神無月を控えた玉造温泉で、客室の露天風呂に美肌の湯を張る宿として、編集部が選んだ五軒を紹介します。玉湯川沿いに旅館が並ぶこの湯町は、奈良時代の『出雲国風土記』に「一たび濯げば形容端正しく、再び浴すれば万の病悉に除こる」と記された古湯です。弱アルカリ性の硫酸塩・塩化物泉は肌あたりが柔らかく、古くから「神の湯」と呼ばれてきました。旧暦十月、出雲大社に八百万の神が集うとされる神在月を前に、湯町は人出の波が落ち着き、朝の川霧が濃くなる季節に入ります。大浴場の賑わいから離れ、目覚めてすぐ自室の湯に身を沈める。そうした朝を約束してくれる宿を、客室露天の数と湯の出どころ、浴槽の素材まで確かめて並べました。
| # | 宿 | エリア | Score | 客室 | 目安価格 | 1行特徴 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 1 | 佳翠苑 皆美 | 松江市玉湯町 | 92 | 108 | ¥46–¥57k | 2026年7月改装の「吉祥」ほか、源泉かけ流しの客室露天が館内に点在する |
| 2 | 湯元 玉井館 | 松江市玉湯町 | 91 | 5 | ¥32–¥41k | 全5室の木造の宿。自家泉源の湯を引く露天付き和室は「さつき」1室だけ |
| 3 | 白石家 | 松江市玉湯町 | 90 | 73 | ¥51–¥59k | 享保元年創業。最上階に展望半露天の檜風呂付き客室が3室ある |
| 4 | 湯之助の宿 長楽園 | 松江市玉湯町 | 88 | 69 | ¥31–¥53k | 明治元年創業。約1万坪の庭園に庭園露天付きの山荘と離れを置く |
| 5 | 玉造グランドホテル 長生閣 | 松江市玉湯町 | 82 | 84 | ¥26–¥32k | 浴槽の底にめのうを敷いた露天付き客室「出雲」を持つ |
※ 目安価格は公開販売価格の集計に基づく参考値で、実際の予約料金とは異なります。1泊2名利用時の1室あたり料金(税込)です。客室露天付きの部屋は、表示の幅より高い価格帯で販売されることが多い点に留意が必要です。
1. 佳翠苑 皆美 — 松江市玉湯町
松江の老舗「皆美館」の流れを汲み、2026年夏に数寄屋の客室を温泉露天付きへ改めた、玉造でいちばん選択肢の多い一軒。
Media Picks Score: 92 / 100 108室、旅館。
目安価格 ¥46,000–¥57,000 / 泊 (2名1室・通常期)

なぜ選ばれるか
池泉庭園の灯りが水面に揺れる夜、湯は館のあちこちの客室で静かに溢れています。明治二十一年創業の松江「皆美館」の別館として昭和二十七年に玉造で開業し、昭和六十三年に今の名となりました。選んだ理由は三つあります。まず客室露天の数です。最上階の「天ゆら」プレミアムフロアに温泉露天付きのスイートが3室、2026年7月に改装を終えた喜多の館「吉祥」に同じく温泉露天付きの客室が12室あり、神湯の宿り「雲のね」も全室が源泉かけ流しの湯を備えています。次に部屋の広さの幅で、吉祥の特別室は99㎡、スイートは64〜83㎡と、夫婦旅から三世代まで受け止めます。最後に食で、宍道湖と日本海の幸を皆美館から受け継いだ献立で供します。
集約レビューの傾向
公開レビューデータを集計すると、評価の中心は料理にあり、接客、湯、客室がそれに続きます。とりわけ、もてなしの細やかさへの言及が多いのが特徴です。一方で、朝食のビュッフェ形式や価格に対しては意見が分かれる傾向も見て取れます。規模の大きな宿でありながら、個々の滞在に目が届いていると受け止められている一軒と言えます。
向く人 / 向かない人
-
向く:
記念日の夫婦旅、親への贈り物としての旅、ベッドで休みたい年配の旅行者、三世代での滞在(最上階スイートは最大5名) -
向かない:
十数室規模の小さな宿の静けさを求める人(全108室の大きな旅館)、客室露天付きの部屋を予算を抑えて取りたい旅程
具体情報
