13km、車で約30分(無料送迎あり・予約制)
- 客室: 10室、全室オーシャンビュー・専用温泉風呂付き。露天風呂付き特別室「海」は58.4㎡
- チェックイン: 15:00〜17:00 / アウト 〜10:00
- 食事: 食事処。間人ガニの料理は11月6日〜3月31日に提供
- 建物: 鉄筋コンクリート3階建て、バリアフリー設計・エレベーターあり
- 駐車場: 20台(無料)
よくある質問
Q. 松葉蟹を食べに行く時期はいつがよいですか?
A. ズワイガニ漁は十一月六日に解禁され、雄の松葉蟹は三月二十日まで、雌のセコガニは京都府側で十二月末までと短い期間に限られます。雄と雌の両方を一度に味わえるのは年内だけです。編集部が推すのは、解禁直後の賑わいが落ち着く十一月下旬から冬至の前まで。年明けは時化で漁が止まる日が増え、蟹の入荷が読みにくくなります。
Q. 間人ガニ・柴山ガニ・津居山かにはどう見分けますか?
A. 脚に付けられたタグが目印です。京都府産の雄ガニには緑のタグが付き、間人港の蟹には「たいざガニ」の文字と船名が刻まれます。兵庫県の柴山港は桃色、津居山港は青のタグです。ただしタグは産地と漁船の証明であり、身入りの保証ではありません。本記事の宿が仲買や宿独自の選別を重ねているのはそのためです。
Q. 予約はいつ頃から埋まりますか?
A. 蟹期の週末と年末年始は、夏の終わりから秋口にかけて埋まりはじめます。一日三組の丸文や七室の川本屋のような小さな宿は、とくに早く満室になります。蟹の杯数や産地を指定したプランは宿ごとに条件が異なるため、価格だけでなく献立の内容と時化で入荷がない場合の扱いを、予約の段階で確かめておくのが確実です。
Q. 子ども連れでも泊まれますか?
A. 宿によって異なります。海雲館は大人専用で、十二歳未満の宿泊を受けていません。みのり旅館は二十室の規模があり、家族や三世代での利用に向きます。川本屋は子ども用の食器や作務衣などの貸し出しを用意しています。蟹の会席は品数が多いため、子どもの分の献立を軽くできるかも事前に確認しておくと安心です。
Q. 京阪神からのアクセスは?
A. 丹後の間人・夕日ヶ浦へは、京都駅からJR特急と京都丹後鉄道を乗り継ぎ網野駅や夕日ヶ浦木津温泉駅まで約二時間半で、宿の送迎に接続します。但馬の香住・浜坂へは、JR山陰本線の香住駅・浜坂駅が玄関口です。車なら京都縦貫道の京丹後大宮IC、北近畿豊岡自動車道の八鹿氷ノ山ICが起点になり、冬は雪道の備えが要ります。
本記事の参考情報
・京丹後の高級ブランドガニ「間人ガニ」(京丹後市観光公社) — 間人港の漁と緑のタグ、解禁日
・ブランド「間人ガニ」「舞鶴かに」のカニ常識(京都府) — 京都府産ズワイガニのタグとセコガニの漁期
・Wikipedia: ズワイガニ — 漁期と各産地のブランドタグの一覧
編集部から
五軒に通じているのは、蟹を「仕入れる品」としてではなく、港の営みの続きとして膳に置いている点である。炭平は港のタグの上に自らの選別を重ね、丸文は主人が競りに立ち、川本屋は常連客と鍋の食べ方を考え、みのり旅館は漁師の浜の料理を宿の献立に移し、海雲館は港を見下ろす部屋で一杯を食べ切らせる。仲買と宿の距離が近いほど、蟹は値札ではなく季節として届く。冬至までの日本海は、日ごとに表情を変えていく。今年の最初の一杯を、どの港の蟹にするか。