- 最寄り駅: JR玉造温泉駅(15:00〜18:00は事前予約制の送迎あり)
- 客室露天: 天ゆらプレミアムフロア3室、喜多の館「吉祥」12室が温泉露天付き(2026年7月改装)
- 客室サイズ: 吉祥の和ベッド温泉露付DXスイート 64〜83㎡、プレミアムスイート 99㎡
- 大浴場: 女湯「浮舟」、男湯「浮殿」、最上階の展望風呂「天遊の湯」
- 創業: 1952年(昭和27年)、玉造で「皆美館」別館として開業
2. 湯元 玉井館 — 松江市玉湯町
全5室の木造の湯元宿。自家泉源の湯をかけ流す露天付きの和室は、「さつき」ただ1室。
Media Picks Score: 91 / 100 5室、旅館。
目安価格 ¥32,000–¥41,000 / 泊 (2名1室・通常期)

なぜ選ばれるか
湯が、宿の庭の地下31mから湧いています。泉温はおよそ55度で季節によって変わるため、湯守が手で加減して湯船へ送る。玉井館は、明治末期にこの地に建った「浜屋」を前身とし、昭和初期に今の名に改めて約百年続く湯元の宿です。推す理由は、まず規模にあります。全5室で、露天付き和室「さつき」は本間8畳に次の間4.5畳の純和風、源泉かけ流しの露天風呂を備えます。ほかの客室に風呂はなく、湯を部屋で独り占めできるのはこの1室だけです。次に湯の出どころがはっきりしていること、そして夕食に島根和牛のステーキやのどぐろの煮付けを据えた会席を用意していることです。
集約レビューの傾向
公開レビューデータを集計すると、料理への評価が最も厚く、湯、接客、もてなしが僅差で続きます。客室の清潔さに触れる声が多い一方、建物の古さを指摘する意見も一定数見られます。昭和初期の木造であることを承知で泊まる人ほど満足度が高い、という構図が読み取れます。
向く人 / 向かない人
-
向く:
夫婦や二人旅、湯の出どころにこだわる温泉好き、古い木造旅館の風情を楽しめる人、一人旅(定員1〜2名) -
向かない:
子連れの家族(手摺や階段の構造と音の響きから子どもの宿泊を受けていない)、喫煙者(館内に喫煙所なし)、3名以上のグループ
具体情報
- 最寄り駅: JR玉造温泉駅からタクシー約10分
- 客室露天: 露天付き和室「さつき」1室(本間8畳+次の間4.5畳、源泉かけ流し)
- 源泉: 自家泉源。庭園地下31mから湧出、泉温約55度
- 食事: 会席(基本会席、島根和牛会席、のどぐろ会席)
- 駐車場: 無料(宿から徒歩約4分)
- 創業: 明治末期の「浜屋」が前身、昭和初期に「玉井館」へ改名
3. 白石家 — 松江市玉湯町
享保元年から三百年余り続く湯宿。最上階の3室だけが、展望半露天の檜風呂を備える。
Media Picks Score: 90 / 100 73室、旅館。
目安価格 ¥51,000–¥59,000 / 泊 (2名1室・通常期)

なぜ選ばれるか
檜が、湯船の底まで張られています。白石家は享保元年(1716年)、隣村の白石から出た和七が半農・半宿で始めた宿で、明治24年には小泉八雲が玉造を訪れた記録も残ります。昭和27年に今の場所へ移りました。推す理由は三つです。最上階に「雲海」「斐伊川」「宍道湖」と名付けた展望半露天の檜風呂付きプレミアム客室が3室あり、大人2名に限って受けていること。部屋の器に地元・湯町窯の湯飲みやコーヒーカップを置くなど、出雲の手仕事を滞在に取り込んでいること。そして大浴場「織姫」の総檜の湯と「彦星」の黒御影石の湯を、男女入れ替えで両方味わえることです。
集約レビューの傾向
公開レビューデータを集計すると、料理への評価が突出して多く、次いでもてなし、気配り、親しみやすさといった接客の項目が並びます。人の応対が宿の印象をつくっている宿と言えます。一方、一般客室については設備の古さを挙げる声が一部にあり、最上階のプレミアム客室とそれ以外の部屋で滞在の性格が変わる点は、選ぶ前に知っておきたいところです。
向く人 / 向かない人
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向く:
記念日の大人二人旅、女性同士の旅(花浴衣の貸し出しあり)、宿の歴史や出雲の工芸に関心のある人 -
向かない:
子連れで客室露天を望む家族(プレミアム客室は大人2名限定)、全面開放の露天を求める人(客室の湯は半露天)
具体情報
- 最寄り駅: JR玉造温泉駅から送迎バス約5分(14:00〜19:00、到着時刻に合わせて運行)
- 客室露天: 最上階の展望半露天檜風呂付きプレミアム客室 3室(大人2名限定)
- チェックイン: 15:00〜 / アウト 〜10:00
- 大浴場: 総檜の「織姫」、黒御影石の「彦星」。15:00〜25:00 / 5:00〜9:00(男女入れ替え制)
- 創業: 1716年(享保元年)
4. 湯之助の宿 長楽園 — 松江市玉湯町
明治元年創業。約1万坪の庭に、源泉かけ流しの庭園露天を抱く山荘と離れが点在する。
Media Picks Score: 88 / 100 69室、旅館。
目安価格 ¥31,000–¥53,000 / 泊 (2名1室・通常期)

なぜ選ばれるか
長楽園は明治元年(1868年)創業で、およそ1万坪の敷地に池と松、苔むした石を配しています。湯は「沸かさず、薄めず」の源泉かけ流しです。客室露天に絞って見ると、築90年の別邸「相生」は15畳に寝室が付き、露天風呂と足湯を備えます。山荘の「寿之間」(10畳+8畳)と「常盤之間」(8畳+6畳)には庭園露天があり、庭園内の離れ「知心庵」にも露天風呂が付きます。部屋の数は多くありませんが、どれも庭と湯が一続きになる造りです。広さ120坪の混浴大露天「龍宮の湯」を夜更けに訪ねられるのも、この宿ならではの愉しみです。
集約レビューの傾向
公開レビューデータを集計すると、露天風呂への言及が最も多く、料理、庭園、客室の広さがそれに続きます。五軒のなかで、湯と庭が評価の先頭に立つのはこの宿だけです。一方で、料理の好みや建物の古さ、価格については意見が分かれる傾向が見られ、手入れの行き届いた庭と年季の入った館内をどう受け止めるかが評価を左右しています。
向く人 / 向かない人
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向く:
庭を眺めて過ごしたい夫婦旅、大きな露天風呂を好む温泉好き、離れや山荘で静かに過ごしたい人 -
向かない:
新しい設備を最優先する人(館内には年季の入った棟がある)、混浴の大露天に抵抗がある人(女性専用の内風呂や入れ替え制の大浴場もある)
具体情報
- 最寄り駅: JR玉造温泉駅(駅と宿を結ぶシャトルバスあり)
- 客室露天: 別邸「相生」、山荘「寿之間」「常盤之間」、離れ「知心庵」
- 大浴場: 120坪の混浴大露天「龍宮の湯」ほか、源泉かけ流し
- 庭園: 約1万坪
- 駐車場: 無料
- 創業: 1868年(明治元年)
5. 玉造グランドホテル 長生閣 — 松江市玉湯町
勾玉の里らしく、浴槽の底にめのうを敷き詰めた露天風呂を客室に持つ一軒。
Media Picks Score: 82 / 100 84室、旅館。
目安価格 ¥26,000–¥32,000 / 泊 (2名1室・通常期)

なぜ選ばれるか
めのうが、湯の底で光っています。玉造は古代、勾玉の原石となる碧玉やめのうを産した土地で、その名も玉作りに由来します。長生閣はこの由緒を湯に持ち込み、大浴場にめのうを配した「めのう風呂」を設けました。露天付き客室「出雲」は12.5畳と8畳の和室に茶室が続く三間で、専用の庭を望む露天の浴槽にめのうが敷き詰められています。最大8名まで泊まれるため、家族や友人と露天付きの部屋を分け合う旅程も組めます。2023年3月には最上階に温泉付きの客室も改装で加わりました。自家源泉を持ち、五軒のうち目安価格が最も手の届きやすい宿である点も推す理由です。
集約レビューの傾向
公開レビューデータを集計すると、料理、接客、湯への評価が並び、客室の広さや清潔さに触れる声も多く見られます。一方で、建物の古さを挙げる意見が一定数あり、価格に見合う広さと湯を評価する層が中心の宿と言えます。キッズルームやホームシアタールームといった趣向の部屋もあり、家族客の受け皿にもなっています。
向く人 / 向かない人
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向く:
三世代や友人同士で露天付きの部屋を使いたいグループ、勾玉とめのうの由緒に惹かれる人、予算を抑えて玉造に泊まりたい旅程 -
向かない:
泉質表示にこだわる人(源泉をブレンドしているため温泉法上は単純温泉に分類)、小規模な宿の静けさを求める人
具体情報
- 最寄り駅: JR玉造温泉駅から無料送迎あり(14:00〜19:00、宿泊の2日前までに連絡)
- 客室露天: 露天めのう風呂付き客室「出雲」(12.5畳+8畳+茶室、最大8名)
- その他の湯付き客室: 温泉付き最上階客室(和室12.5畳、2023年3月改装)
- 大浴場: 「神話の湯」「女神の湯」、チェックイン〜24:00 / 5:00〜10:00(男女入れ替え制)
- 家族風呂: 1回45分 1,650円(税込、宿泊者のみ・要予約)
よくある質問
Q. 玉造温泉の湯にはどんな特徴がありますか?
A. 弱アルカリ性の硫酸塩・塩化物泉で、肌あたりが柔らかく「美肌の湯」と呼ばれてきました。『出雲国風土記』にも効能が記された古湯です。なお、長生閣のように複数の自家源泉をブレンドしているため温泉法上は単純温泉に分類される宿もあり、宿ごとに湯の成り立ちは異なります。
Q. 客室露天付きの部屋は、いつ頃から予約が埋まりますか?
A. 露天付きの部屋は各宿とも数が限られ、玉井館は1室、白石家は3室です。神在月(旧暦十月)の前後や紅葉期の週末は出雲大社への参拝客と重なるため、日程が決まった時点で押さえておくのが確実です。平日は比較的選択肢が残ります。
Q. 子連れでも泊まれますか?
A. 宿によって方針が大きく異なります。湯元 玉井館は子どもの宿泊を受けておらず、白石家の最上階プレミアム客室も大人2名限定です。長生閣にはキッズルームがあり、露天付き客室「出雲」は最大8名まで泊まれます。佳翠苑 皆美の最上階スイートも三世代での滞在に対応しています。
Q. アクセスは?
A. 最寄りはJR山陰本線の玉造温泉駅で、松江駅から約10分です。出雲空港からは連絡バスで松江駅へ出る経路が一般的です。車なら山陰自動車道の松江玉造ICから約10分。多くの宿が駅からの送迎を用意しているため、予約時に時刻を伝えておくと移動が楽になります。
Q. 食事はどのような形式ですか?
A. 五軒とも夕食は会席が中心で、のどぐろや島根和牛、宍道湖の幸といった山陰の素材を使います。皆美は老舗「皆美館」の味を受け継ぐ献立、玉井館は島根和牛会席やのどぐろ会席を用意しています。長楽園には個室で食事をとれるプランもあります。
本記事の参考情報
・玉造温泉公式サイト たまなび(松江観光協会玉造温泉支部 / 玉造温泉旅館協同組合) — 温泉街と旅館の情報
・しまね観光ナビ(島根県公式観光情報サイト) — 出雲・松江エリアの観光情報
・Wikipedia: 玉造温泉 — 歴史と泉質の背景
編集部から
五軒に通じるのは、湯の出どころと浴槽の素材が宿の個性になっていることです。自家泉源を湯守が加減する玉井館、湯船の底まで檜を張った白石家、庭と湯を一続きにした長楽園、めのうを敷いた長生閣、そして数寄屋の客室に源泉を引き直した皆美。同じ玉造の湯でも、器が変われば朝の印象は違ってきます。神在月の出雲詣でに一泊を添えるなら、参拝の前夜に泊まり、翌朝の湯で身を整えてから大社へ向かう順番を編集部は推したいと思います。次の旅では、宍道湖の夕景と城下町松江の宿を組み合わせてみてはどうでしょうか。